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Part1
Е. б 初めてのお買いもの - 07
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それから、シリルがたくさん買い込んで来た食事もスナックも、全部、おいしく平らげてしまった全員である。
食事が終わり、シリルが、器用にテーブルの上の皿などをトレーに乗せ、テーブルを片していく。
「お手伝いします」
「ありがとうございます」
ギルバートは、カップやおしぼりのトレーをかき集めた。
こんな作業は、騎士団の宿舎の食堂を思い出す。
ギルバートは副団長で、王国の第三王子殿下ではあるが、その立場で差別されるのが嫌で(なにしろ、偉そうに威張って、などと、毎回、嫌味を言われ続けた為)、入団したての時は、クリストフと同様、騎士団の食堂をちゃんと利用していたのだ。
その時に、自分の食事を終えて、トレーを返却するという作業を覚えた。
シリルの後についていって、食事返却場にトレーを置き直す。
チラッと、後ろを振り返ると、さっきまでいたテーブルの場所は、係員が布巾できれいに拭き取っていた。
次の観光客の為に、清掃係が待機していたのだろう。
本当に、何から何まで、潤滑で、効率よく、運営がされているものだ。
「では、さきほどの続きで、露店回りなど、いかがでしょうか?」
「ええ、お願いします」
日差しも高く、秋とは言え、今日も気温が高く上がりだしていた。
「ああ、豊穣祭には、最高の天気になりましたね」
「はい。天候が良いと、お客様の喉が渇いて、ジュースの売り上げも上がるので、とても良いことです」
そして、商売っ気のある伯爵家子息だ。
貴族のお坊ちゃまなのに、なにか――商売根性がすでに身についているような……?
これは、もしかして、セシルにしごかれたのか――それとも、セシルから身に着いたのか、その両方の可能性が高そうである。
セシルは、“貴族のご令嬢”という肩書が、全く当てはまらない女性だ。
シリルの行動や言動も、ある意味、“貴族の子息”という肩書が、あまり当てはまらない少年だった。
さすが、姉弟……。
宿場町の大通りは、露店に沿って、ものすごい数の観光客が出そろっていた。
朝よりも、更に、その数が増えたのではないだろうか?
混雑している通りを進んで行き、露店の前で、シリルが、その露店で売っている品物の説明をしてくれる。
家で育てた小鉢と花を売っていたり、キルトや刺繍のハンカチを売っていたり、洋服も売っているお店もあった。
そうやって、露店周りをしていくと、ある一つの露店の前では、ものすごい行列ができていた。
木枠で作った柵のようなものを立てかけ、そこには、バッグやカバンのようなものが、たくさんぶら下がっている。
なんだか、似たようなものを以前にも見たような気がして、ギルバートは隣を歩いているシリルに、ちらり、と視線を向けた。
今日のシリルは、裕福な階層の子息っぽく軽装をしていて、その肩には、斜めに小さなバッグがかかっている。
この領地の騎士達も、シリルのようなバッグを、胸の前にぶら下げていた。
そして、この露店にも似たようなものが、たくさんぶら下がっている。
そうなると、これは、領地で売っている“特産品”なのだろうか?
それも、肩から斜めにかけるような入れ物だ。
ただ、その店の前には、かなりの行列ができあがっていたので、ギルバート達は、そのお店を飛ばすことにした。
ごった返している場所で順番待ちをするのは、ギルバートもあまり乗り気ではない。
混雑した場所で囲まれてしまうと、つい、体が緊張し、気を張ってしまうのだ(仕事柄、立場柄)。
「皆様も、何か、興味が引かれるものがありましたら、どうぞ、気兼ねなく、買い物をなさってくださいね」
「ありがとうございます」
朝から、ギルバート達は、シリルの説明を聞きながら、露店回りをしているが、まだ何一つ買い物をしていない。
「興味がないのかな?」 とは、シリルも考えたことだが、ギルバート達は、素直に興味深そうに、露店の中や品物を眺めている。
だから、興味がないわけではないと思うのだ。
「休憩中の騎士達ですか? はは、食事の露店に、たくさんいるようだ」
食事が売られている露店には、どこを見ても、領地の騎士の制服を着ている騎士達が並んでいる。
「そうですね。皆、この豊穣祭を楽しみにしていますから」
「毎年、新たな料理やスナックが出るからですか?」
「そうです。やはり、新しいものに挑戦できなければ、せっかくのお祭りも、勿体ないです。それに、一日中、騎士達は警備や護衛で忙しいので、休憩は、二時間ずつ交代で取れるように、シフトが組まれているのです」
「豊穣祭の料理を見逃しては、醍醐味が薄れてしまいますね」
「そうです」
でも、王国騎士団の騎士なら、そんな時間は必要ない、と叱られるのが常だろう。
ギルバート達だって、王国での式典やら祝典、夜会だろうとなんだろうと、貴族の集まりでは、ほとんど警備の仕事ばかりで、食事だってままならない。
騎士達、一人一人が休憩時間を満喫できるように、そんな気配りはない。
仕事なのだから、しっかりと配置された場所に戻れ。
それが通常だろう。
でも、セシルの領地では、年に一度の豊穣祭で、騎士達がものすごく多忙になっても、一人一人に、せめて楽しめる時間を与えてあげられる余裕と、心遣いがある。
「――この領地では、なにか……本当に、「人」 として、尊重されていることばかりですね」
「姉上の指針です」
「指針?」
「はい。この領地の指針は、「生き抜いて、絶対に生き延びる」 です。その指針に沿って、領地の統治も、運営も、全て決められます。そして、
「「人」 として生きられるということは、それを選ぶ機会がある、ということだろう」
と、姉上がおっしゃっていました」
「それを成し遂げることは、簡単ではありませんでしょうに」
「そうですね。この世界では、自分で選べる権利もなければ、機会を与えられるなど、ほぼ皆無の時もあると思います。ですが、この領地にいる領民なら、その機会が与えられることでしょう。生きて行く為に、自分達で、その選択を選べる機会がありますから」
話を聞けば聞くほど、領地の運営を見れば見るほど、そして、セシルという人物を知れば知るほど、ギルバートには、もう、言葉が出なかった。
呆然としまっているのと、文句も挟めないような強い意志を見せつけて、自分の指針を絶対に曲げないセシルに、ただただ、圧巻だったのだ。
「――ご令嬢のようなお方に出会ったのは、私も初めての経験です」
シリルが、ふっと、口元を綻ばせた。
「別に、皆様だけが、それを経験しているのではありませんよ。姉上は、特別なお方ですから」
「そうですか。全く、異論はありませんが」
食事が終わり、シリルが、器用にテーブルの上の皿などをトレーに乗せ、テーブルを片していく。
「お手伝いします」
「ありがとうございます」
ギルバートは、カップやおしぼりのトレーをかき集めた。
こんな作業は、騎士団の宿舎の食堂を思い出す。
ギルバートは副団長で、王国の第三王子殿下ではあるが、その立場で差別されるのが嫌で(なにしろ、偉そうに威張って、などと、毎回、嫌味を言われ続けた為)、入団したての時は、クリストフと同様、騎士団の食堂をちゃんと利用していたのだ。
その時に、自分の食事を終えて、トレーを返却するという作業を覚えた。
シリルの後についていって、食事返却場にトレーを置き直す。
チラッと、後ろを振り返ると、さっきまでいたテーブルの場所は、係員が布巾できれいに拭き取っていた。
次の観光客の為に、清掃係が待機していたのだろう。
本当に、何から何まで、潤滑で、効率よく、運営がされているものだ。
「では、さきほどの続きで、露店回りなど、いかがでしょうか?」
「ええ、お願いします」
日差しも高く、秋とは言え、今日も気温が高く上がりだしていた。
「ああ、豊穣祭には、最高の天気になりましたね」
「はい。天候が良いと、お客様の喉が渇いて、ジュースの売り上げも上がるので、とても良いことです」
そして、商売っ気のある伯爵家子息だ。
貴族のお坊ちゃまなのに、なにか――商売根性がすでに身についているような……?
これは、もしかして、セシルにしごかれたのか――それとも、セシルから身に着いたのか、その両方の可能性が高そうである。
セシルは、“貴族のご令嬢”という肩書が、全く当てはまらない女性だ。
シリルの行動や言動も、ある意味、“貴族の子息”という肩書が、あまり当てはまらない少年だった。
さすが、姉弟……。
宿場町の大通りは、露店に沿って、ものすごい数の観光客が出そろっていた。
朝よりも、更に、その数が増えたのではないだろうか?
混雑している通りを進んで行き、露店の前で、シリルが、その露店で売っている品物の説明をしてくれる。
家で育てた小鉢と花を売っていたり、キルトや刺繍のハンカチを売っていたり、洋服も売っているお店もあった。
そうやって、露店周りをしていくと、ある一つの露店の前では、ものすごい行列ができていた。
木枠で作った柵のようなものを立てかけ、そこには、バッグやカバンのようなものが、たくさんぶら下がっている。
なんだか、似たようなものを以前にも見たような気がして、ギルバートは隣を歩いているシリルに、ちらり、と視線を向けた。
今日のシリルは、裕福な階層の子息っぽく軽装をしていて、その肩には、斜めに小さなバッグがかかっている。
この領地の騎士達も、シリルのようなバッグを、胸の前にぶら下げていた。
そして、この露店にも似たようなものが、たくさんぶら下がっている。
そうなると、これは、領地で売っている“特産品”なのだろうか?
それも、肩から斜めにかけるような入れ物だ。
ただ、その店の前には、かなりの行列ができあがっていたので、ギルバート達は、そのお店を飛ばすことにした。
ごった返している場所で順番待ちをするのは、ギルバートもあまり乗り気ではない。
混雑した場所で囲まれてしまうと、つい、体が緊張し、気を張ってしまうのだ(仕事柄、立場柄)。
「皆様も、何か、興味が引かれるものがありましたら、どうぞ、気兼ねなく、買い物をなさってくださいね」
「ありがとうございます」
朝から、ギルバート達は、シリルの説明を聞きながら、露店回りをしているが、まだ何一つ買い物をしていない。
「興味がないのかな?」 とは、シリルも考えたことだが、ギルバート達は、素直に興味深そうに、露店の中や品物を眺めている。
だから、興味がないわけではないと思うのだ。
「休憩中の騎士達ですか? はは、食事の露店に、たくさんいるようだ」
食事が売られている露店には、どこを見ても、領地の騎士の制服を着ている騎士達が並んでいる。
「そうですね。皆、この豊穣祭を楽しみにしていますから」
「毎年、新たな料理やスナックが出るからですか?」
「そうです。やはり、新しいものに挑戦できなければ、せっかくのお祭りも、勿体ないです。それに、一日中、騎士達は警備や護衛で忙しいので、休憩は、二時間ずつ交代で取れるように、シフトが組まれているのです」
「豊穣祭の料理を見逃しては、醍醐味が薄れてしまいますね」
「そうです」
でも、王国騎士団の騎士なら、そんな時間は必要ない、と叱られるのが常だろう。
ギルバート達だって、王国での式典やら祝典、夜会だろうとなんだろうと、貴族の集まりでは、ほとんど警備の仕事ばかりで、食事だってままならない。
騎士達、一人一人が休憩時間を満喫できるように、そんな気配りはない。
仕事なのだから、しっかりと配置された場所に戻れ。
それが通常だろう。
でも、セシルの領地では、年に一度の豊穣祭で、騎士達がものすごく多忙になっても、一人一人に、せめて楽しめる時間を与えてあげられる余裕と、心遣いがある。
「――この領地では、なにか……本当に、「人」 として、尊重されていることばかりですね」
「姉上の指針です」
「指針?」
「はい。この領地の指針は、「生き抜いて、絶対に生き延びる」 です。その指針に沿って、領地の統治も、運営も、全て決められます。そして、
「「人」 として生きられるということは、それを選ぶ機会がある、ということだろう」
と、姉上がおっしゃっていました」
「それを成し遂げることは、簡単ではありませんでしょうに」
「そうですね。この世界では、自分で選べる権利もなければ、機会を与えられるなど、ほぼ皆無の時もあると思います。ですが、この領地にいる領民なら、その機会が与えられることでしょう。生きて行く為に、自分達で、その選択を選べる機会がありますから」
話を聞けば聞くほど、領地の運営を見れば見るほど、そして、セシルという人物を知れば知るほど、ギルバートには、もう、言葉が出なかった。
呆然としまっているのと、文句も挟めないような強い意志を見せつけて、自分の指針を絶対に曲げないセシルに、ただただ、圧巻だったのだ。
「――ご令嬢のようなお方に出会ったのは、私も初めての経験です」
シリルが、ふっと、口元を綻ばせた。
「別に、皆様だけが、それを経験しているのではありませんよ。姉上は、特別なお方ですから」
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