奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

文字の大きさ
上 下
273 / 531
Part2

В.д 囮に? - 11

しおりを挟む
 それよりも、その光景を見ていたギルバートの――目が、チカチカと、火花が飛び散ったように、血が逆流した。

 ブチッ――!

 もう、完全に音になって聞こえるほどにしっかりと、ギルバートの忍耐がそこで切れていたのだ!

 完全に無表情になって、あまりに感情も映さないほどの冷たい目も据わっているほどだ。
 スッと、鞘ごと剣を抜いたギルバートが、無言で男達の方に進んでいた。

 シュッ――!
 ガツッ――!!

「――ぅあっ……!」
「――ぅがぁっ……!!」

 目に見えぬ速さで剣を振り回したかと思うと、すでに、二人の男が鞘付きの剣で殴られたのか、横の壁に、無残に吹っ飛ばされていた。

 ズルズルと、壁から滑り落ちていく二人は――完全に気絶している。

「なっ、なんだこいつっ――!」
「くそっ……!」

 残り二人が、突然の状況変化に焦り、片方が背中からナイフを取り出した。

「くそっ――」
「うるさい」

 凍り付きそうなほど冷たい一言を吐き捨てたギルバートが、ダッと、駆け出した。

 男がナイフを振り上げる暇さえなく、ギルバートの剣がナイフを吹っ飛ばし、それで、腕が降り上がってがら空きになった胸元が、おもいっきり蹴り飛ばされる。

「……うがぁっっっ……!!」

 完全な無表情で――鉄仮面と名高い――ギロリと、最後の男を睨みつけたギルバートに、男の顔の方が全身蒼白になっていた。

「……くそっ、くそっ……来るなっ――」

 いや、そんな懇願など、今更、遅過ぎである。
 素早い一振りだけで、最後の男だって、完全に気絶させられていた。

 その間、一分もない。

「あの――騎士の人、恐いんだな……!」
「全然、そうは見えなかったのに――!」

 さすがに、五人とも、この展開は予想していなく、唖然としている。

「ギルバート様は、いつもあのようですが」
「「えっ!? まじっ……?!」」

 咄嗟に反応してしまった五人は、つい、ため口が、ポロっと、こぼれていた。

 クリストフは、その態度を気にしていないのか、
「ええ、そうですね」

 クリストフの態度も変わらず、飄々とした様子なのも変わらない。

 さすが、ギルバートである。
 一瞬の間で、一気に、五人の男達を叩きのめしてしまった。


(あっ、私の獲物だったのに……)


 セシルが、後でコテンパにやっつけてやろうと標的にしていた男達二人も、ギルバートに簡単にやっつけられてしまった。

 全員が気絶していることを見取り、すぐに、ギルバートがセシルの元に駆けよって来て、膝をついた。

「大丈夫ですか?」
「はい。ちょっと尻もちをついただけですので」

 でも、それだって、ギルバートの顔が、いたたまれない……と、しかめられていた。

 セシルをゆっくりと立ち上がらせ、失礼にならない程度に、土埃も(ものすごく)丁寧にほろってくれる。

「マスター、大丈夫ですか?」
「ええ、問題ありません」

 子供達も、セシルの元に走り寄って来た。

「ここで護衛していてくれ」

 あまりに短い、それだけの一言を子供達に残し、ギルバートは地面に転がっている男の一人の首根っこを掴み上げていた。

 その男をズルズルと掴み上げたまま、容赦もせず、加減もせず、ギルバートが思いっきり男の頭を壁に叩きつけていた。

 濁った悲鳴が口から吐き出されていたが、半分気絶しかかっていた男は、今では完全に白目を向いて、ノビてしまっていた。

 今のは――なんだか……非情に、無情に、冷酷に、ギルバートの八つ当たりをしたような感じだった。

 次に、うめきながら地面で這いつくばっていた男を蹴り上げ、吹っ飛ばされた男が地面に落ちると同時、ギルバートの足が、思いっきり男の喉仏のどぼとけを押し潰す。

 音にもならない、奇妙で不気味なあえぎが吐かれて、男が必死でギルバートの足を外そうと試みるが、ギルバートの力は全く緩むことはない。

「黒幕は誰だ」

 だが、地面でもがいている男からは返答がなく――返答もできず、呼吸困難で、顔が真っ赤になり出している。

「答える気がないのか? では、お前は死ね」

 答えるもなにも、答えられない状態で、尋問されている男だ。

「いやいやいや、あの人、なんか目がわってない? 怖いよ」
「いや、本気なんじゃない? 騎士団だから、手加減しないとか」

 そして、(結構)危ない状況の最中、全く動じた様子もなく、淡々と実況中継をしてくれる子供達を前に、クリストフも、微かに口を曲げたような顔をしてしまっている。

 だが、子供達の読みは、少々、外れている。


――――いやいや、あんなものでは手ぬるいでしょう。


 なにしろ、ギルバートの大切な思い人である女性を傷つけたなど、死罪同然の大罪だ。

 そんな輩など、ギルバートが許すはずもない。斬りおとされなかっただけでも、感謝すべきだろう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

新婚早々、愛人紹介って何事ですか?

ネコ
恋愛
貴方の妻は私なのに、初夜の場で見知らぬ美女を伴い「彼女も大事な人だ」と堂々宣言する夫。 家名のため黙って耐えてきたけれど、嘲笑う彼らを見て気がついた。 「結婚を続ける価値、どこにもないわ」 一瞬にしてすべてがどうでもよくなる。 はいはい、どうぞご自由に。私は出て行きますから。 けれど捨てられたはずの私が、誰よりも高い地位の殿方たちから注目を集めることになるなんて。 笑顔で見返してあげますわ、卑劣な夫も愛人も、私を踏みつけたすべての者たちを。

三年待ったのに愛は帰らず、出奔したら何故か追いかけられています

ネコ
恋愛
リーゼルは三年間、婚約者セドリックの冷淡な態度に耐え続けてきたが、ついに愛を感じられなくなり、婚約解消を告げて領地を後にする。ところが、なぜかセドリックは彼女を追って執拗に行方を探り始める。

[完結連載]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@大人の女性向け
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

想い合っている? そうですか、ではお幸せに

四季
恋愛
コルネリア・フレンツェはある日突然訪問者の女性から告げられた。 「実は、私のお腹には彼との子がいるんです」 婚約者の相応しくない振る舞いが判明し、嵐が訪れる。

虚偽の罪で婚約破棄をされそうになったので、真正面から潰す

千葉シュウ
恋愛
王立学院の卒業式にて、突如第一王子ローラス・フェルグラントから婚約破棄を受けたティアラ・ローゼンブルグ。彼女は国家の存亡に関わるレベルの悪事を働いたとして、弾劾されそうになる。 しかし彼女はなぜだか妙に強気な態度で……? 貴族の令嬢にも関わらず次々と王子の私兵を薙ぎ倒していく彼女の正体とは一体。 ショートショートなのですぐ完結します。

処理中です...