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Part2

В.д 囮に? - 03

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 コトレアでは、誰一人、差別なく、通りを歩くことができる。お店を訪ねることができる。買い物も食事も、どこでも簡単にできる。

 セシルが、そうやって平民である領民全員に、その「自由」を与えてくれたからだ。

 でも、コトレアから一歩外に出ると、貴族社会、貴族制は根強く残っている。

 窮屈な世界だ。

 ちらっと、馬車が通り過ぎた向こう側に、見慣れた背格好を見つけ、ジャンがハンスの腕を引っ張っていた。

 馬車道を走り抜け、通りの向こうに駆けて行く。

「マスターっ!」

 聞き慣れた声で呼ばれ、セシルが振り返った。

「あら? どうしたのです?」

 セシルの場所まで駆けて来た二人が、ホッと、まず、安堵の息を吐き出した。

「何があったのです」

 もう、セシルの顔も真剣になっていた。

 ジャン達が予想した通り、ギルバートは貴族街の方で、セシルを案内していたのだ。

 そんな場所に、わざわざ子供達がやって来る理由など何一つない。

 だから、即座に、二人がセシルを探していた事実を、セシルは理解していた。

「マスター」

 声を落して、ジャンがセシルに近付いて来て、小声で説明をする。

 セシルのすぐ隣にいたギルバートも警戒を強め、セシルの方に近付いて、ジャンの報告に耳を傾けるようにした。

「それは本当なのか?」

 ジャンの報告を聞いて、セシルもギルバートも目を丸くする。

「間違いありません。今、残りの3人に後を追わせています」
「こんな日中から人攫ひとさらいですか?」

 あまりに目立ち過ぎて、到底、そんな犯罪を犯せるとは思えないのに。

さらわれた場所は、かなり混雑しているんですよね。市場とかにも続く道だからかもしれませんが、すぐに人がぶつかるくらいには、混雑しているんです」

「そうです。それに、あいつら、二人で女の人を囲んで、あれ? ――と思ったら、すぐ横の裏道にれて、それからすぐに、また戻って来たんです。麻袋あさぶくろかついで」

「悲鳴を上げる暇さえなかった、ということですか?」
「たぶん、そうだと思います。だから、誰もその犯罪を見ていた人もいないと思います」

 ジャン達は、昔からの癖もあり、昔取った杵柄きねづかとも言おうか、胡散うさん臭い連中が近づいてくると、身体が自然に反応する警戒意識が無意識で育っていたのだ。

 だから、怪しそうな奴らだな、という思いが浮かんで、つい、あの二人の後ろ姿を目で追っていたのだ。

 それが幸いしたのか、女性を誘拐するその犯罪現場を目撃したことになる。

「まず、三人に合流しましょう」
「わかりました」

 セシルは鋭い眼差しをギルバートに向け、
「緊急事態のようですから、まずは、確認だけでも済ませるべきだと思いますの」

 女性が一人、本当に誘拐されてしまったのなら、その事実を知っているのは、セシル達だけになってしまう。

 このまま動かずに何もしなければ、誘拐された女性の身柄や安全だって、どうなるものか分かったものではない。

「急ぎ足になりますが、後ろの護衛も付き添って来るのなら、目立ってしまうかしら?」

 その点を指摘され、ギルバートがジャンに向いた。

「どの辺だったのか、地図で説明できるだろうか?」
「たぶん」

 ジャンは自分の持っている地図を取り出して、最初の場所から、セシルと分かれた場所、今やって来た場所の道筋を辿たどってみる。

 それを逆に戻って行くと、ジャン達が観光していた場所に向かって行く。

「ここです。ここで、三人と別れて、私達だけマスターを探しにやって来たんです」

 ギルバートだけではなく、クリストフも地図を覗き込み、ジャンの指さす場所を確認した。

 二人が知らない通りでもない。

「クリストフ。この場所で集合するように指示を出せ。裏道や横道を駆けてくるように、と。表通りを一緒に走り込んでは、目立ち過ぎてしまう」

「わかりました」
「一度、私達を見失ったからといっても、心配する必要はない。集合場所で合流だ」

「わかりました」

 クリストフが即座にその場を離れ、目立たぬよう、向こう側の通りに走っていってしまう。

 それで、お店とお店の間の横道にれると、一人がクリストフの後を追うように、静かにその横道に入っていた。

「ご令嬢、このようにあなたの休日を中断させてしまうことになりまして、申し訳ありません」
「いいえ、副団長様のせいではありませんもの。緊急事態のようですからね」

「ええ、そうですね……」
「ここから近道など、ありませんの?」

「いえ。このまま通りを戻るしかないもので……」
「そうでしたか」

 セシル達のいる場所は、貴族街の区域で、たぶん、大通りや繁華街となるような区画のはずだ。

 全員が大急ぎで駆け出してしまったら、かなり目立った行動になってしまうだろう。

「止むを得ませんね……。目的の場所まで案内していただけますか?」
「わかりました」

 ギルバートもクリストフも、前回と同じように、セシルの正式な護衛として付き添っているので、二人共、騎士団の制服を着用していた。

 後ろから(こっそりと)付き添ってきている残りの騎士達は、ギルバートに指示されて私服を着ているようである。

 だから、緊急事態とは言え、ギルバートとクリストフと一緒に行動すると、あまりに目立ち過ぎてしまう。

「せめて……、お二人の制服の上着だけでも、今は脱いでいただけたら……?」
「わかりました」

「申し訳ありません……」
「いえ、ご令嬢のせいではありません。騎士団の制服は目立ってしまいますから」

 ギルバートだって、セシルの懸念している問題を理解している。

 王都にいる人間なら、誰でも、王国騎士団の制服は知っている。見慣れている。

 騎士団の騎士達は、王都の巡回の仕事も任されているからだ。

 もし、犯罪人を追う場合、さすがに、騎士団の騎士がうろついていたら、すぐに目についてしまうことだろう。周囲の人間からも、目に留まってしまうことだろう。

 何事だろうか、と。

 ギルバートとクリストフが、手早く制服の上着を脱ぎ捨てていた。

「ご令嬢、非礼をお許しください」

 それを言うや否や、ギルバートがセシルの腕を掴んでいた。

 どうやら、今回も、ギルバートはセシルを心配して、腕を取ったまま、一緒に移動するらしい。

 それで、クリストフがすぐに反対側に寄って来た。

「では、行きましょう」


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