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Part2

В.в つかの間の休日 - 09

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* * *


 今日の休暇は、全員が満喫して、大満足だった。
 そして、ホクホク顔で、王宮で借りている宿舎の方に戻って来た。

 オルガとアーシュリン達は、王都で売っている可愛らしい小物店を見つけ、この日の為に貯めて来た貯金で、少し贅沢な買い物を満喫したらしい。

 子供達は、もちろんのこと、初めから目的だった武器を見つけたらしく、こちらも、ホクホク顔。

 今日のところは、セシルは、子供達の買い物がどんな武器だったのかは知らない。

 帰ったら見せてあげますよ、と言われたので、コトレアに戻ったらお披露目してくれるのだろう。

 セシルも、お針子達から頼まれた、お土産用のいい布地を見つけることができた。

 おまけに、ギルバートのおかげで、帰る日まで待たずに買い物しても、今日、そのまま王宮騎士団の方に運んでくれることになって、荷物を運ぶ必要がなくなったセシルには大助かり。

 本当なら、あのまま王都に残って、夕食でも済ませて良かったのだが、さすがに、ギルバートや、ギルバートの部下の騎士達が護衛についてくれているので、半日以上も、賑わった街中をうろつかせるのも可哀そうである。

 それで、待ち合わせの時間で全員が集合したら、その足で、王宮の騎士団の宿舎の方に戻って来ていた。

 今日は、半日以上も休暇に付き合ってくれたギルバートに、全員から感謝のお礼が言われ、礼儀正しい騎士サマは、


「楽しまれようで良かったです」


 そんな爽やかな笑顔を残し、セシル達の場所を後にした。




「随分、親しくなられましたね」

 休暇、兼、護衛の仕事を終えたギルバートは、仕方なく、残りの仕事を片す為に、自分の執務室に戻ってきている。

 夕方からは、今日の報告会もあるから、まだ仕事は終わっていない。

「そうか?」
「そのように見えましたが」

 それで、少し考えてみたギルバートも、素直に頷く。

「確かにそうだ」
「それは、ようございました」

 セシルが滞在中は、四六時中一緒にいられるので、話す機会も以前に比べて、断然、増えたものだ。

 今日だって、お付きの者もいて、部下もいて――だったが、一応、少しは、セシルと二人きりで街を回れる時間があった。

 社交辞令――ではなく、普通のお喋りもした。

「常々、思っていたんだが、私の個人的な私情を抜かしても、あの方と一緒にいると、変に気張らなくていいから、話しやすい」

 通常の貴族の令嬢達を相手にするとは違い、セシルとの会話は楽しいし、気楽でもあった。

 セシルは基本的にあっさりとしているので、余計な気を遣うことを要求されなくて、ギルバートも気楽に接することができるのだ。

 おまけに、王族とはこれ以上関わり合いたくないわぁ……という態度が明らかなので、ギルバートの地位目当てで、おべっかや当てこすりを使ってくることもない。

 嘘をついて近づいてくるのでもないだけに、余計に、セシルとの時間は、貴重なものだった。

「あれだけ、王族にも権力にも興味がないご令嬢は、なかなかいませんからねえ」
「そうなんだ」

「良かったじゃないですか? 王族の名や、殿下の立場でこびへつらってくる令嬢と、それと一緒にごそっと連なってくる貴族、その一族全員を相手にする必要もありませんから」
「確かに」

 見れば見るほど、セシルの立場も地位も、今のギルバートにとっては、好条件なのではないか。

「あの方を手に入れたいと思っているのは私の我儘わがままだが、それでも、政治的な思惑を考慮しても、随分、私は幸運なんじゃないだろうか」
「ええ、私もそう思いますよ」

 全く異論もみせず、反論もみせないクリストフに、ギルバートは隣の部下に顔を向けた。

「お前も、最初から反対していないし」
「反対する理由がありません。あるのですか?」
「いや、私はないと思うぞ」

「ええ、ええ。私も全くございませんよ。認めるのはかなりしゃくなのですが、今の所、完全完敗、ですので」
「そうか。それは良かった」

 素直に喜ばれて、クリストフが口端を曲げみせる。

「レイフ殿下は、どうなのです?」
晩餐会ばんさんかいをしろと、毎回、(しつこく)せがまれている」

「ドレスを持ってきていないと、おっしゃっていたじゃないですか」
「そう説明したが、それなら、私が買えばいいだろう、と言い返されてしまった」

「ご令嬢が、何の理由もなしに、ギルバート様がお買いになったドレスなど、着るとは思えませんが」
「ないな、絶対に」

 それで落ち込むことではないが、あのセシルが、理由もなく、王子殿下であるギルバートからの贈り物を、受け取るとは思えない。

 夜会の時は、以前にとてもお世話になったからと、その理由で贈ったネックレスは、(やっと)受け取ってもらえた。

 突き返すのも失礼で、断れる状況ではなかったからだろうが、それでも、ギルバートの贈り物は、受け取ってもらえたのだ。

 だが、今回は合同訓練という目的で王国にやって来て、初めから、王宮ではなく王都で住める場所でも探します、などと絶対に王宮には来たくないぞ、という意向がありありだった。

 さすがにそれもできなくて、騎士団の宿舎の一部を、セシル達に貸し出すことで話はついたのだ。

 王宮から呼ばれても着るドレスがない、と初めから用意万端で、いつでも断れる準備をしてきたセシルだ。

 そんなセシルに、ギルバートがドレスを贈っても、きっと、丁寧に謝罪されて、なにかの理由をつけて、ドレスは返されるのが目に見えている。

「あれだけ王族を避けているご令嬢など、本当にいませんよねえ」
「そうなんだ」

「王妃よりも、お茶会を誘われているのでしょう?」
「それも、ドレスがないと断った」

「それで、納得していただけたのですか?」
「一応は」

 アデラは残念そうな顔をしていたが、貴婦人の嗜みとして、王妃の立場として、それ以上、無理は言いつけてこなかったのだ。

 ドレスもないセシルをお茶会に誘い、恥をかかせるわけにもいかない。

 そして、セシルは騎士団の訓練中も、宿舎にいる時も、常にズボン姿である。

 第三騎士団の騎士隊は、そのセシルの格好に慣れたので、最初の頃のような驚きは、もう、薄れた感じである。

 今回はどんな理由をつけられようとも、セシルは最初から準備万端で、どんな貴族の――いやいや、王族の誘いだろうと、断る気満々なのである。

 そう言った態度をあからさまに出していなくとも、セシルの周りには、四六時中、護衛がついているか、あの子供達が一緒にいるかで、誰かが近寄っていく隙もない。

 隙も作らない。

 前回の事件を警戒して、セシルの周りでもしっかりと護衛しているのかもしれなかったが、その理由だけでも――セシルは、王宮には、絶対に、近寄ってこない態度が明らかだった。

 そこまで王族を避ける貴族の令嬢など、セシル以外、絶対にいないだろう。
 本当に、セシルはあまりにも珍しい令嬢である。

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