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Part1
В.е 意外な一面 - 03
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「証拠隠滅でしょうね」
「そうです。夜会から抜け出して公爵家に戻って来た伏兵を、公爵のような男が怒鳴りつけていました。それから、屋敷中で叫び声を張り上げていると思ったら、書斎のような部屋に戻り、それで、書類を燃やしていました」
「それで、火事のボヤ騒ぎですか?」
「そうです」
どうせ……、フィロが攪乱を目的として、ボヤ騒ぎを起こしたに違いないのだが――屋敷を本気で燃やさなかったどうか、セシルも心配になってくる……。
それで、フリウス公爵が燃やそうとしていた書類の火を消して、フィロが、間一髪で、書類を盗んでいたのだ。
それから、屋敷中がパニックしている間、フィロは書斎のような部屋の中を探らせてもらい、随分、あけっぴろげに置いてある帳簿やら、手紙の山やらを探らせてもらったのだ。
帳簿を盗んだらすぐにバレてしまうだろうから、それは盗めなかったが、それでも、執事か誰かがつけているであろう帳簿は、✖✖✖と、どれも✖ばかりがつけられていたのだ。
本棚をあさってみると、過去の帳簿があって、中身だけ盗めば、短期間ならバレないかと、それは千切ってフィロが盗んできている。
どうやら、過去五年、公爵家は巨額な赤字を見せて、資金繰りができていないようなのだ。
今は使用人の一人として潜り込んでいるジャンは、屋敷の使用人達や、庭師、そう言った下級の下人と仲良くなり、公爵家の内情を調査している。
やはり、口を挟まずとも、口を出すことも許されずとも、下働きの下人や使用人など、全員が主の事情や内情に精通しているのだ。
「公爵家の家計は、今は、かなり火の車のようです」
「まあ、そうですか。偉そうで、自分で稼いだこともないような貴族でしたら、浪費癖がついていても、不思議はありませんが」
「なんでも、ここ数年、半年ごとに徴税額が上がり、先程では、三カ月前にもまた徴税された、と聞きます」
「最低ですね」
「そうですね」
そして、その話を聞いているギルバートも、かなり嫌そうに顔をしかめている。
自分の浪費癖を直しもせずに、民に強制的な徴税を押し付け、民から搾り取るなんて、民を殺す気でいるのか、と憤慨が止まらない。
「家計が赤字の割には、随分と、たくさんの郎党を雇っているようですが」
「そいつらは、屋敷にも、何度か出向いていました。どうせ、小金で雇われた程度のヤサグレ共です」
「人数が多かったですけれど」
「そうですか。それは、先に始末しておかなくて、すみませんでした」
「あら? θのせいでなんか、全くありませんよ。全員、こちら側で叩き潰していますので、何の問題もありません」
「そうですか」
そして、それを聞いて、ほんの微かにだけ、嬉しそうに少年が目を細めるような動作をしたのを見て、ギルバートの渋面が更に広がってしまう。
「その廃屋となっている協会は、使えるかもしれませんね。そこに公爵を誘き出し、叩き潰しましょう」
「わかりました」
「準備には、どのくらい必要です?」
それで、セシルが、横で黙って座っている残りの子供達三人に向く。
二人が互いに顔を見合って、
「三日、とかですか?」
「長いですか?」
「いえ。三日なら、こちらで少々騒ぎ立てて、時間を稼いでおきましょう。三日でできますか?」
「大丈夫です」
「では、今日は仕入れで忙しいでしょうから、明日から三日。三日目の夜に、ケリを着けましょう。予定変更がある場合、即座に知らせるように」
「わかりました」
「気を付けて。無茶をしてはいけませんよ」
「はい、わかっています」
子供達はそれだけの指示で、全てを理解しているようだった。
「私達は時間を置いて、公爵領に向かいます。最初の二日は、派手に騒ぎ立てて、時間稼ぎをしてみましょう。最後の三日目は潜伏し、あなた達に合流します」
「わかりました」
「マスター、では、こちらを」
「あら、ありがとう」
そして、新たな書類を手渡されたセシルに、ギルバートが慎重な目つきを向ける。
「それは何でしょう?」
「公爵領の地図ですわ」
「地図? こんな短期間で?」
「ええ、そうですね。優秀な者達ばかりですから」
「はあ……」
「ですが、短期間でしたので、たぶん、省略されている部分もあると思いますが、それでも、十分役立つと思いますわ」
「はあ、そう、ですか……」
優秀、過ぎるのでは……?
あの夜会から、まだ四日しか経っていないのに、陰謀計画書は暴き出す、公爵家の内情にも手を入れて、公爵領の(簡略な) 地図までできあがっているなんて……。
本当に、このセシルと言い、子供達と言い、一体何者なんだ……?!
そして、またも、答えも返っては来やしない疑問ばかり。
「このまま戻ってもらうことになりますが、θには、移動ばかりできついかしら?」
「いえ、問題ありません」
「では、皆、よろしく。決して、危険なことをしてはいけませんよ」
「「わかりました」」
子供達が、全員、お行儀よく返事をした。
それからすぐに、旅支度を済まし、子供達は宿を去っている。
「今夜、公爵領に向けて移動します。三日後の夕刻には、援軍を揃えておいてくださいね」
「わかりました。公爵領では、どこに拠点を置かれますか?」
「今の所、野宿になってしまいますわね」
「そうですか。わかりました」
伝達役の騎士に、その準備も急いでさせなくてはならない。
「それから、明日から二日ほど、時間稼ぎをしますので」
「それはどのようなものですか?」
「派手に公爵家の名を出し、街中で聞き回ります。きっと狙われてしまうでしょうね」
「そうですね。私には――それは反対ではありませんが、ご令嬢には危険が伴い、かなり、動きがきつくなってしまうのでは……?」
元々、セシルが囮として動き回ってくれているから、これだけ迅速に事件が解決していっている。
それは承知していても、さすがに、毎回、その身を危険に晒して派手に動き回ってくれなど、ギルバートも心苦しくて、頼みたくはないのだ。
「私は問題ありません。ですが、皆さんが、毎回、戦う状況になってしまいますが」
「それは、問題ではありません」
まあ、その程度の戦いで、体力切れするようなギルバートやクリストフではない。
「もう2~3人だけ、護衛を増やしておくのも、手かもしれませんね」
「わかりました。我々の周りには2~3人としても、交代で入れ替われるように、周囲にも散らしておきましょう。いざとなれば、その者達に郎党の相手をさせて、少しは、退散できやすくなるでしょうから」
「では、お願いします」
「わかりました」
そして、今回もまた、こんなに簡単に作戦が決まっていた。
それも、全て、セシルが一人で指揮していることだ。ご令嬢なのに。
* * *
はっ……、はっ、はっ……。
少し呼吸が上がり、ほんの微かにだけ開いた口元から、音を出さないようにと、セシルの呼吸が繰り返される。
そして、そのセシルのすぐ前には、ギルバートがセシルに覆いかぶさるようにして、壁側にピッタリと身を寄せて、気配を殺している。
裏道に入り、表通りを走り去っていく気配を追いながら、息を潜め、ギルバートは神経を研ぎ澄しながら、辺りの様子を伺っている。
セシルの背には壁が、前にはギルバートの胸があり、しっかりと挟まれている状態で、身動きはできない。
表通りからは外れた裏道に潜んではいるが、セシルの身を隠すように、気配を隠すように、背の高いギルバートがセシルを胸に抱き寄せて、覆いかぶさっている状態なのだ。
「行ったようですね」
向こうの通りの気配が引いて、郎党達が叫んでいた騒音も、かなり向こうに消えた気配を感じる。
「今日は何人くらいでしたか?」
「10人ほどです」
「昨日は、二十人ほどでしたわ」
「そうですね。ですが、昨日、見た顔も混ざっていました」
「そうなのですか?」
「ええ、そうですね。――となると、この人数が今の限界なのでしょう」
フリイス公爵領にやって来たセシル達は、初日は、街から離れた野外で野宿だ。
そして、明るくなったら街に下り、それから派手に、わざとに、フリウス公爵の聞き込みをする。
それで、午前中には、すでに刺客として郎党が送られてきたが、セシルの護衛とギルバート達二人を入れて、半数は怪我をさせることに成功していた。
そして、全速力で逃げ去るのである。
午後は潜んで、夕方近くも同じことをして、どれだけの刺客が送られてくるのか、雇われているのか、セシル達は確認していた。
野宿を終え、二日目も同じことをしている。
だが、今回は敵側もかなりしつこくて、セシルを含めたギルバートとイシュトール、クリストフ側にユーリカともう二人の騎士達で、二手に分散して、敵の数を減らすことにしたのだ。
「大丈夫ですか?」
敵の気配が消えたので、少し身体をずらしたギルバートが、腕の中のセシルを見下ろす。
少しだけ、セシルの呼吸が上がり、肩がまだ上下していたのだ。
「今日は、かなり走り込みましたから……」
「そうですね」
毎回、全力疾走で敵を撒きながら、敵を蹴散らしていくものだから、マラソンしながら、障害物競走をしているような状態である。
それなのに、一緒になって走り込んでいるギルバートは、息一つ上がっていない。
この王子サマ。実は、ものすごい体力があるんじゃ?
なんて、セシルも疑い始めている。昨日だって、敵を相手に戦って、逃げ去って、また戦い続けていたのに、全然、息が上がっているようには見えなかった。
「この場は私の部下達に任せ、今は、一端、引きましょう」
「わかりました」
これ以上、街中を走り回る必要はなくなった。
これ以上、セシルの体力を削り、身を危険に晒す必要もない。
郎党共の顔は、大体、把握できている。クリストフ達があの半数――いや、数人でも動きを不能にさせられたのなら、明日の戦いでは、郎党達の数は決まってくる。
残りは、報告に出ている、公爵家の屋敷で雇われている私兵を相手にするだけだ。
私兵なら、騎士団の騎士で、相手にさせれば問題はない。
ただ、郎党のようなヤサグレは、卑怯な手で戦闘をする為、今のうちに数を減らし、余計な手間をかけさせないように、という作戦だった。
「こちらも気配は消えました。どうやら、分かれた組の方で、騒ぎを起こしてくれたようですので、敵も、そちらの方に向かったと思われます」
後ろ側で、通りの様子を伺っていたイシュトールも戻って来た。
セシル達と分散した際、クリストフは、ギルバートからきつく指示を受けている。
必ず、セシルを逃がすことを優先させろ、と。
それで、セシル達を追っていたであろう郎党の数が多く、クリストフが騒ぎを起こし、敵を誘き寄せたのだろう。
他国の問題に巻き込まれ、自ら囮になってくれているセシルの身の安全は、絶対に護らなければならない。
それだけの借りも恩も作ってしまったのだから。
それに、ギルバート自身が――貴族の令嬢、いや女性を危険な目に晒すなど、許せる行為ではなかったのだ。
ギルバートはセシルに口を出すことはしなくとも、いざとなれば、セシルを護り、セシルを無事に連れ出せ、と騎士達に命令を出してある。
「そうです。夜会から抜け出して公爵家に戻って来た伏兵を、公爵のような男が怒鳴りつけていました。それから、屋敷中で叫び声を張り上げていると思ったら、書斎のような部屋に戻り、それで、書類を燃やしていました」
「それで、火事のボヤ騒ぎですか?」
「そうです」
どうせ……、フィロが攪乱を目的として、ボヤ騒ぎを起こしたに違いないのだが――屋敷を本気で燃やさなかったどうか、セシルも心配になってくる……。
それで、フリウス公爵が燃やそうとしていた書類の火を消して、フィロが、間一髪で、書類を盗んでいたのだ。
それから、屋敷中がパニックしている間、フィロは書斎のような部屋の中を探らせてもらい、随分、あけっぴろげに置いてある帳簿やら、手紙の山やらを探らせてもらったのだ。
帳簿を盗んだらすぐにバレてしまうだろうから、それは盗めなかったが、それでも、執事か誰かがつけているであろう帳簿は、✖✖✖と、どれも✖ばかりがつけられていたのだ。
本棚をあさってみると、過去の帳簿があって、中身だけ盗めば、短期間ならバレないかと、それは千切ってフィロが盗んできている。
どうやら、過去五年、公爵家は巨額な赤字を見せて、資金繰りができていないようなのだ。
今は使用人の一人として潜り込んでいるジャンは、屋敷の使用人達や、庭師、そう言った下級の下人と仲良くなり、公爵家の内情を調査している。
やはり、口を挟まずとも、口を出すことも許されずとも、下働きの下人や使用人など、全員が主の事情や内情に精通しているのだ。
「公爵家の家計は、今は、かなり火の車のようです」
「まあ、そうですか。偉そうで、自分で稼いだこともないような貴族でしたら、浪費癖がついていても、不思議はありませんが」
「なんでも、ここ数年、半年ごとに徴税額が上がり、先程では、三カ月前にもまた徴税された、と聞きます」
「最低ですね」
「そうですね」
そして、その話を聞いているギルバートも、かなり嫌そうに顔をしかめている。
自分の浪費癖を直しもせずに、民に強制的な徴税を押し付け、民から搾り取るなんて、民を殺す気でいるのか、と憤慨が止まらない。
「家計が赤字の割には、随分と、たくさんの郎党を雇っているようですが」
「そいつらは、屋敷にも、何度か出向いていました。どうせ、小金で雇われた程度のヤサグレ共です」
「人数が多かったですけれど」
「そうですか。それは、先に始末しておかなくて、すみませんでした」
「あら? θのせいでなんか、全くありませんよ。全員、こちら側で叩き潰していますので、何の問題もありません」
「そうですか」
そして、それを聞いて、ほんの微かにだけ、嬉しそうに少年が目を細めるような動作をしたのを見て、ギルバートの渋面が更に広がってしまう。
「その廃屋となっている協会は、使えるかもしれませんね。そこに公爵を誘き出し、叩き潰しましょう」
「わかりました」
「準備には、どのくらい必要です?」
それで、セシルが、横で黙って座っている残りの子供達三人に向く。
二人が互いに顔を見合って、
「三日、とかですか?」
「長いですか?」
「いえ。三日なら、こちらで少々騒ぎ立てて、時間を稼いでおきましょう。三日でできますか?」
「大丈夫です」
「では、今日は仕入れで忙しいでしょうから、明日から三日。三日目の夜に、ケリを着けましょう。予定変更がある場合、即座に知らせるように」
「わかりました」
「気を付けて。無茶をしてはいけませんよ」
「はい、わかっています」
子供達はそれだけの指示で、全てを理解しているようだった。
「私達は時間を置いて、公爵領に向かいます。最初の二日は、派手に騒ぎ立てて、時間稼ぎをしてみましょう。最後の三日目は潜伏し、あなた達に合流します」
「わかりました」
「マスター、では、こちらを」
「あら、ありがとう」
そして、新たな書類を手渡されたセシルに、ギルバートが慎重な目つきを向ける。
「それは何でしょう?」
「公爵領の地図ですわ」
「地図? こんな短期間で?」
「ええ、そうですね。優秀な者達ばかりですから」
「はあ……」
「ですが、短期間でしたので、たぶん、省略されている部分もあると思いますが、それでも、十分役立つと思いますわ」
「はあ、そう、ですか……」
優秀、過ぎるのでは……?
あの夜会から、まだ四日しか経っていないのに、陰謀計画書は暴き出す、公爵家の内情にも手を入れて、公爵領の(簡略な) 地図までできあがっているなんて……。
本当に、このセシルと言い、子供達と言い、一体何者なんだ……?!
そして、またも、答えも返っては来やしない疑問ばかり。
「このまま戻ってもらうことになりますが、θには、移動ばかりできついかしら?」
「いえ、問題ありません」
「では、皆、よろしく。決して、危険なことをしてはいけませんよ」
「「わかりました」」
子供達が、全員、お行儀よく返事をした。
それからすぐに、旅支度を済まし、子供達は宿を去っている。
「今夜、公爵領に向けて移動します。三日後の夕刻には、援軍を揃えておいてくださいね」
「わかりました。公爵領では、どこに拠点を置かれますか?」
「今の所、野宿になってしまいますわね」
「そうですか。わかりました」
伝達役の騎士に、その準備も急いでさせなくてはならない。
「それから、明日から二日ほど、時間稼ぎをしますので」
「それはどのようなものですか?」
「派手に公爵家の名を出し、街中で聞き回ります。きっと狙われてしまうでしょうね」
「そうですね。私には――それは反対ではありませんが、ご令嬢には危険が伴い、かなり、動きがきつくなってしまうのでは……?」
元々、セシルが囮として動き回ってくれているから、これだけ迅速に事件が解決していっている。
それは承知していても、さすがに、毎回、その身を危険に晒して派手に動き回ってくれなど、ギルバートも心苦しくて、頼みたくはないのだ。
「私は問題ありません。ですが、皆さんが、毎回、戦う状況になってしまいますが」
「それは、問題ではありません」
まあ、その程度の戦いで、体力切れするようなギルバートやクリストフではない。
「もう2~3人だけ、護衛を増やしておくのも、手かもしれませんね」
「わかりました。我々の周りには2~3人としても、交代で入れ替われるように、周囲にも散らしておきましょう。いざとなれば、その者達に郎党の相手をさせて、少しは、退散できやすくなるでしょうから」
「では、お願いします」
「わかりました」
そして、今回もまた、こんなに簡単に作戦が決まっていた。
それも、全て、セシルが一人で指揮していることだ。ご令嬢なのに。
* * *
はっ……、はっ、はっ……。
少し呼吸が上がり、ほんの微かにだけ開いた口元から、音を出さないようにと、セシルの呼吸が繰り返される。
そして、そのセシルのすぐ前には、ギルバートがセシルに覆いかぶさるようにして、壁側にピッタリと身を寄せて、気配を殺している。
裏道に入り、表通りを走り去っていく気配を追いながら、息を潜め、ギルバートは神経を研ぎ澄しながら、辺りの様子を伺っている。
セシルの背には壁が、前にはギルバートの胸があり、しっかりと挟まれている状態で、身動きはできない。
表通りからは外れた裏道に潜んではいるが、セシルの身を隠すように、気配を隠すように、背の高いギルバートがセシルを胸に抱き寄せて、覆いかぶさっている状態なのだ。
「行ったようですね」
向こうの通りの気配が引いて、郎党達が叫んでいた騒音も、かなり向こうに消えた気配を感じる。
「今日は何人くらいでしたか?」
「10人ほどです」
「昨日は、二十人ほどでしたわ」
「そうですね。ですが、昨日、見た顔も混ざっていました」
「そうなのですか?」
「ええ、そうですね。――となると、この人数が今の限界なのでしょう」
フリイス公爵領にやって来たセシル達は、初日は、街から離れた野外で野宿だ。
そして、明るくなったら街に下り、それから派手に、わざとに、フリウス公爵の聞き込みをする。
それで、午前中には、すでに刺客として郎党が送られてきたが、セシルの護衛とギルバート達二人を入れて、半数は怪我をさせることに成功していた。
そして、全速力で逃げ去るのである。
午後は潜んで、夕方近くも同じことをして、どれだけの刺客が送られてくるのか、雇われているのか、セシル達は確認していた。
野宿を終え、二日目も同じことをしている。
だが、今回は敵側もかなりしつこくて、セシルを含めたギルバートとイシュトール、クリストフ側にユーリカともう二人の騎士達で、二手に分散して、敵の数を減らすことにしたのだ。
「大丈夫ですか?」
敵の気配が消えたので、少し身体をずらしたギルバートが、腕の中のセシルを見下ろす。
少しだけ、セシルの呼吸が上がり、肩がまだ上下していたのだ。
「今日は、かなり走り込みましたから……」
「そうですね」
毎回、全力疾走で敵を撒きながら、敵を蹴散らしていくものだから、マラソンしながら、障害物競走をしているような状態である。
それなのに、一緒になって走り込んでいるギルバートは、息一つ上がっていない。
この王子サマ。実は、ものすごい体力があるんじゃ?
なんて、セシルも疑い始めている。昨日だって、敵を相手に戦って、逃げ去って、また戦い続けていたのに、全然、息が上がっているようには見えなかった。
「この場は私の部下達に任せ、今は、一端、引きましょう」
「わかりました」
これ以上、街中を走り回る必要はなくなった。
これ以上、セシルの体力を削り、身を危険に晒す必要もない。
郎党共の顔は、大体、把握できている。クリストフ達があの半数――いや、数人でも動きを不能にさせられたのなら、明日の戦いでは、郎党達の数は決まってくる。
残りは、報告に出ている、公爵家の屋敷で雇われている私兵を相手にするだけだ。
私兵なら、騎士団の騎士で、相手にさせれば問題はない。
ただ、郎党のようなヤサグレは、卑怯な手で戦闘をする為、今のうちに数を減らし、余計な手間をかけさせないように、という作戦だった。
「こちらも気配は消えました。どうやら、分かれた組の方で、騒ぎを起こしてくれたようですので、敵も、そちらの方に向かったと思われます」
後ろ側で、通りの様子を伺っていたイシュトールも戻って来た。
セシル達と分散した際、クリストフは、ギルバートからきつく指示を受けている。
必ず、セシルを逃がすことを優先させろ、と。
それで、セシル達を追っていたであろう郎党の数が多く、クリストフが騒ぎを起こし、敵を誘き寄せたのだろう。
他国の問題に巻き込まれ、自ら囮になってくれているセシルの身の安全は、絶対に護らなければならない。
それだけの借りも恩も作ってしまったのだから。
それに、ギルバート自身が――貴族の令嬢、いや女性を危険な目に晒すなど、許せる行為ではなかったのだ。
ギルバートはセシルに口を出すことはしなくとも、いざとなれば、セシルを護り、セシルを無事に連れ出せ、と騎士達に命令を出してある。
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宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
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彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
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