奮闘記などと呼ばない (王道外れた異世界転生)

Anastasia

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Part1

* Б.б 見限るしかない *

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 いきなり執務室の扉が開いて、何事かっ――と、眉を吊り上げた中尉の前で、ドカッと、何かの塊が投げ込まれた。

「なんだ? 一体、何事だ?」

 見れば、投げ込まれたのは二人の男らしく、後ろ手で縛り上げられているようだった。

 そして、その後から真っ黒な――いや、マントを身に着けた、あの隣国の一団が部屋に入って来た。
 今日は、昨日のリーダーらしき一人の他に、三人の付き添いがいる。

「昨夜、深夜になり、我々の陣を取っている場所に、盗みを働きにきた兵士達ですが」
「盗み? ――一体、何を盗みにきたんだ?」

「貴族がやってきた話を聞き、、我々の場所に侵入して、高価な品物を盗みにきたそうですが?」

 一体、この落とし前は、どうつけてくれるんだ?

 言葉に出されない暗黙の責めがあまりにはっきりとしているのに、中尉は、そんな皮肉にも注意を払っていない。

「バカバカしい。王国軍の兵士が、そんなことをするものか。我々を侮辱しているのか?」
「事実ですが?」

「そんなもの、事実なわけがあるかっ。誇り高き王国軍への侮辱、許されん」
「へえ。では、この兵士達は王国軍の兵士ではない、と? それなら、我々が処罰しても、問題はないようだ」

「――あ、ああっ……待ってくれ……! もう、しません……」
「……どうか、許してくれっ……!」

 状況が更に悪化していくようで、捕縛した二人の兵士達が、大焦りで懇願をみせる。

「ここの指揮官が、王国軍の兵士ではない、と断言しているが?」
「そ、そんなことはないっ……。俺は、王国軍の兵士だ。第3小隊の所属なんだ」
「俺だってそうだ。確かめてくれれば、判るから――」

 へえ、とあまりに冷たく、感情の機微もなく、口も開かないような音だけの相槌が出され、サーっと、一気に男達の顔色が青ざめた。

「……どうか……、助けてくれ……」
「……殺さないでくれ………」

 それで、セシルの視線が、わざとに、中尉の方に向けられた。

「と言ってるけど?わざわざ、第3小隊まで行って、確認しないといけないなんて、一体、どれだけ躾がなってないのかねえ? 王国軍、でしたっけ?」

 侮蔑が露わで、見下した態度も隠さない。

 それで、中尉の眉間が、ピキピキと引き攣っていく。

「――貴様ら、よくも、俺の前に、そんな体たらくな格好を見せられたものだなっ!」

「怒鳴り散らしたところで、自分の八つ当たりはできでも、問題解決にもなっていない。盗人を放置しまくっているのは、ここにいる指揮官の問題ではないのか?」

 あまりのくだらなさに、セシルが感情もなく言い捨てていた。

「なにをっ……! この俺を侮辱しおって――」
「侮辱したからと、どうしたと言うんです? 他国の、それもボランティアで混ざった義勇軍に対して、随分の扱いだ。こんな醜態、ノーウッド王国に報告されたらどうなるのか、考えたことはないのか?」

 ハッ――と、中尉が一気にこの現状を理解したようだった。

 頭の悪い男だ。
 一々、指摘してやらないと、全く自分の状況を把握していないらしい。

 セシルは、ノーウッド王国の王宮になど報告する気は全くないが、そんな事実、この中尉は知る由もない。

 だが、ノーウッド王国に、アトレシア大王国の王国軍では悪事や悪行が許されている、などと報告されてしまったら、なにかの拍子に、アトレシア大王国の王宮にも、その話が届いてしまうかもしれない。

 そうなったら、威張り散らしている中尉の首だって、危なくなってしまう。

 うぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……と、あからさまに自分の憤りを隠さず、その顔が怒りで紅潮していくが、この場でセシル達を更に怒らせては、重大な問題になってしまいかねない。

「――――こいつらは、こちらで処分しておく」

 それを言うのがやっとのようだった。

 セシルは、特別、何かの処罰を期待していたのではないし、こんな能無しの中尉に頼っているわけでもない。

 セシルは三人に頷いて、挨拶もなく、クルリと身を翻し、さっさとこんな部屋を後にする。
 廊下を進んで行く際に、開けっぱなしになっているドアから、中尉の叫び声が上がっていた。


「――――貴様らっ! 俺に恥をかかせおって――」


 お前程度の男に恥をかかせたからと言って、何だと言うのだ。
 根本的な軍の規律もなっていない、この駐屯地自体が問題なのに。


――ああ、なんて、アホ臭い。


 司令塔を後にする四人の全員一致した意見だった。




 初日では、すでに軍から盗人が。

 今朝、全員が目を(もう一度) 覚まし、朝食もすっかり終えた頃、昨夜、木にグルグル巻きに縛り付けておいた男達の前に、全員が集まっていた。

 兵士達は、朝方には目を覚ましていたようで、どうにか逃げ出そうと、かなりもがいていた様子ではあるが、しっかり、きつく、グルグル巻きにされている為、腕がこすれて赤くなっていても、逃げ出すことは不可能だったようだ。

 それで、リアーガに(更に) 脅されて、名前に所属の隊、上官の名前を聞きだし、おまけに、(ご丁寧に) フィロが用意した犯罪申告書(自白書) に、二人のサインを(しっかり) とさせ、証拠品としてもちろんゲット!

 盗人を引き渡して戻って来たセシル達は、引き続き、駐屯地内の確認と警備の強化で忙しい。

 ジャン、フィロ、トムソーヤの三人は、昨日に引き続き、駐屯地の構造やら、地理やらの確認へと出発した。

 ケルトとハンスは、昨日、修正した罠と仕掛けの確認と共に、名案がひらめいたようで、今日もまた新たな仕掛けと罠を張る為、気を切り倒し、枝を集め、穴を掘り――などなど、肉体労働に精を出していた。

「働き者のガキ共だなあ」

 そして、大人達と言えば――今はすることがないので、しっかり働き者の子供達と違い、小さく残している焚火を囲んで、のんびーりと座っているだけだ。

「ええ、そうですね」

 じーっと、何かを言いたそうに、聞きたそうに、ジャールの眼差しがセシルに向けられているが、セシルは知らん顔。

 子供達が一体何者なのか、ジャールも探り出したいのだろうが、セシルは説明する気配も様子もない。

「少し、この駐屯地の周囲の地理を、確認したいのですけれど?」
「反対側の国境側に行けって?」

「いえ、それはさすがに危険すぎるでしょう。ただ、この駐屯地の周辺だけでいいのですけれど。三人でお願いできますか?」

「まあ、その程度ならいいけどな」
「伯爵家からの証明書を出しましょう。それを見せれば、内門の出入りは、それほど問題にはならないでしょうから」
「まあな。あれじゃあなあ」

 穴だらけの全く役にも立たない内門の見張り番だ。

「あまり奥まで踏み込まなくていいですよ。それから、もし、敵が徘徊していた場合、すぐに撤退してきてください」
「ああ、わかった」
「では、お願いしますね」

 仕方なく、ジャールがリエフに首を振る。
 二人が立ち上がり、リアーガも立ち上がった。

 ふと、セシルが何かを思い出したのか、思いついたのか、
「この駐屯地から、横流しの商品や物資を買い取っている闇業者のことについても、なにか話が聞けないかしら?」

 ジャールは、昔から些細な市勢の情報を聞き出してくるのが得意だった。
 話のついでだ、と本人は言っているが、そこらで転がっている噂やら、話を拾ってくるのが、とても上手かったのだ。

「ああ、それなら、ブレッカの商店街でも、顔出してみるか。なにか買ってくるか?」
「じゃあ、干し肉でも。代金は後払いで」
「いいぜ」

 それで、“お買い物”程度の仕事も任され、三人が馬を引いて駐屯地を去っていた。


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