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Part1
А.б 慰謝料、もちろん請求します - 03
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* * *
「姉上」
セシルが王都にある伯爵家のタウンハウスの屋敷に戻ってくると、すぐに、若い少年が駆け寄って来た。
キラキラと光る、金髪に近い銀髪を持ち、深い藍の瞳を持った、まだ幼さと可愛らしさが残るような面持ちの少年だった。
「シリル」
「姉上……」
駆け寄って来た少年は、セシルよりもまだほんの少し背が低く、それで、セシルを心配そうに見つめたまま、その後の言葉を繋げられないようだった。
セシルは、ふふ、と笑い、
「卒業式を終えてきました」
「では――」
「ええ、念願の婚約解消です。国王陛下からのサインも頂きました」
パッと、少年の顔が嬉々と変わり、そして、少年が躊躇いもせずにセシルに抱きついてきた。
「姉上、おめでとうございますっ!」
「ふふ、ありがとう、シリル」
「ああ……、これで、やっと、やっと、姉上が、あのような苦痛から解放されるのですね……。私は、とても嬉しく思います。おめでとうございます、姉上」
「ありがとう、シリル」
「セシルさん――」
「セシル――」
廊下から、珍しく――バタバタと足音がして、年配の女性と男性までも、セシルの方に向かって駆けて来た。
「セシルさん……」
「セシル……」
「あら、お父様、お母様、お二人も出迎えにきてくださったのですか? そのように心配なさらなくても、よろしかったのに」
だが、セシルの両親である二人は心配そうな顔を隠さず、セシルを見つめている。
「無事に卒業してまいりました。そして、婚約解消も決定いたしましたのよ」
「まあっ……!」
「そうかっ……!」
シリル同様に、二人の顔にもパっと嬉々とした色が浮かび上がり、二人が同時に安堵の息を吐き出していた。
「ああ……、よかったですわ……。本当に……」
「ああ、そうか……」
「旦那様、やりましたわっ!婚約解消ですのよ」
それで、セシルの母親と呼ばれていた女性が、隣にいるセシルの父親に、(つい) 抱きついていった。
だが、セシルの父親の方も最大級の安堵と喜びを噛み締めているだけに、派手に抱きついてきた妻を軽く抱き返し、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「ああ……、そうか……。婚約解消がかなったんだな――。なんて朗報だ!」
「ええ、そうですわ。婚約解消なのですよ」
そして、そのまま二人で踊りだしてしまいそうなほどの大喜びである。
一家揃って、大事な娘の一大事――婚約解消を大喜びする図など、絶対に有り得ないだろう。
だが、ここヘルバート伯爵家では、玄関先で、セシルを迎えた家族が踊りだしそうなほどの大喜びをみせていた。
セシルに抱きついている少年は、五つ年下の弟であるシリル。
セシルを迎えにやってきた両親は、父のリチャードソンと、セシルが幼い時に、再婚してやってきた継母のレイナだった。
再婚したレイナには自らの子供がいず、ヘルバート伯爵家のリチャードソンと再婚した後でも、子供には恵まれなかったが、セシルとシリルを本当の自分の子供のように可愛がって、世話をしている優しい母親だ。
セシルとシリルの実の母親が、急な病で他界した時は、父のリチャードソンはひどく悲しみ、喪に伏して、二年は誰とも再婚しなかった。
それからも、本人は再婚など全く考えてもいなかったのだろうが、残された子供達はまだ幼く、母親が必要だと説得され、同じように愛する夫を早くに亡くし、未亡人だったレイナが、再婚相手として選ばれた。
互いに愛する人を失った者同士、哀しみの経験も同じで、父のリチャードソンと母のレイナはお互いを尊重し合うような、ゆっくりと愛を育てていくような、そして、亡くなった愛しい人をずっと思っているような、そんな優しく、ほんわかとした関係が、お互いを癒しながらできあがってきた。
それから、レイナを含めた四人家族、ヘルバート伯爵家の一員である。
家庭内は至って平和で、幸せな家族関係である。
ありきたりの異世界物語のように、意地悪な継母もいない。冷たい父親もいない。姉を嫌っている弟もいない。
もうこの時点からして、セシルが――飛ばされた――この世界は、ありきたりで典型的な異世界物語から外れていることになる。
本当に不思議なことだ。
玄関先で大喜びをしているヘルバート伯爵家を(ずっと向こうからこっそりと) 見守っている使用人の顔や頭が、柱の陰から、廊下の陰から、ひょこひょこと、顔を出している。
その気配に気付いたセシルが、向こうのほうに視線を向けて、笑ってみせた。
「皆も心配しなくて大丈夫ですよ。もう全て終わりましたから。今日で、婚約解消成立です」
「――――やったぁっ!!」
「婚約解消ですって――っ!!」
うわぁっ――と、廊下の向こうでも(こっそりと) 覗いていたはずの使用人達が、歓声を上げて喜んでいる。
屋敷中で全員が若い令嬢の婚約解消を大喜びして――これも、ある意味、異様な光景、とは言えるかもしれない。
普通なら、貴族の令嬢として、公で婚約解消など言いつけられたら、もう恥でしかなく、面子も面目も立たない。そして、その家の家名だって、傷物扱いになってしまう。
それなのに、ここヘルバート伯爵家では、屋敷中で、全員万々歳で大喜びなのである。
この光景を見ていた他の貴族がいたのなら、全員の頭がおかしくなったか、狂ってしまったのか――と、気味悪がっても不思議ではないが、この勢いなら、今日この日、ヘルバート伯爵家では、伯爵家の大事な一人娘の婚約解消で、盛大なお祝いが催されることだろう。
「姉上」
セシルが王都にある伯爵家のタウンハウスの屋敷に戻ってくると、すぐに、若い少年が駆け寄って来た。
キラキラと光る、金髪に近い銀髪を持ち、深い藍の瞳を持った、まだ幼さと可愛らしさが残るような面持ちの少年だった。
「シリル」
「姉上……」
駆け寄って来た少年は、セシルよりもまだほんの少し背が低く、それで、セシルを心配そうに見つめたまま、その後の言葉を繋げられないようだった。
セシルは、ふふ、と笑い、
「卒業式を終えてきました」
「では――」
「ええ、念願の婚約解消です。国王陛下からのサインも頂きました」
パッと、少年の顔が嬉々と変わり、そして、少年が躊躇いもせずにセシルに抱きついてきた。
「姉上、おめでとうございますっ!」
「ふふ、ありがとう、シリル」
「ああ……、これで、やっと、やっと、姉上が、あのような苦痛から解放されるのですね……。私は、とても嬉しく思います。おめでとうございます、姉上」
「ありがとう、シリル」
「セシルさん――」
「セシル――」
廊下から、珍しく――バタバタと足音がして、年配の女性と男性までも、セシルの方に向かって駆けて来た。
「セシルさん……」
「セシル……」
「あら、お父様、お母様、お二人も出迎えにきてくださったのですか? そのように心配なさらなくても、よろしかったのに」
だが、セシルの両親である二人は心配そうな顔を隠さず、セシルを見つめている。
「無事に卒業してまいりました。そして、婚約解消も決定いたしましたのよ」
「まあっ……!」
「そうかっ……!」
シリル同様に、二人の顔にもパっと嬉々とした色が浮かび上がり、二人が同時に安堵の息を吐き出していた。
「ああ……、よかったですわ……。本当に……」
「ああ、そうか……」
「旦那様、やりましたわっ!婚約解消ですのよ」
それで、セシルの母親と呼ばれていた女性が、隣にいるセシルの父親に、(つい) 抱きついていった。
だが、セシルの父親の方も最大級の安堵と喜びを噛み締めているだけに、派手に抱きついてきた妻を軽く抱き返し、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「ああ……、そうか……。婚約解消がかなったんだな――。なんて朗報だ!」
「ええ、そうですわ。婚約解消なのですよ」
そして、そのまま二人で踊りだしてしまいそうなほどの大喜びである。
一家揃って、大事な娘の一大事――婚約解消を大喜びする図など、絶対に有り得ないだろう。
だが、ここヘルバート伯爵家では、玄関先で、セシルを迎えた家族が踊りだしそうなほどの大喜びをみせていた。
セシルに抱きついている少年は、五つ年下の弟であるシリル。
セシルを迎えにやってきた両親は、父のリチャードソンと、セシルが幼い時に、再婚してやってきた継母のレイナだった。
再婚したレイナには自らの子供がいず、ヘルバート伯爵家のリチャードソンと再婚した後でも、子供には恵まれなかったが、セシルとシリルを本当の自分の子供のように可愛がって、世話をしている優しい母親だ。
セシルとシリルの実の母親が、急な病で他界した時は、父のリチャードソンはひどく悲しみ、喪に伏して、二年は誰とも再婚しなかった。
それからも、本人は再婚など全く考えてもいなかったのだろうが、残された子供達はまだ幼く、母親が必要だと説得され、同じように愛する夫を早くに亡くし、未亡人だったレイナが、再婚相手として選ばれた。
互いに愛する人を失った者同士、哀しみの経験も同じで、父のリチャードソンと母のレイナはお互いを尊重し合うような、ゆっくりと愛を育てていくような、そして、亡くなった愛しい人をずっと思っているような、そんな優しく、ほんわかとした関係が、お互いを癒しながらできあがってきた。
それから、レイナを含めた四人家族、ヘルバート伯爵家の一員である。
家庭内は至って平和で、幸せな家族関係である。
ありきたりの異世界物語のように、意地悪な継母もいない。冷たい父親もいない。姉を嫌っている弟もいない。
もうこの時点からして、セシルが――飛ばされた――この世界は、ありきたりで典型的な異世界物語から外れていることになる。
本当に不思議なことだ。
玄関先で大喜びをしているヘルバート伯爵家を(ずっと向こうからこっそりと) 見守っている使用人の顔や頭が、柱の陰から、廊下の陰から、ひょこひょこと、顔を出している。
その気配に気付いたセシルが、向こうのほうに視線を向けて、笑ってみせた。
「皆も心配しなくて大丈夫ですよ。もう全て終わりましたから。今日で、婚約解消成立です」
「――――やったぁっ!!」
「婚約解消ですって――っ!!」
うわぁっ――と、廊下の向こうでも(こっそりと) 覗いていたはずの使用人達が、歓声を上げて喜んでいる。
屋敷中で全員が若い令嬢の婚約解消を大喜びして――これも、ある意味、異様な光景、とは言えるかもしれない。
普通なら、貴族の令嬢として、公で婚約解消など言いつけられたら、もう恥でしかなく、面子も面目も立たない。そして、その家の家名だって、傷物扱いになってしまう。
それなのに、ここヘルバート伯爵家では、屋敷中で、全員万々歳で大喜びなのである。
この光景を見ていた他の貴族がいたのなら、全員の頭がおかしくなったか、狂ってしまったのか――と、気味悪がっても不思議ではないが、この勢いなら、今日この日、ヘルバート伯爵家では、伯爵家の大事な一人娘の婚約解消で、盛大なお祝いが催されることだろう。
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