上 下
236 / 530
Part2

В.а 合同訓練 - 03

しおりを挟む
 それで、オルガがやって来るので、アーシュリンも一緒について来ている。

 移動を簡単にしたいので、今回は、馬車は避け、自分達の荷物を乗せられるだけの荷馬車を引いて、残りは全員騎馬である。

 荷馬車と言っても、きちんと、旅行や移動用の木箱が乗せられることができる荷台で(この世界、スーツケースがないから)、きちんと装飾されて、ヘルバート伯爵家の紋章も入っている。

 やはり、王城に登上するのに、小汚い荷馬車を持ち込んでくることもできやしない。

 ギルバートとクリストフが一緒だったので、セシルを任せ、荷物を宿舎内に運ぶ時は、男手でイシュトールもユーリカも、子供達の手伝いをした。

 オルガとアーシュリンは、まず、セシルの部屋を確認し、整えることに専念している。

 ギルバートは、セシル達の為に、寝具もきちんと用意してくれたので、特別、セシルの部屋を整える必要もない。

 それでも、侍女二人の仕事を(一応) 邪魔しないセシルだった。

 それから、ギルバートは全員を連れて、更に敷地内の案内をしてくれ、水場や訓練場所、食堂など、まず簡単な説明を終えていた。

 ギルバートやクリストフが付き添えない時は、事情を知っている騎士が付き添うことになっているらしいので、食堂などの出入りでも、セシル達は好き勝手に移動して良い、と言われた。

「副団長様、この度は、こちら側の我儘わがままを押し付けてしまったような形になってしまいまして、申し訳ございません」

 少し早めの時間だったが、一行は、昼食を取りに、宿舎の近くの食堂にやって来た。
 大きな食堂である。

 木の長いテーブルが続けておかれ、それが何列もある。木のベンチも長く、共同テーブルが並んでいた。

 一見して見たら、寄宿舎などのダイニングホールを思わせる造りだった。

 こんなに大きな食堂なのに、この食堂は第三騎士団の宿舎側の食堂なので、余程のことがない限り他の隊とは混ざらず、ほとんどが第三騎士団の騎士で埋め尽くされているという。

 他の騎士団も同じで、宿舎側に彼ら用の食堂がある。

 さすが、大王国。
 食堂一つでも、スケールが違うなんて。

 実は、全員、一同揃って、「すごいぃ……!」 と感心していたのは、言うまでもない。

 セシルだって、こんな風に、他国の、他人の場所で、誰かに給仕された食事を取るのは初めてである。

 トレーに乗せられた食事を運び、テーブルに着いて、セシルも子供達も、密かに初体験をエンジョイしている。

「そのことは、どうか、お気になさらないでください。王都内と王城での行き来も大変になりますし、他国からのゲストであっても、王城の出入りも大変になりますから」

 毎回、毎回、セシル達はきちんと検問所でチェックされる羽目になるだろう。なにしろ、王城への出入りだから。

「私達のせいで……もしかして、他の騎士達の方に迷惑がかかってしまったなど……?」
「そのことも、気になさらないでください。問題ではありませんから」

 にこやかで、爽やかなギルバートの笑みは崩れない。

 その笑みの後ろで、実際に、ギルバートの言葉を信用してよいのかどうか、セシルも考えものだ。

 セシル達のせいで、自分達の部屋から追い出された騎士達がいた場合、相手の方だって、いい気分はしないだろう。

 これから、一月、セシル達と顔を合わせることになるので、セシル達を見る度に、腹立たしく感じてしまうかもしれない。

 ただ、実際のところ、セシルの懸念は、そんなに問題ではなかったのだ。

 宿舎だって、空き部屋はある。全部屋が埋まっているのではない。

 だから、一月だけ、セシル達が滞在する部屋にいる騎士達を、何人か移動させただけなのだ。

 上官からの命令だったので、移動を課された騎士達も、


「まあ仕方ないか」


程度で、簡単に部屋を移動している。

 子供達は、今回の合同訓練をとても楽しみにしている。こんな風に、長期滞在での訓練など、初めてだ。

 これは、現代で行ったら、修学旅行、兼、研修旅行、のようなものかしら?

 だから、子供達だって、顔に出さないようにしているが、かなり浮かれているのは、セシルだってすぐに気がついていた。

 セシルも期待しているだけに、ウキウキと楽しみである。

「昼食を終えましたら、これからの訓練の予定を確認したいので、少し、お時間をいただけないでしょうか?」

「わかりました。私としても、第三騎士団の団長様にも、ご挨拶をさせていただきたいのですが?」
「わかりました。団長に、そのように伝えておきます」

 第三騎士団の団長とは、去年、顔を合わせたが、言葉を交わしたこともない。

 なにしろ、事情が事情なだけに、団長の方だって、セシルに望んで会いたいかどうかは、かなり疑問である。

 ただの社交辞令の挨拶となる可能性が大だが、それでも、アトレシア大王国にセシル達を招待してくれただけに、団長への挨拶も、ちゃんと済ませておきたいセシルだった。




 騎士団の訓練所には、数列に並んだ王国騎士団の騎士達が、一糸乱れずに起立していた。

 午後の訓練には、二つの小隊の騎士達が集められているらしく、四十人近くの騎士達が勢揃いしていた。

「こちらは、隣国ノーウッド王国からいらしたヘルバート伯爵令嬢だ。そして、これから一月ひとつき、合同訓練で一緒になる、領地の騎士見習いだ」

 セシルの横に、一列に並んだ子供達。

 ズボン姿のセシルに面食らってショックを受けている騎士達なのに、更に、合同訓練が子供と一緒だったなどという事実を発見して、あまりに複雑そうな表情を浮かべている一同。

 その程度の反応は予想していたので、セシルも子供達も驚いていない。

「皆様、これから一月ひとつき、よろしくお願いしますね?」

 きまずい雰囲気が降りている中、セシルがその場に揃っている騎士達に挨拶を済ます。

 これからどう転ぼうが、合同訓練開始である。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜

和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`) https://twitter.com/tobari_kaoru ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに…… なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。 なぜ、私だけにこんなに執着するのか。 私は間も無く死んでしまう。 どうか、私のことは忘れて……。 だから私は、あえて言うの。 バイバイって。 死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。 <登場人物> 矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望 悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司 山田:清に仕えるスーパー執事

乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました

雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった... その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!? たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく ここが... 乙女ゲームの世界だと これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

一家の恥と言われた令嬢ですが、嫁ぎ先で本領を発揮させていただきます

風見ゆうみ
恋愛
ベイディ公爵家の次女である私、リルーリアは貴族の血を引いているのであれば使えて当たり前だと言われる魔法が使えず、両親だけでなく、姉や兄からも嫌われておりました。 婚約者であるバフュー・エッフエム公爵令息も私を馬鹿にしている一人でした。 お姉様の婚約披露パーティーで、お姉様は現在の婚約者との婚約破棄を発表しただけでなく、バフュー様と婚約すると言い出し、なんと二人の間に出来た子供がいると言うのです。 責任を取るからとバフュー様から婚約破棄された私は「初夜を迎えることができない」という条件で有名な、訳アリの第三王子殿下、ルーラス・アメル様の元に嫁ぐことになります。 実は数万人に一人、存在するかしないかと言われている魔法を使える私ですが、ルーラス様の訳ありには、その魔法がとても効果的で!? そして、その魔法が使える私を手放したことがわかった家族やバフュー様は、私とコンタクトを取りたがるようになり、ルーラス様に想いを寄せている義姉は……。 ※レジーナブックス様より書籍発売予定です! ※本編完結しました。番外編や補足話を連載していきます。のんびり更新です。 ※作者独自の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

皇帝(実の弟)から悪女になれと言われ、混乱しています!

魚谷
恋愛
片田舎の猟師だった王旬果《おうしゅんか》は 実は先帝の娘なのだと言われ、今上皇帝・は弟だと知らされる。 そしていざ都へ向かい、皇帝であり、腹違いの弟・瑛景《えいけい》と出会う。 そこで今の王朝が貴族の専横に苦しんでいることを知らされ、形の上では弟の妃になり、そして悪女となって現体制を破壊し、再生して欲しいと言われる。 そしてこの国を再生するにはまず、他の皇后候補をどうにかしないといけない訳で… そんな時に武泰風(ぶたいふう)と名乗る青年に出会う。 彼は狼の魁夷(かいい)で、どうやら旬果とも面識があるようで…?

処理中です...