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Part2

Д.в 手始めに - 08

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「この男は、国軍の中隊長を任されている、ラソム・ソルバーグだ。他にも中隊長はいるが、今日は、この男に来てもらった」

 大きな応接室のような部屋に、制服を来た男性がやって来ていた。

 アーントソン辺境伯の領城で、親切に泊めてもらってから三日目。初日の夕食を無事に終え、アーントソン辺境伯との紹介も終えて、セシルが領地にやって来た事情の説明も軽く終えた後。

 あまりに突拍子もなく、馬鹿げた話を聞いた――と、アーントソン辺境伯は、なぜかは知らないが、小さな『セシル』 を前にして、大笑いをしていた。

 その父親をいさめていたのが、息子のリソの方である。

 それで、更に、なぜかは知らないが、あまりに突拍子もなく、馬鹿げた話だと思っているくせに、アーントソン辺境伯は、しばらくの間、セシルに領城に滞在することを許可してくれたのだ。

 昨日は、長旅で疲れているだろうからゆっくりせよ、と『セシル』 は他所様よそさまの家で、のんびりする時間をもらってしまった。

 『セシル』 は知らなかったが、国境側の国軍は王国の軍隊ではあっても、アーントソン辺境伯の領地の一部でもある国境側なので、アーントソン辺境伯が国軍をまとめていることが多いそうな。

 西に駐屯している国軍には、指揮官となる、少佐くらいの階級がある上級士官がいるらしい。その下に、中隊長やら小隊長と言った、少尉や中尉くらいの階級となる士官がいるそうな。

 アーントソン辺境伯には、自領の騎士、兼、兵士が揃っている。だから、領地の安全の為、国軍の管理と、自領の騎士(兼、兵士) の管理は、アーントソン辺境伯がしているのだそうだ。

 だから、今、紹介された人物は、現代の軍隊で言えば、少尉と中尉の中間くらいの階級で、そう言った権威があると説明された。

 理由もなく呼び出されたような本人は、起立したまま控えているが、なぜ、アーントソン辺境伯に召集されたのか、きっと、内心で心配していることだろうに。

 セシルから、なぜ領地にやって来たのか、と言う簡単な説明を聞いたアーントソン辺境伯は、(なぜかは知らないが) 国軍にも話をつけてやる、と親切にも勧めてくれて、それで、セシルは、今日、国軍の兵士との面会がかなったのだ。

「こちらは、ヘルバート伯爵家長女、セシル嬢だ。なんでも、個人的な護衛を探しているとのこと、実戦経験がある兵士をお望みだそうだ」
「は、あ……、そう、でしたか……」

 ラソムと紹介された兵士は、もちろん、全く理解していないその顔が丸見えだ。

「ほら、ご令嬢。自分の好みを説明してみせたら、どうだ?」

 どうも、アーントソン辺境伯は、『セシル』 の奇天烈な行動を見て、楽しんでいる節が見られないでもないが、今は世話をしてもらって、兵士まで紹介してもらった。

 『セシル』 を娯楽の一種かなにかと勘違いしている点は指摘せず、『セシル』 はラソムという男性を見返す。

「私は、今、自分で色々と動くことが多いものですから、護衛を増やそうと考えています。それで、実戦経験のある、実力者を探しております」

 ラソムの顔が複雑そうにしかめられていく。その表情が、なぜ、わざわざ辺境の国境軍にまで顔を出す必要があるのか……と、簡単に物語っている。

「私が希望する人材として、まず、仕事に誠実であること。仕事に責任を持ち、困難や問題が起きても、まず、解決策を探せるような忍耐と、臨機応変さも必要となります」

 技術面で言えば、実戦経験があり、腕の立つ者。強いて言えば、統率することや、他人に教えることに慣れている者であれば、それはボーナスだ。

 仕事では、移動が多くなるだろうから、移動を厭わない者。「護衛」 だけの仕事の枠に捕らわれず、必要とあらば、自分自身で動けるだけの俊敏さ、順応さも必要だ。

 そして、最後に、ヘルバート伯爵家の領地の一つ、南にあるコトレア領に移ることもいとわない者が最適だ。

 給金や、仕事の待遇などは、正式な契約をする際に、『セシル』 の方から最初の提示はするが、それは交渉余地があるので、話し合いで決めることができる。

「そう言った人材を探しておりますが、誰か、良い人材はいませんでしょうか?」

 さらさらと、全く言い淀むこともなく、冷静で、落ち着いた態度で、落ち着いた口調で、それを簡単に説明し終えた『セシル』 を前に、ラソムはショックを受けているようだった。

 微かに開いた口がそのままで止まり、唖然としているのか、驚愕が露わで、そこで呆然と立ち尽くしている。

 『セシル』 は自分の希望がしっかりと明確だし、出し惜しみはしたくはない。でも、かなり難易度が高い要求を出してしまったのだろうか?

「なにか、質問はありますか?」
「…………いえ……」

 シーンと、気まずい沈黙が降りている。

「質問がないのなら、隊に戻り、誰かいいのを見繕みつくろって来い。その本人次第でもあるが、悪い話でもないだろう」
「……わかり、ました」

 死地に死にに行け、というような理不尽な命令を出したのではない。ものすごい難題を押し付けたつもりもない。

 だが、ラソムは未だに理解し難そうな表情を隠せず、一応、アーントソン辺境伯の領城を後にしていた。

「無理難題を押し付けたつもりはなかったのですが」
「まあな……」

 無理難題ではなくても、十歳の小さな子供が出してくるような要求ではないことは確かだった。

 こんなまだ幼い小さな子供なのに、全く子供らしくもなく、子供の喋りでもなく、あまりに落ち着き過ぎていて、全く見知らぬ土地で一人きりだろうと、動揺する様子もなく、慌てる様子もない。

 それで、一緒に同席しているリソの方が、あまりに信じられない光景を見ているかのように、ゲッソリとやつれてしまっていた。

 先程、紹介された中隊長と言う男性は、突拍子もない『セシル』 の要求を呑んで、律儀に、数人の兵士を領城に連れて来た。

 三人の兵士だって、なぜ、自分達が辺境伯の領城に連れて来られているのだろうか……と、心配そうな様相が伺える。

 辺境伯が国軍に指示を出すことはあっても、兵士達の方から辺境伯に近付いていくことはない。何かを頼むこともない。

 それだけに、謎の状況に投げ込まれ、兵士達もどうにも落ち着かない様子だ。

「……こちらは、ヘルバート伯爵家長女セシル様だ」

 たった一度きりの紹介だったのに、ラソムという中隊長はちゃんと『セシル』 の身分を覚えていてくれたようである(注:貴族の身分を忘れたら不敬罪になってしまうから)。

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