上 下
141 / 530
Part1

Д.д 新たな - 03

しおりを挟む
* * *


 午後からの訓練には、午前中に交じっていない騎士達が揃っていた。
 日課の仕事や任務の順番で、午前と午後に分けた訓練で、明日もそれは同じだ。

 ただ、調整の利く騎士達は、自己参加できることになっているので、セシルの話だと、時間がある騎士は訓練に参加します、と伝えられた。

 並んでいる騎士達を見渡して――ギルバートの気のせいではなくて、見慣れた顔が並んでいることに、ギルバートは気が付いた。

 見慣れた――ではない。

 あの時は、常時、全員が覆面をしていたので、目元や、顔の輪郭がなんとなく見えていたものだが、それだけだ。

 それでも、見覚えのある顔立ち、体型や体格が――きっと、ギルバートの見間違えではないと伝えていた。

「ああ、やって来ましたねえ」

 どうやら、クリストフも気が付いたようだった。

 口元だけを微かに上げ、並んでいる騎士達を面白そうに見返している。
 この顔は、自分でしっかりとしごきに行きたい時の、クリストフの顔だった。

 今回の訓練は、クリストフはギルバートに全部押し付けて(なにしろ“鬼の副団長”サマだから)、


「ただ見学しています」


などと、初めから不参加を言ってきていたのに。

「まさか、午後から参加すると、でも?」
「いえいえ。ギルバート様が、訓練なさるのですから、邪魔はしません」

 でも、クリストフの視線の先には、ある一か所だけに、焦点が絞られている。
 気になって、しょうがないのだろう。

 だから、ウズウズと、しごき虫がうずいているはずなのだ。

 午前中と同じように、午後からの訓練も、まず、ギルバートの確認から始まっていた。

 動かない姿勢のまま、5分。次の5分。
 腰を深く落として5分。
 そして、外周回りの走り込み。ローテーション。

 テンポよく、途切れることなくスムーズに、ギルバートの訓練は進んで行く。

 その間、傍で号令を出したり、時計で時間を確認しているクリストフだって、つい、その視線の先がある一点に向いて、確認してしまうのだ。

 ほう、まだ生き残ってますか、などなど。

 それで、面白そうに、その口端がほんの微かにだけ、つい、上がってしまっているのだ。

 午後からの訓練も、ラソムは参加していた。
 午前中の訓練を終わり、その後、昼食に向かう前に、ギルバートに何点かの質問点を聞いてみたら、親切にも、時間を割いて、全部、きちんと説明をしてくれた。

 それで、基礎運動のアドバイスも受け、随分、為になる訓練となった。

 だが、質問を持っていたのはラソムだけではなく、ギルバートの方も、ラソムに質問があったのだ。

 領地は子供達が多い。それで、子供の騎士見習いがたくさんいる。

 身体的には成人した大人には敵わないが、それでも、早くから、騎士訓練やその修行をする子供には、大人から騎士になる訓練を始めた王国の騎士達よりも、遥かに、その吸収力も、成長も早いだろう。

 そう言った、大人と子供の違いなど、ラソムが気付いたかどうか、ギルバートも質問してみたのだ。

 今の王国騎士団の政策は、それほど悪いものではない。
 18歳になると、騎士団に入る為の騎士養成学校に入学できる。そこで一年、騎士になる為に勉強し、鍛錬し、修行して、一年後に騎士入団試験を受けることができる。

 ただ、騎士入団試験に受かり、騎士団に入団しても、それから数年は、ほとんど使い物にならないのが常だ。

 徹底した騎士の基礎を教え込み、騎士の仕事や任務を教え込み、それから、騎士団に慣れさせていく。

 経験組の騎士達と組ませ、王都の巡回や警備をやらされて、それから、初めて、ある程度動けるような経験を積むと、王宮での警備に当てられる。

 貴族などは、初めから剣技を習っているものばかりなので、騎士養成学校にやって来ても、剣技の科目は、ある程度、問題なくこなすことができる。

 だが、王国騎士団は、ただ剣を振り回せばよいというだけの仕事ではないから、その他の戦術も習えば、色々な科目を終了していかなければならない。

 一年でも、ほとんどが、基礎知識で終わってしまっている。

 だから、もし――騎士になる資格である年齢を下げた場合、一体、どんな問題が上がって来るのか、考慮しなければならないのか、気を付けなければならないのか、ギルバートもラソムに聞いてみたかったのだ。

 この領地にやって来なければ、たぶん、ギルバートだって、そんなことを考えもしなかっただろう。

 別に、成人した大人が騎士になり始めても、問題はない。
 今までだって、騎士団は成り立っているし、緊急だろうと、きちんと機動できている。戦力にはなっている。

 それでも――今まで考えもしなかった新たな可能性は、出てきたことになる。

 これも、セシルが言うように、新たな、というものなのだろうか。

 少々、セシルに感化されて来てしまったのだろうか。

 ギルバートも、自嘲気味に、微苦笑を浮かべてしまう。

 ここ、連日、連夜、定例の報告会に参加させてもらっているギルバート達は、端にあるソファーに座って、会議の邪魔はしない。

 でも、定例の報告会に続き、豊穣祭の報告会も見学させてもらっている。
 いつも、いつも、その会議があまりにスムーズで、簡潔で、無駄が一切なくて、ただただ感心させられてしまっている。

 そんな中で、問題が上がって来ても、今まで見て来たセシルは、


「なぜですか?」


必ず、理由を聞いていた。

 「少々、無理かもしれません……」 という対応でも、セシルは、必ずその理由を聞いていた。

 絶対に、頭ごなしに言葉だけを信じなくて、それで、理由を聞いて、必ず、状況を理解することを、心掛けているように見えたのだ。

 だから、他の者にとっては、難しくなってきた仕事でも、セシルにとっては問題ではなく、すぐに、当座の解決策が上がって来る令嬢だった。

 解決が素早いなあ……と、何度、ギルバートも感心してしまったことか。

 それで、できないと決めつけず、セシルは、簡単に次の道を、他の方法を探し、そこで、まごついていないのだ。


「では、今年は、それで挑戦してみましょう。いい機会だから」


 とも、何度か、聞いたセリフだ。

 何事も、自分達の知らない経験でも、未知の知識でも、セシルは立ち止まってなどいない。
 それで、少しでも挑戦してみて、どうなるか判断してみましょう、といつも前向きなのだ。

 失敗を恐れていない。
 失敗は、次の改善余地になって、セシルにとっては、貴重な経験と知識、となってしまう。

 なにもかもが、前向きで、そのセシルを見ているギルバートも、なんだか、セシルの行動を見ていたら、何でもできそうな気になってきてしまうのだから、不思議なものだ。

 それで、王国内で子供の騎士学校はない。だからと言って、そんな考えを禁止する理由もない。

 少々、検討してみる価値はあるのではないだろうか。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜

和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`) https://twitter.com/tobari_kaoru ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに…… なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。 なぜ、私だけにこんなに執着するのか。 私は間も無く死んでしまう。 どうか、私のことは忘れて……。 だから私は、あえて言うの。 バイバイって。 死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。 <登場人物> 矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望 悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司 山田:清に仕えるスーパー執事

乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました

雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった... その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!? たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく ここが... 乙女ゲームの世界だと これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

一家の恥と言われた令嬢ですが、嫁ぎ先で本領を発揮させていただきます

風見ゆうみ
恋愛
ベイディ公爵家の次女である私、リルーリアは貴族の血を引いているのであれば使えて当たり前だと言われる魔法が使えず、両親だけでなく、姉や兄からも嫌われておりました。 婚約者であるバフュー・エッフエム公爵令息も私を馬鹿にしている一人でした。 お姉様の婚約披露パーティーで、お姉様は現在の婚約者との婚約破棄を発表しただけでなく、バフュー様と婚約すると言い出し、なんと二人の間に出来た子供がいると言うのです。 責任を取るからとバフュー様から婚約破棄された私は「初夜を迎えることができない」という条件で有名な、訳アリの第三王子殿下、ルーラス・アメル様の元に嫁ぐことになります。 実は数万人に一人、存在するかしないかと言われている魔法を使える私ですが、ルーラス様の訳ありには、その魔法がとても効果的で!? そして、その魔法が使える私を手放したことがわかった家族やバフュー様は、私とコンタクトを取りたがるようになり、ルーラス様に想いを寄せている義姉は……。 ※レジーナブックス様より書籍発売予定です! ※本編完結しました。番外編や補足話を連載していきます。のんびり更新です。 ※作者独自の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

処理中です...