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Part1

* Д.а 晩餐会の招待状 *

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 セシルが参加した夜会から、数か月が軽く経っていた。

 アトレシア大王国では、あの事件後の処理で、騎士団は、貴族や関係者の捕縛で、多忙を極めていた。

 官僚達は、次々に明かされる陰謀、横領、その他諸々の犯罪の後始末に追われ、宮殿内ではてんやわんやの毎日が続いていた。

 捕縛されたエリングボー伯爵、ダル男爵、両家はお取り潰し、家名断絶。一族・関係者は投獄、流刑、または修道院送りという刑罰を受け、屋敷で働いていた使用人全員も解雇。

 没収された両家の領地は、今は、王領として管理されている。

 セシルの協力で、王太子殿下失脚を狙う陰謀を企てたフリイス公爵を含め、側近、近親の関係者は、地下牢ヘの永久投獄。

 事件に関与した貴族達の身内、または、繋がりのある親族共々、貴族籍の剥奪はくだつ、家名断絶の重刑罰を受け、また更なる陰謀や反旗をひるがえしたりしないよう、遥か遠くの外国に流刑るけいの刑を受けていた。

 現代とは違い、ギロチンのある王国もあれば、ギロチンがなくと、もその場で即刻処刑という、死刑罪が適用されている王国など山程ある。

 アトレシア大王国では、処刑よりも――特に、高位貴族を罰する時に関しては、罰せられた貴族は身包みぐるみはがされ、今まで威張り散らしていた地位も立場も、剥奪される。

 処刑よりもその屈辱を重きの刑としているので、重刑罰を科せられた貴族の罪人達は、貴族でもなんでもなく、平民以下の虫けら同然の扱いを受けることがよくあった。

 牢屋での罪人監視とて経費がかさむが、簡単に殺さず――むしろ、長い時間をかけて、威張り散らした貴族達をはずかしめ、精神的に追い詰める――現代で考えれば、拷問ごうもんに近い刑罰が処されていたのだ。

 異世界転生物語だろうと、少女小説や漫画だろうと、華やかな王国物語や王宮物語など、誰かが犯罪を犯し捕まっても、その場面で詳細など記さないものだ。

 それで読者を怖がらせないよう、忌避感を持たせない配慮がされていて、物語では暗い場面を見せはしないことが多い。

 だが、実際、中世ヨーロッパなどの王政では、拷問ごうもんもどきの刑罰だってしょっちゅうであるし、日本の江戸時代で知られているように、ああ言った時代の牢屋は、最も罪人の扱いに残忍で、横暴で、非人道的なことが日常だったのだ。

 アトレシア大王国も例外ではなく、王国、そして、王族への反逆罪で捕縛した全員には、重い刑罰が下されていた。

 まだ、王都も王宮内も、兢々きょうきょうとした雰囲気がちらほらと残っていたが、残暑も終え、秋の実りが始まりだした頃、第三騎士団の副団長であるギルバートは、王太子殿下の執務室に呼ばれていた。

晩餐会ばんさんかいを考えている。小さなものだ。形式ばったものでもない」

 わざわざ、晩餐会ばんさんかいの内容をギルバートに説明して来るなど、アルデーラにしては、あまりに珍しい行動だった。

「ヘルバート伯爵令嬢の招待を、考えている」

 ギルバートの態度は、全く変わらず無表情だ。

 だが、その動かない瞳の奥で、またも――ある意味、名前が挙がってきて、ギルバートもなんと反応すべきか迷っていた。

「報酬の清算は、きっちり済まされているが、きちんとした礼を返していない」

 どうやら、その状態が許せないのか、我慢できないのか、兄のアルデーラの性格なら、令嬢に借りを作りっぱなしでいるのが――きっと不快であるには、違いなかった。

「ノーウッド王国へ私の使者として、ギルバート、お前を送る」
「わかりました」

「常に礼節を忘れず、隙を見せないように。威張りつけている様など見せつけたものなら、速攻で、その足元をすくわれることになるだろう」
「わかりました」

 確かに、今回の晩餐会への招待は、(またも) アトレシア大王国側からの招待である。

 ヘルバート伯爵令嬢自身が望み、頼んできたものでも何でもない。

「今回の晩餐会は、身内のみ。後は、騎士団の団長と副団長だけだ。堅苦しいものではない。その場で、礼を返したい」
「わかりました」

「先の事件のせいで、未だ、王都も王宮内も落ち着きをみせない。大人数の騎士団を引き連れるような、目立った行動は避けるように」

「わかりました。ノーウッド王国への訪問は、私を含め、数人だけで行動いたします。王国内では私服で、あちらの領地に入る前に、騎士団の制服に着替えるのはいかがでしょうか?」

 それなら、私服で移動するギルバート達は、お忍びでも、あまり目立たずに、王国を発つことができる。

 そして、ノーウッド王国に着いて、セシルに面会する時だけ、正式な使者として、礼儀正しく騎士団の制服を着れば済む。

「いいだろう。だが、監視はされているはずだ。騎士は、必ず腕の立つものを選ぶように」
「わかりました」

 ギルバートは騎士団の副団長を務めていても、それでも、王国の第三王子殿下でもあるのだ。

 “長老派”がアルデーラ達に真っ向から対抗してくるのなら、ギルバートだって、いつ何時、命を狙われてもおかしくはない。

 その可能性は、いつだってあるのだ。

「では、今から準備をしてきます」
「いいだろう。下がってよい」
「失礼いたします」




「王太子殿下より、勅使として、急使の任を授かった」
「そうですか」

「今から出立するから、その準備をしてくれ。私の他に――そうだな、あと二人いれば、問題ないだろう。腕の立つ者を」

「わかりました。して、どちらへ?」
「ノーウッド王国だ」

 ふむと、一拍の(変な) 間が降りた。

「その国の名前を聞くと、つい、思い出して良いのか、思い出すべきではないのか、そのイメージが上がってきますね」
「そうだ」

「え? そうなんですか」
「そうだ」

「がーん」
「なんだ、その変な効果音は」

「いえ。多大なショックを表現したくて」
「しなくていい」

 相変わらずのクリストフに、ギルバートも溜息ためいきをこぼす。

勅使ちょくしの任務と言っても、数日で終わらないではないですか。そういうことは、きちんと説明してくださいよ」

 準備だって、長旅の準備をしなくてはならないのに。

「だから、今、説明しているんだが」
「そういうことは、一番初めに説明してください」

 屁理屈だな。

「今回もまた、夜会ですか?」
「似たようなものだ」

 その規模もサイズも小さくて、身内だけの晩餐会ばんさんかい、らしいが。

「無理矢理、連れて来られた、とおっしゃっていたような?」
「確かに」

 だから、今回だって――きっと、そんな対応をされそうで、ギルバートもちょっと心配である。

 それでも、王太子殿下直々の指示である。
 ギルバート本人が行きたいか、行きたくないか、などという個人的な感情は問題ではないのだ。

「無駄足、または、徒労に終わらなければ良いのですが」
「言うな……」

 今は――まず、隣国ノーウッド王国に行き、あのご令嬢に面会を求めることが、先決なのだ。

 ギルバートも、つい、溜息ためいきをこぼすべきか……。

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