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Part1
* В.ж すっぱり清算 *
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「ほぼ準備は整っていますが、明日の午後には全てを終えさせておきます」
暗闇が落ち始めた頃、セシル達が野営をしている場所に、フィロがやって来た。
その後ろには、覆面をしたリエフが付き添っていたが、王都の店の時のように、セシルの輪に入って来るのでもなく、少し離れた場で、見張りをしている。
籠の中に、山ほどの食事を詰め込んで来たフィロは、仕方なく、王国の騎士達にも、その差し入れを配り、そして、セシルにもしっかりと配給している。
「公爵の様子はどうですか?」
「怒りが頂点に達して、屋敷内では、大声で誰かれ構わず当たり散らしています。それで、今日は、「触らぬ神に祟りなし」 と、使用人達は、一切、公爵に近づかないようです」
「それは好都合です。さて、明日は、どうやって誘き出すべきでしょうか」
「それなら問題ありません。明日に、使用人の間で、噂をバラ巻きます。廃屋のような建物の中に、誰かが住んでいるような気配がする、と」
「そうですか。それなら、公爵自身が様子を見に来て、そこに刺客を忍ばせて置くでしょうね」
「大抵、夜になると少し物音がする、と付け足しておきましょう」
「ええ、よろしくね。建物の広さは、どのくらいです?」
「よく見かける教会の広さと、変わらないと思いますが」
敵が、20~30人の護衛を引き連れて来たのなら、祭壇から半分くらいは、埋まるかもしれない。
だが、建物内を埋め尽くすほどの兵士など、置かないだろう。
「動きが取れなくなってしまい、それこそ、本末転倒ですから」
「そうですね。では、20~30人が、目安となるでしょう」
セシルの視線がギルバートに向けられ、ギルバートも問題なく頷いた。
「わかりました。夕刻より、公爵家の屋敷付近に、騎士達を忍ばせておきましょう」
「たぶん、屋敷の門の外で、待たされる状態になると思いますので」
「そうかもしれませんね。ですが、その時は、強行で突破して来るように、指示を出しておきます」
「問題になりませんの?」
「いえ。王子殿下の御身に危険が迫っている、との知らせに立ち往生しているような騎士では、騎士は務まりませんので」
「あら、そうですか」
だから、ギルバートの立場を使い、ギルバートが囮になって、敵に捕まってしまった可能性を考慮して、強行突破の理由付けだって許される。
「マスター、これをどうぞ」
セシルにだけ、他のメンバーとは違った、なにか小さな菓子のようなものが出された。
「もう、お腹はいっぱいですから」
その一言に、ギロリと、なぜかものすごい冷たいフィロの視線が、セシルに向けられる。
「今、何か言いましたか?」
そして、あまりに冷たい態度のフィロだ。
セシルが、少々、困ったような顔をして、何も言わない。
「今、何か言いましたか?」
「――いえ……。おいしそうで、私も嬉しく思います」
「喜んでいただけたようで、私も安堵しています」
全く安堵しているような口調でも、態度でもない!
セシルは仕方がなさそうに、フィロから出された菓子のようなものに手を伸ばし、小さく、一口だけ摘まみ、それを口にする。
その間も、フィロの鷹のような目は、じーっと、セシルを睨んでいる。
これ、もしかして、家臣に世話をされる主の図?
口を挟まないで、その様子を見守っているギルバート達も、じーっと、セシルの様子を伺っている。
また、小さな一口だけを口に運ぶセシルだ。
手の平に乗るほどの小さな菓子のようだから、二口もすれば、すぐに食べ終えるであろうに、セシルの手の中には、まだ菓子が残っている。
今夜のセシルの夕食も、一番小さなパンに干し肉を挟み、それだけである。
「もしかして、食欲がないのですか?」
心配げに、ギルバートが、つい、そこで口を挟んでいた。
「そうです。疲労が溜まっていらっしゃいますから」
フィロが淡々と答えていた。
「そうでしたか……。そのような無理を強いてしまいまして、本当に申し訳ありません」
「いえ、別に、この程度は、いつものことですから……」
「え?! いつものこと? いつも、そのような無理をなさるのですか?」
「いえ、無理は、していません……」
「しています。食事管理は、健康な体を作る第一の基本。それを無視していては、体を作るどころか、体力もつけることはできませんから」
「確かにそうですね」
もちろん、そんなことは、フィロに指摘されなくても、セシルだって十分に理解していることだ……。
そうやって、セシルが、領地の領民に教え込んだことなのだから。
「お疲れのようですので、どうか、このままお休みになってください」
「いえ、そこまでは……」
「ええ、では、お言葉に甘えて」
なぜ、フィロがセシルに代わり、(しっかりと) そこで返事をしてくるのか?
セシルは、ほんの微かにだけ口を尖らせたように、膨れている。
「では、お休みになられてください」
なぜ、付き人のフィロに、セシルは言いつけられているのだろうか。
だが、ここでフィロに反論などしてしまったものなら、フィロのことだから、きっと、セシルが寝付くまでへばりついたまま、文句を言ってきそうである。
「――わかりました。では、お言葉に甘えて……」
食べきれなかった菓子はイシュトールに手渡し、セシルは、仕方がなそうに後ろの布の上に横になっていく。
「では、私はこれで」
それで、自分の仕事は終えた、とでも言えそうな態度で、フィロはさっさとその場を立ち去ってしまった。
これは――もしかしなくても、あの少年は、セシルを心配して、セシルを寝かしつけに(だけ) この場に来たのかもしれないな、とギルバート達も密かに感心してしまったことだった。
* * *
セシルから見せてもらった地図通りに、ギルバートはセシルを連れて、フリイス公爵家の敷地内に入り込んでいた。
正門側はどデカい門があり、護衛の騎士のような者も立っていた。それから、巨大な塀が続き、とてもではないが、強行突破できるような場所ではない。
だが、正門側からの屋敷から離れ、街の裏側から公爵家の敷地に近づいたら、そちら側は、特別、門もなければ塀もない。
報告通り、人の住んでいない破損している家屋があったり、雑草が多い茂り、ただの廃れた土地だけがあった。
遠くに目を凝らすと、公爵家の屋敷の外観が見えてくることから、屋敷からは、かなりの距離があると見える。
夕刻、日が落ち始めると同時に、公爵領入りしたセシル達は、裏道をかいくぐり、公爵家の敷地内に入って来ていた。
今回は、見張りに出くわすこともなく、公爵家に雇われたであろう郎党にも、でくわさなかった。
それで、きっと、セシル達を待ち伏せさせるのに、フリイス公爵が郎党達を教会内に潜ませているのだろう、という全員の見解だった。
走り込んで行くと、教会らしき建物があり、屋根は崩れ落ちそうで、手入れもされてない壁はボロボロで、所々、窓も壊れている。
イシュトールとユーリカが最初に協会の中に入り、セシル達も後に続いた。
バタンッ――
全員が扉の中に入った瞬間、後ろから、いきなり扉が勢いよく閉められたのだ。
カンカン、カンカン――
ドカッ――
後ろの扉で、派手な音が響き、扉が騒音と一緒になって、振動している。
「これ、もしかしなくても、扉に杭を打ち込んでいるんですか?」
「どうやら、そのようですが」
「わざわざ、無駄なことを。大きな梁でも使い、扉の取っ手に差し込んでおけば、それで済みますのに」
「ええ、まあ」
そして、出口を閉じられ、閉じ込められてしまった状態でも、全く普段と変わらない態度で――世間話?
暗闇が落ち始めた頃、セシル達が野営をしている場所に、フィロがやって来た。
その後ろには、覆面をしたリエフが付き添っていたが、王都の店の時のように、セシルの輪に入って来るのでもなく、少し離れた場で、見張りをしている。
籠の中に、山ほどの食事を詰め込んで来たフィロは、仕方なく、王国の騎士達にも、その差し入れを配り、そして、セシルにもしっかりと配給している。
「公爵の様子はどうですか?」
「怒りが頂点に達して、屋敷内では、大声で誰かれ構わず当たり散らしています。それで、今日は、「触らぬ神に祟りなし」 と、使用人達は、一切、公爵に近づかないようです」
「それは好都合です。さて、明日は、どうやって誘き出すべきでしょうか」
「それなら問題ありません。明日に、使用人の間で、噂をバラ巻きます。廃屋のような建物の中に、誰かが住んでいるような気配がする、と」
「そうですか。それなら、公爵自身が様子を見に来て、そこに刺客を忍ばせて置くでしょうね」
「大抵、夜になると少し物音がする、と付け足しておきましょう」
「ええ、よろしくね。建物の広さは、どのくらいです?」
「よく見かける教会の広さと、変わらないと思いますが」
敵が、20~30人の護衛を引き連れて来たのなら、祭壇から半分くらいは、埋まるかもしれない。
だが、建物内を埋め尽くすほどの兵士など、置かないだろう。
「動きが取れなくなってしまい、それこそ、本末転倒ですから」
「そうですね。では、20~30人が、目安となるでしょう」
セシルの視線がギルバートに向けられ、ギルバートも問題なく頷いた。
「わかりました。夕刻より、公爵家の屋敷付近に、騎士達を忍ばせておきましょう」
「たぶん、屋敷の門の外で、待たされる状態になると思いますので」
「そうかもしれませんね。ですが、その時は、強行で突破して来るように、指示を出しておきます」
「問題になりませんの?」
「いえ。王子殿下の御身に危険が迫っている、との知らせに立ち往生しているような騎士では、騎士は務まりませんので」
「あら、そうですか」
だから、ギルバートの立場を使い、ギルバートが囮になって、敵に捕まってしまった可能性を考慮して、強行突破の理由付けだって許される。
「マスター、これをどうぞ」
セシルにだけ、他のメンバーとは違った、なにか小さな菓子のようなものが出された。
「もう、お腹はいっぱいですから」
その一言に、ギロリと、なぜかものすごい冷たいフィロの視線が、セシルに向けられる。
「今、何か言いましたか?」
そして、あまりに冷たい態度のフィロだ。
セシルが、少々、困ったような顔をして、何も言わない。
「今、何か言いましたか?」
「――いえ……。おいしそうで、私も嬉しく思います」
「喜んでいただけたようで、私も安堵しています」
全く安堵しているような口調でも、態度でもない!
セシルは仕方がなさそうに、フィロから出された菓子のようなものに手を伸ばし、小さく、一口だけ摘まみ、それを口にする。
その間も、フィロの鷹のような目は、じーっと、セシルを睨んでいる。
これ、もしかして、家臣に世話をされる主の図?
口を挟まないで、その様子を見守っているギルバート達も、じーっと、セシルの様子を伺っている。
また、小さな一口だけを口に運ぶセシルだ。
手の平に乗るほどの小さな菓子のようだから、二口もすれば、すぐに食べ終えるであろうに、セシルの手の中には、まだ菓子が残っている。
今夜のセシルの夕食も、一番小さなパンに干し肉を挟み、それだけである。
「もしかして、食欲がないのですか?」
心配げに、ギルバートが、つい、そこで口を挟んでいた。
「そうです。疲労が溜まっていらっしゃいますから」
フィロが淡々と答えていた。
「そうでしたか……。そのような無理を強いてしまいまして、本当に申し訳ありません」
「いえ、別に、この程度は、いつものことですから……」
「え?! いつものこと? いつも、そのような無理をなさるのですか?」
「いえ、無理は、していません……」
「しています。食事管理は、健康な体を作る第一の基本。それを無視していては、体を作るどころか、体力もつけることはできませんから」
「確かにそうですね」
もちろん、そんなことは、フィロに指摘されなくても、セシルだって十分に理解していることだ……。
そうやって、セシルが、領地の領民に教え込んだことなのだから。
「お疲れのようですので、どうか、このままお休みになってください」
「いえ、そこまでは……」
「ええ、では、お言葉に甘えて」
なぜ、フィロがセシルに代わり、(しっかりと) そこで返事をしてくるのか?
セシルは、ほんの微かにだけ口を尖らせたように、膨れている。
「では、お休みになられてください」
なぜ、付き人のフィロに、セシルは言いつけられているのだろうか。
だが、ここでフィロに反論などしてしまったものなら、フィロのことだから、きっと、セシルが寝付くまでへばりついたまま、文句を言ってきそうである。
「――わかりました。では、お言葉に甘えて……」
食べきれなかった菓子はイシュトールに手渡し、セシルは、仕方がなそうに後ろの布の上に横になっていく。
「では、私はこれで」
それで、自分の仕事は終えた、とでも言えそうな態度で、フィロはさっさとその場を立ち去ってしまった。
これは――もしかしなくても、あの少年は、セシルを心配して、セシルを寝かしつけに(だけ) この場に来たのかもしれないな、とギルバート達も密かに感心してしまったことだった。
* * *
セシルから見せてもらった地図通りに、ギルバートはセシルを連れて、フリイス公爵家の敷地内に入り込んでいた。
正門側はどデカい門があり、護衛の騎士のような者も立っていた。それから、巨大な塀が続き、とてもではないが、強行突破できるような場所ではない。
だが、正門側からの屋敷から離れ、街の裏側から公爵家の敷地に近づいたら、そちら側は、特別、門もなければ塀もない。
報告通り、人の住んでいない破損している家屋があったり、雑草が多い茂り、ただの廃れた土地だけがあった。
遠くに目を凝らすと、公爵家の屋敷の外観が見えてくることから、屋敷からは、かなりの距離があると見える。
夕刻、日が落ち始めると同時に、公爵領入りしたセシル達は、裏道をかいくぐり、公爵家の敷地内に入って来ていた。
今回は、見張りに出くわすこともなく、公爵家に雇われたであろう郎党にも、でくわさなかった。
それで、きっと、セシル達を待ち伏せさせるのに、フリイス公爵が郎党達を教会内に潜ませているのだろう、という全員の見解だった。
走り込んで行くと、教会らしき建物があり、屋根は崩れ落ちそうで、手入れもされてない壁はボロボロで、所々、窓も壊れている。
イシュトールとユーリカが最初に協会の中に入り、セシル達も後に続いた。
バタンッ――
全員が扉の中に入った瞬間、後ろから、いきなり扉が勢いよく閉められたのだ。
カンカン、カンカン――
ドカッ――
後ろの扉で、派手な音が響き、扉が騒音と一緒になって、振動している。
「これ、もしかしなくても、扉に杭を打ち込んでいるんですか?」
「どうやら、そのようですが」
「わざわざ、無駄なことを。大きな梁でも使い、扉の取っ手に差し込んでおけば、それで済みますのに」
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