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Part1

* Е.в 後夜祭 *

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「すごい、ですね……!」

 そろそろ夕食の時間ですので、とシリルが迎えに来たので、ギルバート達は、今度は、領地の大通りの方にやってきていた。

 大通りには、両端にたくさんのテーブルが並べられ、その上には燦然さんぜんとしたご馳走が、所狭しと並べられていたのだ。

 通り全体が食事で溢れかえっているなど、初めて見る光景で、ギルバート達も素直に感動している。

 テーブルの向こうでは、主婦達や手伝いの女性や少女達が、賑やかにお喋りしながら、それぞれの料理を並べている。

「豊穣祭の閉会式と同時に、後夜祭が設けられております。閉会式が始まると、領地の領民全員が大通りに集まり、今夜の夕食を、全員で済ませるのです」

「それは、すごいですね……!」

「昔は、それぞれの家から、ちょっとしたものを持ち合って、それで、“ご苦労さん会”のような小さなものだったのですが、この頃では領民の人口も増え、豊穣祭の規模も大きくなりましたので、それから、一家に一品、夕食用の皿を作ることになったのです」

「では、ここに並べてある食事は、それぞれの家庭からですか?」

「そうです。パンやサイドなど作る係、メインの料理を作る係、それから、デザートを作る係と、今の所、三つに分かれています。それぞれの家庭では、料理が分担され、家庭から一品ずつ食事を提供するのです」

「なるほど。ですが、人口が千人もいるのでしたら、家庭に一品だけでは、足りないのではないのですか?」

「そうですね。それで、残りの分は、領主持ちですので、邸の料理人達は、もう、昨日から、料理の仕込みで大忙しなのです」

「そうでしたか」
「それに、独身であっても、必ず、一品ですから、量はそれほど作れなくても、数だけはたくさんになります」
「すごいですね」

 そんなお祭りも、領民全員が揃っての食事会だって、ギルバートには初めて見る光景だ。

 昼間の豊穣祭の賑わいで、露店を出していたお店や、豊穣祭の係員達だって、一日中動きっぱなしで、疲れているだろう。
 それでも、大通りに集まってきている領民達は賑やかで、明るくて、お腹を空かせている様子が楽しげだった。

「皆、ご馳走にありつこうと、食事が始まると、一斉にワァーと集まっていくのですが、実は、15~20分ほど少し待てば、ものすごく空いているという事実があるのです。それでもなぜか、毎年、食事の争奪戦が始まります。今では食事の量もたくさん増えましたから、全員がおかわりしても有り余るほどの量なのですが、なぜか、毎年、争奪戦は止みません」

「そうですか。お腹を空かせていると、正常な考えができないのでしょう」

 その光景を思い浮かべて、ギルバートもおかしそうに笑っている。

「すごいですね。領民全員での食事など、私は見たことがありません」

「賑やかで楽しくて、私は好きです。それに、今夜は無礼講ぶれいこうですから、普段の食事のマナーは、そうですね、今夜だけは忘れることになっています」

「そうですか。――先程から目にしますが、領民達が持っている、小袋のようなものは、何ですか?」

 通り過ぎていく領民達の間で、全員が全員、似たような小袋を手に下げているのだ。

「ああ、あれは携帯用食事セットです」
「携帯用食事セット? それは何でしょう?」

「夕食の食事は、一家に一品なのですが、さすがに、領民全部のおしぼりや、カトラリーまで用意していたら、準備も後片付けも大変になります。ですから、あれは領地で開発した、携帯用食事セットなのです」

 「これで、洗い物がグッと減ったわね!」 と、大喜びのセシルだった。
 もちろん、考案・開発者は、セシルである。

「袋の中には、フォークとナイフとスプーンが入る持ち運び用の器があり、おしぼり用のタオル、塩・こしょうを入れられる、小さな小瓶も入っています。それから、飲み物用のカップが。領民一人一人が食事セットを用意してきますので、今は、皿だけ準備すれば良くなりました」

「すごい、ですねぇ……」

 またも、知らない発想である。

 何から何まで真新しい発見で、発明で、驚きで、今日の豊穣祭でも驚きが止まないのに、後夜祭でも、まだまだ、その驚きは継続中だ。

「我々も、あの携帯用食事セットが、必要なのですか?」
「いいえ。皆様は、ゲストでいらっしゃいますので、その分の食器などは、用意されています」

「そうですか」

 だが――ギルバートも、あの“携帯用食事セット”というものを、一度は使ってみたかったものだ。

「そう言えば、孤児の子供達は、どうするのですか? 皆で食事を作るのですか?」
「そうです。孤児院では、大抵、デザートを作ってもらっています。クッキーなど、皆で簡単に作れますからね」

「ああ、なるほど」
「ですから、子供達も、クッキーを作っている時は、とても真剣なのです。そうやって自分達が作ったものを、誰かに食べてもらえる、喜んでもらえる、それで、後から「おいしかったよ、ありがとう」 と言われて、子供達も、それがとても嬉しいようですから」

「そうですか」

「去年から、クッキー用の型も、開発したのです。それで、子供達には、更に、やる気がでてきたそうです」
「型? それは、何ですか?」

「クッキーを作る時に、色々な形にした型で、生地をくり抜くのです。そうすると、形の変わったクッキーが出来上がるのです。例えば、丸型は、自分でも作れそうですけれど、意外に、真ん丸を作るのは難しいそうなのです。今は、丸型の型で、クッキーの生地を抜き取るだけですからね。四角や三角、それから星形もできたそうです。後は、少し長い丸型? ――だったはずです」

「面白そうですね」
「ええ。それで、子供達のやる気が、更に、上がったそうです」

 孤児院で、子供達全員が、クッキーの型を抜き取りながら、クッキーを作る光景は、きっと楽しいことだろう。

 両側にはたくさんの料理が。真ん中には、テーブルとベンチが、たくさん並べられている。
 昼間の公園のように、たくさんのテーブルとベンチだ。

「もしかして、公園から、テーブルなどを、移動してきたのですか?」
「そうです。ですから、本当に、係員達は、一日中、重い荷物を運んでばかりですね」

「そうだったんですか」

 そうやって、大通りを進んで行く先に、視界が大きく開けた場所が飛び込んでくる。

「ここは何ですか?」

「ここは、領地の広場として作られました。大通りを向こうの最初から歩いてくると、ここが最終地になります。それで、豊穣祭などで、領民全員が集まる機会が増えましたので、領民がつどえるように、広場も増改築されました」

 広場の中に進んで行くと、中央は平らに慣らされていて、今は、その真ん中に大きな壇上が設置されていた。
 赤いカーペットが敷かれ、それと一緒に、金の模様が刺繍された、フサ付きのカーペットも敷かれている。

 その壇上を囲うようにして、周囲の傾斜を利用したのか、段々とベンチが置かれ、ベンチの横には、階段が建設されていた。

「大きな場所ですね。簡単に、領民がつどうことができて、とても便利だ」

「ありがとうございます。これからも、人口増加で座る場所が必要になってきますので、広場は、最初から、大きめに建設なさったのです」

「そうですか」

 たった八年程度で、人口は当初の十倍近く。
 それなのに、セシルはそこで止まっているのではなく、これからの、更なる発展までも考えにいれているのだ。

 それだけの先を見ているなんて、なんてすごいのだろう。

 ギルバート達が広場にやってくると、ボチボチと、ベンチに席を取っていく領民達も、集まって来ていた。

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