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Part1
Е.д 恋の病に苛まされるうら若き王子 - 05
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「――――と言うのは、建て前でもあるが、かの令嬢を――王家に迎え入れることは、なぜか、王家の力量を試されている気がしてならない」
「――えっ……?!」
まさか、兄の口からそんなことを聞くことになるとは思わず、ギルバートも、目を瞬かせている。
罰が悪そうに、アルデーラが、ふいっと、横を向いて、
「どうも――かの令嬢は、我々を小馬鹿にしている節がある。それ故、そうではないと、証明せざるを得ないのか、証明しなければならないのか――その状態を放っておくのは、私も無性に腹が立つ」
要は負けず嫌いな兄は、あの――セシルに負かされたままの状況が、かなり嫌ならしい。
はは……と、つい、乾いた笑いが漏れてしまった。
「いえ――あの……、小馬鹿にしている節は――あったかもしれませんが、今はそうではないかと――」
初っ端の出会いからして、あのセシルは、隣国の、それも王太子殿下ともなる王子を小馬鹿にして、随分、見下した態度だったのは言うまでもない。
本当に、セシルが不敬罪で処刑されていなかったことが、不思議なほどだ。
でも、ギルバートがコトレアの領地を訪れた時は、令嬢らしく振舞っていたし、礼儀正しかったし、あの態度を見たのなら、以前に出会った――挑発的なセシルの態度の方が、目を疑うものであろうに。
「――本当に、私の我儘を押し通しても、構わないのですか?」
「構わない。――と言うより、お前にそれができるのか、私も見てみたいものだ」
「いえ……そう、ですねぇ……」
いかに、ギルバートがセシルに惚れ込んでいようが、セシル本人から相手にされなければ、全く話にもならない。
そして、その相手が――ものすごい強敵であるのは、言うまでもない。
「どうするのだ?」
「もちろん、諦める気はありません」
「では、せめて、二年の猶予か?」
「二年、ですか?」
「そうだ。かの令嬢は、婚約破棄されたという立場であるから、早々に、結婚相手を見つけても、こちらの体裁が整わない。せめて、一年は、誰にも身受けされないのが、普通だろう」
「わかりました。ですから、二年ですか?」
「そうだ」
二年後は、確か、セシルも二十歳になっている年である。
その頃になれば、さすがに、伯爵家当主も、セシルの見合い相手を考えだす頃だろう。
大事な一人娘がかわいくても、世間的に、未婚のままでは体裁も悪いだろうし、後ろ指を指されてしまう娘が可哀そうだと、感じるかもしれない。
それでも――
全く絶望的だったギルバートの現状に、一筋の希望が差し込んだのだ。
このチャンスを逃す手はなかった。
「兄上、私の我儘を聞き入れてくださって、ありがとうございます」
「かの令嬢は――私もあの能力を認めている。だが、それ以上の成果で、王国の力になると、証明してみせるのだな」
「わかりました。その点では、全く心配していませんが」
その返答は予想していたのか、ふっと、アルデーラが皮肉げに口元を曲げる。
「二年なら――ぎりぎりで、ガルブランソン侯爵家を、押さえておくことは可能だろう」
「はい」
ガルブランソン侯爵家には、17歳である長女のリドウィナがいる。
リドウィナとは昔から知っているし、幼馴染――と言うほどの関係でもなかったが、全くの知らない他人、という仲でもなかった。
そして、ガルブランソン侯爵家は、長女のリドウィナを、第三王子の妃候補として挙げている一族だ。
年齢的に、ギルバートが、一番、年が近く、王族との繋がりも得ることができ、それでいて、第二王子ほど、王家に縛り付けられていない多少の自由がきくだけに、ギルバートは、ガルブランソン侯爵家にとって、格好の婚約者対象なのだ。
ここずっと、婚約話を推し進めてくるガルブランソン侯爵家を上手く交わし、避けて、婚約話にこぎつけられることを防ぐことができたが、早々、長く、そんな状態が続くはずはないと、ギルバートも仕方なく腹をくくってはいた。
だが、ギルバートは、セシルに出会ってしまった。
出会ってしまったから、セシル以外の女性を望むことは、もう、できなくなってしまった。
だから、いかに、ガルブランソン侯爵家が圧力をかけてこようとも、今のギルバートでは、リドウィナを不幸にすると判っているだけに、結婚など、到底、賛成できないのだ。
「二年の猶予……。そうなると、今から、本気で取り掛からなければいけませんね――」
ふーむと、ギルバートも真剣に考えこむ。
なにしろ、相手はあのセシルである。
生半可な相手でもないし、小手先の誤魔化しがきくような相手でもないし、抜け目がなくて卒がなくて――今のところ、付け入るスキがない、完全無敵、に近い状態である。
「まず手始めに、私の即位式への招待であろうな。かの件では、かの令嬢には、かなり世話になった。晩餐会の招待は、受諾されなかったようだから」
「それは、本当にご令嬢は多忙であられ、とても、移動できるような状況ではありませんでしたから」
その件は、手紙で報告されている。
いきなり、ギルバートから、申し訳ありませんが、十日だけコトレアに滞在することをお許しください――などとお願いされて、困惑していたのはアルデーラの方だ。
視察を許されたから――など、そっちの方も驚きではあったが。
もっと、あのセシルは秘密主義なのだろう、という印象が強かったからだ。
「あの地の豊穣祭は、特別な催しなのです。ですから、領内の領民全員が一丸となって、豊穣祭に取り組んでいるほどなのですから。それで、豊穣祭を統率するあの方は、朝から晩まで、走り回っている状態だったのです。私が訪ねた時も、実は、一時間ほど待たされてしまい」
「それは、拒否されたからではないのか?」
クリストフと同じ見解を出す兄に、くすっと、笑ってしまう。
「いえ、実際に、ものすごく多忙だった時に、押しかけてしまったようでして、我々が到着した時でも、実は、ご令嬢は領地の見回りで、外出している最中だったのです。ですから、邸の騎士があの方を呼び出しに行き、それから領内への入場を許可され、我々が邸に到着した時も、馬で駆けつけていただいたほどだったのです」
「そうか」
「それからも、見回りと視察をご一緒させていただいたのですが、休む暇もなく、あの日は、夕食を視察先で取りながら、邸に戻ってきた時には、夜の8時過ぎだったでしょうか?」
夕食を(外で) 終える前も、終えた後も、ほとんどが会議、会議、会議で、終わっていたように見えた。
あんなに連続で、おまけに、領主自ら会議の場所に次々と移動して、セシルが外にいる間は、休まる暇もないほどに、動き続けてばかりだった。
「――えっ……?!」
まさか、兄の口からそんなことを聞くことになるとは思わず、ギルバートも、目を瞬かせている。
罰が悪そうに、アルデーラが、ふいっと、横を向いて、
「どうも――かの令嬢は、我々を小馬鹿にしている節がある。それ故、そうではないと、証明せざるを得ないのか、証明しなければならないのか――その状態を放っておくのは、私も無性に腹が立つ」
要は負けず嫌いな兄は、あの――セシルに負かされたままの状況が、かなり嫌ならしい。
はは……と、つい、乾いた笑いが漏れてしまった。
「いえ――あの……、小馬鹿にしている節は――あったかもしれませんが、今はそうではないかと――」
初っ端の出会いからして、あのセシルは、隣国の、それも王太子殿下ともなる王子を小馬鹿にして、随分、見下した態度だったのは言うまでもない。
本当に、セシルが不敬罪で処刑されていなかったことが、不思議なほどだ。
でも、ギルバートがコトレアの領地を訪れた時は、令嬢らしく振舞っていたし、礼儀正しかったし、あの態度を見たのなら、以前に出会った――挑発的なセシルの態度の方が、目を疑うものであろうに。
「――本当に、私の我儘を押し通しても、構わないのですか?」
「構わない。――と言うより、お前にそれができるのか、私も見てみたいものだ」
「いえ……そう、ですねぇ……」
いかに、ギルバートがセシルに惚れ込んでいようが、セシル本人から相手にされなければ、全く話にもならない。
そして、その相手が――ものすごい強敵であるのは、言うまでもない。
「どうするのだ?」
「もちろん、諦める気はありません」
「では、せめて、二年の猶予か?」
「二年、ですか?」
「そうだ。かの令嬢は、婚約破棄されたという立場であるから、早々に、結婚相手を見つけても、こちらの体裁が整わない。せめて、一年は、誰にも身受けされないのが、普通だろう」
「わかりました。ですから、二年ですか?」
「そうだ」
二年後は、確か、セシルも二十歳になっている年である。
その頃になれば、さすがに、伯爵家当主も、セシルの見合い相手を考えだす頃だろう。
大事な一人娘がかわいくても、世間的に、未婚のままでは体裁も悪いだろうし、後ろ指を指されてしまう娘が可哀そうだと、感じるかもしれない。
それでも――
全く絶望的だったギルバートの現状に、一筋の希望が差し込んだのだ。
このチャンスを逃す手はなかった。
「兄上、私の我儘を聞き入れてくださって、ありがとうございます」
「かの令嬢は――私もあの能力を認めている。だが、それ以上の成果で、王国の力になると、証明してみせるのだな」
「わかりました。その点では、全く心配していませんが」
その返答は予想していたのか、ふっと、アルデーラが皮肉げに口元を曲げる。
「二年なら――ぎりぎりで、ガルブランソン侯爵家を、押さえておくことは可能だろう」
「はい」
ガルブランソン侯爵家には、17歳である長女のリドウィナがいる。
リドウィナとは昔から知っているし、幼馴染――と言うほどの関係でもなかったが、全くの知らない他人、という仲でもなかった。
そして、ガルブランソン侯爵家は、長女のリドウィナを、第三王子の妃候補として挙げている一族だ。
年齢的に、ギルバートが、一番、年が近く、王族との繋がりも得ることができ、それでいて、第二王子ほど、王家に縛り付けられていない多少の自由がきくだけに、ギルバートは、ガルブランソン侯爵家にとって、格好の婚約者対象なのだ。
ここずっと、婚約話を推し進めてくるガルブランソン侯爵家を上手く交わし、避けて、婚約話にこぎつけられることを防ぐことができたが、早々、長く、そんな状態が続くはずはないと、ギルバートも仕方なく腹をくくってはいた。
だが、ギルバートは、セシルに出会ってしまった。
出会ってしまったから、セシル以外の女性を望むことは、もう、できなくなってしまった。
だから、いかに、ガルブランソン侯爵家が圧力をかけてこようとも、今のギルバートでは、リドウィナを不幸にすると判っているだけに、結婚など、到底、賛成できないのだ。
「二年の猶予……。そうなると、今から、本気で取り掛からなければいけませんね――」
ふーむと、ギルバートも真剣に考えこむ。
なにしろ、相手はあのセシルである。
生半可な相手でもないし、小手先の誤魔化しがきくような相手でもないし、抜け目がなくて卒がなくて――今のところ、付け入るスキがない、完全無敵、に近い状態である。
「まず手始めに、私の即位式への招待であろうな。かの件では、かの令嬢には、かなり世話になった。晩餐会の招待は、受諾されなかったようだから」
「それは、本当にご令嬢は多忙であられ、とても、移動できるような状況ではありませんでしたから」
その件は、手紙で報告されている。
いきなり、ギルバートから、申し訳ありませんが、十日だけコトレアに滞在することをお許しください――などとお願いされて、困惑していたのはアルデーラの方だ。
視察を許されたから――など、そっちの方も驚きではあったが。
もっと、あのセシルは秘密主義なのだろう、という印象が強かったからだ。
「あの地の豊穣祭は、特別な催しなのです。ですから、領内の領民全員が一丸となって、豊穣祭に取り組んでいるほどなのですから。それで、豊穣祭を統率するあの方は、朝から晩まで、走り回っている状態だったのです。私が訪ねた時も、実は、一時間ほど待たされてしまい」
「それは、拒否されたからではないのか?」
クリストフと同じ見解を出す兄に、くすっと、笑ってしまう。
「いえ、実際に、ものすごく多忙だった時に、押しかけてしまったようでして、我々が到着した時でも、実は、ご令嬢は領地の見回りで、外出している最中だったのです。ですから、邸の騎士があの方を呼び出しに行き、それから領内への入場を許可され、我々が邸に到着した時も、馬で駆けつけていただいたほどだったのです」
「そうか」
「それからも、見回りと視察をご一緒させていただいたのですが、休む暇もなく、あの日は、夕食を視察先で取りながら、邸に戻ってきた時には、夜の8時過ぎだったでしょうか?」
夕食を(外で) 終える前も、終えた後も、ほとんどが会議、会議、会議で、終わっていたように見えた。
あんなに連続で、おまけに、領主自ら会議の場所に次々と移動して、セシルが外にいる間は、休まる暇もないほどに、動き続けてばかりだった。
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