上 下
115 / 530
Part1

В.ж すっぱり清算 - 05

しおりを挟む
* * *


 一件落着で、今回の悪の大元であるフリイス公爵は、現代で言えば、現行犯逮捕で捕縛された。

 王宮に飛ばされた早馬で、しらせを受けた第三騎士団は、かなりの数の騎士達を、フリイス公爵家の屋敷に早急に派遣した。

 それと同時に、第三騎士団団長からの知らせを受け、アルデーラは、更なる騎士の投入で、第二騎士団の騎士達を派遣。

 彼らは、前回と同じように、屋敷を封鎖し、徹底的に、邸内の証拠を調べ上げる任務だ。

 次々と到着する騎士団の騎士達に囲まれ、屋敷の住人も使用人も捕縛され、状況が判らないまま、全員が大広間に連れて来られ、そこで監視付きのまま、屋敷の調査に取り調べが終わるまで、全員、監禁状態だ。

 フリイス公爵夫人及び、息子二人は、その場で捕縛され投獄。

 夫がなにやらうるさく動き回っていたようだったが、大した気にも留めていなかった夫人や息子二人は、自室や遊戯室で、随分、のんびりと過ごしていたらしい。

 騎士達がなだれ込んで、それで驚いた三人が、喚(わめ)き散らしていたらしい。

 「不敬罪で訴えってやるっ!」 などと。

 自分達は公爵家で最高位の貴族で、今までは、絶対不可侵の領域で権威だった為、まさか、その自分達の身に、騎士団の手が伸びるなど、夢にも思わなかったことだろう。

 今回の大捕物おおとりものは、アトレシア大王国にある七家の公爵家の一つが混ざっていただけに、“長老派”が仕切る派閥の、まず、一つ目を叩き潰した成果と言える。

 この成果は、アルデーラにとっては、ものすごい貴重な結果だった。
 後々の、アルデーラの統治を左右するほどの、最も重要な事件と認識されてもおかしくはないほどに。

 まだ王太子殿下でいる立場でありながら、今回は、ダル男爵、エリングボー伯爵、そして、大元のフリイス公爵までも粛清しゅくせいし、一家断絶、お家お取り潰しという、強硬手段を取ることが可能になった、好機となったのだから。

 これで、今まで王族を舐めていた“長老派”に対して、アルデーラ達は、真っ向から、宣戦布告したことになる。

 火蓋は切られた。

 これからは、“長老派”だって、アルデーラに対し、更なる警戒を強め、下手にアルデーラを刺激してこようなどとは、考えないだろう。

 そんな愚行をするのなら、アルデーラだって、本気で相手になってやると、“長老派”に見せしめる最良の機会となったのだ。

 屋敷中が騎士団の騎士達で埋め尽くされ出した場で、ギルバートが気が付いたら、ドアを蹴破りセシルの加勢にやってきた新手の三人は、いつの間にか消えていた。

 彼らから事情を聞くのは無理そうだとすぐに判断し、ギルバートも、深追いはさせていない。

 きっとそんなことをしたら、セシルの逆鱗げきりんに触れ、深追いさせた騎士達が、真っ向から反撃されていたことだろうから。

 ギルバートは、かなり、セシルのことを誤解している節はあるが、セシルはギルバートが何も言わないようなので、セシルも、自分から、わざわざ訂正してやる気はないようだった。

「ギルバート様」
「テイト殿」

 教会側の方に駆けて来た騎士は、夜会でも会った、団長格の若い方の騎士だ。
 となると、今やって来た騎士は、残りの騎士団の副団長のようである。

 サッと、教会内の――惨状を確認して、テイトと呼ばれた騎士も、何とコメントすべきなのか、そんな表情をみせる。

「屋敷の封鎖ですか?」
「ええ、そうです。これから、屋敷の、一斉、調査に入ります」

「そうですか。罪人及び、ここにいる護衛や郎党達は、全員、捕縛しました」
「そうですか」

 簡潔な報告を聞き終わり、テイトの視線が、セシルの方に向けられた。

 セシルの元には――見間違いない、一人の子供が立っていた。

 それで、テイトの眉間も微かに寄せられ、更に苦虫を潰したような表情をみせる。

 残りの子供達は、第三騎士団の騎士達が屋敷になだれ込んできた時に、セシルから、この場を離れるように指示され、立ち去っている。

 子供達には、すぐにリアーガ達と合流し、その後も、決して一人で行動しないように、ときつく言い渡しておいた。

 フリイス公爵家を叩き潰したのが子供達だとバレてしまえば、いつどこで、報復の矢が子供達に向けられるか、判ったものではない。

 だから、決して気を抜かず、必ず全員で行動することと、子供達はセシルにしっかりと言いつけられていたのだ。

 だが、夜会に付き添ってきたフィロだけは、セシルと一緒にこの場に残っていた。
 真っ黒なマントに全身覆われ、真っ黒な覆面をつけて。

 本当に、この場に子供がいた事実に、テイトも驚くべきなのか、何とも言えない複雑な気分だ。

 ジーっと、複雑な表情のまま、セシルを凝視しているテイトを前に、ギルバートもテイトが、今、考えているであろうことは簡単に想像がついたが、今は、まず、調査と取り調べが先なのだ。

「では、屋敷の方はお任せします」

 それで、テイトが、ギルバートにもう一度向き直る。

「わかりました」
「私は――ご令嬢を、王宮まで送ってきますので」

「わかりました。後は私が指揮を取りますので、ギルバート様は、そのまま王宮に残られてください」
「そうですか? それでは、後はお願いします」
「お任せください」

 セシルを王宮まで送り届け、それからまた、フリイス公爵家の領地に戻って来るとなると、かなりの距離と時間を要してしまう。

 だから、テイトの好意を受け取って、今は、王宮で、残りの報告待ちだけなので、ギルバートもホッとする。

 なにしろ――ギルバートは、この隣国の伯爵令嬢であるセシルから、あまり目を離したくはないのだ。

 部下達に、セシルの泊まっている客室の近辺の護衛や警護を任せたとしても、さすがに、これだけの事件を異例なスピードで解決してしまったその本人を、一人きりにさせておくのは、ギルバートとしても心落ち着かない。

 セシルの身の安全確保も大事だったが、それ以上に、ギルバートだって、このセシルを警戒せずには、いられなかったのだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました

雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった... その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!? たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく ここが... 乙女ゲームの世界だと これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話

乙女ゲームの世界に転生した!攻略対象興味ないので自分のレベル上げしていたら何故か隠しキャラクターに溺愛されていた

ノアにゃん
恋愛
私、アリスティーネ・スティアート、 侯爵家であるスティアート家の第5子であり第2女です そして転生者、笹壁 愛里寿(ささかべ ありす)です、 はっきり言ってこの乙女ゲーム楽しかった! 乙女ゲームの名は【熱愛!育ててプリンセス!】 約して【熱プリ】 この乙女ゲームは好感度を上げるだけではなく、 最初に自分好みに設定したり、特化魔法を選べたり、 RPGみたいにヒロインのレベルを上げたりできる、 個人的に最高の乙女ゲームだった! ちなみにセーブしても一度死んだらやり直しという悲しい設定も有った、 私は熱プリ世界のモブに転生したのでレベルを上げを堪能しますか! ステータスオープン! あれ?  アイテムボックスオープン! あれれ? メイクボックスオープン! あれれれれ? 私、前世の熱プリのやり込んだステータスや容姿、アイテム、ある‼ テイム以外すべて引き継いでる、 それにレベルMAX超えてもモンスター狩ってた分のステータス上乗せ、 何故か神々に寵愛されし子、王に寵愛されし子、 あ、この世界MAX99じゃないんだ、、、 あ、チートですわ、、、 ※2019/ 7/23 21:00 小説投稿ランキングHOT 8位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 6:00 小説投稿ランキングHOT 4位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 12:00 小説投稿ランキングHOT 3位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 21:00 小説投稿ランキングHOT 2位ありがとうございます‼ お気に入り登録1,000突破ありがとうございます‼ 初めてHOT 10位以内入れた!嬉しい‼

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり
恋愛
平凡な女子高生、加賀深涼はハロウィンの夜に不思議な男の声を聴く。 疎遠だった幼馴染の真堂刃や、仮装しに集まっていた人たちとともに流星群の落下地点から異世界『エーデルラーム』に召喚された。 他の召喚者が召喚魔法師の才能を発現させる中、涼だけは魔力なしとして殺されかける。 そんな時、助けてくれたのは世界最強最悪の賞金首だった。 一般人生活を送ることになった涼だが、召喚時につけられた首輪と召喚主の青年を巡る争いに巻き込まれていく。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載。 [お願い] 敵役へのヘイト感想含め、感想欄への書き込みは「不特定多数に見られるものである」とご理解の上、行ってください。 ご自身の人間性と言葉を大切にしてください。 言葉は人格に繋がります。 ご自分を大切にしてください。

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

インバーターエアコン
恋愛
 王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。   ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。 「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」 「はい?」  叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。  王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。  (私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)  得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。  相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。

転生不憫令嬢は自重しない~愛を知らない令嬢の異世界生活

リョンコ
恋愛
シュタイザー侯爵家の長女『ストロベリー・ディ・シュタイザー』の人生は幼少期から波乱万丈であった。 銀髪&碧眼色の父、金髪&翠眼色の母、両親の色彩を受け継いだ、金髪&碧眼色の実兄。 そんな侯爵家に産まれた待望の長女は、ミルキーピンクの髪の毛にパープルゴールドの眼。 両親どちらにもない色彩だった為、母は不貞を疑われるのを恐れ、産まれたばかりの娘を敷地内の旧侯爵邸へ隔離し、下働きメイドの娘(ハニーブロンドヘア&ヘーゼルアイ)を実娘として育てる事にした。 一方、本当の実娘『ストロベリー』は、産まれたばかりなのに泣きもせず、暴れたりもせず、無表情で一点を見詰めたまま微動だにしなかった……。 そんな赤ん坊の胸中は(クッソババアだな。あれが実母とかやばくね?パパンは何処よ?家庭を顧みないダメ親父か?ヘイゴッド、転生先が悪魔の住処ってこれ如何に?私に恨みでもあるんですか!?)だった。 そして泣きもせず、暴れたりもせず、ずっと無表情だった『ストロベリー』の第一声は、「おぎゃー」でも「うにゃー」でもなく、「くっそはりゃへった……」だった。 その声は、空が茜色に染まってきた頃に薄暗い部屋の中で静かに木霊した……。 ※この小説は剣と魔法の世界&乙女ゲームを模した世界なので、バトル有り恋愛有りのファンタジー小説になります。 ※ギリギリR15を攻めます。 ※残酷描写有りなので苦手な方は注意して下さい。 ※主人公は気が強く喧嘩っ早いし口が悪いです。 ※色々な加護持ちだけど、平凡なチートです。 ※他転生者も登場します。 ※毎日1話ずつ更新する予定です。ゆるゆると進みます。 皆様のお気に入り登録やエールをお待ちしております。 ※なろう小説でも掲載しています☆

処理中です...