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Part2

* А.б またアトレシア大王国にて *

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 馬車での移動は、かなり久しぶりである。

 長い、長ーい……移動だった。

 アトレシア大王国の騎士団の騎士達に護衛されているだけに、下手に馬車から下りて、ストレッチなどもできないし、馬車内で軽い運動だってできない。

 豪奢な四輪車の馬車をあてがわれ、窮屈でもなく、はっきり言って、その豪奢な馬車の室内は、かなり広いものだ。

 少し足を屈めれば、セシル一人、片側の椅子に横になって、休むことも可能なほどである。
 休憩時間もちゃんと取ってくれて、移動時の宿泊地や食事だって、全く問題なく用意されている。

 たかが辺境の地にいる伯爵家令嬢に、下を置かない大層なもてなしなのである。

 文句を言うべきではない。

 それでも――

 アトレシア大王国の王都への行軍――移動は、片道でも、軽く、五日半はかかってしまう。

 馬車の足を速めれば、五日で到着するのかもしれないが、貴族の令嬢の移動――ということなのか、馬車の足並みは遅くもなく早くもなく――とてもスピードを保っていた。

 六日近くも馬車の中に押し込められて、簡単に動くこともままならないなんて、セシルには、さすがにこの状況は、少々、地獄である……。

 セシルの移動は、いつも自分自身でしているし、騎馬の移動もほとんどだ。
 そんなセシルにとって、一か所に押し込められてしまっている状況は、本当に久しぶりで、子供の時以来ではなかっただろうか。

 セシルに付き添ってきた補佐役のフィロは、気難しく眉間を寄せて、せっせと書類の仕事をこなしている。

 移動中でも仕事ができるように、セシルの領地で開発した馬車用、折りたたみ式テーブルを広げ、その上には、書類がどっさり積み上げられている。

 なにしろ、移動はを優先させてくれているようなので、フィロがテーブルの上で仕事をこなす上では、全くの問題がない。

 フィロが抱えている大きなトランクケースやら書類やらを見たギルバートも、すぐに、馬車内でのフィロの行動を理解したのか、


「移動中、道が悪くなるところが何箇所かございます。事前にお知らせいたしますので、よろしいですか?」


 などと、にこやかに提案されたので、「ありがとうございます」 と、セシルもちゃんとお礼を言うのを忘れない。

 フィロが馬車の移動中で仕事をする気満々なのを知っている為、セシルの付き人でついてきた二人の侍女達は、セシルの領地で使用している馬車に乗り込んでいる。

 主もいないし、邪魔をする人間もいないから、二人で楽しく過ごしていることだろう。特に、今回は前回と違って、セシルの侍女二人は、アトレシア大王国を訪れるのは、これが初めてなのだから。

 まだ成人していない若い侍女のアーシュリンは、前日からはしゃいでいて、何度も、オルガに叱られていたほどだ。

 だが、若い侍女のアーシュリンだけでなく、オルガだって、滅多に、領土内や領地の邸から出たことがない。

 それだけに、わざわざ、アトレシア大王国までやって来たセシル達にも、せめて――王宮から離れた、プライベートの時間が取れるといいのだが……。

 (あまりに退屈過ぎる) 馬車の移動で、アトレシア大王国内を移動して、二日目。
 今夜、宿泊する予定の宿屋に到着して、セシル達は部屋に案内されていた。

 セシルを迎えに来たアトレシア大王国の騎士団は、二十人近くもの騎士を伴ってやって来た。
 かなりの大人数である。

 セシルは、前回での事件に関わり合いのある人物でもあるから、アトレシア大王国側の方で、セシルの護衛を、慎重に、そして、警戒を解かずに、これだけの(大仰しい)護衛を派遣してくれたのだろう。

 人数が多いだけではなく、馬車が二台。その上、騎士達は、全員、騎馬である。

 宿泊一つするにしても、馬や馬車の世話ができるような街でなければならないし、宿屋でなければならない。

 それで、昨夜もそうだったが、宿泊している宿屋は、中くらいから、大きな街にある宿屋で、もちろん、貴族が泊まれるような高級な宿屋だ。

 セシルは、隣国で(一応) 伯爵令嬢である。

 今回は、アトレシア大王国の王太子殿下、直々に招待された貴賓、でもある。

 だから、セシルの扱いが、ものすごい(大仰しいほどの) 豪華で、立派なものばかりになっていた。

 今回も、貴族が泊まるような豪華な部屋に案内され、付き人として一緒にやってきたオルガ達は、セシルの簡単な荷物を解いている。

 護衛の二人は、セシルが就寝するまでドアの前で控えているが、フィロには、あてがわれた部屋に戻っていてもよい、とセシルから言われている。

 フィロの場合、一人で部屋に戻ったら、早速、馬車の中でしていた仕事を継続してしまうことは簡単に予想されたが、今の所、フィロが無理をしていないのなら、セシルもそのフィロの行動を止めてはいなかった。

 ギルバートがセシルを部屋に送って来てくれて、応接用の椅子に腰を下ろしたセシルの前に立つ。

「不都合はございませんか?」
「いいえ、ありません」

「もし何かございましたら、気兼ねなく申し付けてください」
「いえ……、そのようなことはありませんので」

 そこで――なぜかは知らないが、不思議な沈黙が降りていた。

 セシルは、きっと、ギルバート達に気を遣って、自分からなにかをしたいとか、して欲しいとか、そう言った要求を言ってこないのだろう。

 だが、正直な話、ギルバートの経験からすると――貴族の、特に女性である貴婦人を移動させる時は、(ものすごい) 細心の気遣いをみせて世話をしなければならないのだ。

 馬車が窮屈だ、体が痛い、汚い部屋には泊まりたくない、世話役がなっていない――挙げればキリがない……。

 アトレシア大王国の貴族達は、王都から自分の領地に帰る時、自分の家からの馬車を使用する。

 だから、ギルバート達は護衛に付き添う必要はなかったが、それでも、公式で王都に上がってくる時や、数日程度でも、王都から移動する場合の貴族達や、近隣諸国からの来賓など、護衛を任された騎士団は、移動中の世話も任されることになる。

 だから、ギルバートの経験上、貴婦人には――特に、細心の注意を払い、気を(ものすごく) 遣わなければならないものだったのだ。

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