338 / 531
Part2
Е.д これからは - 02
しおりを挟む
* * *
会えない距離で、思いが更に募る……。
思えば思うほど、その距離が遠く感じられてしまう……。
ただ、会いたい――と思っても、会えることなどできない。
ただ、声を聞きたい――と思っても、理由がなければ話すことさえできない。
これからは――また、理由付けを探さなければならない。これからも、まだ会いに行けない。
会えない。
あああぁ……。
執務室にいるだけで、憂鬱さが増して、激しい渇望だけが心を空にして、再起不能、だった…………。
――――会いたい…………。
自分の役職も、仕事も、そして、この立場も全て捨てて、あの人の元に婿入りできたら、どんなにいいことか――――
そんなことは絶対に許されないとは分かってはいても、叶えられない願いを強く持ちすぎると、絶対に有り得ない可能性ばかりを考えてしまって、「もし……」 なんて――そんな仮定、なんの役にも立たないのに。
セシルだって、きっと、そんな後ろ向きな考えなどしないことだろう。
いつも、どこでも、ただ、前向きに、明日に向かって進んで行くことだけを考えている女性だから。
問題があっても問題とはせず、前向きに進んで行ける強さが、とてもきれいで、眩しくて、目が離せないのだ。
なら、前向きの思考?
会えない距離。
会えない日々。
声も聞けない立場。
うかつに近寄れない二人の間。
どうやって――前向きになんて考えられるのか、今のギルバートでは、完全に無理な話だった。
あああぁ……………。
分かっている……。
「これで何度目の溜息なのか?」
と、言われてもおかしくはないことも、十分に自覚している。
自覚はしていても、無意識で、落ち込んでしまうことは自分で止められない。
情けないとは思うのだが、自分でどうすることもできない、この持て余した感情の扱い方が分からず、出口が見えず、四方塞がり……的な気分になってしまう。
次にセシルと会ったら――会えたのなら、ギルバートはたくさんの話題を話したい。たくさんのことを話すことができる。
そんな風に、普段の会話やら、話題やら、今まで気に掛けたこともないのに、セシルを前にすると、今まで気づかなかったほんの些細な日常のことまでも、変わった景色として見えてしまう。
それが楽しくて、新発見で、セシルに話して聞かせたいのだ。
セシルは、ギルバートがくだらない質問をしても、一度だって嫌な顔をしたことはないし、ギルバートの新発見(セシルには違うだろうが) の話だって、静かに聞いてくれる。
セシルほど、他人の話を聞くことに長けた人はいないのではないだろうか、とギルバートは常に思っている。
いや、セシル以外いないだろう。
許容力があり、何事も除外しないセシルは、いつでもどこでも、他人の感想や意見を聞き入れる。積極的に、聞き入れていく。
以前、ギルバートが、他人からの意見を聞いて、嫌な気持ちにならないか、という質問をした時にも、セシルの返答はこうだった。
「意見、と言いましても、両方の意見がありますでしょう? 良い意見と、悪い意見、と言う風に。大抵は、悪い意見や、批判的な感想というのは、聞いていても楽しいものではありませんよね」
まるで、自分がしていることや、果てには、自分自身が悪いような言われ様だから。
そういったネガティブな意見や感想は、耳を塞ぎたくなるだろうし、聞きたくなくなるだろうし、そうじゃないんだ、と言い張りたくもなるだろう。
それでも、自分にとっては耳に入れたくない情報でも、他人にとっては重きをおくもので、そういった気持ちが上がって来たことも事実である。
だから、セシルは嫌なことでも、一応、ちゃんと相手に言い分を聞くようにしているのだ。
話を聞いた後、自分を落ち着かせ、客観的に相手の意見や感想を考え直し、それで、当たっている部分があるのなら、調整をし直したり、変えて見たりと、その選択ができるから。
そうやって、仕方がなくても、嫌なことを聞き入れて、取り入れようとできる態度は、口で言うほど簡単ではないはずだ。
だから、ギルバートはセシルの前向きな姿勢を見て、心から尊敬しているし、自分もできる限り見習いたいな、とも思えてしまう。
「ヘルバート伯爵令嬢……」
名前は、セシル。
でも、ギルバートは今の今まで、一度として、セシルの名前を呼んだことがない。呼べない立ち位置だ。
セシルだって、ギルバートのことは、副団長様、だ。
自分の名前を呼んでももらえない立場だ。関係だ。
今までは、独り身だって、全く気にしたことはない。うるさい貴族の令嬢達に取り囲まれるくらいなら、一生、独り身だって構わない、とさえも思っていたのに。
今では、時間が空いているなら、いつでもどこでも、セシルのことばかり考えてしまう。
あの姿を思い浮かべてしまう。
重症だ……。
これからは、気軽にセシルに会えるような距離で、関係に、なれるのだろうか?
その質問の答えは誰にも判らないし、ギルバート自身が、一番に知りたい答えだった。
「よしっ」
いつまでも、うじうじと悩んでいてもしょうがない。
クリストフを巻き込んで、来年には、どうやったらセシルに会えるのか、今からでも相談すべきだろう。
早く会いたい……。
会えるのなら、今すぐにでも、会いたい……。
思いは募るばかり。
持て余す感情は、嵐のように湧き上がるだけ。
「セシル……」
聞こえぬほどの呟きを漏らし、ギルバートは、一人で、ちょっとだけ照れてしまっていた。
そうやって、名前を呼べられるような関係になれれば、どんなに良いことだろうか。
ギルバートの“一生涯の純愛”だ。
会えない距離で、思いが更に募る……。
思えば思うほど、その距離が遠く感じられてしまう……。
ただ、会いたい――と思っても、会えることなどできない。
ただ、声を聞きたい――と思っても、理由がなければ話すことさえできない。
これからは――また、理由付けを探さなければならない。これからも、まだ会いに行けない。
会えない。
あああぁ……。
執務室にいるだけで、憂鬱さが増して、激しい渇望だけが心を空にして、再起不能、だった…………。
――――会いたい…………。
自分の役職も、仕事も、そして、この立場も全て捨てて、あの人の元に婿入りできたら、どんなにいいことか――――
そんなことは絶対に許されないとは分かってはいても、叶えられない願いを強く持ちすぎると、絶対に有り得ない可能性ばかりを考えてしまって、「もし……」 なんて――そんな仮定、なんの役にも立たないのに。
セシルだって、きっと、そんな後ろ向きな考えなどしないことだろう。
いつも、どこでも、ただ、前向きに、明日に向かって進んで行くことだけを考えている女性だから。
問題があっても問題とはせず、前向きに進んで行ける強さが、とてもきれいで、眩しくて、目が離せないのだ。
なら、前向きの思考?
会えない距離。
会えない日々。
声も聞けない立場。
うかつに近寄れない二人の間。
どうやって――前向きになんて考えられるのか、今のギルバートでは、完全に無理な話だった。
あああぁ……………。
分かっている……。
「これで何度目の溜息なのか?」
と、言われてもおかしくはないことも、十分に自覚している。
自覚はしていても、無意識で、落ち込んでしまうことは自分で止められない。
情けないとは思うのだが、自分でどうすることもできない、この持て余した感情の扱い方が分からず、出口が見えず、四方塞がり……的な気分になってしまう。
次にセシルと会ったら――会えたのなら、ギルバートはたくさんの話題を話したい。たくさんのことを話すことができる。
そんな風に、普段の会話やら、話題やら、今まで気に掛けたこともないのに、セシルを前にすると、今まで気づかなかったほんの些細な日常のことまでも、変わった景色として見えてしまう。
それが楽しくて、新発見で、セシルに話して聞かせたいのだ。
セシルは、ギルバートがくだらない質問をしても、一度だって嫌な顔をしたことはないし、ギルバートの新発見(セシルには違うだろうが) の話だって、静かに聞いてくれる。
セシルほど、他人の話を聞くことに長けた人はいないのではないだろうか、とギルバートは常に思っている。
いや、セシル以外いないだろう。
許容力があり、何事も除外しないセシルは、いつでもどこでも、他人の感想や意見を聞き入れる。積極的に、聞き入れていく。
以前、ギルバートが、他人からの意見を聞いて、嫌な気持ちにならないか、という質問をした時にも、セシルの返答はこうだった。
「意見、と言いましても、両方の意見がありますでしょう? 良い意見と、悪い意見、と言う風に。大抵は、悪い意見や、批判的な感想というのは、聞いていても楽しいものではありませんよね」
まるで、自分がしていることや、果てには、自分自身が悪いような言われ様だから。
そういったネガティブな意見や感想は、耳を塞ぎたくなるだろうし、聞きたくなくなるだろうし、そうじゃないんだ、と言い張りたくもなるだろう。
それでも、自分にとっては耳に入れたくない情報でも、他人にとっては重きをおくもので、そういった気持ちが上がって来たことも事実である。
だから、セシルは嫌なことでも、一応、ちゃんと相手に言い分を聞くようにしているのだ。
話を聞いた後、自分を落ち着かせ、客観的に相手の意見や感想を考え直し、それで、当たっている部分があるのなら、調整をし直したり、変えて見たりと、その選択ができるから。
そうやって、仕方がなくても、嫌なことを聞き入れて、取り入れようとできる態度は、口で言うほど簡単ではないはずだ。
だから、ギルバートはセシルの前向きな姿勢を見て、心から尊敬しているし、自分もできる限り見習いたいな、とも思えてしまう。
「ヘルバート伯爵令嬢……」
名前は、セシル。
でも、ギルバートは今の今まで、一度として、セシルの名前を呼んだことがない。呼べない立ち位置だ。
セシルだって、ギルバートのことは、副団長様、だ。
自分の名前を呼んでももらえない立場だ。関係だ。
今までは、独り身だって、全く気にしたことはない。うるさい貴族の令嬢達に取り囲まれるくらいなら、一生、独り身だって構わない、とさえも思っていたのに。
今では、時間が空いているなら、いつでもどこでも、セシルのことばかり考えてしまう。
あの姿を思い浮かべてしまう。
重症だ……。
これからは、気軽にセシルに会えるような距離で、関係に、なれるのだろうか?
その質問の答えは誰にも判らないし、ギルバート自身が、一番に知りたい答えだった。
「よしっ」
いつまでも、うじうじと悩んでいてもしょうがない。
クリストフを巻き込んで、来年には、どうやったらセシルに会えるのか、今からでも相談すべきだろう。
早く会いたい……。
会えるのなら、今すぐにでも、会いたい……。
思いは募るばかり。
持て余す感情は、嵐のように湧き上がるだけ。
「セシル……」
聞こえぬほどの呟きを漏らし、ギルバートは、一人で、ちょっとだけ照れてしまっていた。
そうやって、名前を呼べられるような関係になれれば、どんなに良いことだろうか。
ギルバートの“一生涯の純愛”だ。
1
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
新婚早々、愛人紹介って何事ですか?
ネコ
恋愛
貴方の妻は私なのに、初夜の場で見知らぬ美女を伴い「彼女も大事な人だ」と堂々宣言する夫。
家名のため黙って耐えてきたけれど、嘲笑う彼らを見て気がついた。
「結婚を続ける価値、どこにもないわ」
一瞬にしてすべてがどうでもよくなる。
はいはい、どうぞご自由に。私は出て行きますから。
けれど捨てられたはずの私が、誰よりも高い地位の殿方たちから注目を集めることになるなんて。
笑顔で見返してあげますわ、卑劣な夫も愛人も、私を踏みつけたすべての者たちを。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
三年待ったのに愛は帰らず、出奔したら何故か追いかけられています
ネコ
恋愛
リーゼルは三年間、婚約者セドリックの冷淡な態度に耐え続けてきたが、ついに愛を感じられなくなり、婚約解消を告げて領地を後にする。ところが、なぜかセドリックは彼女を追って執拗に行方を探り始める。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
[完結連載]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@大人の女性向け
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
虚偽の罪で婚約破棄をされそうになったので、真正面から潰す
千葉シュウ
恋愛
王立学院の卒業式にて、突如第一王子ローラス・フェルグラントから婚約破棄を受けたティアラ・ローゼンブルグ。彼女は国家の存亡に関わるレベルの悪事を働いたとして、弾劾されそうになる。
しかし彼女はなぜだか妙に強気な態度で……?
貴族の令嬢にも関わらず次々と王子の私兵を薙ぎ倒していく彼女の正体とは一体。
ショートショートなのですぐ完結します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる