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Part2

Б.г 王国騎士団 - 04

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「あら、失礼いたしました。以前にも忠告されたのですが、忘れていましたわ」

 なにしろ、セシルの元に集まったあの子供達は、本当にゲリラ戦に長けている。
 この頃では、それが(この世界でも、セシルの周囲でも) 当たり前になってしまっていたからだ。

「ゲリラ戦ですか? それは何でしょう?」

 ギルバートの瞳が輝いて、かなりの興味を引いたようである。

「ゲリラ戦と言うのは、少数、または、小隊で、敵の隙などを伺い、潜んだり、奇襲を繰り返したりと、敵を揺さぶり、かき乱していく戦法の一つです。遊撃戦――遊撃をもって応じる戦法、などは?」

「知りません。ご迷惑でなければ、もっと詳しく、そのゲリラ戦、ユウゲキ戦のことを教えていただけませんか?」

「それは、構いませんけれど……。私は、専門家ではありませんのよ」
「構いません。私には知らない戦法ですので、大まかな説明だけでも、興味があります」

「遊撃戦というのは、あらかじめ、手段や目的を特定せず、機に応じて対応を編み出す戦法。遊撃をもって応じる戦術(by weblio辞書)のことなのです」

 臨機応変に対応し、行動し、状況次第で攻撃方法、戦闘方法、戦法を変えていく戦術だ。

 ゲリラ戦は、特に、この遊撃戦の特徴を強く生かし、敵を揺さぶり下ろし、敵側の戦隊や戦列などをかき乱して行く。

「予想もしていない場所から、突如現れ、攻撃を仕掛ける、隙を狙った奇襲や夜襲、色々ありますけれど、そういった戦術方法なのです」

 へえぇぇと、ギルバートの素直な関心が上がる。

 ギルバートとセシルの近くで、気配を殺して、全く口も挟んでこない護衛役のクリストフだって、二人の会話を耳にしながら、ギルバートと同様な、素直な興味が上がっている。

「ゲリラ戦や遊撃戦という戦法や戦術を知らなくても、この手の戦い方は――そうですわね、こう言ってはなんですけれど、スラム街では、日常茶飯事だったと思うのです」
「なる、ほど」

 確かに、盗みを働くにも、数人集まって攻撃を仕掛けた方が、目的物を確立できる可能性があがってくる。

 誰かが追われてしまったら、隠れている次の子供が邪魔に入ったりと、隙を突いた奇襲も役に立っていただろう。

 たとえ、そんな戦法があるとは知らなくとも。

「ですから、あの子たちも、少し、戦法や戦術のヒントを上げたら、すぐに理解していましたわ」
「それはすごい。あの子供達に、一度、ゲリラ戦を教えていただきたいですね」

「――――王国騎士団の騎士のお方にですか?」
「ええ、そうです」

 ギルバートの顔は、素直に、なぜそんなことを聞くのだろうか? と、言う顔をしている。

「田舎の領地の騎士に教わって、プライドが傷つきませんの?」

「田舎、って……。あなたの領地は人口が少ないだけで、何度も申しますが、到底、などとは呼べませんよ。それに、その程度で傷つくようなプライドなら、徹底的に、叩き直すしかないでしょう。根性が足りません」

 ああぁ……、出たよ、ギルバートの“鬼の副団長”の顔が……。

 訓練のことになると、手は抜かないし、抜く気もないし、徹底的に、腐った根性は叩き直すし、ノルマをこなせない騎士は、ギルバートの下で騎士になどなれない水準が出来上がっているほどだ。

 きっとまた、ギルバートに、徹底的に訓練を課されてしまう部下達を思い、クリストフも、少々、同情してしまう。

 そう言えば、セシルの領地にいた時でも、このギルバートはにこやかなまま、ものすごい量の訓練を騎士達にさせていたのを、セシルも思い出していた。

 それで、ゼーゼーと倒れ込みそうな騎士達を前に、ギルバートと言えば、一切、息も乱さず、全く疲れもみせず――ある意味、“スパルタ”という表現が、考えもせずに頭に上がってくるような騎士だった。

「あなたの精鋭部隊を、こちらに呼ぶことはできないでしょうか?」
「それは――王国騎士団との訓練、という意味ですか?」

「ええ、そうです。例えば――合同訓練、のようなものでしょうか」
「よろしいのですか? 私達は他国の者ですわよ」

「他国の騎士――見習い、ですか?」
「ええ、今は」

「騎士であるか、見習いであるかはさて置きまして、それでも、そうですねえ――他国の騎士と合同訓練をするというのは、滅多にないかもしれませんね」

 たぶん、前代未聞の試みだろう。

「お互いの戦術や戦法を相手にさらけ出してしまい、手の内を明かしてしまう――と、考える者はいるかもしれません。ですが、ノーウッド王国とは、敵対国ではありません。たぶん、これからも――特に、次の数年から十年を考慮しても、隣国であるノーウッド王国と敵対する状況も、思い浮かびませんからね」
「ええ、まあ、そうですわね」

 別に、両国は敵同士ではない。

 商業の行き来もあるし、王家の催しなら、隣国からの挨拶程度には、互いの顔を知ってもいるだろう。

「互いに競い合うことは、知識を深め、互いの能力を上げていく効果的な方法だと、私は考えています」
「私もそれには賛成です」

「それなら、王国騎士団はゲリラ戦を教わり、ご令嬢の領地の騎士や騎士見習いは、王国騎士団で訓練を受けてみる、というのはどうでしょう? ただ、その場合、訓練は――子供用に変更は、できないかもしれませんが」

「その心配は、必要ありませんわ。子供ですから、体力的に劣っていたとしても、それは仕方のないことです。ですから――こう、無理矢理、無理を押し付ける――というようなことは……」

「それはないです。そんなことをしていては、体を壊してしまうだけではなく、後々に影響してくるかもしれない、怪我や後遺症ができてしまうかもしれませんからね。私は、訓練は厳しいですが、騎士達を奴隷扱いしているのではありません」

「そう、ですか」
「ですから、考えていただけませんか?」

 セシルはこれ以上アトレシア大王国とも、王族とも関わり合いにはなりたくないのだ。

 ここでサヨナラをしたら、もう二度と会わないであろう状況で、十分に満足なのである。

 それと同時に、セシルの元で護衛しているあの子達の、せっかくのチャンスを考えてしまうと、王国騎士団で正規の騎士訓練を受けれるなど、一生に一度のチャンスかもしれないのだ。

 どうしようか……迷って、セシルもそこで決めていた。

「三月を終えてからではないと、無理がありまして」
「ああ、そうでしたね。種植えの時期は、お忙しいのでしょう?」
「ええ、そうです」

「私の方も、受け入れる準備がございますから、さすがに、来月では無理かもしれません。四月――五月頃なら、丁度よい季節かもしれません。四月は、雨が降ることが多いので、外での訓練がよく邪魔されるんです」

「そうでしたか。五月――それくらいなら、私の方でも、時間は調整できると思いますわ」
「そうですか。では、その頃を予定として、合同訓練を組み立ててもよろしいですか?」

「では、よろしくお願いいたします」

「いえ、こちらこそ、よろしくお願いいたします。詳しい計画は、まず、第三騎士団の団長とも話し合ってみないことには決められませんので、後程、お知らせする手順でよろしいでしょうか?」

「はい、問題ありません」

 それで、どうやら、今回は、二国の騎士団で、合同訓練の約束が出来上がったようだった。


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