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Part1

Б.в 王太子殿下 - 04

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 その頃、駐屯地内で徘徊している兵士達を掴まえ、隣国の伯爵がいる場所を聞きだした二人の騎士は、端っこにいる、という不確かな説明の通り、駐屯地の端側を歩きながら、伯爵の姿を探してみた。

 なんだか、黒い塊らしき団体が見えて来たので、あれがそうなのだろうか? などと考え始めたその瞬間――

「うわっ――!」

 ガラガラ、ガラガラッ!

 ガシャン、ガシャン、ガラガラ――っ!!

 蹴散らすほどのものすごい騒音を出した仕掛けの前で、一人の騎士の足が、縄にしっかりと縛り付けられていたのだ。

「――なんだ、これはっ……!?」

 足に縛り付けられた縄を必死で外そうと試みる騎士の隣で、もう一人も膝をついて、腕を伸ばし手伝ってみる。

「何の用だ?」

 冷たい声が聞こえ、二人がハッとして振り返った。

「――っ……!」

 子供のような全身真っ黒な者が、矢を引いたような武器で、二人を真っすぐに狙い定めていたのだ。

「……我々は、アトレシア大王国、王国騎士団のものです。敵では、ありません」

 だが、照準を定めたままの子供は、手を緩めないまま無言だ。

 スッと、その子供の後ろから、数人の男達がやって来た。全員が全員、全身真っ黒で覆い隠されていて、全員が覆面をしている。

「――ヘルバート伯爵ですか?」
「それが?」

 真ん中の一人が答えた。覆面で、声色が隠され、はっきりとは聞こえず、それでも、静かな口調で相手が答えた。

「我々は、敵ではありません。アトレシア大王国王太子殿下が、伯爵との面会を求めていらっしゃいます。一緒に来ていただけないでしょうか?」

 ふーんと、セシルが、ただ淡々と二人の騎士を観察している。

 どうやら、王国騎士団は、の礼儀があるらしい。見掛け倒しだろうと、一応は、の礼節は取るらしい。

「何の用です?」
「我々は指示を出されただけですので、その内容までは、存じておりません。申し訳ありません」

「どうか、一緒に来ていただけないでしょうか?」
「いいでしょう」

 二人がホッとする。

 フィロがボーガンを下ろし、マントの下に武器をしまい込む。
 リアーガは、仕方なく持っていたナイフで、騎士の足に縛り付けられている縄を斬りつけた。

「……ありがとう、ございます」

 仕掛けの罠にはまって、おまけに、隣国の者に助けてもらうなど――騎士としては恥ずかしい行為だったが、今は仕方がない。

 尻もちをついた騎士が立ち上がり、軽く泥をほろった。

「どうぞ、こちらにいらしてください」

 セシルも、仕方なく二人の騎士についていくことにした。セシルの後ろでは、リアーガとフィロが、残している二頭の馬を引いてくる。

 全員を駐屯地から送りだしたので、今は、自分達が担いでいる大きなリュックサックだけが荷物となっていた。

 最悪のケース、二騎で逃げ出すなら、重い荷物は乗せられない。

 それで、セシル以外の三人が、大きなリュックサックを担いでいるだけだった(ここだけの話、このリュックサックだって、セシルの領地で開発した、耐性のある丈夫な作りでお役立ちグッズの一つだ!)。

 司令塔にやってきたセシル達の前で、騎士の二人が一つの扉を開ける。

「どうぞ、お入りください」

 セシルを筆頭に、全員がゆっくりと室内に足を進めた。

 すぐに、セシルの目の前に、机の一番奥に腰をかけ、威圧感があり、凛とした面持ちの男性が目に入って来た。

 同じように、扉に注意を向けていた王太子殿下の視界の前にも、全身真っ黒で覆い尽くされた団体が目に入って来た。

 一番前の一人はフードを被っているが、残りは後ろに布が垂れさがったような帽子を深く被っている。覆面も真っ黒で、身体をすっぽりと覆い隠すマントも、真っ黒だ。

 随分、予想と違った――集団を目にして、その場に控えている騎士達も、一瞬、言葉がなかった。

「ヘルバート伯爵代行の方か?」

 だが、その質問には、無言だけが返された。

 フードを深く被り、おまけに長い(うっとおしそうな) 前髪が邪魔して、一番前にいる人物の顔が見えない。
 真っ直ぐに王太子殿下の方に向き合っているから、相手だって、王太子殿下を見返しているはずなのだが……。

「我が国の兵士が世話になった、と聞いている。私からも、その礼を言わせてもらいたい」

 まずは、社交辞令だとなんだろうと、最初の挨拶が済まされた。
 王太子殿下は、真っ黒な塊の一番前にいる人物を、真っ直ぐに見返す。

「そして、書状を受け取りました。その件につき、お話を伺いたい」
「伺って、どうすると言うのです?」

 この部屋に入ってきて初めて、相手が口を開いた。だが、覆面で声色が隠され、単語ははっきりと聞こえてきても、感情のような音も、色も感じない。

「もちろん、しかるべき処置を取る為に」

 ふうん、と全く興味もなさそうに、それだけである。

「私は、この場の状況を把握していない。どうか、伯爵代行から、その説明をしてもらえないだろうか?」

 それを聞いて、中尉が、バッと、王太子殿下を振り返った。

「王太子殿下っ! こんな輩の――」
「誰が口を挟んで良い、などとお前に許可したのだ」

 無機質に、そして、感情の機微もなく、冷たい一言が言い捨てられた。
 だが、言葉に出されない部分の圧が、無言で背後から立ち上がっているかのようで、その威圧感だけで王太子殿下が中尉を黙らせていた。

「見苦しい場を見せてしまった。説明を聞かせてもらえないだろうか」

 そして、全く中尉の態度を無視して、話を進めて行く王太子殿下だ。

θシータ
「はい」

 フィロが頷いて、自分のかついでいる大きなリュックサックを肩から外し、床に置いた。そして、その中からゴソゴソと何かを探り、一冊の本のようなものを取り出す。

 真っ黒なリュックサックは、大人の背中の幅さえもあり、肩からお尻まであるほどの長さでもあり、かなり大き目で重いリュックサックだったのだ。

 本を開き、一枚目のページをめくる。

•  2月10日、民生の情報によると、深夜遅く、部族連合の突然の襲撃により、ブレッカの南東側の国境で、戦の勃発。その後、両方で膠着状態

•  2月12日、ノーウッド王国でも、隣国の戦の勃発の報が届く。領主様は、戦によるノーウッド王国南方の被害や影響がでる可能性を考慮し、確認の為、アトレシア大王国入りすることを決断される

•  同日、午後7時20分、ブレッカの南に設置されている国境軍に到着

•  アトレシア大王国王国軍の対応不備による遅れで、夜8時に、駐屯地の指揮官ダーマン中尉と面会

•  情報提供を願い出ましたが、戦況確認もなし、敵兵の数も知らず、情報収集はなし。全くの役立たずと判断された為、伯爵家自らの情報収集を余儀なくされる。
 我々は、ノーウッド王国南方での影響を正確に確認、報告する義務があり、その為にこの地に派遣されましたが、中尉はそれを面倒事だと吐き、中尉の言葉を引用すれば、

「いつもと変わらん。部族連合が押し寄せて来て、それで追い払えばいいだけだ」

と全くの非協力体制を示す

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