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Part2
* Е. б 豊穣祭 *
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「不肖ではありますが、今年も、皆さんの案内役を務めさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
去年よりも背が伸び、顔立ちも少年っぽさから少し青年らしくなったシリルが、丁寧に挨拶をする。
「今年もよろしくお願いします」
去年、初めて豊穣祭に参加したギルバート達は、右も左も分からない――“お上りさん”と同じだった。
見るもの、聞くもの、全てが全て知らないものばかり、聞かないものばかり、経験したことのないものばかりで、滞在している間は、ずっと驚いてばかりで、それ以上に圧倒されてばかりいた。
今年は――豊穣祭に慣れたわけではないが、去年程、驚いてばかりではないと思うのだが……?
それでも、領地に詳しいシリルが案内役として付き添ってくれるのは、真実に、ギルバートも感謝している。
質問をしたい時など、気軽に質問ができて、答えがすぐに分るし、もっと色々なことを知る機会が増えて――もっと、セシルが治めている領地のことを知ることができる。
もっと、セシルのことを知ることができる。
シリルには、去年と同様に、この領地から二人、護衛が付き添っている。
二人は、少し離れた場所から、シリルを護衛している。
この領地も宿場町の方も、町並みは整然としていて、犯罪率も確実に低い。
それでも、豊穣祭ともなると、さすがに大勢の観光客がやってきて、貴族の子息であるシリルが一人歩きするには、知らない人間が、少々、多すぎる場でもある。
だが、二人の護衛は、大抵、少し離れた場所から護衛していて、去年だって、ほとんどシリルの邪魔をしてこなかった。
去年と同様、シリルの格好は、少し裕福な商人層といった、若い青年の格好をしている。
ギルバート達は私服である。夜には、ちゃんと(礼儀として) 騎士団の制服に着替えるが、今は目立たないように私服だ。
去年は帯刀を許された。
今年は、迷惑がかかるのでしたら――と、帯刀するつもりはなかったのだが、シリルが一緒に付き添っているので、それほど目立たないのなら、と帯刀は許してもらっている。
さすがに、常日頃から剣を身に着けているだけに、こう、腰に重さがないと、なんだか妙に落ち着かないものなのだ。
だから、帯刀を許可してくれたセシルには、大感謝だ。
去年と同じように、朝からでも、ものすごい賑わいを見せている。今年も、領民を抜かした数を見ても、かなりの数の観光客が豊穣祭にやって来ているのではないだろうか。
開会式で、セシルの説明を聞きながら、ギルバートの顔が、つい、にやけてしまう。
コトレアに到着した日には、セシルに挨拶を済ますことができたが、セシルはいつも多忙なだけに、その後は、セシルとゆっくり話す機会もなかった。
アトレシア大王国で合同練習を終えてからと言うもの、四ヶ月近く、ギルバートはセシルに会うこともできなかった。
ずっと会いたかったのに、会えることもできなくて、声も聞けなくて、焦がれる思いだけが募って、本当に辛かった。苦しい(長い) 時間だった。
「さあ、“初めてのお買い物”ができる子供達は誰ですか?」
開会式を終えたセシルが、孤児院の子供達が並んでいる群れに近付いて行く。
そこから、「僕です!」、「あたしです!」 と、子供達の賑やかな喧騒が上がる。
「今年は、去年よりも少し多いみたいですね」
その光景を眺めながら、ギルバートもほんわかと表情を緩めている。
子供達は緊張しながらも、興奮が押さえきれない様子で、一列に並び始めている。
「そのようですね」
「こんなことを聞いたら失礼かもしれませんが」
「なんでしょうか?」
「子供達は、ノーウッド王国の王都からやって来ているのですか?」
「その時によりけりです。王都で出会った子供達もいれば、王都近辺の孤児院にいた子供達もいます」
「では、元、孤児院にいた子供達は、養子、という形で領地にやって来るのですか?」
「いえ。私が知る限りでは、孤児院毎、この領地に移って来たそうですが」
「孤児院毎?」
さすがに、その状況は予想していなくて、ギルバートも不思議そうな顔をみせる。
「それは……、孤児院にいる子供達を全員引き抜いて来た、というような状況ですか?」
「ええ、そうです。孤児院からやって来る子供達は、孤児院を経営していた管理者や、世話係りの人員と一緒に揃って、領地に移ってきています」
なるほど、とギルバートも簡単に納得をみせる。
要は、元の孤児院の経営を止め、領地に移住して来て、そこで、全員で生活し直す結果になっているのだろう。
下手に、個人や教会の救済団体に頼りながら孤児院の経営をするよりも、きっと、この領地に移住してきたのなら、子供達だってもっとたくさんの機会に恵まれるはずだ。
この領地なら、経営者や世話係りだって、子供達の面倒を看られるだけの補助もあれば、政策もきちんとある。
もっと、先のある未来を望めることだろう。
「そうやって、孤児院毎、引き取ってしまえることが、すごいですね」
普通なら、収益もない、経営難が多い孤児院など、自ら好んで関わり合いになりたい貴族などいない。貴族の義務として寄付金などを普及しても、孤児院丸ごと引き取るなど、滅多にあることではない。
ほぼ、皆無に近いだろう。
なのに、セシルは全くそんなことを気にもせず、進んで、孤児院毎、自分の領地に移住させてしまうのだから、なんてすごいことなのだろう。
そして、それを、あたかも普通の日常として扱っているセシルだからこそ、そんな苦労が表立って知られていないように思える。
セシルなど、自分から自慢するような性格でもないし、傾向もないので、余計に、どれほどの苦労や忍耐がそこにあったのかなど、この領地を経験した者以外、ほとんど知りもしないはずだ。
「この領地では、いつでも、どこでも、人員不足、人材不足に悩まされていますから、元の孤児院の世話係りが一緒に移住してきてくれると大助かりだ、と姉上もおっしゃっていました」
「大荷物になる」 ではなくて、「大助かりだ」 と豪語できるところが、セシルの許容深さと寛大さだ。
「そういう寛容さを簡単に見せられるところが、すごいお方ですね、ご令嬢は」
「姉上がおっしゃるには、まだまだ、だそうです」
「まだまだ? なにがですか?」
「まだまだ全然足りないそうです。人材不足を解決するには、更なる人口増加が必須で、もっとたくさんの人と知り合いになって、勧誘しなくては、というようなことをおっしゃっていました」
セシルの意気込みが、この言葉からしっかりと聞き取れる……。
やる気満々だ。
「そう……ですか。すごい、ですね……」
なんだか、セシルは会う度に、いつも、その勢いが止まらないような感じがするのは、ギルバートの気のせいだろうか。
全速力で、全力で、なにもかもを突っ走って行きそうな勢いが感じられる。
「シリル殿、一つお聞きしたいのですが?」
「なんでしょう」
「ご令嬢は……その、何と言いますか、領地開発や統治など、全力を出していらっしゃいますよね」
「ええ、そうですね」
「なにもかもが素早くて、効率的で、無駄がなくて、次から次に、新しい領地の開発やら、統治方法がなされているように見えます」
「そうですね」
「この領地の民は――そのようなボリュームに、素早さに、もう慣れてしまったのですか?」
なかなかに面白い質問をされて、シリルも真剣に考えてみる。
去年よりも背が伸び、顔立ちも少年っぽさから少し青年らしくなったシリルが、丁寧に挨拶をする。
「今年もよろしくお願いします」
去年、初めて豊穣祭に参加したギルバート達は、右も左も分からない――“お上りさん”と同じだった。
見るもの、聞くもの、全てが全て知らないものばかり、聞かないものばかり、経験したことのないものばかりで、滞在している間は、ずっと驚いてばかりで、それ以上に圧倒されてばかりいた。
今年は――豊穣祭に慣れたわけではないが、去年程、驚いてばかりではないと思うのだが……?
それでも、領地に詳しいシリルが案内役として付き添ってくれるのは、真実に、ギルバートも感謝している。
質問をしたい時など、気軽に質問ができて、答えがすぐに分るし、もっと色々なことを知る機会が増えて――もっと、セシルが治めている領地のことを知ることができる。
もっと、セシルのことを知ることができる。
シリルには、去年と同様に、この領地から二人、護衛が付き添っている。
二人は、少し離れた場所から、シリルを護衛している。
この領地も宿場町の方も、町並みは整然としていて、犯罪率も確実に低い。
それでも、豊穣祭ともなると、さすがに大勢の観光客がやってきて、貴族の子息であるシリルが一人歩きするには、知らない人間が、少々、多すぎる場でもある。
だが、二人の護衛は、大抵、少し離れた場所から護衛していて、去年だって、ほとんどシリルの邪魔をしてこなかった。
去年と同様、シリルの格好は、少し裕福な商人層といった、若い青年の格好をしている。
ギルバート達は私服である。夜には、ちゃんと(礼儀として) 騎士団の制服に着替えるが、今は目立たないように私服だ。
去年は帯刀を許された。
今年は、迷惑がかかるのでしたら――と、帯刀するつもりはなかったのだが、シリルが一緒に付き添っているので、それほど目立たないのなら、と帯刀は許してもらっている。
さすがに、常日頃から剣を身に着けているだけに、こう、腰に重さがないと、なんだか妙に落ち着かないものなのだ。
だから、帯刀を許可してくれたセシルには、大感謝だ。
去年と同じように、朝からでも、ものすごい賑わいを見せている。今年も、領民を抜かした数を見ても、かなりの数の観光客が豊穣祭にやって来ているのではないだろうか。
開会式で、セシルの説明を聞きながら、ギルバートの顔が、つい、にやけてしまう。
コトレアに到着した日には、セシルに挨拶を済ますことができたが、セシルはいつも多忙なだけに、その後は、セシルとゆっくり話す機会もなかった。
アトレシア大王国で合同練習を終えてからと言うもの、四ヶ月近く、ギルバートはセシルに会うこともできなかった。
ずっと会いたかったのに、会えることもできなくて、声も聞けなくて、焦がれる思いだけが募って、本当に辛かった。苦しい(長い) 時間だった。
「さあ、“初めてのお買い物”ができる子供達は誰ですか?」
開会式を終えたセシルが、孤児院の子供達が並んでいる群れに近付いて行く。
そこから、「僕です!」、「あたしです!」 と、子供達の賑やかな喧騒が上がる。
「今年は、去年よりも少し多いみたいですね」
その光景を眺めながら、ギルバートもほんわかと表情を緩めている。
子供達は緊張しながらも、興奮が押さえきれない様子で、一列に並び始めている。
「そのようですね」
「こんなことを聞いたら失礼かもしれませんが」
「なんでしょうか?」
「子供達は、ノーウッド王国の王都からやって来ているのですか?」
「その時によりけりです。王都で出会った子供達もいれば、王都近辺の孤児院にいた子供達もいます」
「では、元、孤児院にいた子供達は、養子、という形で領地にやって来るのですか?」
「いえ。私が知る限りでは、孤児院毎、この領地に移って来たそうですが」
「孤児院毎?」
さすがに、その状況は予想していなくて、ギルバートも不思議そうな顔をみせる。
「それは……、孤児院にいる子供達を全員引き抜いて来た、というような状況ですか?」
「ええ、そうです。孤児院からやって来る子供達は、孤児院を経営していた管理者や、世話係りの人員と一緒に揃って、領地に移ってきています」
なるほど、とギルバートも簡単に納得をみせる。
要は、元の孤児院の経営を止め、領地に移住して来て、そこで、全員で生活し直す結果になっているのだろう。
下手に、個人や教会の救済団体に頼りながら孤児院の経営をするよりも、きっと、この領地に移住してきたのなら、子供達だってもっとたくさんの機会に恵まれるはずだ。
この領地なら、経営者や世話係りだって、子供達の面倒を看られるだけの補助もあれば、政策もきちんとある。
もっと、先のある未来を望めることだろう。
「そうやって、孤児院毎、引き取ってしまえることが、すごいですね」
普通なら、収益もない、経営難が多い孤児院など、自ら好んで関わり合いになりたい貴族などいない。貴族の義務として寄付金などを普及しても、孤児院丸ごと引き取るなど、滅多にあることではない。
ほぼ、皆無に近いだろう。
なのに、セシルは全くそんなことを気にもせず、進んで、孤児院毎、自分の領地に移住させてしまうのだから、なんてすごいことなのだろう。
そして、それを、あたかも普通の日常として扱っているセシルだからこそ、そんな苦労が表立って知られていないように思える。
セシルなど、自分から自慢するような性格でもないし、傾向もないので、余計に、どれほどの苦労や忍耐がそこにあったのかなど、この領地を経験した者以外、ほとんど知りもしないはずだ。
「この領地では、いつでも、どこでも、人員不足、人材不足に悩まされていますから、元の孤児院の世話係りが一緒に移住してきてくれると大助かりだ、と姉上もおっしゃっていました」
「大荷物になる」 ではなくて、「大助かりだ」 と豪語できるところが、セシルの許容深さと寛大さだ。
「そういう寛容さを簡単に見せられるところが、すごいお方ですね、ご令嬢は」
「姉上がおっしゃるには、まだまだ、だそうです」
「まだまだ? なにがですか?」
「まだまだ全然足りないそうです。人材不足を解決するには、更なる人口増加が必須で、もっとたくさんの人と知り合いになって、勧誘しなくては、というようなことをおっしゃっていました」
セシルの意気込みが、この言葉からしっかりと聞き取れる……。
やる気満々だ。
「そう……ですか。すごい、ですね……」
なんだか、セシルは会う度に、いつも、その勢いが止まらないような感じがするのは、ギルバートの気のせいだろうか。
全速力で、全力で、なにもかもを突っ走って行きそうな勢いが感じられる。
「シリル殿、一つお聞きしたいのですが?」
「なんでしょう」
「ご令嬢は……その、何と言いますか、領地開発や統治など、全力を出していらっしゃいますよね」
「ええ、そうですね」
「なにもかもが素早くて、効率的で、無駄がなくて、次から次に、新しい領地の開発やら、統治方法がなされているように見えます」
「そうですね」
「この領地の民は――そのようなボリュームに、素早さに、もう慣れてしまったのですか?」
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