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Part1
Б.б 見限るしかない - 05
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荷車で待機している子供達も、セシルのすぐ隣にいる子供達も、この緊張の場でしっかりと正気を保っている。そして、その強い瞳で、セシルを真っすぐに見据えていた。
「もし、非常事態になった場合、なんとしても、最後まで生き延びなさい。どんな手を使っても構いません。最後まで、絶対に生き抜いて、生き延びなさい」
「はい、マスター」
「最悪――の場合、殺す覚悟でも、絶対に生き延びなさい」
「はい、マスター。私達は、もうずっと前から、その覚悟はできています」
セシルに拾われてから、コトレアにやって来てから、ずっと、ずっと、五人はもう誓ったのだ。
絶対に生き抜いて、最後まで生き延びる――生き延びて、主を護る、と!
今更、人を殺めるかもしれない状況で怯んでなどいられない。――もう、負け犬で虐げられ、殴られ、蹴られ、死んでいるも同然の生活には戻らないのだ。
全部、セシルがくれたから。
だから、セシルに恩返しできるなら、セシルの為に護れるのなら、もう、何も恐れはしない。
それだけの「覚悟」 を、全員が、ずっと以前から、もう決意していたのだ。
「本当に……、あなた達は頼もしくなりましたね……」
「ですから、マスター。マスターは、一人で犠牲になんてならないでくださいね」
「そんなことなどしないわ。私には、領主としての責任もありますから」
「マスター」
ユーリカが、そこで口を挟んできた。
「どうしたの?」
「子供達全員に、馬を引かせるべきでしょう」
「そうね。私も、そう考えていたわ」
「マスター、それは――」
「これは、なにも、あなた達だけを逃がす為に言っているのではありませんよ」
フィロが口論しかけて、セシルがそれを言い聞かせる。
いつもと変わらない落ち着いたセシルの態度も、その瞳も、こんな緊張した場でも、一切の焦りを見せさえしていなかった。
「あなた達は身軽ですから、私とεの馬を引いてください。私達は、αとδと一緒に、相乗りにする形になるでしょう。強行突破する時は、後ろを振り返らず、真っ直ぐに前だけを見て、逃走する準備をしておきなさい」
「ですが……」
「大丈夫ですよ。なにも、私達が残って敵と戦う、などと言っているのではありません。ただ、δとεは、念の為に重装備をしてきています。ですから、たぶん、二人が殿を務めてくれると思うのです…」
「当然です」
「それに、私を戦いに巻き込むなんてことは、絶対にしないでしょうし……」
「当然です」
そんなことがあるかと、ユーリカの表情は硬く、絶対に有り得ないと、その顔が物語っていた。
「θ、心配する気持ちは分るが、私達は戦を経験している。どう戦場を動けばよいか、ある程度は経験済みだ。だから、最悪の場合、マスターと共に逃走しなさい」
フィロも残りの子供達も、納得はしていないようだった。
だが、ここで駄々をこねていても、何も解決しない。例え、全員が、殺す「覚悟」 ができていようと、戦場に身を置くのは、全員、今回が初めてだったから……。
「――わかりました」
「大丈夫だ。こんな王国軍の為に、わざわざ、命をくれてやる気は毛頭ないから。機を見て、さっさと見限るよ」
「わかりました」
うん、とユーリカも頷く。
そして、今は、確認に飛び出した残りからの報告を待つのみ。
* * *
昨日は援軍に出した兵士達が奇襲によって壊滅的な打撃を受け、ほとんどの兵士達が戻ってこなかった。
突然の襲撃にパニックした駐屯地は(あの無能集団と指揮官たちは)、自分達が攻撃されることを怖れ、駐屯地の内門側と国境側の領門を閉鎖してしまった。
門の前に、数百人にも及ぶ兵士達をズラリと並べ、ただ、誰もいない場所を睨み合っている(無駄な) 状態に陥っている。
出入り口が閉鎖されてしまった為、(ものすごく) 仕方なく、(嫌々に) セシル達は未だ駐屯地に残っていた。
だが、荷造りした荷は解かず、昨日は(本格的な) 野営で、全員、地面に、直接、薄い毛布を敷いた上で寝る羽目になってしまった。
食事も最低限で、持ってきた小麦粉で、簡単に水で溶かした薄地のパンを焼いて、干し肉を挟んで食べた程度だ。
負傷して、生き長らえてきた兵士達はほんの数えるほどしかいない。だが、手当てを受けて救護所で休んでいる兵士達に――ジャールはちょっとお邪魔して、話を聞くことができたらしい。
駐屯地全域の警戒が甚だしく、救護所などは、あまりに警護が手薄で、いや、全然なくて、ただ、ブラブラと中に入っていても、誰にも止められなかったらしい(さすが、ジャールである)。
突然の奇襲は、後方から襲ってきたらしい、と。それも、かなりの数の騎馬が襲ってきて、気が付いた時は、すでに半分近くの兵士達がやられてしまっていた、など。
部族連合の素早い対応と奇襲。予想もしていない場所から現れて、あたかも――王国軍が援軍を派遣する、正にその時を知っていたかのような動き。
うーん、と地図と睨めっこしているセシルが、また一人で考えこんでいた。
「領壁の話は聞けましたか?」
「ああ、ブレッカ一体、外壁は、全部、領壁でできてるらしいぜ。わざわざ、国境ときっちりと区切る為に、造り直したらしい」
「なるほど」
そうなると、ブレッカに侵入してくる出入り口は、国境として聳えている両方の砦側だけなのに、予期せぬ場所で奇襲。それも、狙って。
ふーん、と考え込んでいるセシルにも、段々と、ある可能性が頭に浮かんできていた。
うわああぁ――!!
突然、(またも) 駐屯地が騒がしくなり、全員が顔を上げた。
「今度はなんです?」
「さあな」
リアーガがすぐに立ち上がっていた。
「様子を見てくる」
「それなら、俺も行く」
「ああ、頼む。残りは、ここにいろ」
ジャールも素早く立ち上がり、二人は側に繋いであった馬に飛び乗っていった。
すぐに、大喧騒が上がっている場所の方向に向かって、馬を疾駆させる。
警戒態勢に入った全員が自分達の荷馬車に飛び乗った。
セシルは立ち上がって、ものすごい喧騒と混乱が上がっている方向を、ただ静かに見返していた。
陣を飛び立ってからすぐに、リアーガとジャールの二人が戻って来る。
「国境側に、部族連合が侵入してきた。領門が襲撃されて、それから部族連合の奴らがなだれ込んできたようだな。すでに、国王軍とかち合って、戦をおっぱじめてるぜ」
「向こうの砦と同じパターンですね。数は?」
「かなりいたようだな」
「では、内門側は」
「なんにもなし。あまりに静かで、そっちで警護に回ってる兵士達は、部族連合の襲撃の知らせを聞いて、その場から動かないのを決め込んだようだな。腰抜け共が」
「なるほど。部族連合は、侵略してきたのですか?」
「領門前で、王国軍と殺り合ってるだけだ」
「それも、向こうの砦で起きた戦の話に似ていますね。攻め入ってこないなんて――」
「確かにな。どうする?」
「これ以上、この場にいる必要はありません。全員、退避しましょう――」
「もし、非常事態になった場合、なんとしても、最後まで生き延びなさい。どんな手を使っても構いません。最後まで、絶対に生き抜いて、生き延びなさい」
「はい、マスター」
「最悪――の場合、殺す覚悟でも、絶対に生き延びなさい」
「はい、マスター。私達は、もうずっと前から、その覚悟はできています」
セシルに拾われてから、コトレアにやって来てから、ずっと、ずっと、五人はもう誓ったのだ。
絶対に生き抜いて、最後まで生き延びる――生き延びて、主を護る、と!
今更、人を殺めるかもしれない状況で怯んでなどいられない。――もう、負け犬で虐げられ、殴られ、蹴られ、死んでいるも同然の生活には戻らないのだ。
全部、セシルがくれたから。
だから、セシルに恩返しできるなら、セシルの為に護れるのなら、もう、何も恐れはしない。
それだけの「覚悟」 を、全員が、ずっと以前から、もう決意していたのだ。
「本当に……、あなた達は頼もしくなりましたね……」
「ですから、マスター。マスターは、一人で犠牲になんてならないでくださいね」
「そんなことなどしないわ。私には、領主としての責任もありますから」
「マスター」
ユーリカが、そこで口を挟んできた。
「どうしたの?」
「子供達全員に、馬を引かせるべきでしょう」
「そうね。私も、そう考えていたわ」
「マスター、それは――」
「これは、なにも、あなた達だけを逃がす為に言っているのではありませんよ」
フィロが口論しかけて、セシルがそれを言い聞かせる。
いつもと変わらない落ち着いたセシルの態度も、その瞳も、こんな緊張した場でも、一切の焦りを見せさえしていなかった。
「あなた達は身軽ですから、私とεの馬を引いてください。私達は、αとδと一緒に、相乗りにする形になるでしょう。強行突破する時は、後ろを振り返らず、真っ直ぐに前だけを見て、逃走する準備をしておきなさい」
「ですが……」
「大丈夫ですよ。なにも、私達が残って敵と戦う、などと言っているのではありません。ただ、δとεは、念の為に重装備をしてきています。ですから、たぶん、二人が殿を務めてくれると思うのです…」
「当然です」
「それに、私を戦いに巻き込むなんてことは、絶対にしないでしょうし……」
「当然です」
そんなことがあるかと、ユーリカの表情は硬く、絶対に有り得ないと、その顔が物語っていた。
「θ、心配する気持ちは分るが、私達は戦を経験している。どう戦場を動けばよいか、ある程度は経験済みだ。だから、最悪の場合、マスターと共に逃走しなさい」
フィロも残りの子供達も、納得はしていないようだった。
だが、ここで駄々をこねていても、何も解決しない。例え、全員が、殺す「覚悟」 ができていようと、戦場に身を置くのは、全員、今回が初めてだったから……。
「――わかりました」
「大丈夫だ。こんな王国軍の為に、わざわざ、命をくれてやる気は毛頭ないから。機を見て、さっさと見限るよ」
「わかりました」
うん、とユーリカも頷く。
そして、今は、確認に飛び出した残りからの報告を待つのみ。
* * *
昨日は援軍に出した兵士達が奇襲によって壊滅的な打撃を受け、ほとんどの兵士達が戻ってこなかった。
突然の襲撃にパニックした駐屯地は(あの無能集団と指揮官たちは)、自分達が攻撃されることを怖れ、駐屯地の内門側と国境側の領門を閉鎖してしまった。
門の前に、数百人にも及ぶ兵士達をズラリと並べ、ただ、誰もいない場所を睨み合っている(無駄な) 状態に陥っている。
出入り口が閉鎖されてしまった為、(ものすごく) 仕方なく、(嫌々に) セシル達は未だ駐屯地に残っていた。
だが、荷造りした荷は解かず、昨日は(本格的な) 野営で、全員、地面に、直接、薄い毛布を敷いた上で寝る羽目になってしまった。
食事も最低限で、持ってきた小麦粉で、簡単に水で溶かした薄地のパンを焼いて、干し肉を挟んで食べた程度だ。
負傷して、生き長らえてきた兵士達はほんの数えるほどしかいない。だが、手当てを受けて救護所で休んでいる兵士達に――ジャールはちょっとお邪魔して、話を聞くことができたらしい。
駐屯地全域の警戒が甚だしく、救護所などは、あまりに警護が手薄で、いや、全然なくて、ただ、ブラブラと中に入っていても、誰にも止められなかったらしい(さすが、ジャールである)。
突然の奇襲は、後方から襲ってきたらしい、と。それも、かなりの数の騎馬が襲ってきて、気が付いた時は、すでに半分近くの兵士達がやられてしまっていた、など。
部族連合の素早い対応と奇襲。予想もしていない場所から現れて、あたかも――王国軍が援軍を派遣する、正にその時を知っていたかのような動き。
うーん、と地図と睨めっこしているセシルが、また一人で考えこんでいた。
「領壁の話は聞けましたか?」
「ああ、ブレッカ一体、外壁は、全部、領壁でできてるらしいぜ。わざわざ、国境ときっちりと区切る為に、造り直したらしい」
「なるほど」
そうなると、ブレッカに侵入してくる出入り口は、国境として聳えている両方の砦側だけなのに、予期せぬ場所で奇襲。それも、狙って。
ふーん、と考え込んでいるセシルにも、段々と、ある可能性が頭に浮かんできていた。
うわああぁ――!!
突然、(またも) 駐屯地が騒がしくなり、全員が顔を上げた。
「今度はなんです?」
「さあな」
リアーガがすぐに立ち上がっていた。
「様子を見てくる」
「それなら、俺も行く」
「ああ、頼む。残りは、ここにいろ」
ジャールも素早く立ち上がり、二人は側に繋いであった馬に飛び乗っていった。
すぐに、大喧騒が上がっている場所の方向に向かって、馬を疾駆させる。
警戒態勢に入った全員が自分達の荷馬車に飛び乗った。
セシルは立ち上がって、ものすごい喧騒と混乱が上がっている方向を、ただ静かに見返していた。
陣を飛び立ってからすぐに、リアーガとジャールの二人が戻って来る。
「国境側に、部族連合が侵入してきた。領門が襲撃されて、それから部族連合の奴らがなだれ込んできたようだな。すでに、国王軍とかち合って、戦をおっぱじめてるぜ」
「向こうの砦と同じパターンですね。数は?」
「かなりいたようだな」
「では、内門側は」
「なんにもなし。あまりに静かで、そっちで警護に回ってる兵士達は、部族連合の襲撃の知らせを聞いて、その場から動かないのを決め込んだようだな。腰抜け共が」
「なるほど。部族連合は、侵略してきたのですか?」
「領門前で、王国軍と殺り合ってるだけだ」
「それも、向こうの砦で起きた戦の話に似ていますね。攻め入ってこないなんて――」
「確かにな。どうする?」
「これ以上、この場にいる必要はありません。全員、退避しましょう――」
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