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Part1
* Б.г 目には目を *
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「――すでに、隊の半数以上を損失……!?」
急遽、この駐屯地で設置させたテントの中で、自分の部下達を飛ばし、駐屯地内の確認を全てさせた王太子殿下は、報告を済ませる部下の前で、絶句していた。
隣に控えている第一騎士団の団長であるハーキンだって、予想もしていない結果を聞いて、その顔が驚きを隠せないでいる。
騎士団の小隊長には、王国軍の現状確認をさせ、中隊長達には敷地内の設備、倉庫、家屋などの探索を全部させた。
そして、第一騎士団の団長個人には、特別に、あの隣国の伯爵家代行の調査を命令していた。
小隊長達は、散らばって徘徊している兵士達を並ばせ、数を確認し、両方の門で必死にその場にしがみついているような兵士達も並ばせ、その数を確認していた。
救護所にも確認をしにいった。
それから、兵士達の陣取り、武器の確認、王太子殿下の指示通り、その全ての調査と確認を済ませ、やっと、テントに戻って来ていたのだ。
その結果報告を出している本人たちも、聞いている残りの全員も、あまりに信じられない――悲惨な最悪の状況を目にして、全員が全員、叫び出したいほどの強い衝動に駆られていた。
一体、何をしているんだっっ――!! と。
だが、そんな大声を張り上げた所で、状況解決にもならない。問題解決にもなりはしない。
「――信じられん……!?」
あの伯爵家代行が報告してきた通り、次にこの地が襲撃されたら、きっと、この地は部族連合に侵略され、王国軍は壊滅していた可能性も――今となっては、もう、驚きはしない。
「――王太子殿下、我々の報告も……、あまり良い報告とは言えません……」
今度は、中隊長達が苦々し気にそれを口に出す。
「報告を」
「駐屯地内の施設の大半は、居住区です。武器庫、食糧庫などは――すでに、もぬけの殻でして……」
「もぬけの殻っ!?」
更に――王太子殿下の逆鱗に触れそうな話題になってしまった……。
苦々しく顔をしかめている中隊長が頷き、
「この隊には、非常食が全くありません。兵士達が使用している剣を、全員、確認させましたが――私が見る限り、半数は、一切りで、刃こぼれが見られました」
「私の確認場所では、それほどでもありませんでした」
「いえ……私の場では、ほぼ全部の剣が粗悪品のようでした。錆がかり、あれで戦うことなど――不可能かと……」
慰めにもならない報告を聞いて、珍しく、王太子殿下が、感情的に、その眉間をきつく指で摘まんでいた。
「破壊された領門側は、かなりの大きさで、修復作業には時間がかかることでしょう」
「救護場にいる負傷兵は――どうやら、一度だけの手当てをされ、あとは放置されたままだったようです。衛生管理もなく、あまりに……小汚い室内に押し込められ、たぶん……全員が傷口から化膿して、容体がひどく悪化しているのではないかと……」
「なんとっ……!」 と、あまりの悲惨さに、全員が、その場で、完全に絶句してしまった沈黙だけが降りる。
聞きたくない、最悪過ぎる報告と結果ばかりが耳に入ってきて、王太子殿下だって、眉間をきつく押し潰したまま顔を上げない。
「――――王太子殿下」
隣にいるハーキンが、仕方なく口を開いた。
「――――どうせ、その報告も一緒なのだろう?」
「はい……」
申し訳ありません……と、ハーキンに謝罪されようが、問題の元凶は全てあの能無し中尉だ!
「それから、駐屯している兵士達からも、子供がうろついている、という報告の確認が取れました。隣国からやってきた義勇軍が、端っこに陣を取っていた、とも言っています」
「――それで、子供連れ?」
「そのようです」
「戦場に子供を連れてくるなど、一体、伯爵家は何を考えているのだ」
そう責められても、ハーキンが、戦場に子供を連れて来たのではない。
「――――この件は……、隣国との国際問題になるのでは……」
憚れて、それ以上は、ハーキンとて口に出せない。
王太子殿下は更なる頭痛を抱えるかのように、きゅうぅっと、眉間をきつく寄せて――何も言わない。
ズーンと、あまりに重苦しい空気だけが広がり、シーンと、あまりに気まずい沈黙だけが降りる。
ほんの少しだけ目線を動かして、王太子殿下の視線が、チラッと、自分の目の前の机の上に置かれる。
そこには、粗悪品の剣に、提出された数々の書類の山……。
逃げ隠れするつもりはない。王国軍のあまりに不当とも言える隣国貴族への非礼、不義、違法行為だって、徹底的に処罰するつもりだ。
だが、弁明どころか、口を挟ませもしないほどの――あまりに綿密で、詳細で、正確な証拠品の山々……。
ここまで用意周到に揃えられた犯罪記録など、王太子殿下だって、初めてお目にしたものだ。
――一体、あの伯爵家代行とは、なんなんだ……!?
信じられないものを目にして、信じられないことを耳にして、信じられない光景も状況も止まず、信じられないもので埋め尽くされていて――王太子殿下だって、精神的にゲッソリと疲弊している。
* * *
「すみません。伯爵家代行の方は、いらっしゃいますか?」
おーい、などと叫ばれているような雰囲気で、向こうから誰かが、セシルを呼んでいる。
リアーガとフィロが、その白けた顔をセシルに向ける。
「仕方ないですね」
本当に仕方がなさそうに、セシルが立ち上がる。
ゾロゾロと、そのセシルの後に付き添って全員が移動していく。
王国騎士団の制服を着ている騎士の二人が、前日、罠に引っかかった場所よりかなり離れて、セシルを呼んでいたようだったのだ。
あらぁ、少しは学んでいるようですのねえ。
へえ、と乾いた反応だけが上がる。
今日は罠に引っかからないように、慎重に距離を置き、向こうから叫んでいたらしい。
「ヘルバート伯爵代行。王太子殿下から、物資など全てをお返しする準備が整ったとのこと、お迎えにあがりました。申し訳ありませんが、こちらに一緒にいらしていただけないでしょうか?」
ふーむ、昨日よりは、遥に、礼儀が改善されましたねえ。
セシル達からの報告を聞いて、あまりに申し訳なくて、セシル達に顔向けできない、といった所だろうか。
「いいでしょう」
一応、セシル達の周辺には、罠はまだ張り巡らされているが、通行できる場所は、そこだけ抜け穴があるように、何も仕掛けはされていない。
セシル達が進んでくる中、騎士の二人が慎重にセシル達を凝視しているが、きっと、その頭の中で、罠はなかったのか? ――などと、自問自答していると同時に、ホッと安堵していること間違いなし。
急遽、この駐屯地で設置させたテントの中で、自分の部下達を飛ばし、駐屯地内の確認を全てさせた王太子殿下は、報告を済ませる部下の前で、絶句していた。
隣に控えている第一騎士団の団長であるハーキンだって、予想もしていない結果を聞いて、その顔が驚きを隠せないでいる。
騎士団の小隊長には、王国軍の現状確認をさせ、中隊長達には敷地内の設備、倉庫、家屋などの探索を全部させた。
そして、第一騎士団の団長個人には、特別に、あの隣国の伯爵家代行の調査を命令していた。
小隊長達は、散らばって徘徊している兵士達を並ばせ、数を確認し、両方の門で必死にその場にしがみついているような兵士達も並ばせ、その数を確認していた。
救護所にも確認をしにいった。
それから、兵士達の陣取り、武器の確認、王太子殿下の指示通り、その全ての調査と確認を済ませ、やっと、テントに戻って来ていたのだ。
その結果報告を出している本人たちも、聞いている残りの全員も、あまりに信じられない――悲惨な最悪の状況を目にして、全員が全員、叫び出したいほどの強い衝動に駆られていた。
一体、何をしているんだっっ――!! と。
だが、そんな大声を張り上げた所で、状況解決にもならない。問題解決にもなりはしない。
「――信じられん……!?」
あの伯爵家代行が報告してきた通り、次にこの地が襲撃されたら、きっと、この地は部族連合に侵略され、王国軍は壊滅していた可能性も――今となっては、もう、驚きはしない。
「――王太子殿下、我々の報告も……、あまり良い報告とは言えません……」
今度は、中隊長達が苦々し気にそれを口に出す。
「報告を」
「駐屯地内の施設の大半は、居住区です。武器庫、食糧庫などは――すでに、もぬけの殻でして……」
「もぬけの殻っ!?」
更に――王太子殿下の逆鱗に触れそうな話題になってしまった……。
苦々しく顔をしかめている中隊長が頷き、
「この隊には、非常食が全くありません。兵士達が使用している剣を、全員、確認させましたが――私が見る限り、半数は、一切りで、刃こぼれが見られました」
「私の確認場所では、それほどでもありませんでした」
「いえ……私の場では、ほぼ全部の剣が粗悪品のようでした。錆がかり、あれで戦うことなど――不可能かと……」
慰めにもならない報告を聞いて、珍しく、王太子殿下が、感情的に、その眉間をきつく指で摘まんでいた。
「破壊された領門側は、かなりの大きさで、修復作業には時間がかかることでしょう」
「救護場にいる負傷兵は――どうやら、一度だけの手当てをされ、あとは放置されたままだったようです。衛生管理もなく、あまりに……小汚い室内に押し込められ、たぶん……全員が傷口から化膿して、容体がひどく悪化しているのではないかと……」
「なんとっ……!」 と、あまりの悲惨さに、全員が、その場で、完全に絶句してしまった沈黙だけが降りる。
聞きたくない、最悪過ぎる報告と結果ばかりが耳に入ってきて、王太子殿下だって、眉間をきつく押し潰したまま顔を上げない。
「――――王太子殿下」
隣にいるハーキンが、仕方なく口を開いた。
「――――どうせ、その報告も一緒なのだろう?」
「はい……」
申し訳ありません……と、ハーキンに謝罪されようが、問題の元凶は全てあの能無し中尉だ!
「それから、駐屯している兵士達からも、子供がうろついている、という報告の確認が取れました。隣国からやってきた義勇軍が、端っこに陣を取っていた、とも言っています」
「――それで、子供連れ?」
「そのようです」
「戦場に子供を連れてくるなど、一体、伯爵家は何を考えているのだ」
そう責められても、ハーキンが、戦場に子供を連れて来たのではない。
「――――この件は……、隣国との国際問題になるのでは……」
憚れて、それ以上は、ハーキンとて口に出せない。
王太子殿下は更なる頭痛を抱えるかのように、きゅうぅっと、眉間をきつく寄せて――何も言わない。
ズーンと、あまりに重苦しい空気だけが広がり、シーンと、あまりに気まずい沈黙だけが降りる。
ほんの少しだけ目線を動かして、王太子殿下の視線が、チラッと、自分の目の前の机の上に置かれる。
そこには、粗悪品の剣に、提出された数々の書類の山……。
逃げ隠れするつもりはない。王国軍のあまりに不当とも言える隣国貴族への非礼、不義、違法行為だって、徹底的に処罰するつもりだ。
だが、弁明どころか、口を挟ませもしないほどの――あまりに綿密で、詳細で、正確な証拠品の山々……。
ここまで用意周到に揃えられた犯罪記録など、王太子殿下だって、初めてお目にしたものだ。
――一体、あの伯爵家代行とは、なんなんだ……!?
信じられないものを目にして、信じられないことを耳にして、信じられない光景も状況も止まず、信じられないもので埋め尽くされていて――王太子殿下だって、精神的にゲッソリと疲弊している。
* * *
「すみません。伯爵家代行の方は、いらっしゃいますか?」
おーい、などと叫ばれているような雰囲気で、向こうから誰かが、セシルを呼んでいる。
リアーガとフィロが、その白けた顔をセシルに向ける。
「仕方ないですね」
本当に仕方がなさそうに、セシルが立ち上がる。
ゾロゾロと、そのセシルの後に付き添って全員が移動していく。
王国騎士団の制服を着ている騎士の二人が、前日、罠に引っかかった場所よりかなり離れて、セシルを呼んでいたようだったのだ。
あらぁ、少しは学んでいるようですのねえ。
へえ、と乾いた反応だけが上がる。
今日は罠に引っかからないように、慎重に距離を置き、向こうから叫んでいたらしい。
「ヘルバート伯爵代行。王太子殿下から、物資など全てをお返しする準備が整ったとのこと、お迎えにあがりました。申し訳ありませんが、こちらに一緒にいらしていただけないでしょうか?」
ふーむ、昨日よりは、遥に、礼儀が改善されましたねえ。
セシル達からの報告を聞いて、あまりに申し訳なくて、セシル達に顔向けできない、といった所だろうか。
「いいでしょう」
一応、セシル達の周辺には、罠はまだ張り巡らされているが、通行できる場所は、そこだけ抜け穴があるように、何も仕掛けはされていない。
セシル達が進んでくる中、騎士の二人が慎重にセシル達を凝視しているが、きっと、その頭の中で、罠はなかったのか? ――などと、自問自答していると同時に、ホッと安堵していること間違いなし。
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