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Part1
Д.д 新たな - 06
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四人が列になって並び、クリストフが、基礎から剣の持ち方、構え方を指導している。
クリストフも若いのに、指導の仕方が様になっていて、年期が入っているものだ。
「水風呂の場合、あまり、冷たい水がなくてはできませんか?」
「できないことはないと思いますが、流し水のように、水を温まらせないのでしたら、たぶん、大丈夫だとは思いますわ」
「流し水、ですか――」
ふーむと、その可能性もどうやってすべきか、ギルバートも考える。
「お水が温まっていると、あまり効果がないようですので、水に浸かる時間も長くなってしまいますでしょう? それだけと、ただ、体を冷やしてしまうだけになってしまいますから」
「なるほど。確かにそうですね」
「冷たいもので、一気に冷やし込む、という形になるのです」
「そうですか」
「お試しになられるのですか?」
「やってみようとは考えていますが、水場をどうしようか、そこが問題でしてね」
「貯めている水では、雑菌が増えてしまう恐れがありますので、その場合は、毎回、清潔に、水場やお風呂を洗い流してくださいね」
「そうですか、わかりました。ご令嬢は、本当に、色々な知識をお持ちなのですね」
「いえ、ただ、以前に聞いたことを、真似しているだけですの」
でも、それは一体どこで聞いた話で、知識なのだろう?
不思議な女性だ。
ギルバートも、そんなことを思ってしまう。
王国にいた時は、セシルのあまりにずば抜けた能力を見せつけられ、唖然として、そして、嵐が過ぎ去ったような跡だけを残し(いや、跡が残ったのか……?)、消え去ってしまったご令嬢だ。
この領地にやって来たギルバートとクリストフの前では、たぶん、これが普段のセシルの行動や態度なのだろうが、セシルは王国にいた時とは、全く違った雰囲気をしていた。
質問したことには、いつも、きちんと返答をしてくれて、丁寧に説明をしてくれる。
いつも、質問を促し、他人の感想を聞くことを厭わない、柔軟性もあるように見える。
きっと造詣が深く、医療関係の知識だって、かなりのものだ。
それなのに、そんな自分の立場を威張り散らすこともなく、その知識を生かし、領地を統治し、運営し、領民にまで、その知識を簡単に授けてあげることができるご令嬢だ。
王国にいたままでは、こんなセシルの本当の姿を、垣間見ることもできなかっただろう。
「ご令嬢には、視察を許していただきまして、本当に感謝申し上げます」
「あら、よろしいのですのよ」
「それに、邸にも滞在させていただき、お世話にまでなってしまっています」
「邸の者も、他国からのゲストを迎えることなど滅多にありませんから、緊張しているのもありますけれど、きっと喜んでいることでしょう。この邸には、中々、そういったゲストがやって来ませんものね」
「それなら、いいのですが……」
ギルバート達は来賓扱いで、丁寧に世話をされてしまっている。
押しかけて来た身では、少々、申し訳ないほどに。
「今夜も、報告会があるのですか?」
「ええ、そうですね」
「ご迷惑でなければ、私もまた、見学させていただいてもよろしいでしょうか?」
「構いませんわよ。お疲れではありませんの? 訓練もしていただいたのに」
あの程度、ギルバートにとっては、訓練のうちにも入らないのだが、そのことはギルバートも、特に、話はしない。
「ええ、私は問題ではありません」
「さすが、王国騎士団の騎士のお方なのですね。訓練をした後でも、まだ体力が残っているんですもの」
はは、とギルバートもただ笑っているだけだった。
実は、ギルバートなら、この倍の訓練を軽くこなしているし、騎士達にもさせて(しごいて) いると知ったら、このセシルでも目を回してしまうのだろうか。
出会ってからというもの、セシルはいつも冷静で、どんな時でも、落ち着いた態度が変わらない。
だから、セシルが驚いてしまうような光景も、あまりギルバートには想像ができなかった。
「――あなたは、本当に、不思議な方ですね」
セシルに話しかけた言葉ではなかった。
ただ、ギルバートが漏らしたような呟きだった。
「そうですか? よく、変人、とは言われていますが」
「ええ? そうなのですか? それは、失礼な物言いですね」
貴族のご令嬢という立場は抜きにしても、失礼な物言いだ。
セシルは、くすり、と笑みを漏らし、
「口では言っていませんのよ。ですが、たぶん、心の中で、きっとそう思っているんですわ。だって、葛藤している様子が、バレバレなんですもの」
「そう、ですか……」
セシルに驚いて、それで、唖然として――葛藤してしまっている人間がいるかもしれないことは、ギルバートも理解できる。
ギルバートだって、全く、同じ立場だったから。
「きっと、驚いてしまって、言葉が出ない――というような状況では? 変人、というのは、さすがにひどい形容です」
「私は気にしていませんわ。ある意味、それも誉め言葉でしょう?」
「そう、でしょうか……?」
なにか違うような気がするのだが。
「ええ、そうです。人とは変わっている、変人。なんてね?」
「まあ……、そういう解釈も、あるかもしれませんが……」
少々、こじつけっぽくも、聞こえなくはない。
だが、セシルは、全然、気にしている様子でもない。
そういうのを悪口とは取らないんだなと、また、新たな発見をしていたギルバートだった。
クリストフも若いのに、指導の仕方が様になっていて、年期が入っているものだ。
「水風呂の場合、あまり、冷たい水がなくてはできませんか?」
「できないことはないと思いますが、流し水のように、水を温まらせないのでしたら、たぶん、大丈夫だとは思いますわ」
「流し水、ですか――」
ふーむと、その可能性もどうやってすべきか、ギルバートも考える。
「お水が温まっていると、あまり効果がないようですので、水に浸かる時間も長くなってしまいますでしょう? それだけと、ただ、体を冷やしてしまうだけになってしまいますから」
「なるほど。確かにそうですね」
「冷たいもので、一気に冷やし込む、という形になるのです」
「そうですか」
「お試しになられるのですか?」
「やってみようとは考えていますが、水場をどうしようか、そこが問題でしてね」
「貯めている水では、雑菌が増えてしまう恐れがありますので、その場合は、毎回、清潔に、水場やお風呂を洗い流してくださいね」
「そうですか、わかりました。ご令嬢は、本当に、色々な知識をお持ちなのですね」
「いえ、ただ、以前に聞いたことを、真似しているだけですの」
でも、それは一体どこで聞いた話で、知識なのだろう?
不思議な女性だ。
ギルバートも、そんなことを思ってしまう。
王国にいた時は、セシルのあまりにずば抜けた能力を見せつけられ、唖然として、そして、嵐が過ぎ去ったような跡だけを残し(いや、跡が残ったのか……?)、消え去ってしまったご令嬢だ。
この領地にやって来たギルバートとクリストフの前では、たぶん、これが普段のセシルの行動や態度なのだろうが、セシルは王国にいた時とは、全く違った雰囲気をしていた。
質問したことには、いつも、きちんと返答をしてくれて、丁寧に説明をしてくれる。
いつも、質問を促し、他人の感想を聞くことを厭わない、柔軟性もあるように見える。
きっと造詣が深く、医療関係の知識だって、かなりのものだ。
それなのに、そんな自分の立場を威張り散らすこともなく、その知識を生かし、領地を統治し、運営し、領民にまで、その知識を簡単に授けてあげることができるご令嬢だ。
王国にいたままでは、こんなセシルの本当の姿を、垣間見ることもできなかっただろう。
「ご令嬢には、視察を許していただきまして、本当に感謝申し上げます」
「あら、よろしいのですのよ」
「それに、邸にも滞在させていただき、お世話にまでなってしまっています」
「邸の者も、他国からのゲストを迎えることなど滅多にありませんから、緊張しているのもありますけれど、きっと喜んでいることでしょう。この邸には、中々、そういったゲストがやって来ませんものね」
「それなら、いいのですが……」
ギルバート達は来賓扱いで、丁寧に世話をされてしまっている。
押しかけて来た身では、少々、申し訳ないほどに。
「今夜も、報告会があるのですか?」
「ええ、そうですね」
「ご迷惑でなければ、私もまた、見学させていただいてもよろしいでしょうか?」
「構いませんわよ。お疲れではありませんの? 訓練もしていただいたのに」
あの程度、ギルバートにとっては、訓練のうちにも入らないのだが、そのことはギルバートも、特に、話はしない。
「ええ、私は問題ではありません」
「さすが、王国騎士団の騎士のお方なのですね。訓練をした後でも、まだ体力が残っているんですもの」
はは、とギルバートもただ笑っているだけだった。
実は、ギルバートなら、この倍の訓練を軽くこなしているし、騎士達にもさせて(しごいて) いると知ったら、このセシルでも目を回してしまうのだろうか。
出会ってからというもの、セシルはいつも冷静で、どんな時でも、落ち着いた態度が変わらない。
だから、セシルが驚いてしまうような光景も、あまりギルバートには想像ができなかった。
「――あなたは、本当に、不思議な方ですね」
セシルに話しかけた言葉ではなかった。
ただ、ギルバートが漏らしたような呟きだった。
「そうですか? よく、変人、とは言われていますが」
「ええ? そうなのですか? それは、失礼な物言いですね」
貴族のご令嬢という立場は抜きにしても、失礼な物言いだ。
セシルは、くすり、と笑みを漏らし、
「口では言っていませんのよ。ですが、たぶん、心の中で、きっとそう思っているんですわ。だって、葛藤している様子が、バレバレなんですもの」
「そう、ですか……」
セシルに驚いて、それで、唖然として――葛藤してしまっている人間がいるかもしれないことは、ギルバートも理解できる。
ギルバートだって、全く、同じ立場だったから。
「きっと、驚いてしまって、言葉が出ない――というような状況では? 変人、というのは、さすがにひどい形容です」
「私は気にしていませんわ。ある意味、それも誉め言葉でしょう?」
「そう、でしょうか……?」
なにか違うような気がするのだが。
「ええ、そうです。人とは変わっている、変人。なんてね?」
「まあ……、そういう解釈も、あるかもしれませんが……」
少々、こじつけっぽくも、聞こえなくはない。
だが、セシルは、全然、気にしている様子でもない。
そういうのを悪口とは取らないんだなと、また、新たな発見をしていたギルバートだった。
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