奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

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Part2

В.б ゲリラ戦 - 02

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「ゲリラ戦は、状況に合わせ、多種多様の戦法や戦術を使用し、敵を揺さぶり降ろす戦法です。ですから、皆さんの安全を考慮して、武器は木で作られた模擬とうの使用。接戦になった場合でも、身体にダメージが残るような、または、死に至るような攻撃は禁止します。これは、顔への直接攻撃も含まれますので、気を付けてください」

 これから、五人一組のチームに分かれ、それぞれのチーム戦となり勝敗を決める。

 今日の為に、王国騎士団からは、この山場で、騎士団用に使用できる区画を作り、縄を繋いで柵代わりにしたので、その区画内でゲリラ戦をすること。

 それぞれのチームには旗が渡され、敵チームに旗を取られた場合は、その場でチームの負けとなる。

 または、なにかかしらの理由で、チームの全員が戦闘継続不可能になった場合も、その場で、負けが決まる。

 戦闘継続不可能、もしくは、チームの敗北が決まった時点で、その場に待機し、終了まで動かないように。

 ここで、セシルは、もし、一組のチームを残して全チームの敗北が決まった場合、全員が集合場所に戻ってくるように、とは付け足さなかった(しょぱなから脅す訳にはいきませんからね……)。

「時間制限は、朝九時から、午後四時までの七時間です。長い時間ですので、チームに必要な物資は、今から、開始前までに揃えておいてください」

 それで、セシルが指した方向には、木の長いテーブルの上に、水袋や、携帯食などがたくさん並べられていた。

「ここまで、何か質問はありますか?」

 王国騎士団の騎士達は、一糸乱れず起立したまま、何も言わない。

 そこで、セシルの騎士見習いの一人、ジャンが手を上げていた。

「何ですか?」
「攻撃方法は木剣だけですか?」

「いいえ。攻撃方法は決まっていませんので、それぞれのチームで自由に考えてください」

 スッと、また、ジャンが上げる。

「どうぞ」
「武器の使用は可能ですか?」

「ええ、可能です。先程述べた禁止事項を守るのであれば、それぞれのチームで自由に考えてください」

 セシルの話を聞いている騎士見習いの子供達の目が、なぜかは知らないが、爛々らんらんと輝き出しているのは、気のせいではないだろう。

 黙って、セシルの話を聞いているギルバートも、少々、不安に思うべきなのか、不穏な気配を感じてしまって仕方がない。

 また、ジャンが手を上げた。

「移動は、チームで移動しないといけないのですか?」
「いいえ。柵で仕切られた区画内であれば、自由に行動することができます。他に質問はありませんか?」
「ありません」

 その三つの質問で、騎士見習いの子供達は、十分に満足したらしい。

 嵐の前兆ではないだろうか……。

 密かに、ギルバートとクリストフが身構えそうになってしまっている。

「チームに分かれましたら、こちらに控えている騎士達が、それぞれスタート地点に案内してくれるそうです。ここから警笛を二度鳴らしますので、それがゲリラ戦の開始合図になります。同じように、午後四時に、もう一度、警笛を二度鳴らしますので、その場合は、すぐにこの集合場所に戻ってきてください」

 それから、チームの負けが決まった時点で、チームに配られる警笛を一度鳴らすこと。
 それで、監視側のギルバート達に合図を送ることができるからだ。

「では、準備に取り掛かってください。それを終えましたら、旗を持っている騎士達の前に並び、それぞれのスタート地点に向かってもらいます」

 その合図で、騎士見習い子供達が、物資が並んでいるテーブルに駆けていた。
 軽く物資を確認して、全員が、簡単に水袋とランチの包みを持ち去って行く。

 それを見ていた王国騎士団の騎士隊も、一応、ゾロゾロと、テーブルに近寄って来た。

「おい、今日はどうする?」
「長々と時間かけるの面倒だから、さっさと叩き潰しちゃおう」
「あっ、それ賛成~」

 騎士見習いの子供達は、もうすでに、旗を持っている騎士の前に集まって来ていて、ボソボソと小声で作戦会議である。

 今日は、普段、移動用に使用しているマントを着用していないので、全員が四角く大きなバックパック(リュックサックのこと) を背負っているのが目に入る。

「最初の30分から1時間で、地形を把握したい」
「オッケー」

「じゃあ、俺らは、今日は40人ほどいるみたいだから、それに足りるだけの武器を作ってるな」
「徹底して、叩き潰そうか」
「「オッケー」」

 そして、これからゲリラ戦を始めるのに、子供達は緊張感に欠け、遠足にでも出かけるような気軽さだ。

 その子供達を見下ろしている案内役の騎士の一人も、かなり顔を引きつらせているのは、言うまでもない。

 全員の準備が整ったようなので、案内役の騎士達に連れられて、チーム毎に騎士達が山の中に入って、その姿が消えて行く。

 その後ろ姿を見送っていたセシルなど、


(制限なしなど、あまりに危険だったかしら……?)


などと、少々、先行きの不安を隠せない。

 きっと、これは、全滅じゃないかしらね……。

「何かおっしゃいましたか?」
「いえ、なにも」

 不思議そうに振り返ったギルバートににこやかな笑みを返し、セシルの独り言など、今この場で口に出せるはずもなし。

 王国騎士団の名誉がかかって――名誉が総崩れ、などと言えるはずもない。

 あの子供達が、調子に乗り過ぎないことを祈るしかない。


* * *


 ゲリラ戦開始の合図である警笛けいてきが二度鳴り、その音を聞くや否や、ジャンとトムソーヤは即座に、チームのスタート地点の場所から消え去っていた。

 必要最低限の荷物や物資だけ揃え、二人は、颯爽と山の中を走り去って行く。

 その間、ケルトとハンスは、所持している小型ナイフで、つるや木の枝などを切り込んで行き、即席の武器を作っている。

 二人にとったら、つるや木の枝から武器を作るのは朝飯前の仕事だ。
 弓やボーガン、捕縛用につるで結んだあみ、罠用に仕掛け、色々である。

 そして、ゲリラ戦最中であるのに、二人からは鼻歌が上がっているほどだ。

 はた持ちのフィロは、最初の時点ではあまりすることがない。それで、全員の報告待ちなのだ。

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