上 下
111 / 530
Part1

* В.ж すっぱり清算 *

しおりを挟む
「ほぼ準備は整っていますが、明日の午後には全てを終えさせておきます」

 暗闇が落ち始めた頃、セシル達が野営をしている場所に、フィロがやって来た。

 その後ろには、覆面をしたリエフが付き添っていたが、王都の店の時のように、セシルの輪に入って来るのでもなく、少し離れた場で、見張りをしている。

 かごの中に、山ほどの食事を詰め込んで来たフィロは、仕方なく、王国の騎士達にも、その差し入れを配り、そして、セシルにもしっかりと配給している。

「公爵の様子はどうですか?」

「怒りが頂点に達して、屋敷内では、大声で誰かれ構わず当たり散らしています。それで、今日は、「触らぬ神に祟りなし」 と、使用人達は、一切、公爵に近づかないようです」

「それは好都合です。さて、明日は、どうやっておびき出すべきでしょうか」

「それなら問題ありません。明日に、使用人の間で、噂をバラ巻きます。廃屋はいおくのような建物の中に、誰かが住んでいるような気配がする、と」

「そうですか。それなら、公爵自身が様子を見に来て、そこに刺客を忍ばせて置くでしょうね」
「大抵、夜になると少し物音がする、と付け足しておきましょう」

「ええ、よろしくね。建物の広さは、どのくらいです?」

「よく見かける教会の広さと、変わらないと思いますが」

 敵が、20~30人の護衛を引き連れて来たのなら、祭壇から半分くらいは、埋まるかもしれない。
 だが、建物内を埋め尽くすほどの兵士など、置かないだろう。

「動きが取れなくなってしまい、それこそ、本末転倒ですから」
「そうですね。では、20~30人が、目安となるでしょう」

 セシルの視線がギルバートに向けられ、ギルバートも問題なく頷いた。

「わかりました。夕刻より、公爵家の屋敷付近に、騎士達を忍ばせておきましょう」
「たぶん、屋敷の門の外で、待たされる状態になると思いますので」

「そうかもしれませんね。ですが、その時は、強行で突破して来るように、指示を出しておきます」
「問題になりませんの?」

「いえ。王子殿下の御身おんみに危険が迫っている、との知らせに立ち往生しているような騎士では、騎士は務まりませんので」
「あら、そうですか」

 だから、ギルバートの立場を使い、ギルバートが囮になって、敵に捕まってしまった可能性を考慮して、強行突破の理由付けだって許される。

「マスター、これをどうぞ」

 セシルにだけ、他のメンバーとは違った、なにか小さな菓子のようなものが出された。

「もう、お腹はいっぱいですから」

 その一言に、ギロリと、なぜかものすごい冷たいフィロの視線が、セシルに向けられる。

「今、何か言いましたか?」

 そして、あまりに冷たい態度のフィロだ。

 セシルが、少々、困ったような顔をして、何も言わない。

「今、何か言いましたか?」
「――いえ……。おいしそうで、私も嬉しく思います」
「喜んでいただけたようで、私も安堵しています」

 全く安堵しているような口調でも、態度でもない!

 セシルは仕方がなさそうに、フィロから出された菓子のようなものに手を伸ばし、小さく、一口だけ摘まみ、それを口にする。

 その間も、フィロの鷹のような目は、じーっと、セシルを睨んでいる。

 これ、もしかして、家臣に世話をされる主の図?

 口を挟まないで、その様子を見守っているギルバート達も、じーっと、セシルの様子を伺っている。

 また、小さな一口だけを口に運ぶセシルだ。

 手の平に乗るほどの小さな菓子のようだから、二口もすれば、すぐに食べ終えるであろうに、セシルの手の中には、まだ菓子が残っている。

 今夜のセシルの夕食も、一番小さなパンに干し肉を挟み、それだけである。

「もしかして、食欲がないのですか?」

 心配げに、ギルバートが、つい、そこで口を挟んでいた。

「そうです。疲労が溜まっていらっしゃいますから」

 フィロが淡々と答えていた。

「そうでしたか……。そのような無理を強いてしまいまして、本当に申し訳ありません」
「いえ、別に、この程度は、いつものことですから……」

「え?! いつものこと? いつも、そのような無理をなさるのですか?」
「いえ、無理は、していません……」

「しています。食事管理は、健康な体を作る第一の基本。それを無視していては、体を作るどころか、体力もつけることはできませんから」
「確かにそうですね」

 もちろん、そんなことは、フィロに指摘されなくても、セシルだって十分に理解していることだ……。
 そうやって、セシルが、領地の領民に教え込んだことなのだから。

「お疲れのようですので、どうか、このままお休みになってください」
「いえ、そこまでは……」
「ええ、では、お言葉に甘えて」

 なぜ、フィロがセシルに代わり、(しっかりと) そこで返事をしてくるのか?

 セシルは、ほんの微かにだけ口を尖らせたように、膨れている。

「では、お休みになられてください」

 なぜ、付き人のフィロに、セシルは言いつけられているのだろうか。

 だが、ここでフィロに反論などしてしまったものなら、フィロのことだから、きっと、セシルが寝付くまでへばりついたまま、文句を言ってきそうである。

「――わかりました。では、お言葉に甘えて……」

 食べきれなかった菓子はイシュトールに手渡し、セシルは、仕方がなそうに後ろの布の上に横になっていく。

「では、私はこれで」

 それで、自分の仕事は終えた、とでも言えそうな態度で、フィロはさっさとその場を立ち去ってしまった。

 これは――もしかしなくても、あの少年は、セシルを心配して、セシルを寝かしつけに(だけ) この場に来たのかもしれないな、とギルバート達も密かに感心してしまったことだった。


* * *


 セシルから見せてもらった地図通りに、ギルバートはセシルを連れて、フリイス公爵家の敷地内に入り込んでいた。

 正門側はどデカい門があり、護衛の騎士のような者も立っていた。それから、巨大なへいが続き、とてもではないが、強行突破できるような場所ではない。

 だが、正門側からの屋敷から離れ、街の裏側から公爵家の敷地に近づいたら、そちら側は、特別、門もなければへいもない。

 報告通り、人の住んでいない破損している家屋かおくがあったり、雑草が多い茂り、ただのすたれた土地だけがあった。

 遠くに目をらすと、公爵家の屋敷の外観が見えてくることから、屋敷からは、かなりの距離があると見える。

 夕刻、日が落ち始めると同時に、公爵領入りしたセシル達は、裏道をかいくぐり、公爵家の敷地内に入って来ていた。

 今回は、見張りに出くわすこともなく、公爵家に雇われたであろう郎党にも、でくわさなかった。

 それで、きっと、セシル達を待ち伏せさせるのに、フリイス公爵が郎党達を教会内にひそませているのだろう、という全員の見解だった。

 走り込んで行くと、教会らしき建物があり、屋根は崩れ落ちそうで、手入れもされてない壁はボロボロで、所々、窓も壊れている。

 イシュトールとユーリカが最初に協会の中に入り、セシル達も後に続いた。

 バタンッ――

 全員が扉の中に入った瞬間、後ろから、いきなり扉が勢いよく閉められたのだ。

 カンカン、カンカン――
 ドカッ――

 後ろの扉で、派手な音が響き、扉が騒音と一緒になって、振動している。

「これ、もしかしなくても、扉にくいを打ち込んでいるんですか?」
「どうやら、そのようですが」

「わざわざ、無駄なことを。大きなはりでも使い、扉の取っ手に差し込んでおけば、それで済みますのに」
「ええ、まあ」

 そして、出口を閉じられ、閉じ込められてしまった状態でも、全く普段と変わらない態度で――世間話?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました

雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった... その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!? たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく ここが... 乙女ゲームの世界だと これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話

乙女ゲームの世界に転生した!攻略対象興味ないので自分のレベル上げしていたら何故か隠しキャラクターに溺愛されていた

ノアにゃん
恋愛
私、アリスティーネ・スティアート、 侯爵家であるスティアート家の第5子であり第2女です そして転生者、笹壁 愛里寿(ささかべ ありす)です、 はっきり言ってこの乙女ゲーム楽しかった! 乙女ゲームの名は【熱愛!育ててプリンセス!】 約して【熱プリ】 この乙女ゲームは好感度を上げるだけではなく、 最初に自分好みに設定したり、特化魔法を選べたり、 RPGみたいにヒロインのレベルを上げたりできる、 個人的に最高の乙女ゲームだった! ちなみにセーブしても一度死んだらやり直しという悲しい設定も有った、 私は熱プリ世界のモブに転生したのでレベルを上げを堪能しますか! ステータスオープン! あれ?  アイテムボックスオープン! あれれ? メイクボックスオープン! あれれれれ? 私、前世の熱プリのやり込んだステータスや容姿、アイテム、ある‼ テイム以外すべて引き継いでる、 それにレベルMAX超えてもモンスター狩ってた分のステータス上乗せ、 何故か神々に寵愛されし子、王に寵愛されし子、 あ、この世界MAX99じゃないんだ、、、 あ、チートですわ、、、 ※2019/ 7/23 21:00 小説投稿ランキングHOT 8位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 6:00 小説投稿ランキングHOT 4位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 12:00 小説投稿ランキングHOT 3位ありがとうございます‼ ※2019/ 7/24 21:00 小説投稿ランキングHOT 2位ありがとうございます‼ お気に入り登録1,000突破ありがとうございます‼ 初めてHOT 10位以内入れた!嬉しい‼

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!

Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜! 【第2章スタート】【第1章完結約30万字】 王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。 主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。 それは、54歳主婦の記憶だった。 その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。 異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。 領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。             1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します! 2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ  恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。  <<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

流星群の落下地点で〜集団転移で私だけ魔力なし判定だったから一般人として生活しようと思っているんですが、もしかして下剋上担当でしたか?〜

古森きり
恋愛
平凡な女子高生、加賀深涼はハロウィンの夜に不思議な男の声を聴く。 疎遠だった幼馴染の真堂刃や、仮装しに集まっていた人たちとともに流星群の落下地点から異世界『エーデルラーム』に召喚された。 他の召喚者が召喚魔法師の才能を発現させる中、涼だけは魔力なしとして殺されかける。 そんな時、助けてくれたのは世界最強最悪の賞金首だった。 一般人生活を送ることになった涼だが、召喚時につけられた首輪と召喚主の青年を巡る争いに巻き込まれていく。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに掲載。 [お願い] 敵役へのヘイト感想含め、感想欄への書き込みは「不特定多数に見られるものである」とご理解の上、行ってください。 ご自身の人間性と言葉を大切にしてください。 言葉は人格に繋がります。 ご自分を大切にしてください。

処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

インバーターエアコン
恋愛
 王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。   ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。 「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」 「はい?」  叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。  王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。  (私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)  得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。  相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。

転生不憫令嬢は自重しない~愛を知らない令嬢の異世界生活

リョンコ
恋愛
シュタイザー侯爵家の長女『ストロベリー・ディ・シュタイザー』の人生は幼少期から波乱万丈であった。 銀髪&碧眼色の父、金髪&翠眼色の母、両親の色彩を受け継いだ、金髪&碧眼色の実兄。 そんな侯爵家に産まれた待望の長女は、ミルキーピンクの髪の毛にパープルゴールドの眼。 両親どちらにもない色彩だった為、母は不貞を疑われるのを恐れ、産まれたばかりの娘を敷地内の旧侯爵邸へ隔離し、下働きメイドの娘(ハニーブロンドヘア&ヘーゼルアイ)を実娘として育てる事にした。 一方、本当の実娘『ストロベリー』は、産まれたばかりなのに泣きもせず、暴れたりもせず、無表情で一点を見詰めたまま微動だにしなかった……。 そんな赤ん坊の胸中は(クッソババアだな。あれが実母とかやばくね?パパンは何処よ?家庭を顧みないダメ親父か?ヘイゴッド、転生先が悪魔の住処ってこれ如何に?私に恨みでもあるんですか!?)だった。 そして泣きもせず、暴れたりもせず、ずっと無表情だった『ストロベリー』の第一声は、「おぎゃー」でも「うにゃー」でもなく、「くっそはりゃへった……」だった。 その声は、空が茜色に染まってきた頃に薄暗い部屋の中で静かに木霊した……。 ※この小説は剣と魔法の世界&乙女ゲームを模した世界なので、バトル有り恋愛有りのファンタジー小説になります。 ※ギリギリR15を攻めます。 ※残酷描写有りなので苦手な方は注意して下さい。 ※主人公は気が強く喧嘩っ早いし口が悪いです。 ※色々な加護持ちだけど、平凡なチートです。 ※他転生者も登場します。 ※毎日1話ずつ更新する予定です。ゆるゆると進みます。 皆様のお気に入り登録やエールをお待ちしております。 ※なろう小説でも掲載しています☆

処理中です...