上 下
216 / 530
Part2

Б.в お茶会もこりごりです…… - 02

しおりを挟む
 椅子を引き、セシルは静かに腰を下ろす。
 その様子までも、(なぜか) 王妃アデラは興味深そうにセシルを眺めている。

 やっと、殿方に邪魔されず、王妃アデラとセシルは二人きりで会う。
 うふふふふ。

 一番最初の出会いは衝撃で、あの時に、セシルはあまりに奇天烈なドレスを着ていた為、アデラも――コメントなし……。

 自らいさかいなど持ち込まないよう、つつましやかな王妃の立場を保っているので、あまりに見慣れぬ、奇妙で奇天烈なドレスをご令嬢が着ていようが、その点について、一切、コメントをしないのだ。

 そして、二度目の出会いも、衝撃だった。今回は、前回とはまるっきり違う意味合いで。

 セシルは、王宮でも、王都でも、見慣れないデザインのドレスを着ていた。
 でも、見慣れないからと言って、野暮ったいとか、奇天烈でとか、みすぼれたなんて印象が、一切、上がらないほどの――目を引くデザインのドレスを着ていた。

 そして、記憶にあるセシルは焦げ茶の髪の毛をしていて、アルデーラに挨拶をしている間も、長い前髪が垂れて、あまり、壇上からでも、セシルの顔や表情が見て取れなかったのを覚えている。

 なのに、ギルバートにエスコートされて、大広間の会場をゆっくりと進んでくるセシルは、銀髪だったのだ。

 サラサラと癖のない真っ直ぐな銀髪が肩を流れ、セシルがゆっくりと進んでくる度に、優しくドレスの裾で揺れていた。

 最初の時の印象とは全く違い、最初の時の外見や容姿だって全く違い、かもし出す雰囲気だって、最初の時に見た記憶から全くかけ離れてしまっていたセシルを前に、アルデーラ同様――いや、それ以上に驚いていたのは、アデラの方だ。

 そして、長い前髪に隠れて見えなかったセシルの容貌は、息をのむほど儚げな美しい女性だったのだ。
 それなのに、その容姿に相反する、深い藍の瞳。意志の強さを映した、強い眼差し。

 きれいな令嬢や、たおやかな女性は、何度も見てきている。

 容姿だけでなく、着ているドレスや、身に着けているアクセサリー、仕草からでも、“美しさ”はかもし出さるものだろうと、アデラは考えている方だ。

 だが、セシルが挨拶にやって来て、その姿を間近で見つめていたアデラには、素直な驚きで、言葉を失ってしまっていた。

 容姿も、容貌も、かもし出す雰囲気さえも、その全てが全て、目を奪われる程の“美しい”が存在していて、力強い強さを秘めた藍の瞳に惹き付けられて、セシルの動き一つ一つに目が行ってしまって、その存在感が圧倒的だったのだ。

 なのに、ふとした仕草や表情などが、ほんのりとした色気をかもし出し、目が離せないでいる先で、セシルの女性らしい体の稜線が艶めかしくて、目が奪われたままになってしまう。

 ほぅ……と、知らず息を吐き出してしまっていたのは、セシルが挨拶を終えて、その場を立ち去って行ってからだ。

 三度目の出会いはすぐにもやって来て、間近でセシルと接することができたが、他にも全員揃っていて、子供達もはしゃいでいて、大した情報が得られる集まりではなかった。

 それで、王宮に滞在している間、ずっとセシルを独り占めしているギルバートに、無理矢理、頼み込んで、今日のお茶会にセシルを招待することができたのだ。

 ギルバートはにこやかに頼みごとをしてくるアデラに、少々、困った顔をしていたが、


「将来の為にも、必要ですわよ」


などと、王妃であり、義姉であるアデラからたしなめられる形で、仕方なく承諾したのだった。

 四度目の出会いは、やっと、アデラとセシルの二人きりである。

 そして、今日もまた、セシルは見慣れないデザインのドレスを着ていた。なのに、セシルが着ると、あまり違和感が感じられないのが、不思議である。

 今日も、コルセットをしていない。
 今の流行はやりで言えば、手で掴めるほどのものすごい細い腰を、(更に) 強調させた女性のドレスが“美の基本”と認識されている。

 そんな中、夜会のドレスも、朝食会でのドレスも、そして、お茶会でのデイドレスも、セシルはコルセットなどしていなかったように見えた。

 流れるような形がきれいで、歩く度に、ドレスの裾がゆらゆらと揺れて流れていたり、肩から流れていた長い布がひらひらと踊っていたりと、ウェストに注目などいかないほど、珍しく、それなのに――目が離せない形のドレスを着ていた。

 ドレスのトップはⅤネックに見えるカシュクールで、片方の巻き部分が柔らかなクリーム色で、合わせの反対部分が、セシルと同じ深い藍の色をした二色混合だ。

 アデラだって、こんな風に組み合わせ、色を混ぜたドレスなど見たことがない。

 そして、緩やかに裾が伸びたAラインのドレープがかかったスカート部分が流れ、サイドに割れている部分から、中にはいているもう一枚の(?)スカートが深い藍色だった。

 クリーム系の布地には、薄っすらとした白地の刺繍がほどこされ、藍色の布地の裾には、金色の繊細な刺繍がほどこされている。

 その金色を強調するように、腰に金色の豪奢なベルトが巻かれていた。

 全く見たこともないようなドレスなのに、そのドレスをあまりに至極自然に着こなしているセシルの面持ちに、様相に、そして、立ち姿に、野暮ったさを全く感じさせない。

 むしろ、洗練された静かなたたずまいと美しさが、ほんのりと見え隠れしているような雰囲気をかもし出していたのだ。
 そして、そのドレスを更に強調させるような、儚げでうるわしく美しい容貌。

 ギルバートが、セシルに(メロメロに) 夢中になっている気持ちがよく分かる。

 付き人や侍女がいないだけに、王妃であるアデラ自らが紅茶のポットを取り上げ、優雅に、紅茶をカップに注いでいく。

 その一つが、セシルの前の方に押し出された。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

 そして、こじんまりとしたテーブルの上には、王宮のシェフが、腕によりをかけて作ってくれたであろうデザートの数々が並んでいる。

 とてもではないが、二人で食べきれるほどの量ではない……。

 大抵、貴族の令嬢などは、お茶会でも、ほとんどデザートに手をつけにないことが多い(見栄もあるし、コルセットがきつ過ぎるのもあるし、ダイエットの為でもあるし)。

 それで、余ったデザートなどは、使用人の(ラッキーな) お菓子と変わる。

 丹精込めて作られた料理やデザートが無駄にされないのなら、セシルも問題はない。

 これだけたくさん並べられた、素晴らしいデザートの数々。
 王妃とセシルが、一切、手をつけなくても、きっと、王宮の使用人で、ちゃんと食べてもらえるだろう。

「今日は、突然のお茶会にお呼びしてしまって、ごめんなさいね」
「いえ。このようなご厚情を賜り、とても光栄に存じます」

 王妃が紅茶に口をつけたので、セシルも一口だけ紅茶をすする。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました

雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった... その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!? たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく ここが... 乙女ゲームの世界だと これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話

乙女ゲームの世界に転生した!攻略対象興味ないので自分のレベル上げしていたら何故か隠しキャラクターに溺愛されていた

ノアにゃん
恋愛
私、アリスティーネ・スティアート、 侯爵家であるスティアート家の第5子であり第2女です そして転生者、笹壁 愛里寿(ささかべ ありす)です、 はっきり言ってこの乙女ゲーム楽しかった! 乙女ゲームの名は【熱愛!育ててプリンセス!】 約して【熱プリ】 この乙女ゲームは好感度を上げるだけではなく、 最初に自分好みに設定したり、特化魔法を選べたり、 RPGみたいにヒロインのレベルを上げたりできる、 個人的に最高の乙女ゲームだった! ちなみにセーブしても一度死んだらやり直しという悲しい設定も有った、 私は熱プリ世界のモブに転生したのでレベルを上げを堪能しますか! ステータスオープン! あれ?  アイテムボックスオープン! あれれ? メイクボックスオープン! あれれれれ? 私、前世の熱プリのやり込んだステータスや容姿、アイテム、ある‼ テイム以外すべて引き継いでる、 それにレベルMAX超えてもモンスター狩ってた分のステータス上乗せ、 何故か神々に寵愛されし子、王に寵愛されし子、 あ、この世界MAX99じゃないんだ、、、 あ、チートですわ、、、 ※2019/ 7/23 21:00 小説投稿ランキングHOT 8位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 6:00 小説投稿ランキングHOT 4位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 12:00 小説投稿ランキングHOT 3位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 21:00 小説投稿ランキングHOT 2位ありがとうございます‼ お気に入り登録1,000突破ありがとうございます‼ 初めてHOT 10位以内入れた!嬉しい‼

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり
恋愛
平凡な女子高生、加賀深涼はハロウィンの夜に不思議な男の声を聴く。 疎遠だった幼馴染の真堂刃や、仮装しに集まっていた人たちとともに流星群の落下地点から異世界『エーデルラーム』に召喚された。 他の召喚者が召喚魔法師の才能を発現させる中、涼だけは魔力なしとして殺されかける。 そんな時、助けてくれたのは世界最強最悪の賞金首だった。 一般人生活を送ることになった涼だが、召喚時につけられた首輪と召喚主の青年を巡る争いに巻き込まれていく。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載。 [お願い] 敵役へのヘイト感想含め、感想欄への書き込みは「不特定多数に見られるものである」とご理解の上、行ってください。 ご自身の人間性と言葉を大切にしてください。 言葉は人格に繋がります。 ご自分を大切にしてください。

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

インバーターエアコン
恋愛
 王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。   ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。 「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」 「はい?」  叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。  王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。  (私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)  得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。  相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。

転生不憫令嬢は自重しない~愛を知らない令嬢の異世界生活

リョンコ
恋愛
シュタイザー侯爵家の長女『ストロベリー・ディ・シュタイザー』の人生は幼少期から波乱万丈であった。 銀髪&碧眼色の父、金髪&翠眼色の母、両親の色彩を受け継いだ、金髪&碧眼色の実兄。 そんな侯爵家に産まれた待望の長女は、ミルキーピンクの髪の毛にパープルゴールドの眼。 両親どちらにもない色彩だった為、母は不貞を疑われるのを恐れ、産まれたばかりの娘を敷地内の旧侯爵邸へ隔離し、下働きメイドの娘(ハニーブロンドヘア&ヘーゼルアイ)を実娘として育てる事にした。 一方、本当の実娘『ストロベリー』は、産まれたばかりなのに泣きもせず、暴れたりもせず、無表情で一点を見詰めたまま微動だにしなかった……。 そんな赤ん坊の胸中は(クッソババアだな。あれが実母とかやばくね?パパンは何処よ?家庭を顧みないダメ親父か?ヘイゴッド、転生先が悪魔の住処ってこれ如何に?私に恨みでもあるんですか!?)だった。 そして泣きもせず、暴れたりもせず、ずっと無表情だった『ストロベリー』の第一声は、「おぎゃー」でも「うにゃー」でもなく、「くっそはりゃへった……」だった。 その声は、空が茜色に染まってきた頃に薄暗い部屋の中で静かに木霊した……。 ※この小説は剣と魔法の世界&乙女ゲームを模した世界なので、バトル有り恋愛有りのファンタジー小説になります。 ※ギリギリR15を攻めます。 ※残酷描写有りなので苦手な方は注意して下さい。 ※主人公は気が強く喧嘩っ早いし口が悪いです。 ※色々な加護持ちだけど、平凡なチートです。 ※他転生者も登場します。 ※毎日1話ずつ更新する予定です。ゆるゆると進みます。 皆様のお気に入り登録やエールをお待ちしております。 ※なろう小説でも掲載しています☆

処理中です...