奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

文字の大きさ
上 下
283 / 532
Part2

Д.а 回顧 - 07

しおりを挟む
 ただ、小説の一節で――


「――婚約破棄されて、その違約金が――」


 望外な額で支払い不可能となり、ある貴族の一家が、それから没落の結末を辿たどってしまった……なんていう、数百ページある内容の中で出て来た、たった一小節だ。


――なんで、婚約の誓約書に反して勝手に婚約破棄を押し付けられたのに、違約金まで請求されて、その結果、家が没落するのよ。


 バカバカしい、と鼻で笑い飛ばした自分だ。
 ふざけ過ぎてるんじゃない、とも憤慨して。

 それで、あまりに無駄なお金を使ってしまって、タイムセールで買い込んだ小説に、ガッカリと落胆したのだ。
 タイムセールは当てにならないな、と。

 あの時の小説だったなんて……!!

 なんて、最悪……。
 なんて、悲惨……。
 なんて、絶望的……。

 確か……、小説の内容は、悪役令嬢でもなんでもない。異世界転生でもなければ、異世界転移でもない。
 ただの純愛ロマンスで、どこぞの身分の低い令嬢が、王子と恋仲になって、それで周囲に反対されても幸せに結ばれる、なんて簡単なストーリーだったはず。

 周囲の反対――だって、ものすごい悪意のある邪魔が入ったのでもなし。イジメがひどかったのでもなし。
 ただ、ちょっと、王妃とか、その手の女性陣から文句を言われただけで、大した盛り上がりもない。ドラマチックでもない。

 王子は王子で、活躍する場面もほとんどない。
 ただ、二人は一目惚れで、惹かれ合い、それで、勝手に、めでたし、めでたし、で終わってしまった。

 サイドキャラも薄く、ストーリーもなく、ただただお金の無駄。

 だから、あの小説を読み終えて、更なる落胆を隠せず、読み終わってすぐに、リサイクルに出してしまったほどだ。

 それを思い出して、がっくり……だ。

「信じられないぃ……。あの小説の中なの……!?」

 なんでっ?!

 その一言に尽きるだろう。

 そうなると、たった一小節程度にしか話に出てこない“一家”が、ヘルバート伯爵家の可能性が高く、あのクソガキに婚約破棄されるらしい。

 それはそれで、『セシル』 にとっても好都合だが、あのクソガキのせいで没落の運命を辿たどるのは、許せない。

 それに、『セシル』 も『ヘルバート伯爵家』 も、メインキャラではない。モブでもない。名も出されないほどの、ただの通りすがりのエキストラ並みに近い記述だ。

 だったら、小説内でも重要ではないのに、なぜ、現代人の自分が、異世界転生などさせられたのだろうか。

 人類を救うような場面でもない。世界でもない。

 最大の疑問だろう。

 だが、小説の中だろうと、どんなに馬鹿げた状況だろうと、今の所、『セシル』 は生きている。この体は、生身の人間だ。
 血が出てきて、それを証明したではないか。

 お腹が空くし、眠くなるし、疲れも出るし、「人間」 としての機能は、完全に同じものだ。

 となると、この世界で――万が一、『セシル』 が命を落したら、もう、それは、笑えもしない最悪の結末になる。


(こんな――あまりに悲惨な世界で、死んでなどやるものか!)


 なんで、こんな状況に放り込まれて、無残に死ななくてはならないのか。

 もう、こうなったら、絶対に、何が何でも、生き延びてやる。
 絶対に、最後まで、生き抜いてやる!

「それなら、まず初めに、は、あのクソガキを、完膚なきまでに叩き潰してやることね。ああ、憎たらしい、クソガキ。覚えてなさい」

 子供の体に、大人の思考力。
 そして、何よりも、この世界では、きっと、絶対に存在していないであろう現代世界の経験値。知識と技術。

 その全部を生かして、思う存分に、あのクソガキのはなつらを叩き折ってやろうじゃないか。

 そして、元の世界には――きっと、二度と戻れないのならば、『セシル・ヘルバート』 として、自分自身は、この世界で生を全うしなければならない。

 だから、『セシル・ヘルバート』 として、ある程度、住みやすい生活環境を整えなければ、ストレス過多で、それこそストレス死、なんてあり得ることだ。

「うじうじと嘆いてなんていられないわね」

 『セシル』には、当座の目的と、遂行しなければならない課題が出てきたのだ。
 時間も、限られているだろう。

 確か、小説の内容では、婚約破棄は、学園行事の後のはず。
 この世界の、っていうものだってどんなものなのか、きちんと把握しなければならない。

「まずは、土台造りと、味方集め、ね」

 小さな体だろうと、もう、子供ではない。
 やることはたくさんある。

 やってやろうじゃないの。
 この生を懸けて。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

処理中です...