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Part1
Д.д 新たな - 05
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* * *
「きちんと、汗の処理は済ませたんですか?」
「大丈夫です」
「それなら良いのですが」
ジャンから水風呂をしたとの報告を受け、セシルもちゃんと確認しなくてはならない。
秋の気候でも、コトレアは乾燥していて、昼間は温かい日が多い。
だから、真冬のように縮み込むほどの寒さではないから、水風呂をしても、それほど問題にはならないだろうが、それでも、水風呂用の水場は日陰で、普段からも寒い場所だ。
豊穣祭前に、子供達だって、水風呂のせいで風邪でも引いてしまったら、大変なことになってしまう。
「体もきちんと拭きました。着替えもして、体も温かいです」
毎回、セシルにしっかりと言いつけられていることなので、ジャンもちゃんと説明している。
「そうですか。それなら、大丈夫でしょう」
「はい」
「では、本気で、今晩も、訓練を続ける気なのですか?」
「はい。個人指導をしてくれるそうなので」
「豊穣祭前に、無理をし過ぎでは?」
「大丈夫です」
クリストフからの好意だから、セシルとしても、子供達の希望を叶えてやりたいものだ。
王国騎士団の騎士から、個人指導を受けられるなど、滅多にあることではない。
領地の騎士だって経験組みはいるが、幼い時から、騎士として訓練を受けて来た者、というわけでもない。
ギルバートなど、あの若さで副団長だ。お飾りや、名前だけの副団長かと思いきや、ギルバートはものすごい腕の立つ騎士だと、セシルも発見している。
そのギルバートに、いつも陰のように付き添っているクリストフだって、その腕は証明されている。
二人共、子供の時から、しっかりと、徹底した騎士教育と訓練を受けて来たのは、間違いないのだ。
だから、その二人が親切に個人指導してくれるというのなら、そんなチャンスは、二度とないだろう。
ただ――豊穣祭間近で、子供達だって警備の仕事がある為、あまり無理をさせたくないというのも、セシルの本音だろうか。
「まあ、まずは、一時間、様子見ということで、訓練を許可しましょう。その後は、無理をしていないのであれば、次の三十分も、伸ばしてみるかもしれませんね」
「ありがとうございますっ」
ジャンが嬉しそうに一礼した。
「あまり、無理をし過ぎないようにね」
「はい」
「じゃあ、私も、一緒に見に行っていいですか?」
丁度、セシルの執務室に顔を出していたシリルが、そんなことを口にした。
「それは構いませんよ」
「ありがとうございます。楽しみだな」
「では、夕食後、七時半に。邸の庭を使っていいですよ。あそこなら、まだ灯りがあって、訓練くらいはできるでしょうから」
「ありがとうございますっ」
それで、きちんと一礼をしたジャンが、執務室を後にしていた。
豊穣祭まで三日を切って、どの場所でも最後の調整やらで、大詰めの多忙な日である。
だが、明日の午前中までには、ほとんどの準備を済まさなければならない。
早くにやって来る観光客などは、明日の夕方や、豊穣祭前日の午前中に、領地にやって来ることもある。
泊まれる場所を確保する為に、少々、早めにやって来る観光客も出てきているのだ。
だから、今夜は、今まで程、セシルも外で動き回る必要はない。
それで、両親とシリルがやって来ているので、ギルバート達を招待して、夕食を一緒にすることになっている。
セシルの場所では、七時頃からの夕食が多いが、セシルはその後の定例報告会があるので、普段のセシルは、夕食は六時半過ぎだ。
今夜は、少し早めにしてもらって、六時に変更すべきだろう。
きっと、厨房のシェフ達は、すでに夕食の準備に取り掛かっているはずだから、今すぐ、変更をお願いしておかなければならない。
「姉上、私がオスマンドに知らせておきますよ」
「そうですか?」
シリルは、本当に、機転が早い弟だ。
「では、お願いしますね」
「わかりました。六時半、くらいですか?」
「いえ、六時に」
「わかりました」
そして、シリルも執務室を後にしていた。
「食事の後すぐになってしまいましたが、大丈夫ですか?」
「ええ、全く問題ありません」
六時に夕食会を始め、七時には夕食を終えていたセシル達は、七時半に、邸の庭の方にやってきていた。
なんだか、慌ただしくて、申し訳ないことである。
「このようにお時間を割いていただいて、私からも、お礼を申し上げますわ」
「いいえ、どうか、そのようなお礼など、気になさらないでください。ご令嬢には、王国の問題で、本当に、大変なご迷惑をおかけしてしまいました。お礼もできずじまいでしたので、この程度のことで、少しでもお礼を返せるのでしたら、私も嬉しく思います」
「いえ、二日も、訓練をしていただいておりますもの」
「あんなの、お礼のうちにも入りません。いつもしている日課と、全く変わりませんから」
「そう、かもしれませんが……」
「それに、クリストフは訓練を見学していただけでしたから、少し、運動でもさせないと、体が鈍ってしまいますね」
「そう、でしょうかしらぁ……?」
その言葉は、到底、信じられるものではない。
普段から、きっと厳しい訓練をしている二人だから、一日、二日程度、訓練をしなくとも、体が鈍ることなどないだろう。
「今日は、水風呂を見学させてもらいました」
「あら? そうでしたの?」
「ええ、興味深いお話でしたので」
ジャンからの報告には、その話題は出てこなかった。
ギルバートとクリストフは、あの後、本当に、子供達が水風呂に浸かるのか興味津々で、それで、子供達にお願いして、わざわざ水場までついていったのだ。
そして、水に手を突っ込み、水温まで確かめているギルバートである。
変な貴族だ。変な騎士の二人だ――なんて思い始めている子供達は、ギルバートとクリストフの行動を見ても、深く追求しない。
子供達はさっさと下着だけになって、水風呂に飛び込み、悲鳴を上げだしている足の筋肉を冷やすように、冷たい水の中で我慢、我慢。
その効果が出ているのか、疲労は感じていても、筋肉痛の痛みはない。
よしっ。
これで、夜の訓練は、セシルから文句を言われないことになる。
子供達には、自分達で決めた覚悟がある。
セシルを護る為には何だってする。力をつける為には、何だってする。
だから、王国騎士団の騎士が個人指導をしてくれるというのなら、そんなチャンスを見逃すはずもない。
少々、疲れを感じていても、無理と、無茶をしなければいいのだ。
セシルは、子供達の体調や体のことを心配してくれるが、それでも、余程のことがない限り、セシルは相手が望む努力を止めたりはしない。
新たな可能性を、止めたりはしない。
いつも、ちゃんと応援してくれる。
だから、今夜だって、きちんとセシルに頼み込めば、セシルがジャン達の希望を聞いてくれるだろうことは、ジャン達だって判っていた。
ただ、セシルを心配させないのと、仕事を疎かにしないことを、セシルに説明しておきたかっただけなのだ。
「きちんと、汗の処理は済ませたんですか?」
「大丈夫です」
「それなら良いのですが」
ジャンから水風呂をしたとの報告を受け、セシルもちゃんと確認しなくてはならない。
秋の気候でも、コトレアは乾燥していて、昼間は温かい日が多い。
だから、真冬のように縮み込むほどの寒さではないから、水風呂をしても、それほど問題にはならないだろうが、それでも、水風呂用の水場は日陰で、普段からも寒い場所だ。
豊穣祭前に、子供達だって、水風呂のせいで風邪でも引いてしまったら、大変なことになってしまう。
「体もきちんと拭きました。着替えもして、体も温かいです」
毎回、セシルにしっかりと言いつけられていることなので、ジャンもちゃんと説明している。
「そうですか。それなら、大丈夫でしょう」
「はい」
「では、本気で、今晩も、訓練を続ける気なのですか?」
「はい。個人指導をしてくれるそうなので」
「豊穣祭前に、無理をし過ぎでは?」
「大丈夫です」
クリストフからの好意だから、セシルとしても、子供達の希望を叶えてやりたいものだ。
王国騎士団の騎士から、個人指導を受けられるなど、滅多にあることではない。
領地の騎士だって経験組みはいるが、幼い時から、騎士として訓練を受けて来た者、というわけでもない。
ギルバートなど、あの若さで副団長だ。お飾りや、名前だけの副団長かと思いきや、ギルバートはものすごい腕の立つ騎士だと、セシルも発見している。
そのギルバートに、いつも陰のように付き添っているクリストフだって、その腕は証明されている。
二人共、子供の時から、しっかりと、徹底した騎士教育と訓練を受けて来たのは、間違いないのだ。
だから、その二人が親切に個人指導してくれるというのなら、そんなチャンスは、二度とないだろう。
ただ――豊穣祭間近で、子供達だって警備の仕事がある為、あまり無理をさせたくないというのも、セシルの本音だろうか。
「まあ、まずは、一時間、様子見ということで、訓練を許可しましょう。その後は、無理をしていないのであれば、次の三十分も、伸ばしてみるかもしれませんね」
「ありがとうございますっ」
ジャンが嬉しそうに一礼した。
「あまり、無理をし過ぎないようにね」
「はい」
「じゃあ、私も、一緒に見に行っていいですか?」
丁度、セシルの執務室に顔を出していたシリルが、そんなことを口にした。
「それは構いませんよ」
「ありがとうございます。楽しみだな」
「では、夕食後、七時半に。邸の庭を使っていいですよ。あそこなら、まだ灯りがあって、訓練くらいはできるでしょうから」
「ありがとうございますっ」
それで、きちんと一礼をしたジャンが、執務室を後にしていた。
豊穣祭まで三日を切って、どの場所でも最後の調整やらで、大詰めの多忙な日である。
だが、明日の午前中までには、ほとんどの準備を済まさなければならない。
早くにやって来る観光客などは、明日の夕方や、豊穣祭前日の午前中に、領地にやって来ることもある。
泊まれる場所を確保する為に、少々、早めにやって来る観光客も出てきているのだ。
だから、今夜は、今まで程、セシルも外で動き回る必要はない。
それで、両親とシリルがやって来ているので、ギルバート達を招待して、夕食を一緒にすることになっている。
セシルの場所では、七時頃からの夕食が多いが、セシルはその後の定例報告会があるので、普段のセシルは、夕食は六時半過ぎだ。
今夜は、少し早めにしてもらって、六時に変更すべきだろう。
きっと、厨房のシェフ達は、すでに夕食の準備に取り掛かっているはずだから、今すぐ、変更をお願いしておかなければならない。
「姉上、私がオスマンドに知らせておきますよ」
「そうですか?」
シリルは、本当に、機転が早い弟だ。
「では、お願いしますね」
「わかりました。六時半、くらいですか?」
「いえ、六時に」
「わかりました」
そして、シリルも執務室を後にしていた。
「食事の後すぐになってしまいましたが、大丈夫ですか?」
「ええ、全く問題ありません」
六時に夕食会を始め、七時には夕食を終えていたセシル達は、七時半に、邸の庭の方にやってきていた。
なんだか、慌ただしくて、申し訳ないことである。
「このようにお時間を割いていただいて、私からも、お礼を申し上げますわ」
「いいえ、どうか、そのようなお礼など、気になさらないでください。ご令嬢には、王国の問題で、本当に、大変なご迷惑をおかけしてしまいました。お礼もできずじまいでしたので、この程度のことで、少しでもお礼を返せるのでしたら、私も嬉しく思います」
「いえ、二日も、訓練をしていただいておりますもの」
「あんなの、お礼のうちにも入りません。いつもしている日課と、全く変わりませんから」
「そう、かもしれませんが……」
「それに、クリストフは訓練を見学していただけでしたから、少し、運動でもさせないと、体が鈍ってしまいますね」
「そう、でしょうかしらぁ……?」
その言葉は、到底、信じられるものではない。
普段から、きっと厳しい訓練をしている二人だから、一日、二日程度、訓練をしなくとも、体が鈍ることなどないだろう。
「今日は、水風呂を見学させてもらいました」
「あら? そうでしたの?」
「ええ、興味深いお話でしたので」
ジャンからの報告には、その話題は出てこなかった。
ギルバートとクリストフは、あの後、本当に、子供達が水風呂に浸かるのか興味津々で、それで、子供達にお願いして、わざわざ水場までついていったのだ。
そして、水に手を突っ込み、水温まで確かめているギルバートである。
変な貴族だ。変な騎士の二人だ――なんて思い始めている子供達は、ギルバートとクリストフの行動を見ても、深く追求しない。
子供達はさっさと下着だけになって、水風呂に飛び込み、悲鳴を上げだしている足の筋肉を冷やすように、冷たい水の中で我慢、我慢。
その効果が出ているのか、疲労は感じていても、筋肉痛の痛みはない。
よしっ。
これで、夜の訓練は、セシルから文句を言われないことになる。
子供達には、自分達で決めた覚悟がある。
セシルを護る為には何だってする。力をつける為には、何だってする。
だから、王国騎士団の騎士が個人指導をしてくれるというのなら、そんなチャンスを見逃すはずもない。
少々、疲れを感じていても、無理と、無茶をしなければいいのだ。
セシルは、子供達の体調や体のことを心配してくれるが、それでも、余程のことがない限り、セシルは相手が望む努力を止めたりはしない。
新たな可能性を、止めたりはしない。
いつも、ちゃんと応援してくれる。
だから、今夜だって、きちんとセシルに頼み込めば、セシルがジャン達の希望を聞いてくれるだろうことは、ジャン達だって判っていた。
ただ、セシルを心配させないのと、仕事を疎かにしないことを、セシルに説明しておきたかっただけなのだ。
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