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Part1

Б.в 王太子殿下 - 05

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「なにをっ! 貴様っ、デタラメを言い寄って――」

 ドンッ――

 ものすごい勢いで、机が叩かれた――叩き潰されたかのようだった。

 ビクリっと、中尉が飛び跳ねる。

 そろり、そろりと、中尉が恐る恐る後ろを振り返ると、無言で自分の拳を机に叩きつけた王太子殿下の姿が飛び込んでくる。

 無言なのに、感情の機微もないほどの冷たい顔を隠しもせず、ものすごい威圧感を放っていた。
 無言で、暗黙で、黙れっ、と言いつけていた。

「……っぃ……ひぃ……すみません……すみません……」

 中尉を完全無視して、王太子殿下の視線だけが上がる。

「続けて欲しい」

•  中尉からの同意が得られず、情報収集の間、この陣に駐屯する代わりに、伯爵家は義勇軍として滞在し、戦の参戦・介入はなし。

 兵士以外の負傷者が出た場合は、救護の手助けをすることを同意。両国間の立場を尊重し不干渉を約束。

 もし、伯爵家に危害を加える事態、状況が起きた場合、または、伯爵家が防衛を余儀なくされた場合は、武力行使もその状況次第で考慮されるという契約を締結

•  その際、己の立場も弁えず、伯爵家に向かって、「貴族の癖にみすぼらしい」 などという侮辱同然の悪言を吐く

•  その後、駐屯地の奥にて、伯爵家の当座の陣を確保

•  2月13日、深夜12時30分、伯爵家の陣の元に二人の不法侵入者。
 後に、第三小隊に所属する、ゴスト・ヤコブ、バニー・グレマンという兵士と判明。不法侵入の目的は、貴族の携帯している所有品、または、物資を盗み、売りさばくことと判明


 その最後の一言で、全員の瞳が飛び上がっていた。
 フィロはその反応を無視し、淡々と続ける。


•  自白によると、この地には闇商人が出入りし、頻繁に、王国軍の物資を横流ししている事実が判明

•  同日、朝8時15分、司令塔にて、伯爵家が犯罪人を中尉に引き渡すが、中尉は犯罪行為を否定。
 兵士達の統率もできない無能さをさらけ出し、逆に、犯罪人を捕縛した伯爵家に対し、その行為が王国軍への侮辱だと糾弾。
 伯爵家がノーウッド王国へ現状を報告をすべきか、と言い聞かせて、やっと、中尉は犯罪人の処罰を承認する

•  後に確認したところ、犯罪人二人は、無罪放免。駐屯地内を普段と変わらず徘徊し、処罰はされず


 ふんっ。
 セシル達を甘く見過ぎた中尉の過失だ。

 セシル達は、時間だけが余っているだけに、もう、ありとあらゆる情報収集に、余念がなかったのだ。
 子供達だって、“勝手に忍び込んで盗み聞き”なんてお手の物であるし、自分達に害をなそうとする輩を、セシルが手放しで放っておくはずもない。

 あの犯罪人の二人の兵士達だって、毎回、きちんと監視されていたのだ。


•  同日、午後より、援軍派遣が決定したようで、兵士達がその準備に取り掛かる

•  同日、夕食後の報告会で、闇商人がおろしているのは、駐屯地に保存されている兵糧、役に立ちそうな物資、そして、中尉及び上級将校兵のみが密かに購入している高価な嗜好品や珍味を含む。

 そして、武器の横流しという事実発覚。王国軍に支給された正規の剣を盗み、闇商人に横流し。盗んだ盗品の数の誤魔化しに、闇商人より、劣化品の粗悪品をブレッカの武器商から購入。
 すでに、2年半にも及ぶ横流し、不正が継続されている事実が発覚


「なんとっ――!」

 信じられなくて、騎士団の団長ハーキンが呟いていた。

「木で一振りしただけで、すでに刃こぼれする粗悪品です」

 セシルが手にした剣を、ドンッと、乱暴に机の上に投げるようにした。

 騎士達全員の視線が、机の上の剣に向けられる。

 ハーキンが王太子殿下から離れ、剣を取り上げて引き抜いていた。
 すぐに、その顔がしかめられる。

「刃こぼれ――どころではない。割れているではないかっ」
「なるほど、品質の劣化した粗悪品を持たせて、戦などできるとでも思っているのか?」

「……っぃ……ゃあ――ひっ……おれは、いや、わたしは、知りません。横流しなど――知りません、知りません……」

 こいつ、完全に役に立たないな――と、控えている騎士達全員が一致していた。

「続きをお願いする」

 ああ、あまりに強弱もなく、感情もなく、無機質で、冷たく、淡々と、その音だけが紡がれたかのようだった。

 ゾワゾワと、背筋から悪寒が止まないような不穏な気配が、王太子殿下の背後から上がっていて、すでに、その場の――全員は、とてもではないが口を挟める状態でもない。

 なにか、下手に口を出してしまえば――必ず、王太子殿下の逆鱗に触れてしまう……と、完全に理解していた。


•  2月14日、いつまで時間をかけているのかは知りませんが、やっと援軍の準備を終え、午後1時半に、300人程の兵士が出発。100人程は騎馬で、残りは歩兵


「ほう?」

 南東側では、幾度にも及ぶ援軍要請が無視され、一度として援軍など送られてこなかった――と悲鳴めいて、南東側の指揮官が叫んでいたことだと、王太子殿下は報告を聞いているのに、これは一体どういうことか?


•  同日、2時半頃、援軍として出発した隊が部族連合の奇襲を受け、ほぼ壊滅状態


 ざわっ――と、騎士達が知らない情報を聞いて、騒ぎ立つ。


•  逃げ帰ってきて数人の兵士により、緊急の救援要請が出されますが、中尉及び上級将校兵は、その要請を無視し、駐屯地を完全閉鎖。
 あの場で負傷兵がいたのかは定かではありませんが、兵士を見殺しにした事実は変えられません


「なにを言うっ! この駐屯地が攻撃されたのだぞっ――」
「黙れっ!」

 鋭い怒声が飛ばされていた。
 ビクリっ――と、(本気で) 中尉が床から飛び跳ねていた。

「誰が、許可なく王太子殿下の前で発言して良いと言った? 貴様、これで何度目だ? 次に邪魔をしてみろ。王太子殿下への不敬罪で、私がその場で処刑してやる」
「……ぃひぃぃっ……すみませんっ……。すみませんっ……。もう、しません……どうか……お許しを………」

 かなりの憤りが顔に浮かび、今にも爆発しそうな強い感情が上がってきているような騎士団の団長は、そこで、無理矢理、自分の感情を押さえつけているようだった。

 それで、目玉だけを動かし、フィロを見返す。

「続けて、欲しい」


•  伯爵家がこの陣にやって来た時の確認では、約1000人程の兵士が揃っていました。この地に滞在してから二日もしないで、すでに3分の1にもなる兵士の損失

•  その後、駐屯地の内門までも閉鎖され、伯爵家は、強制的にこの地に駐屯することを余儀なくされる

•  残りの600人程。200人ほどが内門側に、同じ数が、国境側の領門側に隙間もなくズラリと立ち並ぶ。残りの100人ほどの兵士達は、司令塔を丸く囲んで、随分、無駄な陣隊を組む様子

• 一人も見当たらない場所を護衛させ、統率もされていない兵士達は、交代制でもなく、ただただ、1日中同じ場所に立ったまま。疲れで、半分以上の兵士達は、昼間から熟睡。
 それを発見した中尉は、バケツの水を兵士達の頭にかけ、叩き起こす。中尉の言葉を引用すると、

「おれを守らない奴はクビだっ! さもなくば、部族連合の餌食にしてやる」

と怒鳴り散らす模様

 
 あまりの醜態に、騎士団の騎士達が――もう聞いていられなかった。

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