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Part1
Е.г 豊穣祭を終えて - 02
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「ご令嬢は、朝食後、また仕事――いえ、視察、をなさるのですか?」
セシルは出会った時から、男物の洋服を着ていることが多かったし、コトレアの領地内でも、ほとんど、ズボン姿ばかりを目にしている。
今朝も、ズボン姿のセシルを見て、ギルバートはそんなことを訪ねていた。
「ええ、そうですね。豊穣祭の後片付けの見回りがありますので」
なんでもないことのように話すセシルは、ギルバート達がやってきて以来――いや、やってくる以前からも、いつも、どこでも、多忙で、一か所に落ち着いている場面を見たことがない。
書斎で書類を片づけている間は、ものすごい量の書類の山を、一人でせっせと片づけている。
自国の王宮でも、父である国王陛下だって、兄の王太子殿下だって、いつも多忙であるし、ギルバート自身も、騎士団の仕事や書類整理などで、日々、多忙な生活を送っているから、セシルの多忙さは珍しいものではない。
だが、まだあんな若さで、一領土の領主となっているセシルの仕事量は――さすがに、一人でこなしきれるような量でもないのである。
それなのに、この領地での統括は、なんにするにも潤滑で、無駄がなく、なにを取っても、効率的な方法が、一貫されているほどだったのだ。
だから、きっと、通常の者なら、セシルがこなしている仕事の量を終わらせるのに、セシルの倍以上の時間がかかっても不思議ではないのに、そうなっていない事実も、現状も、全て、セシルの手腕と優れた能力の賜物、だと言えるのだろう。
「本当に、この地での統括方法は、全てにおいて潤滑で、効率的で、無駄が一切ない。私も、このような統治方法を目にするのは、初めてです」
「お褒め頂いて、光栄です。私には、見様見真似で、実際に、政治学や帝王学を学んだ上での統治方法でもございませんし、副団長様に、そのように褒めていただき、とても光栄に存じます」
いやいや。
今の言葉は、別に、お世辞で言ったのではないのだ。
はっきり言って、ギルバートの本心である。
でも、セシルは社交辞令の言葉程度でしか、ギルバートの言葉を受け取っていないようだった。
人口、百人にもみたないド田舎であるのに、八年足らずで、人口は倍以上。これだけの発展と繁栄を見せている領地など、本当にお目にかかったことさえない。
それだけの労力も、情熱も、セシルの全てを注ぎ込んで、領地の発展をもたらした唯一の貢献者であるはずなのに、これだけの偉業を、なぜ、セシルは偉業だと考えていないのだろうか。
まさか……とは思うが、セシルの基準では、これだけの偉業は、セシルの頭の中では、“偉業”として考えられていないのではないだろうか……。
なにしろ、セシルは出会った時から“謎のご令嬢”で、圧倒されたまま呆然としている残りの全員を残して、さっさと、なんでも一人で成し遂げてしまうほどの能力を持っている女性だ。
自分でしていることが“偉業”ではなくて、“至極当たり前”――なんて度合いで片づけられていたとしても……ギルバートには、あまり、驚きではないものだった。
比べる度合いが違うんだろうなぁ……。
なんて、そんなことが、ふと、頭に浮かんでしまっていたギルバートだった。
「姉上、新しく出ていた料理やスナックを試してみましたが、どれも、とてもおいしかったです」
「そうですか。それを聞いて安心しましたわ」
「皆様も、お試しになられまして?」
「はい、いただきました。どれも、食べたことのないものばかりでしたが、とてもおいしくいただきました」
「それは、良かったですわ」
「ご令嬢も、お試しになられましたか?」
なにしろ、午前中に、ギルバート達と別れてから、後夜祭まで、セシルは姿を見せなかった。
領主であるだけに、挨拶やら祝辞やら、それの会合だけではなく、きっと他の要件でも、セシルは一日中多忙であったのは、簡単に想像できる。
「ええ、何個かは、買ってきてもらいましたから」
せっかくの豊穣祭なのだ。露店で出ている料理やスナックを食べられなければ、お祭りの醍醐味が薄れてしまう。
多忙なセシルだって、お祭りの雰囲気は楽しみたいのだ。
「侍女達には、どうやら、カスタードパンが人気だったようですけれど」
「あら、わたくしも、カスタードパンはいただきましたのよ。あれは、おいしかったですわ」
「そうですか。それなら、来年も、カスタードパンは出店させるべきですね」
その会話を聞いて、ギルバートも不思議に思ってしまった。
「もしかして――売れ行きの少ない露店は、毎年、出店させないのですか?」
「いえ、そんなことはありませんけれど、新しい食事やスナックを出す時は、大抵、お試しで出している時が多いのです。食べ慣れない味や、見た目などもありますし、味に慣れ、人気が出てくるまで時間がかかることもあります。それで、売れ行きが悪いものは、少し時間をかけて、まず、領地内での販売を考えているのです」
「そうでしたか。私は、この国の者でもありませんし、この領地にも慣れておりませんが、いただいた食事やスナックは、どれもとてもおいしいものでした。こう言ってはなんですが、私の部下達も、とても満足していましたし」
「まぁ! それを聞いて、安心しましたわ」
しっかりと、いただいた食事もスナックも、ギルバートの部下全員の胃袋に消えてしまったではないか。
一切の文句も上がらず、全部、平らげたほどである。
「とてもおいしいものでした。ありがとうございます」
この時は、さすがに、ものすごい好意を授かり、お世話をされてしまっている身だけに、クリストフがギルバートの隣で、セシルに向かって深く頭を下げてみせた。
「喜んでいただけで、私も嬉しく思いますわ」
どうやら、外部から来たお客様の反応は、上々のようである。
「皆様は、隣国からのゲストでいらっしゃいますけれど、隣国と言えど、陸続き。移動ができれば、左程、問題などありませんわよね」
これは――もしかして、宣伝をしてくれ、との密かな要求だろう。
うん、ギルバートの読みは間違っていないはずだ。
はは……と、ギルバートも微苦笑を浮かべ、
「そのように、宣伝をしておきますので」
「まあっ! ありがとうございます」
そして、大喜びのセシルだ。
貴族のご令嬢でありながら、セシルの商売根性は並ではない……。
「皆様、豊穣祭や、その他でも、なにか、お気づきになられたことはございませんか?」
「気づいたこと、でしょうか?」
「ええ。ご感想やご意見など、ありませんこと?」
「いえ、ありません」
「なにも――ありませんの?」
なぜ、そんな期待された眼差しを、向けられているのだろうか……?
ゲストとして、なにから何まで、至れり尽くせりで世話をされ、豊穣祭も招待され、ギルバート達は、随分と満喫した休暇を過ごしたものだ。
これ以上に、なにか意見などあるはずもない。
「これからの参考にさせていただきますので、どうぞ、お気軽に、ご感想やご意見など、おっしゃってくださいね」
「いえ……」
実の所、感想も意見も出ないほど――圧倒されて、言葉を失っていました……という状況ばかりだったので、セシルに期待されようが、今回だけは、その期待に応えることができないギルバートである。
セシルは出会った時から、男物の洋服を着ていることが多かったし、コトレアの領地内でも、ほとんど、ズボン姿ばかりを目にしている。
今朝も、ズボン姿のセシルを見て、ギルバートはそんなことを訪ねていた。
「ええ、そうですね。豊穣祭の後片付けの見回りがありますので」
なんでもないことのように話すセシルは、ギルバート達がやってきて以来――いや、やってくる以前からも、いつも、どこでも、多忙で、一か所に落ち着いている場面を見たことがない。
書斎で書類を片づけている間は、ものすごい量の書類の山を、一人でせっせと片づけている。
自国の王宮でも、父である国王陛下だって、兄の王太子殿下だって、いつも多忙であるし、ギルバート自身も、騎士団の仕事や書類整理などで、日々、多忙な生活を送っているから、セシルの多忙さは珍しいものではない。
だが、まだあんな若さで、一領土の領主となっているセシルの仕事量は――さすがに、一人でこなしきれるような量でもないのである。
それなのに、この領地での統括は、なんにするにも潤滑で、無駄がなく、なにを取っても、効率的な方法が、一貫されているほどだったのだ。
だから、きっと、通常の者なら、セシルがこなしている仕事の量を終わらせるのに、セシルの倍以上の時間がかかっても不思議ではないのに、そうなっていない事実も、現状も、全て、セシルの手腕と優れた能力の賜物、だと言えるのだろう。
「本当に、この地での統括方法は、全てにおいて潤滑で、効率的で、無駄が一切ない。私も、このような統治方法を目にするのは、初めてです」
「お褒め頂いて、光栄です。私には、見様見真似で、実際に、政治学や帝王学を学んだ上での統治方法でもございませんし、副団長様に、そのように褒めていただき、とても光栄に存じます」
いやいや。
今の言葉は、別に、お世辞で言ったのではないのだ。
はっきり言って、ギルバートの本心である。
でも、セシルは社交辞令の言葉程度でしか、ギルバートの言葉を受け取っていないようだった。
人口、百人にもみたないド田舎であるのに、八年足らずで、人口は倍以上。これだけの発展と繁栄を見せている領地など、本当にお目にかかったことさえない。
それだけの労力も、情熱も、セシルの全てを注ぎ込んで、領地の発展をもたらした唯一の貢献者であるはずなのに、これだけの偉業を、なぜ、セシルは偉業だと考えていないのだろうか。
まさか……とは思うが、セシルの基準では、これだけの偉業は、セシルの頭の中では、“偉業”として考えられていないのではないだろうか……。
なにしろ、セシルは出会った時から“謎のご令嬢”で、圧倒されたまま呆然としている残りの全員を残して、さっさと、なんでも一人で成し遂げてしまうほどの能力を持っている女性だ。
自分でしていることが“偉業”ではなくて、“至極当たり前”――なんて度合いで片づけられていたとしても……ギルバートには、あまり、驚きではないものだった。
比べる度合いが違うんだろうなぁ……。
なんて、そんなことが、ふと、頭に浮かんでしまっていたギルバートだった。
「姉上、新しく出ていた料理やスナックを試してみましたが、どれも、とてもおいしかったです」
「そうですか。それを聞いて安心しましたわ」
「皆様も、お試しになられまして?」
「はい、いただきました。どれも、食べたことのないものばかりでしたが、とてもおいしくいただきました」
「それは、良かったですわ」
「ご令嬢も、お試しになられましたか?」
なにしろ、午前中に、ギルバート達と別れてから、後夜祭まで、セシルは姿を見せなかった。
領主であるだけに、挨拶やら祝辞やら、それの会合だけではなく、きっと他の要件でも、セシルは一日中多忙であったのは、簡単に想像できる。
「ええ、何個かは、買ってきてもらいましたから」
せっかくの豊穣祭なのだ。露店で出ている料理やスナックを食べられなければ、お祭りの醍醐味が薄れてしまう。
多忙なセシルだって、お祭りの雰囲気は楽しみたいのだ。
「侍女達には、どうやら、カスタードパンが人気だったようですけれど」
「あら、わたくしも、カスタードパンはいただきましたのよ。あれは、おいしかったですわ」
「そうですか。それなら、来年も、カスタードパンは出店させるべきですね」
その会話を聞いて、ギルバートも不思議に思ってしまった。
「もしかして――売れ行きの少ない露店は、毎年、出店させないのですか?」
「いえ、そんなことはありませんけれど、新しい食事やスナックを出す時は、大抵、お試しで出している時が多いのです。食べ慣れない味や、見た目などもありますし、味に慣れ、人気が出てくるまで時間がかかることもあります。それで、売れ行きが悪いものは、少し時間をかけて、まず、領地内での販売を考えているのです」
「そうでしたか。私は、この国の者でもありませんし、この領地にも慣れておりませんが、いただいた食事やスナックは、どれもとてもおいしいものでした。こう言ってはなんですが、私の部下達も、とても満足していましたし」
「まぁ! それを聞いて、安心しましたわ」
しっかりと、いただいた食事もスナックも、ギルバートの部下全員の胃袋に消えてしまったではないか。
一切の文句も上がらず、全部、平らげたほどである。
「とてもおいしいものでした。ありがとうございます」
この時は、さすがに、ものすごい好意を授かり、お世話をされてしまっている身だけに、クリストフがギルバートの隣で、セシルに向かって深く頭を下げてみせた。
「喜んでいただけで、私も嬉しく思いますわ」
どうやら、外部から来たお客様の反応は、上々のようである。
「皆様は、隣国からのゲストでいらっしゃいますけれど、隣国と言えど、陸続き。移動ができれば、左程、問題などありませんわよね」
これは――もしかして、宣伝をしてくれ、との密かな要求だろう。
うん、ギルバートの読みは間違っていないはずだ。
はは……と、ギルバートも微苦笑を浮かべ、
「そのように、宣伝をしておきますので」
「まあっ! ありがとうございます」
そして、大喜びのセシルだ。
貴族のご令嬢でありながら、セシルの商売根性は並ではない……。
「皆様、豊穣祭や、その他でも、なにか、お気づきになられたことはございませんか?」
「気づいたこと、でしょうか?」
「ええ。ご感想やご意見など、ありませんこと?」
「いえ、ありません」
「なにも――ありませんの?」
なぜ、そんな期待された眼差しを、向けられているのだろうか……?
ゲストとして、なにから何まで、至れり尽くせりで世話をされ、豊穣祭も招待され、ギルバート達は、随分と満喫した休暇を過ごしたものだ。
これ以上に、なにか意見などあるはずもない。
「これからの参考にさせていただきますので、どうぞ、お気軽に、ご感想やご意見など、おっしゃってくださいね」
「いえ……」
実の所、感想も意見も出ないほど――圧倒されて、言葉を失っていました……という状況ばかりだったので、セシルに期待されようが、今回だけは、その期待に応えることができないギルバートである。
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