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Part2

А.в 慰労会と称して - 10

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 そんな王子であるギルバートが、自ら望んで、エスコート役を買って出たというのか?

 国王であるアルデーラに指示されたのなら、適当な騎士でも付けて、エスコート役をさせていることだろう。

 もしくは、以前のように、かの令嬢の付き人であった、自国の騎士のエスコートで、だ。

 だから、ギルバートが自ら望んだであろうエスコート役、そして、それがどんな波紋を生むか全て承知の上で、そのギルバートの――望み? 我儘?――を許した、国王陛下がいる、ということになる。

 さすがに、予想していない状況と展開で、テイトも、その場で、言葉を失っていたのだった。

「――ねえ、テイト様……! 騎士団の仕事仲間なのですから、ご挨拶に伺わなくて、よろしいの?」

 かの令嬢から目が離せなくて、もう、ずっとさっきから、かの令嬢を目で追っている妻は、第三騎士団の団長とその夫人に挨拶している二人を見つめながら、テイトの袖を引っ張ってくる。

「………………………………」

 以前には、会った。
 衝撃的な出会いだけに、(一生) 忘れることがないような跡だけを残して、消え去ったような令嬢である。

 だが――残りの団長も、副団長も、今の所、かの令嬢とは会ったこともない、見知りもしない間柄――という振りをしなければならないのだ。

 互いに、一切関係なく、関わり合いはなく、全くの赤の他人で、隣国で、知らない令嬢。

 ただそれだけなのだ。

「ねえね、行かないんですの?」
「いや――」

「えっ? どうしてですの? 問題ですの?」
「見なかったことにしなさい」

「えっ? 見なかったことにする? ――えっ……?!」

 それは無理でしょうっ! ――と、非難めいた眼差しを向ける妻に、テイトも、少々、苦々しい顔をしている。

「覚えているだろう? 緘口令かんこうれいが敷かれているんだ」
「それは――わかって、おりますけれどぉ……」

 でもぉ……、あの衝撃的な出会いをしたご令嬢が、今、また王宮に上がってきているのだ。

 それも、今回は、正装をして。

 テイトの妻であるシグニルドも、あの夜会には参加していた。
 賊が押し入って来たと同時に、夫であるテイトに指示されて、すぐにテーブルの下で隠れていたから、あの場で何が起きたのか、ほとんど知らないことになる。

 ただ、テーブルの下で聞こえてくる叫び声や、混沌とした騒動に怯え、夫の安全を一心に祈っていた。
 その後は、全員、すぐに会場から避難させられたので、あの奇天烈なドレスを着た令嬢がどうなったのかなど、シグニルドは知らない。

 夫のテイトからは、「決して、その話題をするな」 と、厳しく言いつけられただけである。

 じとぉーっと、向こうにいるギルバート達を、シグニルドが羨まし気に眺めている。

「ものすごい……、美しいご令嬢でしたわ……。驚きましたもの……」
「――――わかって、いる……」

 テイトの驚きなど、その程度の問題でも、次元でもない。

「――本当に……。驚きでしたわぁ……! でも、あんなに美しいお方なら、不思議はありませんけれど……」

 だが、テイトの反応は、さっきから苦々しいもので、無言で、反応が返ってこない。

 シグニルドが、ちょっとテイトを睨め付けるように見上げる。

「もうっ……。そんなに、その話題がいけませんの?」
「ああ、ダメだ」

「そんなぁ……」
「だから、見なかったことにしなさい」

「そんなぁ……! ――テイト様は、ご存知だったのですか?」
「いや……。だから、その話題には、決して触れないように」

「また、ですの……?」
「そうだ。社交界だろうと、お茶会だろうと、決して、だ」
「――わかり、ましたわ……」

 それも、渋々、嫌々、といった雰囲気があまりに明らかなほどに。

 だが、今夜の夜会で、ギルバートがかの令嬢のエスコート役をしようが、正式には、国王陛下であるアルデーラから、テイトは何も聞いていない。

 そんな場で、臣下であるテイトが勝手に憶測したり、余計な噂話をしてしまうことなど許されない。
 それは、妻のシグニルドだって、同じだ。

 今夜のギルバートとアルデーラの二人は、一体、何を考えているのか――――

 ふう……と、息をついたテイトが、スッと、妻の前で手を上げてみせる。

「奥様? ダンスを一曲、いかがですか?」

 その程度のご機嫌取りで、誤魔化されはしないシグニルドだ。

 だが、愛しの旦那様であるテイトは、いつも騎士団の仕事で多忙なだけに、こんな風に、二人で夜会に参加したのだって久しぶりだった。

 それで、シグニルドが、テイトの手の上に自分の手を重ねていく。

「ダンスだって、すごく久しぶりですわ。これだけじゃ、足りませんわ」
「では、何がお望みですか、奥様?」

「テイト様は、今夜は、もう、お仕事はないのでしょう?」
「ないな」
「でしたら」

 うふふ、とシグニルドが意味深な笑みを浮かべていく。

 テイトはシグニルドの手を少し掴み、その指にキスをした。

「もちろん、奥様のお望みのままに」
「うふふ」

 ご機嫌取りでは、少々、足りない気もするが、それでも、テイトが一緒の夜会だって、久しぶりなのだ。

 仕事で、夜遅くならない日だって、久しぶりなのだ。

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