上 下
337 / 530
Part2

* Е.д これからは *

しおりを挟む
「ああぁ……、疲れた……」

 ベッドの上で、お行儀悪く両手両足を広げながら、横になっているセシルは、今日一日の仕事を終え、大きな溜息ためいきを吐き出していた。

 豊穣祭前は、大抵いつも、怒涛の嵐のど真ん中を進んで行くかのような多忙さを極め、豊穣祭を終える前では、一息つける暇もないほどの時間が限られている。

 豊穣祭を無事に終わらせ、やっと、一息がつけると思いきや、次に、年末調整の決済があって、来年度の予算案決定が待ち構えている。

 だから、セシルの場合は、年末を無事に終わらせられると、お正月の一日、二日ほどは、仕事を入れないようにして、完全な休息日としていることが多い。

 前世(なのか現世) の時なら、年末・年始はビッグイベントが続いていて、どこの家庭でも大忙しなものだ。

 クリスマスでパーティーを終えれば、年末の仕事治め、年末大掃除などで、除夜の鐘を聞き、新年を迎える。

 その間、お節料理を作る家庭では、新年のご馳走に向けて料理で多忙を極めてしまう。
 新年では、お正月料理を満喫し、初詣に行ったりと、皆がウキウキと浮かれている大イベントだ。

 そうやってお祝いする楽しみがあるのだったが、セシルの場合、あまりに一年が多忙過ぎて、お正月だけは、一切、何もしないことにしたのだ。

 寂しいことながら、お節料理はない。

 新年を祝って、そう言った習慣を作っても良かったが、すでに、豊穣祭で心身共に疲弊しきってしまい、年末で完全燃焼になってしまう為、お正月だけは、一切何もしない習慣が出来上がってしまった。

 残念なことだ……。

 今年の豊穣祭も大賑わいをみせ、領地全体での収入上昇も問題なく見られている。

 セシルだけではなく、財務部だってホクホク顔で、他の部署の主任達も、豊穣祭後の売り上げから来年度の予算が少し上げられるかな? との期待で、彼らもホクホク顔だ。

 そして、領地では、すでに、来年の豊穣祭に向けての計画が立てられ始めている。
 やっと、豊穣祭を終えたばかりだと言うのに、領民はすでに来年の豊穣祭を計画しているのである。

 なにしろ、来年は、特別な一年なのだ。
 セシルがこのコトレア領に移って来て「領主名代」 となってから、来年は十年が経つ。十年の特別記念なのだ。

 それで、領民全員が十周年を祝い、盛大なイベントを企画しているのだ。

 まあ、正直な話、セシルも来年の十周年記念祭には、かなり期待をしている方だ。

 今まで、怒涛のような勢いで、この十年を乗り切って来た。生き抜いてきた。生き延びて来た。
 毎日が戦いで、休まる暇もなく、休まる時もなかった。

 それでも、今まで成し遂げて来たことに、その結果に、セシルも不満はない。
 これからも、まだまだ走り続けていくだけだ。

「はあぁ……」

 それでも、心意気は決まっていても、身体的な疲労には勝てない。
 若さで乗り切ろうにも、さすがに、限界があるだろう。

 明日は、仕事を減らし、少し休憩を取るべきだろうか?

 なんだか……思い起こせば、今年もまた、色々な行事があったものだ。色々な経験をすることができた。

 しょぱなからアトレシア大王国の夜会に招待されて、またも、隣国を訪ねることになってしまった。
 それからも、アトレシア大王国とのイベントは続き、多忙だった。

 セシルとしては、当初の予定として、セシルの婚約解消が済んだのなら、それからは、コトレア領の統治に専念して、余計な召集がかからない限り、ノーウッド王国の王都からも、王宮からも離れ、静かな余生を送るつもりだった。

 静かで、平和な日々を過ごす予定だった。

 うーん……。

 今の所、平和、ではあるかもしれないが、静かで――という部分は、満たされていないかもしれない。

 行事続きで、どうにもこうにも落ち着かない日々が続いているような?

 これからは、静かで平和な日々がやってくるといいのだが。

「なんだか、勢いだけで……毎日が過ぎて行っているみたいねぇ……」

 半分は、セシル自身のせいなのだが。
 なにしろ、セシルは行動が早い。即決定で、即実行、だ。

 別に、それをモットーとしているのではないが、何事にも無駄を嫌うだけに、時間の無駄も嫌だし、労力の無駄も嫌だし、お金の無駄も嫌だし、色々である。

 問題点が上がって来ると、


「なにかしら、これ? なんて、無駄なこと」


などと、ついつい、速攻で、その“無駄”を解決してしまう癖がある。

 だから、今までだって、スローダウンできただろうに、セシルの性格が伴って、なんでもかんでもものすごいスピードで終わらせてしまった。終わってしまったのだ。

「ちょっと、スピードを下げるべきかしら……?」

 今は若さで乗り切っているが、いつまでも、この調子で仕事を押し進めていくことには、無理が出てくるだろう。

 来年は、十周年記念にもなるし、そろそろ、スローダウンで仕事をこなし、終わらせていることを検討してみるのもいいかもしれない。

「少しは、落ち着きをみせろ、ってことなのかしら?」

 セシルの行動は素早いものでも、だからと言って、いつでもどこでも急ぎ足、というのでもない。
 セシルの性格だって、忙しないのではない。

「うーん……。仕事を詰め過ぎているのかしら?」

 一日に終わらせる仕事の量を決めて、それ以上は無理をしない、など?

 それは、セシルもできそうな方法だ。

 これからは、静かで平和な時間を過ごせるように、セシルも来年からはちょっとした改善を試みようかしら?

 ある程度の目標も決まり、セシルは心地よい眠りに落ちていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました

雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった... その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!? たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく ここが... 乙女ゲームの世界だと これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話

乙女ゲームの世界に転生した!攻略対象興味ないので自分のレベル上げしていたら何故か隠しキャラクターに溺愛されていた

ノアにゃん
恋愛
私、アリスティーネ・スティアート、 侯爵家であるスティアート家の第5子であり第2女です そして転生者、笹壁 愛里寿(ささかべ ありす)です、 はっきり言ってこの乙女ゲーム楽しかった! 乙女ゲームの名は【熱愛!育ててプリンセス!】 約して【熱プリ】 この乙女ゲームは好感度を上げるだけではなく、 最初に自分好みに設定したり、特化魔法を選べたり、 RPGみたいにヒロインのレベルを上げたりできる、 個人的に最高の乙女ゲームだった! ちなみにセーブしても一度死んだらやり直しという悲しい設定も有った、 私は熱プリ世界のモブに転生したのでレベルを上げを堪能しますか! ステータスオープン! あれ?  アイテムボックスオープン! あれれ? メイクボックスオープン! あれれれれ? 私、前世の熱プリのやり込んだステータスや容姿、アイテム、ある‼ テイム以外すべて引き継いでる、 それにレベルMAX超えてもモンスター狩ってた分のステータス上乗せ、 何故か神々に寵愛されし子、王に寵愛されし子、 あ、この世界MAX99じゃないんだ、、、 あ、チートですわ、、、 ※2019/ 7/23 21:00 小説投稿ランキングHOT 8位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 6:00 小説投稿ランキングHOT 4位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 12:00 小説投稿ランキングHOT 3位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 21:00 小説投稿ランキングHOT 2位ありがとうございます‼ お気に入り登録1,000突破ありがとうございます‼ 初めてHOT 10位以内入れた!嬉しい‼

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり
恋愛
平凡な女子高生、加賀深涼はハロウィンの夜に不思議な男の声を聴く。 疎遠だった幼馴染の真堂刃や、仮装しに集まっていた人たちとともに流星群の落下地点から異世界『エーデルラーム』に召喚された。 他の召喚者が召喚魔法師の才能を発現させる中、涼だけは魔力なしとして殺されかける。 そんな時、助けてくれたのは世界最強最悪の賞金首だった。 一般人生活を送ることになった涼だが、召喚時につけられた首輪と召喚主の青年を巡る争いに巻き込まれていく。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載。 [お願い] 敵役へのヘイト感想含め、感想欄への書き込みは「不特定多数に見られるものである」とご理解の上、行ってください。 ご自身の人間性と言葉を大切にしてください。 言葉は人格に繋がります。 ご自分を大切にしてください。

処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

インバーターエアコン
恋愛
 王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。   ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。 「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」 「はい?」  叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。  王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。  (私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)  得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。  相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...