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Part1

Е. б 初めてのお買いもの - 05

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* * *


 たくさん買い込んだ食糧を抱えながら、全員が、表通りから、裏側にある公園にやってきた。

 そこにはたくさんのベンチが並び、テーブルが並び、今朝方、豊穣祭の開会式を済ませた広い敷地は、今はテーブルとベンチで溢れかえっていた。

 そして、昼近くになり、観光客が、それぞれに自分の買い込んだ食事を持って、好きな場所で食事している。

 丁度、お昼が始まりだした時間に公園にやって来た一行は、問題もなく、空いているベンチを探すことができ、そこでまず腰を下ろして一息をつく。

「大盛況ですね」
「ええ、そうですね。今年は、近隣地域にも、かなりの宣伝を出したと聞いています。それで、観光客の数も、かなり増えたようですね」

 山のように買い込んだ食事やらスナックやらと、シリルが、テーブルの上に器用に並べていく。

 それで、部下が渡されていたカップの乗ったトレーと、オシボリの乗ったトレーも、テーブルに丁寧に置いていく。

「さあ、皆様、どうぞ召し上がってください。ほとんど全て、手で掴めるものばかりですので、今日はピクニックに来たと思い、そのまま手で食べてください。こちらのオシボリで、手を拭いていただければ、それほど汚くないと思いますので」

「わかりました」

 言われた通り、ギルバート達はおしぼりを取り上げ、自分達の手をちゃんと拭いていく。言われたことに、文句も言わず実行する当たり、真面目な騎士サマ達である。

 その間も、全員の前に小さな皿が渡され、カップも渡され、それでやっと、シリルもベンチに腰を下ろす。

「今年も、新しいスナックが出ていましたので、皆様も、どうか試してみてくださいね」

 簡単に手を拭き終えたシリルは、自分の皿の上に買い込んできた食事を一つずつ乗せ、それで、気軽に手で掴んで口に入れていく。

 貴族のお坊ちゃまでも、随分、手慣れた様子である。

「皆様もどうぞ」
「では、いただきます」

 ギルバートもシリルに見習い、自分の皿の上に、食事やスナックを乗せてみた。
 ギルバートが盛り終えたようなので、クリストフも真似をする。

 シリルは、先程、拭き終えたばかりのおしぼりのタオルを二つ折りにし、反対のまだきれいな方で、指についた汚れを落としている。

 おしぼりは、そういう使い方があったんだな。

 「なるほど、なるほど」 と、納得するギルバートだ。

 ギルバートは皿の上に乗っている丸いドーナツを摘み、一口噛んでみた。

 砂糖がついていて、微かにシナモンの味と香りがあって、甘いスナックだった。さっきの子供達が喜んでいた気持ちが、よく解る。

 こうやって――昼食なのに、おやつのようなスナックから食べ始めるなど、ギルバートにとって、初めての経験だった。

 王都の警備の仕事を任されていた時は、クリストフと二人で、よく、街頭露店がいとうろてんからのスナックや、食事を買っていたものだ。

 あの時、ギルバートは生まれて初めて、毒見なしで、自由な食事ができたことを、今でも覚えている。
 すごく嬉しかったのと、新鮮だったのと、その両方だった。

 こんな風に、他国にやって来て、気兼ねなく外食を楽しむことができるなんて、一体、誰が考えただろうか。

 そうやって座っているギルバート達の周囲には、観光客がベンチに座り、平民がたくさん揃っていて、誰一人、決まった席や枠がなくて、ただ、空いているから席に座り、食事をする。

 自分で買い込んだ食事は露店からで、誰でも好きなものを食べられるのだ。

「ここの、コウエン、でしたか?」
「はい、そうです」

「今朝とは、大分、様子が違うのですね」

「はい。開会式を終えてすぐ入れ替えに、食事用のベンチとテーブルが設置されるのです。ですから、豊穣祭の係員達は、あちこちで準備に追われ、今日一日、大忙しなのです」

「そうですか。こういった――コウエンなどで食事を取るのは、初めてです」

「以前は、露店先で、そのまま食べることも可能だったのですが、この頃では、観光客の増加で、通りで食べ歩きすると、ぶつかったり、食事を落としてしまう危険がでてきて、こちらの公園側に、食事場を設置することになったのです」

「そうですか。では、この皿やカップも、豊穣祭用なのですか?」

「はい、そうです。食事を終えましたら、あちらにあります、食器返却場に食器を返却します。係員がそれを集め、全部を一斉に洗い乾かして、また、会場の方に、持って返ってくるのです。全部が全部、同じ形ですので、どの店でも使用できますし、わざわざ、自分のお店の食器を覚えておく必要がございませんから」

「そうですね。本当に、無駄がなく、便利ですね……」

 自分の食事をしながら、ギルバートの視線が公園内の観光客や、その周囲にあるゴミ箱やら、食器返却場やら、お水飲み場やら、全く見たこともない光景を、珍しそうに眺めている。

「異国に来たかもしれませんね……」

 それは、単に、独り言だったかもしれない。

 ポソリと、ギルバートの口から漏らされた一言に、シリルが微笑んだ。

「そうかもしれませんね。姉上の発案なさることは、面白いですから」
「そうですね……。――これだけの観光客は、どこに泊まっているのですか? たくさんの宿屋が?」

「いいえ。宿屋はありますが、観光客全員を宿泊させるほどの許容量はございません。ですから、宿場町の裏側に、簡易かんい宿泊しゅくはく設備せつびが設置されております」

 そして、またしても、聞き慣れぬ単語を耳にするギルバート達だ。

「それは、何でしょう?」

「簡易用のテントを設置し、共同の宿泊場を設置しているのです。これは“雑魚寝”を基本としていますので、お金を払えば、誰でも、テントで宿泊が可能です」

「それでは、危険ではないのですか?」

「宿泊場には、常時、領地の警備の者が、宿泊場内の警護をしております。そして、貴重品などは、豊穣祭の入り口にある、貴重品預かり場で預けることができるようになっております。大金を持ち運んだり、共同の宿泊施設で、置きっぱなしにするのは、危険ですからね」

 なるほどと、ギルバート達も真剣に話を聞いている。

「貴重品預かり場で預けると、自分の名前で記録した貴重品を、預かってもらえることになっていますので、その交換として、首にぶら下げる札が渡されます。貴重品を取りに戻る時、または、更に預ける場合、札を提示すれば、何度でも、貴重品預かり場に行き来が可能になります」

「そうなのですか……」

 へえぇと、はあぁ……と、の両方で、ギルバート達だって、素直に感心してしまう。

 そんな管理方法だって、聞いたこともない。

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