上 下
130 / 530
Part1

Д.в 報告会? - 02

しおりを挟む
「今夜のお仕事は、終了なされたのですか?」
「いいえ。これから、定例の報告会がございまして」
「そうですか」

 そうなると、夕食を一緒にしているセシルであっても、また、これから仕事が残っていたらしい。

「我々のことでしたら、そのようにお気遣いなさらなくとも――。お忙しい中、我々は滞在させていただいているのですから」

「いえ、夕食をご一緒にする程度、気遣いでも、お世話、でもございませんでしょう? なんだか、お二人を放ったらかしのままですものね」

「いいえ。どうか、そのようなことは、お気になさらないでください」

 初めから、セシルは多忙で今はタイミングが悪いのだ、とギルバート達に説明してきたことだ。

 だから、セシルがギルバート達と顔を合わせる機会が少なくとも、その多忙さは理解しているし、さすがに、滞在を許されたギルバート達が、これ以上の無理を、セシルに押し付けることはできない。

「それに、私が皆様と夕食をご一緒すると、邸の者達も安心しますしね」
「――それほど、ご多忙だからでしょうか?」

「ええ、まあ……それもあるのですが、移動をしていたり、視察をしていると、つい、夕食の時間を忘れてしまうものでして。それで、邸の者からも、いつも、叱られていますの」
「そう、でしたか……」

 たしなめられるのは理解できても、主が臣下から叱られるなど――驚きな光景だ。

「では、移動中など、なにをお食べになられているのですか?」
「そこらで摘まめるものなのですけれど」

「つまめるもの? それは?」
「宿場町にいるのでしたら、露店とかでも、簡単に軽食が手に入りますし、移動中であれば、携帯食で持ち歩いているビスケット、とか?」

「それは――邸の方も心配なさるでしょうね……」

 ビスケット(注:ビスケットは、アメリカでお馴染みのスコーンのようなもの。お菓子ではない)でお腹が膨れるはずもない。
 セシルの仕事の量も、多忙さも考慮すれば、その程度のスナックで動き回れるセシルの方が、驚きだ。

「邸に戻ってくると、必ず、食事の時は、このように座らされてしまうものでして……。それで、仕事を持ち込んだら叱られますし、しっかり食事を終えるまでは、仕事もできませんし……」

 だから、セシルは、面倒なら、夕食をすっ飛ばしてしまう、と言っているのだろう。

 だが、益々、心配しているであろう邸の者達が、セシルを叱りつけている光景が簡単に予想されて、ギルバートも納得してしまっていた。

「実は、食事を噛んでいる時間も勿体ないなぁ……、なんて思う時もありまして」

 それは――かなり重症だろう……。

 邸の者達が、セシルを心配する理由が、解ってしまう。

「食事は、大切ですよ」
「ええ、そうなんですよね。それを言いつけている私が、いつも破るものですから、すぐに、叱られてしまうのです」
「なるほど」

「ところで――豊穣祭の三日前ほどには、私の父も領地にやってきますので」
「ヘルバート伯爵ですか?」

「ええ、そうです。そして、母と弟も。他国からのゲストがいらしていると知ったら、きっと驚くでしょうね」
「お会いできるのを、楽しみにしております」

 おまけに、そのゲストが隣国のアトレシア大王国からの騎士団で、ギルバートなど、隣国の第三王子殿下などと知ったものなら、セシルの両親も、きっと、度肝を抜かすこと間違いなし。

 それが判っていて、わざと両親に知らせていないセシルも、セシルである。

「食事の後に報告会がありますけれど、皆様は、どうなさいます? もう、視察巡りが濃いですものね。お疲れでしょう?」

「いえ、我々は大丈夫ですが。――どう、とは――あの……、まさか、我々も、報告会に参加させていただけるのですか?」

「それは構いませんけれど」
「構わないんですか……?!」

 それこそ、報告会など、領地内だけのまつりごとを話すものではないのか?

「定例の報告会など、ただ、一日の報告を済ませるだけですので、他国のお方が混ざっても、なにも問題ではありませんわ。今日一日はつつがなく終わりました、なんて報告をお聞きになったくらいで、他国への侵略などできませんでしょうし、その程度で、まつりごとを操ることだって、できませんでしょう?」

「いえ、そう、ですが……」
「そう言った報告会ですので、きっと、つまらないと感じてしまわれると思いますが?」

「そのようなことは――あの……、本当に、参加させていただいても、よろしいのでしょうか?」
「ええ、構いませんけれど。お疲れではありません? 三日間、かなり強行軍でしたでしょう?」

「いえ、我々は問題ありません。――ですが、本当によろしいのでしょうか……」
「そのように他領、そして他国の政を心配なさってくださるのですから、もしかして、ただの定例の報告会に、興味がおありなのですか?」

 セシルは、ただ二人と食事を一緒にしていて、話の流れから、社交辞令で誘ったようなものだ。

 まさか、ギルバートが本気で報告会に参加したい、その興味があったなど、思いもよらなかった。

「もし、ご迷惑でなければ」
「迷惑ではありませんわ。つまらないものですけれど」

 さすがにそのコメントには、ギルバートも微苦笑を禁じ得ない。

「いえ……。ご令嬢の領地は――こう、なんと申しますか、我々の理解の域を超えていまして……」

 それを認めてしまうのは少々恥ずかしいことだが、それでも、それが事実なだけに、ギルバートも隠しておかないことにした。

「変わってはいるでしょう?」
「はい」

 変わっている、などという次元の問題ではないのだったが……。

「ですから、ご迷惑でなければ、是非、参加させていただきたくあります」

「ええ、よろしいですわよ。では、その代わりと言ってはなんですが、報告会後、皆様の意見や感想を、教えて下さいませんか? 改善の余地があるかどうか、今後の為にもなりますから」

「もちろんです」

 だが、セシルの統治方法、運営方法に――すでに理解の域を超えている情報が満載なこの地で、一体、どれだけ、ギルバートやクリストフが意見など、出せるというのだろうか。

「報告会は、一応、八時からとなっていますので、食事の後は、自室で、少しだけ休憩なさってくださいね」
「わかりました。ありがとうございます」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました

雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった... その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!? たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく ここが... 乙女ゲームの世界だと これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話

乙女ゲームの世界に転生した!攻略対象興味ないので自分のレベル上げしていたら何故か隠しキャラクターに溺愛されていた

ノアにゃん
恋愛
私、アリスティーネ・スティアート、 侯爵家であるスティアート家の第5子であり第2女です そして転生者、笹壁 愛里寿(ささかべ ありす)です、 はっきり言ってこの乙女ゲーム楽しかった! 乙女ゲームの名は【熱愛!育ててプリンセス!】 約して【熱プリ】 この乙女ゲームは好感度を上げるだけではなく、 最初に自分好みに設定したり、特化魔法を選べたり、 RPGみたいにヒロインのレベルを上げたりできる、 個人的に最高の乙女ゲームだった! ちなみにセーブしても一度死んだらやり直しという悲しい設定も有った、 私は熱プリ世界のモブに転生したのでレベルを上げを堪能しますか! ステータスオープン! あれ?  アイテムボックスオープン! あれれ? メイクボックスオープン! あれれれれ? 私、前世の熱プリのやり込んだステータスや容姿、アイテム、ある‼ テイム以外すべて引き継いでる、 それにレベルMAX超えてもモンスター狩ってた分のステータス上乗せ、 何故か神々に寵愛されし子、王に寵愛されし子、 あ、この世界MAX99じゃないんだ、、、 あ、チートですわ、、、 ※2019/ 7/23 21:00 小説投稿ランキングHOT 8位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 6:00 小説投稿ランキングHOT 4位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 12:00 小説投稿ランキングHOT 3位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 21:00 小説投稿ランキングHOT 2位ありがとうございます‼ お気に入り登録1,000突破ありがとうございます‼ 初めてHOT 10位以内入れた!嬉しい‼

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり
恋愛
平凡な女子高生、加賀深涼はハロウィンの夜に不思議な男の声を聴く。 疎遠だった幼馴染の真堂刃や、仮装しに集まっていた人たちとともに流星群の落下地点から異世界『エーデルラーム』に召喚された。 他の召喚者が召喚魔法師の才能を発現させる中、涼だけは魔力なしとして殺されかける。 そんな時、助けてくれたのは世界最強最悪の賞金首だった。 一般人生活を送ることになった涼だが、召喚時につけられた首輪と召喚主の青年を巡る争いに巻き込まれていく。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載。 [お願い] 敵役へのヘイト感想含め、感想欄への書き込みは「不特定多数に見られるものである」とご理解の上、行ってください。 ご自身の人間性と言葉を大切にしてください。 言葉は人格に繋がります。 ご自分を大切にしてください。

処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

インバーターエアコン
恋愛
 王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。   ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。 「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」 「はい?」  叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。  王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。  (私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)  得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。  相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!

Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜! 【第2章スタート】【第1章完結約30万字】 王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。 主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。 それは、54歳主婦の記憶だった。 その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。 異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。 領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。             1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します! 2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ  恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。  <<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

処理中です...