奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

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Part2

Д.г 根性見せろよ - 05

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* * *


 ノーウッド王国の王都を離れ――スラム街を離れ、馬車で六日間の旅が始まった。

 生まれて初めて、子供達は汚れていないまともな洋服を着せてもらい、生まれて初めて、馬車に乗った。

 ガタガタ、ゴトゴトと揺れて(なにしろ、道がないから)、あまり快適な乗り心地ではなかったのかもしれないが、それでも、生まれて初めて経験する馬車の旅だけに、馬車の中に乗っている五人の子供達は、実は、かなり浮かれて興奮していた。

 あまりにである『セシル』 に拾われて、これから南の領地に移動するらしいが、貴族のオジョーサマなのに、『セシル』 は馬に騎乗し移動している。

 だから、馬車の中には子供達だけだった。

 数時間ごとの休憩時間があたり、その度に、お水とスナックもあたり、それから次の移動が始まる。
 三食がきちんと出されて、一晩泊まる時は、宿屋で部屋をあてがわれた。

 最初は、二人と三人に分けた部屋にしようかと、『セシル』 は提案したが、子供達は床で寝ようが、どこで寝ようが、離れ離れになるのは嫌だからと、五人全員が一緒の部屋にしてもらった。

 二つあったベッドは、二人ずつ寝ることができて、一人だけは床で寝る羽目になったが、生まれて初めて、毛布もあり、ベッドもあり、まともな部屋で寝ることができただけに、文句もない。

 交代・交代で、次の泊まる宿ではベッドを交換し、床で寝る役を回していた。

 信じられないことだが――移動中、子供達は、生まれて初めて、扱われていたのだ。

 暴力も振られなかった。無理矢理、仕事を押し付けられもしなかった。無理強いもさせられなかった。
 ただ、移動をしただけだった。

 あまりに信じられない状況だった。

 だからと言って、子供達の警戒が薄まることはない。絶対に裏切られる、絶対に騙されている――その警戒心だけは、決して緩むことはなかったのだ。

 長い旅を終えて、コトレア領という領地に到着すると、五人の子供達は、領地にある孤児院に預けられた。

 院長先生という女性がやって来て、紹介が始まり、それから、孤児院の施設の説明も始まった。生活の規則や、毎日の課題なども話された。

 『セシル』 が言った通り、他にも孤児はいた。結構な数だった。
 その点だけは、『セシル』 は嘘を言っていなかったらしい。

 他の孤児の子供達にも紹介された。でも、挨拶だけ済まし、後は、大抵、五人で固まって動いていることばかりだ。

 でも、注意はされなかった。怒鳴り散らされなかった。

 そうやって、なぜかは知らないが、一カ月が簡単に過ぎていったのだ。あまりにに、過ぎていったのだ。

「よう」

 孤児院のすぐ裏の林で、いつものように固まっていた五人の前で、リアーガが姿を出した。

「……なんですか?」

 五人は、ただ、慎重な目つきを向けて、リアーガを見返す。

「ちょっと雑談しようぜ」

 なんで、このリアーガと雑談なんかしなければならないのか、と言った表情が五人の顔にありありと出ていて、全く乗り気ではないのは確かだ。

 だが、リアーガはその態度を無視して、
「こっちに来いよ」

 さっさと一人だけ歩き出してしまう。

 五人が顔を見合わせる。
 どうするよ……無言でコミュニケーションが上がって来る。

 問題を起こしたら、孤児院の院長先生から、罰則としてトイレ掃除をさせられる。交代・交代での掃除でならまだしも、わざわざ、好んでトイレ掃除などしたくはない。

 それで、仕方なく、五人はリアーガの後をついていくようだった。

 リアーガが歩いて行った先は、孤児院の裏にある、外で授業が受けられるベンチが置いてある場所だった。

 ベンチと言っても、丸太を切って、それを地面の上に並べ、座れるような場所なだけなのだが。

「なんですか、話って」

 子供達は適当な丸太に腰を下ろし、リアーガは一人で、ドカッと、子供達の丸太の前に腰を下ろす。

「ここの暮らしはどうよ」
「別に……」

「奴隷扱いされたのか?」
「いえ……」

人身売買じんしんばいばいに売り飛ばされたのか?」
「いえ……」

しいたげられて、折檻せっかんされ、なぶり殺されたのか?」
「まだ……死んで、ません……」

 ふんっ、とリアーガが鼻で笑う。

「じゃあ、いつ殺されるんだよ」

 その質問に、全員が黙り込む。答えたくないのか、答えがないのか、シーンと気まずい沈黙だけが降りていた。

「それで、冷静な状況判断はできたのか?」
「さあ」

 それに答えたのは、やはり、フィロだった。

 『セシル』 が言うのではないが、この五人の中で、大抵、問答する場合は、フィロが先頭となってやって来る。たぶん、五人の中で一番口が回り、頭の回転も早いのだろう。

 『セシル』 が憶測した通りで、リアーガも笑ってしまう。

「お前ら、スラム街を抜け出した気分はどうよ」
「さあ」

「人間らしい暮らしをして、落ち着かないか?」
「そんなことないけど」

 あまりに冷たい態度で、冷たい口調の返答だ。

 リアーガの口端が上がって行き、
「生意気クソガキ共」
「生意気にしてないけど」

「孤児だろうと、親がいないことは問題じゃない、って知ってるか?」
「知るわけないでしょ」
「でも、それを証明した奴がいる」

 フィロだけではなく、残りの四人もただ無言をつらぬいている。

「お前らが困惑している気持ちは、わかからないでもないがな」
「あなたになんか、わかかるわけないでしょ」

 リアーガの口元が、更に薄っすらと上がって行く。

わかかるぜ。しいて言うなら、俺もスラム街出身の孤児だ」
「「え゛っ……!?」」

 五人全員の声が揃っていた。

 リアーガは、にぃっと、口を上げてみせ、
「それも、王都のスラム街最奥、めのような場所で育ったクソガキだ。それが、今はこんな制服を着て、領地内の護衛役、だぜ」

 それで、リアーガが自分の着ている制服を、ちょっと摘まんで見せるようにする。

「一体、誰が考えたよ? スラム街出身のクソガキが、偉そうに剣を下げて、おまけに、護衛役? 絶対にあり得ないだろ? スラム街の、あのゴミめから抜け出せられるガキだっていない」

「じゃあ、どうやって抜け出したの?」

「盗みを働いて、店主から追いかけまわされている所を、お嬢に見つかって、掴まった。――って言っても、お嬢の護衛をしていた騎士達に掴まった。それで、足を掴まれた――と思ったら、別に罰せられるんでもない。殴りつけられるんでもない。汚いナリのガキを連れて宿に戻って、そこで飯を食わせて来た。それで、「人として生きていきたいのなら、どうする?」 って、挑戦的な目で聞いてきてな。きれいな服着た、どこぞのお嬢さんのお遊びで、付き合ってられるか――ってな。おまけに、俺より年下のガキが生意気に、って」

「リアーガさん――って、今いくつなの?」
「今は18だ。それで、お嬢に出会ったのは、俺が13の終わり――って言うか、14になるちょっと前で、お嬢が11になる前だ」

 へえ、と五人が納得する。

 今の自分達と、ほとんど変わらない年齢ではないか。

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