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Part1

Б.в 王太子殿下 - 02

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「南側の国王軍はどうしたのだ?」
「まだ、残って、おります……。ですが……、私の隊は、ほぼ、壊滅状態で……」
「なにっ――?!」

 ザワッと、その場で動揺が一気に走っていた。

「……私は、伯爵に助けられました……。まだ、あの場には、私の隊の兵士達が……」
「伯爵?」

「……はい。ですが、伯爵は……、慈善事業をしに、きたのではない、とおっしゃり……、私だけ、あの場から、助けてくださったのです。王太子、殿下がいらしていると聞き、どうか……あの場に、残っている兵士、達を、お助けください……」

 それで、兵士の瞳から、ツーっと、一筋だけの涙が流れ落ちていた。

「……伯爵は、この傷でも、王太子殿下に、会いに行くのなら、援軍を要請してやってもいい、と……。……これ、を……」

 ノロノロとした動作で、ポケットに入れていた手紙を、兵士が取り出した。

 すぐに側の騎士が手紙を受け取り、王太子殿下の前に持っていく。

 それを受け取った王太子殿下の前には、王国内では見かけない手紙の封蝋ふうろうである印璽いんじがされていた。

 そのまま、王太子殿下がペーパーナイフなどを取り出すこともせず、封筒の割れ目から、無理矢理、手紙を開けていた。
 中から手紙を取り出し、それを読んでいく。

 だが、その手紙を読んでいた王太子殿下の顔つきがすぐに変わり、なんだか――怒っているかのような、それでいて、信じられないと疑っているかのような、そんな珍しい表情を浮かべていたのだ。

「――――これは……、まことか?」

「……はい……。全て、事実、です……。中尉には、我々の隊の、救出を願い出ましたが、捨て置け、と……。まだ、生きている兵士達は、いるはずなのですっ……! ですが、中尉は、陣をこれ以上離れる者は、許さないと……、取り合ってはくれず……。……それで、救援を、送れず……。私が、この場にやってきましたのは、全て、私の勝手、でございます……。伯爵が、その、手助けを、してくださったのです……」

 兵士の話を聞きながら、王太子殿下の表情が硬く、その雰囲気からしても――ものすごい怒気、いや瞋恚しんいが吹き荒れているような様だった。

 その気配を察して、控えている騎士達も驚きが隠せない。

「今より、南側の国境軍に合流する」
「王太子、殿下っ……!」

 負傷している兵士が感極まって、また、その瞳から涙が流れ落ちていた。

「今からですか?」

 驚いたハーキンが、王太子殿下に詰め寄った。

「そうだ。王国騎士団の半数をこの場に残し、コロッカル領の領軍と、この場で部族連合を鎮圧するように。残りの半数は、私と共に南側の国境くにざかいへ」

「ですが――」
「二度は言わない」

 王太子殿下のあまりに冷たく、押さえつけるような威圧感に、喉がヒリヒリとしてきそうな殺気を含んだ緊張に、そして、感情の機微さえも感じられないほどの冷酷な響きを聞き、騎士団の団長であるハーキンの表情も硬くなっていた。

「わかりました。クロスビー殿を呼んできましょう」

「この場の指示は、クロスビーに任せる。私が戻ってくるまで、王国軍の兵士全員、誰であろうと、クロスビーの指示に背くことは許さない。それをしっかり言い渡せ」

「――わかりました。今すぐにその準備をします」

 それで、王太子殿下の視線が、兵士に戻って来た。

「よく、ここまでその知らせを届けてくれた。この場で休息し、安静にするがよい」
「……あり、がとう、ございます、王太子殿下……。ですが、私でなければ、残りの兵士の、居場所が……」

「伯爵は知らないのか?」
「……知って、います……」

「では、伯爵に問えばよい」
「……あっ……は、はい。ありがとう、ございます……、王太子殿下……」

 王太子殿下だけは――兵士の話を聞いてくれた。耳を貸してくれた。
 それで、残りの兵士達も見殺しにはされない……。

 その安堵からか、気が抜けたように椅子に座っていた兵士の身体がグラつき、前に倒れ込んできた。

「危ないっ――」

 傍にいた騎士が、咄嗟に、兵士の体を抱きとめていた。
 うつろな瞳で、兵士は――ほとんどの気力を使い切ったようだった。

「救護所に連れて行き、手当てをさせろ」
「はい、わかりました」

 ほら――と、騎士が腰を支えてやるようにして、兵士を立ち上がらせた。
 騎士の肩に半分以上寄りかかっているような兵士だったが、ゆっくりとテントを後にする。

「王太子殿下。一体、これはどういうことなのですか?」
「不正だ」
「――不正?」

「それも、王国軍の不正だ」
「――まさかっ……!?」

 だが、アルデーラの表情がどこまでも硬く、そして、その瞳は、冷酷なまでに冷たい輝きを見せていた。

「――――伯爵、とは誰なのですか?」
「ヘルバート伯爵だ」
「ヘルバート伯爵? 聞かない名ですね」

「隣国ノーウッド王国ヘルバート伯爵、だ」
「隣国? ――えっ? 隣国とは、なぜ、隣国の伯爵が、ブレッカに?」

「さあ。だが、ヘルバート伯爵代行の者が、アトレシア大王国、王国軍の不正を告発してきた人物だ」
「――――!!」

 その場の全員が瞠目どうもくする。

「真相が明らかになるまで、この問題は、この場だけのものとする」
「わかりました」

「クロスビーを」
「はい、すぐに」

 そして、団長であるハーキンもまた、テントを後にしていた。


* * *


 ノーウッド王国の東寄りには、アトレシア大王国がある。

 アトレシア大王国も、近隣諸国と変わらず、王国制の封建社会を取っていて、現国王陛下には、三人の王子殿下と一人の王女殿下がいる。

 王太子として立太子しているのは、長兄の第一王子殿下という話だ。そして、今回、ブレッカに王都から王国騎士団を引き連れてやって来たのも、その王太子殿下という話が上がっている。

 王宮に引きこもる王子殿下サマが勇ましく、戦場にまで顔を出したのかは知らないが、どうやら、セシル達が拾った負傷兵は、もう一つの国境側の砦にたどり着き、王太子殿下の面会を許されたらしい。

 日差しも高く登り、昼頃に差し掛かる頃、この駐屯地の外にはかなりの喧騒が、上がりだしていた。
 兵士達がざわつき、せわしなく、駐屯地内を走り回っている。

 セシル達は朝食を済ませた後、荷物の整理も全て終わり、あとは、この駐屯地を去るだけとなっていた。

 小さくなっていく焚火に少しずつ小枝を投げながら、一応、昼御飯用に火は残してある。

 タタッ――――

 軽快な足音と共に、セシル達が待機している場に、フィロが戻って来た。

「お帰り、フィロ」
「ただいま戻りました」

「どうでしたか?」
「どうやら、王太子殿下率いる騎士団が、やって来たようです」

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