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Part1

Б.б 見限るしかない - 02

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「マスター」

 ジャン達が、リアーガ達と入れ替わりで戻って来る。

「どうしたの?」
「駐屯地が、少々、騒がしくなっています」

「騒がしくなっている? なにか動きがあったの?」
「なんでも、兵士達が、向こう側の国境の砦に飛ばされるそうです。それで、戦準備を始めたようです。「戦に行くのか? 援軍なんてやってられねー」って、文句をこぼしている兵士がいましたから」

「援軍ねえ。敵が襲撃してから三日も立っているのに、随分と、時間がかかること」
「援軍なんて、どうせ役にも立たないだろうに」

 フィロの推測には、全員が全く異論なく賛成ですよ。うんうん。

「でも、結構な数でしたよ」

 ジャンが口を挟んだ。

「どのくらいです?」
「荷物とか、動き回っている兵士がかなりいました。100人以上は、いると思いますけど」

「へえ、そうですか。調査の方は、どうなっています?」
「ある程度、家屋、物資、建築物の場所は判りました。θシータの方は、まだ数えているはず」

「いや、もう終わりました。昨日のといれて――大体、千人ほどですね。使用人とかいないのか、次で確認してきます」

「よろしくね。κカッパは?」
「もう少し見て回ってきます。それが終われば、地図を描くので」

「そうですか。では、三人共、よろしくね」
「わかりました」

 頼りになる子供達は、簡単な報告を済ませて、また任務に戻って行く。

 セシルが連れて来た五人の子供達は、セシルの領地にいる領民だ。そして、フィロを抜かした四人は、今の所、領地の「騎士見習い」 である。
 騎士、ではない。

 正規の騎士ではないだけで、騎士の仕事もしなければならないし、任務もこなさなければならない。厳しい訓練も受けているし、徹底した騎士の躾だってされている。
 基礎を習っている、ただの“見習い”ではない。

 領地の子供達で仕事をする子供達は、全員「見習い」 とされる。成人してから、正式な仕事の任命が下り、「見習い」 ではなくなるだけだ。

 そして、まだ子供であるのに――あの五人の子供達は、セシルが手放せない、とても優秀なセシルの“精鋭部隊”となるほどに、死ぬほどの努力をして、腕を磨いてきた子供達なのだ。

 ジャン、ケルト、フィロ、ハンス、トムソーヤ。
 その順番で、年齢が年長から年少になっていき、大抵、グルーブで行動する時には、ジャンがグルーブのまとめ役をやっていることが多い。

 そして、全員、スラム街の孤児だ。

 スラム街の孤児で、ゴミのような扱いを受けて、虐げられ、人としてなど扱われず、そうやって生き抜いて来た子供達を、セシルが領地に呼び寄せたのだ。
 それから、五人はコトレアの領民となった。

 ケルトとハンスは、昔から器用な子供だったようで、なんでも自分達で作り上げることが得意だ。

 ケルトは、木ならなんでも切り崩したり、武器を作ったりと、仕事が手早い。
 ハンスはケルトのように木工もするが、ハンスの場合は、手でなんでもグチャグチャにするのが趣味なのだ。盗んだ時計を分解したり、ドアの金具を外したり、そういったことが大得意である。

 それで、この二人には、昨日、セシル達が陣を取っている周囲一帯の罠と仕掛けを張ってもらったのだ。初日から、盗人を捕まえることができて、大助かりだ。

 フィロは五人の中で一番頭が良かった子供で、頭の回転も機転も早く、領地にやって来た当初から、セシルの付き人として、そっちの教育を受けていた。
 だから、大抵、セシルが行く場所には、フィロが同行している。

 最後に、トムソーヤは、グループの中で最年少の子供である。まだ体格も小さく、それだけに、大抵、いつも見張り役として、一人、こっそりと隠れている仕事を任されることが多い。
 昔から、こっそり隠れてばかりいる為、ほとんど気配を悟られることもない。

 ただ、隠れる為には、最適な隠れ場所を見つける必要があるし、逃げ場所確保の為に、地理や地形の把握が必要とされる。

 それで、そういった知識が自然と養われたのか、身に着いたのか、トムソーヤは地理や地形を読むことに長けていた。だから、今回も、駐屯地の敷地内を散策させ、駐屯地の構造やら、地図の作成を任されている。

 まだまだ子供なのに、本当に、セシルの元に集まった子供達は、大人以上の働きをして、とても頼りになる子供達ばかりだ。

 その日は、それぞれの仕事をこなし、順調な一日を終えていた。それぞれに持って帰ってきた報告をし合い、駐屯地の構造やら施設などの位置も、大体、把握した。

 リアーガやジャール達は、西の砦に向かって少し距離を伸ばしてはみたが、駐屯地周辺だけ、と言うセシルの指示で、それほど遠くまでの確認はしていない。

 だが、干し肉を買いに行くで、ジャールが仕入れて来た情報は、ちょっとボーナスを出してもいいほどの価値ある情報となった。

「どうやら、コロッカルとブレッカを行き来する奴がいるらしい。毎回、毎回、なにか物資を持ち運んでいる男らしいがな。ブレッカなんて、基礎用品程度しか買い入れはできない。なのに、その男が持ち込んでくる高価な嗜好品やら珍味が、酒場なんかで直接取引されてるってな話だ」

「それで、横流し、ですか?」
「そうだろうな。酒場の奴らの話でも、「たぶん、駐屯地のからこっそりくすねてきたんだろうさ」 なんて噂も上がってる」

「噂も上がっているのに、何もしないんですね」
「別に、ブレッカで店を開いている奴らには、支障もなければ、問題もないだろ? 客が金を払えば、それでいい」
「まあ、そうですけれど」

「もう一つ、面白い話も出てたぜ」
「それは?」

嗜好品やら珍味だけでなく、時たま、武器が売られてくる、ってな」
「武器? 剣ですか?」

「そう。それも、かなり頻繁に」
「剣を売りさばいてばかりでは、限りがあるでしょう?」

「確かにな。だが、頻繁に剣を売りさばいているとは言え、数は多くない。数本ずつが横流しされているようだな。その代わりに、ブレッカにある武器商に、兵士が剣を買い付けにくる。それも劣化した品質の剣を」

「どういうことです?」

「王国軍の兵士は、あんな役立たずでも、一応、正規の兵士だ。それで、正規の剣が支給される。そいつは、ちゃんとしたモンだろうな。そいつを売りさばき、盗人が金儲けする。闇商人は、質の高い剣を闇商売で売りさばき、儲けを得る。そして、今度は、劣化した品質の剣を武器商に売りつけ、横流しを誤魔化す為に、盗人が、その安モンで粗悪品を買って帰る。多少の出費だろうと、最初に売りさばいた金があるから、まだ多少の儲けはある」

「なるほど」
「試しに買ってみたが、間違いなく粗悪品だ」

「買えたのですか?」
「ああ、予備は何本かおいてあるようだ。それは別払いで」

「……いいでしょう。それが粗悪品?」
「ああ。はがねじゃない。重さからいって鉄だが、混合鉄かなんかで、木を切り倒したら、すぐに刃こぼれしたぜ」
「全然、役に立たないじゃないですか。それで戦?」

 あまりにバカげてる、と完全に軽蔑しているセシルに、ジャールも肩をすくめる。

「あんたの見立ては正しかったな。この駐屯地――いや、もしかしたら、反対側も、絶望的だ」
「そうですか」

 セシルの憶測が確認されたからと言って、何も嬉しくはない。
 むしろ――確認が取れてしまって、もう、呆れを通り越して、軽蔑以外のなにものでもない。

「相変わらず、いい仕事ぶりですね」
「お喋りは好きなんでね」

 それで、ちょっと店に顔を出した程度で、ここまでの情報収集である。
 できる味方や仲間がいると、本当に仕事が早いだけではなく、頼りになるものだ。セシルが一人で動き回る必要もない。

 ああぁ……、良い人材に恵まれて本当に良かったですわぁ……。


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