182 / 530
Part2
* А.б またアトレシア大王国にて *
しおりを挟む
馬車での移動は、かなり久しぶりである。
長い、長ーい……移動だった。
アトレシア大王国の騎士団の騎士達に護衛されているだけに、下手に馬車から下りて、ストレッチなどもできないし、馬車内で軽い運動だってできない。
豪奢な四輪車の馬車をあてがわれ、窮屈でもなく、はっきり言って、その豪奢な馬車の室内は、かなり広いものだ。
少し足を屈めれば、セシル一人、片側の椅子に横になって、休むことも可能なほどである。
休憩時間もちゃんと取ってくれて、移動時の宿泊地や食事だって、全く問題なく用意されている。
たかが辺境の地にいる伯爵家令嬢に、下を置かない大層なもてなしなのである。
文句を言うべきではない。
それでも――
アトレシア大王国の王都への行軍――移動は、片道でも、軽く、五日半はかかってしまう。
馬車の足を速めれば、五日で到着するのかもしれないが、貴族の令嬢の移動――ということなのか、馬車の足並みは遅くもなく早くもなく――とても快適なスピードを保っていた。
六日近くも馬車の中に押し込められて、簡単に動くこともままならないなんて、セシルには、さすがにこの状況は、少々、地獄である……。
セシルの移動は、いつも自分自身でしているし、騎馬の移動もほとんどだ。
そんなセシルにとって、一か所に押し込められてしまっている状況は、本当に久しぶりで、子供の時以来ではなかっただろうか。
セシルに付き添ってきた補佐役のフィロは、気難しく眉間を寄せて、せっせと書類の仕事をこなしている。
移動中でも仕事ができるように、セシルの領地で開発した馬車用、折りたたみ式テーブルを広げ、その上には、書類がどっさり積み上げられている。
なにしろ、移動は快適さを優先させてくれているようなので、フィロがテーブルの上で仕事をこなす上では、全くの問題がない。
フィロが抱えている大きなトランクケースやら書類やらを見たギルバートも、すぐに、馬車内でのフィロの行動を理解したのか、
「移動中、道が悪くなるところが何箇所かございます。事前にお知らせいたしますので、よろしいですか?」
などと、にこやかに提案されたので、「ありがとうございます」 と、セシルもちゃんとお礼を言うのを忘れない。
フィロが馬車の移動中で仕事をする気満々なのを知っている為、セシルの付き人でついてきた二人の侍女達は、セシルの領地で使用している馬車に乗り込んでいる。
主もいないし、邪魔をする人間もいないから、二人で楽しく過ごしていることだろう。特に、今回は前回と違って、セシルの侍女二人は、アトレシア大王国を訪れるのは、これが初めてなのだから。
まだ成人していない若い侍女のアーシュリンは、前日からはしゃいでいて、何度も、オルガに叱られていたほどだ。
だが、若い侍女のアーシュリンだけでなく、オルガだって、滅多に、領土内や領地の邸から出たことがない。
それだけに、わざわざ、アトレシア大王国までやって来たセシル達にも、せめて――王宮から離れた、プライベートの時間が取れるといいのだが……。
(あまりに退屈過ぎる) 馬車の移動で、アトレシア大王国内を移動して、二日目。
今夜、宿泊する予定の宿屋に到着して、セシル達は部屋に案内されていた。
セシルを迎えに来たアトレシア大王国の騎士団は、二十人近くもの騎士を伴ってやって来た。
かなりの大人数である。
セシルは、前回での事件に関わり合いのある人物でもあるから、アトレシア大王国側の方で、セシルの護衛を、慎重に、そして、警戒を解かずに、これだけの(大仰しい)護衛を派遣してくれたのだろう。
人数が多いだけではなく、馬車が二台。その上、騎士達は、全員、騎馬である。
宿泊一つするにしても、馬や馬車の世話ができるような街でなければならないし、宿屋でなければならない。
それで、昨夜もそうだったが、宿泊している宿屋は、中くらいから、大きな街にある宿屋で、もちろん、貴族が泊まれるような高級な宿屋だ。
セシルは、隣国で(一応) 伯爵令嬢である。
今回は、アトレシア大王国の王太子殿下、直々に招待された貴賓、でもある。
だから、セシルの扱いが、ものすごい(大仰しいほどの) 豪華で、立派なものばかりになっていた。
今回も、貴族が泊まるような豪華な部屋に案内され、付き人として一緒にやってきたオルガ達は、セシルの簡単な荷物を解いている。
護衛の二人は、セシルが就寝するまでドアの前で控えているが、フィロには、あてがわれた部屋に戻っていてもよい、とセシルから言われている。
フィロの場合、一人で部屋に戻ったら、早速、馬車の中でしていた仕事を継続してしまうことは簡単に予想されたが、今の所、フィロが無理をしていないのなら、セシルもそのフィロの行動を止めてはいなかった。
ギルバートがセシルを部屋に送って来てくれて、応接用の椅子に腰を下ろしたセシルの前に立つ。
「不都合はございませんか?」
「いいえ、ありません」
「もし何かございましたら、気兼ねなく申し付けてください」
「いえ……、そのようなことはありませんので」
そこで――なぜかは知らないが、不思議な沈黙が降りていた。
セシルは、きっと、ギルバート達に気を遣って、自分からなにかをしたいとか、して欲しいとか、そう言った要求を言ってこないのだろう。
だが、正直な話、ギルバートの経験からすると――貴族の、特に女性である貴婦人を移動させる時は、(ものすごい) 細心の気遣いをみせて世話をしなければならないのだ。
馬車が窮屈だ、体が痛い、汚い部屋には泊まりたくない、世話役がなっていない――挙げればキリがない……。
アトレシア大王国の貴族達は、王都から自分の領地に帰る時、自分の家からの馬車を使用する。
だから、ギルバート達は護衛に付き添う必要はなかったが、それでも、公式で王都に上がってくる時や、数日程度でも、王都から移動する場合の貴族達や、近隣諸国からの来賓など、護衛を任された騎士団は、移動中の世話も任されることになる。
だから、ギルバートの経験上、貴婦人には――特に、細心の注意を払い、気を(ものすごく) 遣わなければならないものだったのだ。
長い、長ーい……移動だった。
アトレシア大王国の騎士団の騎士達に護衛されているだけに、下手に馬車から下りて、ストレッチなどもできないし、馬車内で軽い運動だってできない。
豪奢な四輪車の馬車をあてがわれ、窮屈でもなく、はっきり言って、その豪奢な馬車の室内は、かなり広いものだ。
少し足を屈めれば、セシル一人、片側の椅子に横になって、休むことも可能なほどである。
休憩時間もちゃんと取ってくれて、移動時の宿泊地や食事だって、全く問題なく用意されている。
たかが辺境の地にいる伯爵家令嬢に、下を置かない大層なもてなしなのである。
文句を言うべきではない。
それでも――
アトレシア大王国の王都への行軍――移動は、片道でも、軽く、五日半はかかってしまう。
馬車の足を速めれば、五日で到着するのかもしれないが、貴族の令嬢の移動――ということなのか、馬車の足並みは遅くもなく早くもなく――とても快適なスピードを保っていた。
六日近くも馬車の中に押し込められて、簡単に動くこともままならないなんて、セシルには、さすがにこの状況は、少々、地獄である……。
セシルの移動は、いつも自分自身でしているし、騎馬の移動もほとんどだ。
そんなセシルにとって、一か所に押し込められてしまっている状況は、本当に久しぶりで、子供の時以来ではなかっただろうか。
セシルに付き添ってきた補佐役のフィロは、気難しく眉間を寄せて、せっせと書類の仕事をこなしている。
移動中でも仕事ができるように、セシルの領地で開発した馬車用、折りたたみ式テーブルを広げ、その上には、書類がどっさり積み上げられている。
なにしろ、移動は快適さを優先させてくれているようなので、フィロがテーブルの上で仕事をこなす上では、全くの問題がない。
フィロが抱えている大きなトランクケースやら書類やらを見たギルバートも、すぐに、馬車内でのフィロの行動を理解したのか、
「移動中、道が悪くなるところが何箇所かございます。事前にお知らせいたしますので、よろしいですか?」
などと、にこやかに提案されたので、「ありがとうございます」 と、セシルもちゃんとお礼を言うのを忘れない。
フィロが馬車の移動中で仕事をする気満々なのを知っている為、セシルの付き人でついてきた二人の侍女達は、セシルの領地で使用している馬車に乗り込んでいる。
主もいないし、邪魔をする人間もいないから、二人で楽しく過ごしていることだろう。特に、今回は前回と違って、セシルの侍女二人は、アトレシア大王国を訪れるのは、これが初めてなのだから。
まだ成人していない若い侍女のアーシュリンは、前日からはしゃいでいて、何度も、オルガに叱られていたほどだ。
だが、若い侍女のアーシュリンだけでなく、オルガだって、滅多に、領土内や領地の邸から出たことがない。
それだけに、わざわざ、アトレシア大王国までやって来たセシル達にも、せめて――王宮から離れた、プライベートの時間が取れるといいのだが……。
(あまりに退屈過ぎる) 馬車の移動で、アトレシア大王国内を移動して、二日目。
今夜、宿泊する予定の宿屋に到着して、セシル達は部屋に案内されていた。
セシルを迎えに来たアトレシア大王国の騎士団は、二十人近くもの騎士を伴ってやって来た。
かなりの大人数である。
セシルは、前回での事件に関わり合いのある人物でもあるから、アトレシア大王国側の方で、セシルの護衛を、慎重に、そして、警戒を解かずに、これだけの(大仰しい)護衛を派遣してくれたのだろう。
人数が多いだけではなく、馬車が二台。その上、騎士達は、全員、騎馬である。
宿泊一つするにしても、馬や馬車の世話ができるような街でなければならないし、宿屋でなければならない。
それで、昨夜もそうだったが、宿泊している宿屋は、中くらいから、大きな街にある宿屋で、もちろん、貴族が泊まれるような高級な宿屋だ。
セシルは、隣国で(一応) 伯爵令嬢である。
今回は、アトレシア大王国の王太子殿下、直々に招待された貴賓、でもある。
だから、セシルの扱いが、ものすごい(大仰しいほどの) 豪華で、立派なものばかりになっていた。
今回も、貴族が泊まるような豪華な部屋に案内され、付き人として一緒にやってきたオルガ達は、セシルの簡単な荷物を解いている。
護衛の二人は、セシルが就寝するまでドアの前で控えているが、フィロには、あてがわれた部屋に戻っていてもよい、とセシルから言われている。
フィロの場合、一人で部屋に戻ったら、早速、馬車の中でしていた仕事を継続してしまうことは簡単に予想されたが、今の所、フィロが無理をしていないのなら、セシルもそのフィロの行動を止めてはいなかった。
ギルバートがセシルを部屋に送って来てくれて、応接用の椅子に腰を下ろしたセシルの前に立つ。
「不都合はございませんか?」
「いいえ、ありません」
「もし何かございましたら、気兼ねなく申し付けてください」
「いえ……、そのようなことはありませんので」
そこで――なぜかは知らないが、不思議な沈黙が降りていた。
セシルは、きっと、ギルバート達に気を遣って、自分からなにかをしたいとか、して欲しいとか、そう言った要求を言ってこないのだろう。
だが、正直な話、ギルバートの経験からすると――貴族の、特に女性である貴婦人を移動させる時は、(ものすごい) 細心の気遣いをみせて世話をしなければならないのだ。
馬車が窮屈だ、体が痛い、汚い部屋には泊まりたくない、世話役がなっていない――挙げればキリがない……。
アトレシア大王国の貴族達は、王都から自分の領地に帰る時、自分の家からの馬車を使用する。
だから、ギルバート達は護衛に付き添う必要はなかったが、それでも、公式で王都に上がってくる時や、数日程度でも、王都から移動する場合の貴族達や、近隣諸国からの来賓など、護衛を任された騎士団は、移動中の世話も任されることになる。
だから、ギルバートの経験上、貴婦人には――特に、細心の注意を払い、気を(ものすごく) 遣わなければならないものだったのだ。
1
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
ある公爵令嬢の生涯
ユウ
恋愛
伯爵令嬢のエステルには妹がいた。
妖精姫と呼ばれ両親からも愛され周りからも無条件に愛される。
婚約者までも妹に奪われ婚約者を譲るように言われてしまう。
そして最後には妹を陥れようとした罪で断罪されてしまうが…
気づくとエステルに転生していた。
再び前世繰り返すことになると思いきや。
エステルは家族を見限り自立を決意するのだが…
***
タイトルを変更しました!
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜
和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`)
https://twitter.com/tobari_kaoru
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに……
なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。
なぜ、私だけにこんなに執着するのか。
私は間も無く死んでしまう。
どうか、私のことは忘れて……。
だから私は、あえて言うの。
バイバイって。
死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。
<登場人物>
矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望
悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司
山田:清に仕えるスーパー執事
乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました
雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた
スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ
この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった...
その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!?
たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく
ここが...
乙女ゲームの世界だと
これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話
乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい
ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。
だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。
気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。
だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?!
平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。
転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?
朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!
「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」
王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。
不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。
もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた?
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる