280 / 531
Part2
Д.а 回顧 - 04
しおりを挟む
* * *
あれから数日が経った。
一晩寝ても、やはり、状況は変わらなかった。視界に入る光景は、変わらなかった。
鏡の前に移る自分の姿も、変わらなかった。
鏡で自分の姿を確認する度に、ビヨーンと、強くほっぺたを引っ張ってみて、その皮がはがれないか試してみた。
昔にあった映画の“フェイス・オフ”ではないが、顔の皮をはがしたら、別の顔が現れる――なんて……。
その衝動が上がって来て、止まらなくて、ここ数日、毎日、鏡の前で自分の顔を引っ張ってみてしまう自分自身がいる。
強く引っ張った分だけ、ヒリヒリと、ほっぺたが痛かっただけだった。
考えないようにしても、自分は、もう……元にいた世界に、場所に戻れないのではないだろうかと、その考えだけが消せなくて、訳の分からない世界にいる自分自身の存在も、状況も納得がいかなくて、その自問自答を繰り返して、更に気が狂いそうだった。
こんな状態が続いて、精神を病まない人間なんていないだろう。
異世界……なんていう表現になるのだろうが、そんな場所に、いきなり放り込まれて、それで、多少の落ち込みから勝手に回復して、お気楽に異世界を満喫するなんて――そんな話は、絶対に有り得ない。
そんなのは、小説や漫画の世界の話だけだ。
ここ数日、この世界で過ごして判ったことは、この世界には、魔法も魔術も存在しない。この世界で生きている人間は、自分の元いた世界と全く同じだったのだ。
ただ、文明が遅れているのか、そう言った昔の時代だったようなだけだ。
だから、異世界で無双、なんてことにはならない。
魔術を使って世界を救ったり、違う人種と交えて冒険や旅行もない。ハーレムやら、逆ハーレムで好き放題、だってない。
生きて行くのにお金が必要で、食べ物だって、魔法で簡単に出て来ることはない。食糧難もあれば、飢饉もある。餓死することだって、珍しいことではない。
それだけは、ここ数日でも、すぐに学んだことだった。
あまりに違う世界や場所に放り込まれ、身内はいない。友人だっていない。知り合いもいない。
そんな場所で、状況で、異世界で頑張って生きて行こう! ――なんて、普通は、簡単に、自分の意気ごみを奮い立たせることなんて、できやしないだろう。
今まで慣れ親しんだ電化製品もなければ、あまりに便利になりすぎた世界で使用していたものが、何一つ、手に入らない。
食事が違う。
はっきり言って、食事を済ませても、味気なく、満足感が足りなく、物寂しさが抜けないのは、『セシル』に更なるストレスを与えていた。
食が悪かったり、崩れてしまうと、精神的にも、心理的にもストレス過多だ。やはり、食事はおいしいものを食べたいではないか。
コンビニでも立ち寄って、簡単にスナックも買えなくなってしまった。
できないことばかりが目の当たりになってしまい、思考もネガティブに落ち込みがちだ。
浮上するのだって、元にいた世界に帰れる見込みもなければ、帰る方法も分からないのであれば、ネガティブに落ち込んでしまう理由も頷けるものだろう。
あまりに現実離れし過ぎていて、夢から覚めない悪夢のまま日常が過ぎて行き、自分の容姿が全く違っていて、それが変わることがなくて、一体、元の自分はどうなってしまったのかさえも、判らないままだ。知らないままだ。
一人切りになる夜がやって来ると、あまりに静かで、誰にも邪魔をされず、更に、考える時間ができてしまって、余計な雑念でわずらわされてしまう。
説明のつかない理解不能な状況。
説明がつかなくても、生きていることには変わらない現状。
説明できない不可解な現象で、すでに魂が誰かの体に入ったのか、記憶だけが呼び起こされたのか、大人で、十歳の子供の体を持つ現実。
現代? 現世? 前世?
自分の元いた世界が、一体、どの世界なのかも分からない。
だが、今は現代人ということにしておこう……。
現代人の自分が、どこか知らない世界に放り込まれて、貴族の令嬢になっている。
セシル・ヘルバート。
ヘルバート伯爵家の長女、十歳の少女だ。
国は、ノーウッド王国。どんな国かは知らないが、この屋敷内の運営を見るに、典型的な貴族制度、貴族社会のど真ん中に放り込まれたらしい。
父、ヘルバート伯爵家当主、リチャードソン・ヘルバート。まだ、二十代最後のはず。
弟、ヘルバート伯爵家嫡男、シリル・ヘルバート。現在、五歳。
現在いる場所は、ヘルバート伯爵領にある、伯爵家の屋敷だ。これから、地図でも照らし合わせ、地理を学ばなければ、一体、自分がどこにいるのか正確に把握できない。
なぜ、突然、現代人の記憶を思い出したのだろうか?
異世界転移? ――でも、ワープした記憶は、全くない。どこかの穴に落ちて、異世界に入り込んだのでもない。
“不思議の国のアリス”でもあるまいに。
異世界転生? ――一体、いつ、どこで、自分自身が亡くなったのか、全く記憶にない。
交通事故でもない。お風呂場で溺死でもない。雷が当たって焼死・感電死でもない。
自殺――なんて、とんでもない! そんなことなど、絶対にしない。していない。
この未知の世界で、現代人だった自分自身の体や容姿を保っていないのだから、結論から行くと、たぶん、「異世界転生者」 という状況が当てはまるのだろう。
その結論に辿り着いて、更に、ドッと疲労すると共に、一気に、激しい落胆が肩に落ちて来た気分だ……。
あれから数日が経った。
一晩寝ても、やはり、状況は変わらなかった。視界に入る光景は、変わらなかった。
鏡の前に移る自分の姿も、変わらなかった。
鏡で自分の姿を確認する度に、ビヨーンと、強くほっぺたを引っ張ってみて、その皮がはがれないか試してみた。
昔にあった映画の“フェイス・オフ”ではないが、顔の皮をはがしたら、別の顔が現れる――なんて……。
その衝動が上がって来て、止まらなくて、ここ数日、毎日、鏡の前で自分の顔を引っ張ってみてしまう自分自身がいる。
強く引っ張った分だけ、ヒリヒリと、ほっぺたが痛かっただけだった。
考えないようにしても、自分は、もう……元にいた世界に、場所に戻れないのではないだろうかと、その考えだけが消せなくて、訳の分からない世界にいる自分自身の存在も、状況も納得がいかなくて、その自問自答を繰り返して、更に気が狂いそうだった。
こんな状態が続いて、精神を病まない人間なんていないだろう。
異世界……なんていう表現になるのだろうが、そんな場所に、いきなり放り込まれて、それで、多少の落ち込みから勝手に回復して、お気楽に異世界を満喫するなんて――そんな話は、絶対に有り得ない。
そんなのは、小説や漫画の世界の話だけだ。
ここ数日、この世界で過ごして判ったことは、この世界には、魔法も魔術も存在しない。この世界で生きている人間は、自分の元いた世界と全く同じだったのだ。
ただ、文明が遅れているのか、そう言った昔の時代だったようなだけだ。
だから、異世界で無双、なんてことにはならない。
魔術を使って世界を救ったり、違う人種と交えて冒険や旅行もない。ハーレムやら、逆ハーレムで好き放題、だってない。
生きて行くのにお金が必要で、食べ物だって、魔法で簡単に出て来ることはない。食糧難もあれば、飢饉もある。餓死することだって、珍しいことではない。
それだけは、ここ数日でも、すぐに学んだことだった。
あまりに違う世界や場所に放り込まれ、身内はいない。友人だっていない。知り合いもいない。
そんな場所で、状況で、異世界で頑張って生きて行こう! ――なんて、普通は、簡単に、自分の意気ごみを奮い立たせることなんて、できやしないだろう。
今まで慣れ親しんだ電化製品もなければ、あまりに便利になりすぎた世界で使用していたものが、何一つ、手に入らない。
食事が違う。
はっきり言って、食事を済ませても、味気なく、満足感が足りなく、物寂しさが抜けないのは、『セシル』に更なるストレスを与えていた。
食が悪かったり、崩れてしまうと、精神的にも、心理的にもストレス過多だ。やはり、食事はおいしいものを食べたいではないか。
コンビニでも立ち寄って、簡単にスナックも買えなくなってしまった。
できないことばかりが目の当たりになってしまい、思考もネガティブに落ち込みがちだ。
浮上するのだって、元にいた世界に帰れる見込みもなければ、帰る方法も分からないのであれば、ネガティブに落ち込んでしまう理由も頷けるものだろう。
あまりに現実離れし過ぎていて、夢から覚めない悪夢のまま日常が過ぎて行き、自分の容姿が全く違っていて、それが変わることがなくて、一体、元の自分はどうなってしまったのかさえも、判らないままだ。知らないままだ。
一人切りになる夜がやって来ると、あまりに静かで、誰にも邪魔をされず、更に、考える時間ができてしまって、余計な雑念でわずらわされてしまう。
説明のつかない理解不能な状況。
説明がつかなくても、生きていることには変わらない現状。
説明できない不可解な現象で、すでに魂が誰かの体に入ったのか、記憶だけが呼び起こされたのか、大人で、十歳の子供の体を持つ現実。
現代? 現世? 前世?
自分の元いた世界が、一体、どの世界なのかも分からない。
だが、今は現代人ということにしておこう……。
現代人の自分が、どこか知らない世界に放り込まれて、貴族の令嬢になっている。
セシル・ヘルバート。
ヘルバート伯爵家の長女、十歳の少女だ。
国は、ノーウッド王国。どんな国かは知らないが、この屋敷内の運営を見るに、典型的な貴族制度、貴族社会のど真ん中に放り込まれたらしい。
父、ヘルバート伯爵家当主、リチャードソン・ヘルバート。まだ、二十代最後のはず。
弟、ヘルバート伯爵家嫡男、シリル・ヘルバート。現在、五歳。
現在いる場所は、ヘルバート伯爵領にある、伯爵家の屋敷だ。これから、地図でも照らし合わせ、地理を学ばなければ、一体、自分がどこにいるのか正確に把握できない。
なぜ、突然、現代人の記憶を思い出したのだろうか?
異世界転移? ――でも、ワープした記憶は、全くない。どこかの穴に落ちて、異世界に入り込んだのでもない。
“不思議の国のアリス”でもあるまいに。
異世界転生? ――一体、いつ、どこで、自分自身が亡くなったのか、全く記憶にない。
交通事故でもない。お風呂場で溺死でもない。雷が当たって焼死・感電死でもない。
自殺――なんて、とんでもない! そんなことなど、絶対にしない。していない。
この未知の世界で、現代人だった自分自身の体や容姿を保っていないのだから、結論から行くと、たぶん、「異世界転生者」 という状況が当てはまるのだろう。
その結論に辿り着いて、更に、ドッと疲労すると共に、一気に、激しい落胆が肩に落ちて来た気分だ……。
1
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢は反省しない!
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。
性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
新婚早々、愛人紹介って何事ですか?
ネコ
恋愛
貴方の妻は私なのに、初夜の場で見知らぬ美女を伴い「彼女も大事な人だ」と堂々宣言する夫。
家名のため黙って耐えてきたけれど、嘲笑う彼らを見て気がついた。
「結婚を続ける価値、どこにもないわ」
一瞬にしてすべてがどうでもよくなる。
はいはい、どうぞご自由に。私は出て行きますから。
けれど捨てられたはずの私が、誰よりも高い地位の殿方たちから注目を集めることになるなんて。
笑顔で見返してあげますわ、卑劣な夫も愛人も、私を踏みつけたすべての者たちを。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
三年待ったのに愛は帰らず、出奔したら何故か追いかけられています
ネコ
恋愛
リーゼルは三年間、婚約者セドリックの冷淡な態度に耐え続けてきたが、ついに愛を感じられなくなり、婚約解消を告げて領地を後にする。ところが、なぜかセドリックは彼女を追って執拗に行方を探り始める。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
[完結連載]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@大人の女性向け
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる