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Part1
Д.а 晩餐会の招待状 - 02
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* * *
馬を飛ばし、快調なスピードで、アトレシア大王国の王都を発ったギルバート一行は、数日陸路を駆けて、ノーウッド王国にやって来ていた。
アトレシア大王国からノーウッド王国に向かう道は、何か所かあるが、ヘルバート伯爵令嬢が治めているという南の領地に向かう時は、大抵、南西のノーウッド王国に隣接している街から、ノーウッド王国に入ることが最短だった。
国境側の通過はあまりに簡単で、ただ、アトレシア大王国側の国境を超えるだけで、ノーウッド王国に入国していた。
だが、ヘルバート伯爵令嬢が治めるコトレア領への出入りは、領門で検問があり、通行書の発行と共に、コトレア領内の移動の登録までさせられた。
ギルバート達は、隣国アトレシア大王国の騎士団の制服を(ちゃんと) 着込んでいる。
それでも、領門を通過する際は、そこで並んでいた他の商人や平民達と同じ扱いで、順番待ちも課されてしまった。
まあ、王国の騎士団の権力をふりかざしに来たのではないから、義理堅く、順番を待ち、荷物の検問も素直に受け、自分達の名前と所在の登録も(文句を言わず)、指示された通り、全部の手続きを済ませたギルバート達だった。
それから領門を通り過ぎ、開けた場所をゆっくりと進んで行くと、町並みらしき景色が、視界に飛び込んでくる。
ギルバート達は、まだ日差しが明るい午後に、コトレア領に到着することができたので、町の通りを進んで行くと、地元の領民風情や、商隊らしき団体だったりと、周囲は賑わっていた。
領門で説明された通り、大通りを真っすぐ進んで行くと、右手に“領主館”という標示が立てられていて、親切な印に従い、右に曲がっていくギルバート達だ。
それから、店や家などの建物を通り過ぎていくと、目の前に、また門がある。
きっと、これが報告であった“通行門”なのだろう。
門の前には、領地の騎士だろうか――制服を着た若い青年が、二人立っていた。
ギルバート達が門に近づいてくるので、相手の方は、表情を変えずにいても、警戒している様相がすぐに伺えた。
ギルバートは馬から降り、同じように馬から降りたクリストフに、自分の馬の手綱を手渡した。
ゆっくりと、ギルバートが門の近くに寄っていく。
「私はアトレシア大王国騎士団の者です。王国より、王太子殿下の使者として遣わされました。領主、ヘルバート伯爵令嬢に、お目通りを願いたい」
「通行書を拝見させてください」
「どうぞ」
領門で渡された書類の全部を、ギルバートは差し出していた。
「全員分お願いします」
「わかりました」
ギルバートはそこから離れ、待機している部下達の元に戻っていく。
「先程発行された通行書を出してくれ」
「わかりました」
それで、残りの三人が馬の手綱を引きながら、ギルバートの前に寄ってきて、二つ折りにしていた数枚の書類を差し出した。
それを受け取って、ギルバートは、また門の近くまで戻っていく。
「これを」
「拝見します」
一人の騎士が全部の書類を受け取り、それから横に動き出してしまった。
どこへ行くのだろうと、ちょっとだけ、目線でその動きを折っていたギルバートの前で、その騎士は、領門のすぐ横に設置されている、小さな小屋のような場所に入っていったのだ。
それからしばらく待つと、小屋に入っていた騎士が戻ってきて、
「お返しします。今から、領主様の確認を取りますので、その間、ここでお待ちください」
「わかりました」
通行書の確認だけでは、簡単に、通行門を通過させてくれないようである。
ギルバート達は隣国の王国からの使者で、騎士団の騎士であっても、領主であるヘルバート伯爵令嬢が領城の入城を許可してくれなければ、ギルバート達はその場で策が尽きてしまう。
アトレシア大王国の名前を聞いて――あの伯爵令嬢が怒らないことを、祈るだけである……。
「これは――まさかと思いますが、面会拒絶――などということではありませんよね……」
領城へと続く通行門の前でさっきから――優に、一時間は待たされてしまっているギルバートと、付き添いの騎士達。
全員が、未だ、馬に騎乗したまま、門の前で、待ちぼうけを食らった状態だった。
ギルバートの腹心で、第三王子殿下の補佐役として、幼少からずっと一緒のクリストフも、渋面をみせて、通行門の向こうに見える景色を眺めて――睨んでいる。
通行門からは、まっすぐに伸びた整頓された道が見えるだけで、その左右は林で囲まれており、門の場所からでは、領内を見渡すことはできなかった。
「突然、押しかけてきたのは、我々の方だ。無理を言ってしまったのかもしれないのだから、仕方ない」
「そう、かもしれませんが――」
でも、クリストフは、文句は言いたそうな顔をしている。
まあ、ギルバートは、アトレシア大王国の正式な使者として、コトレアの領地にやって来た。
王太子殿下の使者として、正式にセシルに面会を要請しているのだから、それ相応の対応が返ってくるものであろうし、伯爵家が、他国の王家からの使者を蔑ろにすることは、さすがにないだろう。
その文句は十分に理解できるが、ギルバート達が(呼ばれもしないのに)、突然、押しかけてきたことも、事実である。
ただ、もしかして、ヘルバート伯爵令嬢は――アトレシア大王国とは、これ以上、関係を持ちたくないのかもしれないな……という考えは、ギルバートの頭の隅をかすったことは、否定できない。
通行門の隣には、雨風をしのげる屋根がついた場にベンチが置かれていて、
「そこでお待ちください」
とは提案されたが、ギルバート達はそれを断り、未だ、馬の上に騎乗したままだった。
辛抱強く待っているギルバート達の視界の前で、門の向こうから制服を着た騎士らしき男性が、騎馬で駆けてくるのが目に入ってきた。
それで、門の向こう側から、門番になにかを指示し、やっと門が開いたようである。
「お待たせいたしました。マスターからの許可が下りましたので、邸にご案内いたします」
「わかりました」
「では、どうぞ」
騎士に先導され、ギルバート達は門を通り抜けていく。
通行門を通り抜けると、門の外から見えた風景のままで、林に囲まれた真っ直ぐに伸びた道並みが整頓され、馬の足を軽快に進めていく先に――どうやら、それほど大きくない領城が見えてきた。
領城へと続く内門も通り過ぎ、景観が広くなった領城の前で、執事らしき男性が静かに控えていた。
「私は、アトレシア大王国第三騎士団副団長をしています、ギルバート・アトレシアと申します。今日は、王太子殿下の勅使として、こちらに伺わせていただきました。ヘルバート伯爵令嬢の面会を、許可していただきたい」
馬から下りたギルバートは、執事にきちんと向き直る。
「遠方より、良くお越しくださいました。マスターより、その指示を伺っております。邸内へご案内いたしますので、どうぞ、こちらへ」
「ありがとうございます」
「馬の方は、こちらで世話をしておきますので。お荷物は――」
「いえ、荷物は、そのままにしておいてください」
「承知致しました」
静かに頷いた執事は、後ろに控えていた数人の使用人に目配せをした。
使用人が、すぐに、ギルバート達が乗ってきた馬の手綱を引いていく。
「では、どうぞ、こちらへ」
執事に案内され、ギルバート達は、領城内(ここの人間は、邸と言っている) に足を進めていく。
邸自体の造りも珍しいものはなく、どこにでもある貴族の邸と、あまり変わり映えがない。丁度品があり、絵画があり、そんなものである。
ギルバート達は、客室らしき部屋に案内されていた。
「マスターは、ただ今、席を外しておりますので、どうぞ、お掛けになってお待ちください」
そう促され、テーブルを挟んで長椅子の一つに、ギルバートが腰を下ろしていく。
「皆様もどうぞ。マスターは邸に向かっておられますので、到着まで、少々、お時間がかかってしまうかもしれません」
そう示唆されて、ギルバートの部下達が、その視線だけをギルバートに向けてきた。
馬を飛ばし、快調なスピードで、アトレシア大王国の王都を発ったギルバート一行は、数日陸路を駆けて、ノーウッド王国にやって来ていた。
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国境側の通過はあまりに簡単で、ただ、アトレシア大王国側の国境を超えるだけで、ノーウッド王国に入国していた。
だが、ヘルバート伯爵令嬢が治めるコトレア領への出入りは、領門で検問があり、通行書の発行と共に、コトレア領内の移動の登録までさせられた。
ギルバート達は、隣国アトレシア大王国の騎士団の制服を(ちゃんと) 着込んでいる。
それでも、領門を通過する際は、そこで並んでいた他の商人や平民達と同じ扱いで、順番待ちも課されてしまった。
まあ、王国の騎士団の権力をふりかざしに来たのではないから、義理堅く、順番を待ち、荷物の検問も素直に受け、自分達の名前と所在の登録も(文句を言わず)、指示された通り、全部の手続きを済ませたギルバート達だった。
それから領門を通り過ぎ、開けた場所をゆっくりと進んで行くと、町並みらしき景色が、視界に飛び込んでくる。
ギルバート達は、まだ日差しが明るい午後に、コトレア領に到着することができたので、町の通りを進んで行くと、地元の領民風情や、商隊らしき団体だったりと、周囲は賑わっていた。
領門で説明された通り、大通りを真っすぐ進んで行くと、右手に“領主館”という標示が立てられていて、親切な印に従い、右に曲がっていくギルバート達だ。
それから、店や家などの建物を通り過ぎていくと、目の前に、また門がある。
きっと、これが報告であった“通行門”なのだろう。
門の前には、領地の騎士だろうか――制服を着た若い青年が、二人立っていた。
ギルバート達が門に近づいてくるので、相手の方は、表情を変えずにいても、警戒している様相がすぐに伺えた。
ギルバートは馬から降り、同じように馬から降りたクリストフに、自分の馬の手綱を手渡した。
ゆっくりと、ギルバートが門の近くに寄っていく。
「私はアトレシア大王国騎士団の者です。王国より、王太子殿下の使者として遣わされました。領主、ヘルバート伯爵令嬢に、お目通りを願いたい」
「通行書を拝見させてください」
「どうぞ」
領門で渡された書類の全部を、ギルバートは差し出していた。
「全員分お願いします」
「わかりました」
ギルバートはそこから離れ、待機している部下達の元に戻っていく。
「先程発行された通行書を出してくれ」
「わかりました」
それで、残りの三人が馬の手綱を引きながら、ギルバートの前に寄ってきて、二つ折りにしていた数枚の書類を差し出した。
それを受け取って、ギルバートは、また門の近くまで戻っていく。
「これを」
「拝見します」
一人の騎士が全部の書類を受け取り、それから横に動き出してしまった。
どこへ行くのだろうと、ちょっとだけ、目線でその動きを折っていたギルバートの前で、その騎士は、領門のすぐ横に設置されている、小さな小屋のような場所に入っていったのだ。
それからしばらく待つと、小屋に入っていた騎士が戻ってきて、
「お返しします。今から、領主様の確認を取りますので、その間、ここでお待ちください」
「わかりました」
通行書の確認だけでは、簡単に、通行門を通過させてくれないようである。
ギルバート達は隣国の王国からの使者で、騎士団の騎士であっても、領主であるヘルバート伯爵令嬢が領城の入城を許可してくれなければ、ギルバート達はその場で策が尽きてしまう。
アトレシア大王国の名前を聞いて――あの伯爵令嬢が怒らないことを、祈るだけである……。
「これは――まさかと思いますが、面会拒絶――などということではありませんよね……」
領城へと続く通行門の前でさっきから――優に、一時間は待たされてしまっているギルバートと、付き添いの騎士達。
全員が、未だ、馬に騎乗したまま、門の前で、待ちぼうけを食らった状態だった。
ギルバートの腹心で、第三王子殿下の補佐役として、幼少からずっと一緒のクリストフも、渋面をみせて、通行門の向こうに見える景色を眺めて――睨んでいる。
通行門からは、まっすぐに伸びた整頓された道が見えるだけで、その左右は林で囲まれており、門の場所からでは、領内を見渡すことはできなかった。
「突然、押しかけてきたのは、我々の方だ。無理を言ってしまったのかもしれないのだから、仕方ない」
「そう、かもしれませんが――」
でも、クリストフは、文句は言いたそうな顔をしている。
まあ、ギルバートは、アトレシア大王国の正式な使者として、コトレアの領地にやって来た。
王太子殿下の使者として、正式にセシルに面会を要請しているのだから、それ相応の対応が返ってくるものであろうし、伯爵家が、他国の王家からの使者を蔑ろにすることは、さすがにないだろう。
その文句は十分に理解できるが、ギルバート達が(呼ばれもしないのに)、突然、押しかけてきたことも、事実である。
ただ、もしかして、ヘルバート伯爵令嬢は――アトレシア大王国とは、これ以上、関係を持ちたくないのかもしれないな……という考えは、ギルバートの頭の隅をかすったことは、否定できない。
通行門の隣には、雨風をしのげる屋根がついた場にベンチが置かれていて、
「そこでお待ちください」
とは提案されたが、ギルバート達はそれを断り、未だ、馬の上に騎乗したままだった。
辛抱強く待っているギルバート達の視界の前で、門の向こうから制服を着た騎士らしき男性が、騎馬で駆けてくるのが目に入ってきた。
それで、門の向こう側から、門番になにかを指示し、やっと門が開いたようである。
「お待たせいたしました。マスターからの許可が下りましたので、邸にご案内いたします」
「わかりました」
「では、どうぞ」
騎士に先導され、ギルバート達は門を通り抜けていく。
通行門を通り抜けると、門の外から見えた風景のままで、林に囲まれた真っ直ぐに伸びた道並みが整頓され、馬の足を軽快に進めていく先に――どうやら、それほど大きくない領城が見えてきた。
領城へと続く内門も通り過ぎ、景観が広くなった領城の前で、執事らしき男性が静かに控えていた。
「私は、アトレシア大王国第三騎士団副団長をしています、ギルバート・アトレシアと申します。今日は、王太子殿下の勅使として、こちらに伺わせていただきました。ヘルバート伯爵令嬢の面会を、許可していただきたい」
馬から下りたギルバートは、執事にきちんと向き直る。
「遠方より、良くお越しくださいました。マスターより、その指示を伺っております。邸内へご案内いたしますので、どうぞ、こちらへ」
「ありがとうございます」
「馬の方は、こちらで世話をしておきますので。お荷物は――」
「いえ、荷物は、そのままにしておいてください」
「承知致しました」
静かに頷いた執事は、後ろに控えていた数人の使用人に目配せをした。
使用人が、すぐに、ギルバート達が乗ってきた馬の手綱を引いていく。
「では、どうぞ、こちらへ」
執事に案内され、ギルバート達は、領城内(ここの人間は、邸と言っている) に足を進めていく。
邸自体の造りも珍しいものはなく、どこにでもある貴族の邸と、あまり変わり映えがない。丁度品があり、絵画があり、そんなものである。
ギルバート達は、客室らしき部屋に案内されていた。
「マスターは、ただ今、席を外しておりますので、どうぞ、お掛けになってお待ちください」
そう促され、テーブルを挟んで長椅子の一つに、ギルバートが腰を下ろしていく。
「皆様もどうぞ。マスターは邸に向かっておられますので、到着まで、少々、お時間がかかってしまうかもしれません」
そう示唆されて、ギルバートの部下達が、その視線だけをギルバートに向けてきた。
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