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Part1
А.б 慰謝料、もちろん請求します - 02
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「昔から、悪い子にはお仕置きをすれ、と言いますでしょう? しっかりと、反省なさってくださいね」
ふふ、と口から洩れることはなかった微笑だったが、三人の耳には――もう、記憶に焼き付いてしまうほどしっかりと聞こえていた(背筋が凍るような) 微笑の音だった。
「――ち、違い、ます……!わたくしは、そんなつもりは――。そ、そうです……。クロッグ男爵令嬢に脅かされて、無理矢理、嘘をつけと言われましたの……。信じて、くださいませ……」
ハッと、隣にいた少女までも何かを思いたったようで、口を挟んでくる。
「そうなのです……! わたくしも、無理矢理、脅されて……。どうか、信じて、ください……。すべて、クロッグ男爵令嬢が悪いのです……。わたくしは、イジメなど、そんなひどい行為が許されるなど……。ですから、証言することを同意しただけなのですから……。わたくしは、間違っておりません……。どうか、信じてくださいませ――」
「お二人とも、一体、なにを言っているんですかっ?! リナエ様がイジメを受けていると聞いて、お二人だって、憤慨されていたじゃありませんか。ですから、わたくしだって、リナエ様に協力することを同意したのです。婚約者であるからと――リナエ様だって、結ばれぬ恋を悩み、苦しまれ、それで……悲しまれているのに、その上、イジメだなんて――ひどいではありませんか……。お二人だって、一緒に憤慨なさっていたでしょう?」
「そ、それは……」
「そうですけれど……。ですが、わたくし達だって、騙されたのですよっ! あの――リナエ様をご覧になったでしょう? ウソをでっちあげ、わたくし達を陥れたんですから」
「そんな……!?」
「まだ信じられないの? それこそバカですわ。清い恋愛物語など信じて、リナエ様のような女の戯言を真に受けているんですもの」
「戯言なんて、そんな……!」
「そうじゃありませんこと? ジョーラン様となんて、すでに体の関係まで出来上がっていて、婚約者を蹴落とす為に、一芝居売ったのでしょうよ」
「そ……そんな……。ひどいっ……」
それで、その少女が涙を浮かべ出し、うつむいた。
勝手に盛り上がって、勝手に事実を暴露してくれている三人を、冷たい眼差しで見やっているセシルには、今の会話でほとんどの事情を理解していた。
なるほど、なるほど。
三人のうち二人は、クロッグ男爵令嬢の悪巧みをある程度は知っていたのに、それでも、男爵令嬢に手を貸すこと同意したようである。
ふてぶてしい態度から見ても、要は、暇を持て余している貴族の令嬢が、赤の他人の不幸を見て、暇潰しがてらの刺激でもあれば――なんて、軽薄な理由で、男爵令嬢に加担したようである。
対する最後の一人は、純粋に、男爵令嬢が語った“許されぬ恋愛”物語でも信じたのか、自分の正義感に火がついて、喜んで男爵令嬢に加担してきたようである。
最後の一人は、無知ゆえの行動で、男爵令嬢の企みも知らなかったようであるから、ある程度反省をみせれば、お叱り程度の仕置きで済むかもしれない。
正義感が強く、自分の正義を押し付けるのは悪いことではない。
だが、自分の正義の概念で、証拠もなく、赤の他人を陥れようとするような策に加担するあたり、無知であり、その行動は一喝されるべきだろう。
箱入り令嬢だろうと、自分の正義を貫き通すのであれば、最後まで、しっかりとその責任を取るべきだ。
口任せの虚言を信じ込んで、自分から事実を探さず、見つけようともしないのは、言い訳にもならない。
残りの二人は、そのふてぶてしさから見ても、どうせ、調べを受けている間も、騙された、知らなかった、などと喚き散らして、自分達の無実を言い張ることだろう。
くだらないですねぇ。
国王陛下の御前で、すでに、嘘を暴露しているのに、今更、言い訳など通用するものか。
偽証罪で本格的に捕縛されなくても、誉ある卒業式で、国王陛下の御前で、その恥をさらけだした醜態は、本人たちが好む好まずに関わらず、きっと、明日には、王都中の貴族達の耳に入ることだろう。
それぞれの両親だって面目をなくし、そんな醜態をさらけだした娘達を、社交界に戻すほど――勇気があるような貴族などいるのだろうか?
そうなると、しばらくは、社交界からもつまはじきにされ、ヒソヒソと、陰で悪口が飛び交い、彼女達の立場など、早々簡単に回復などしない状況は、目に見えている。
結婚――だって、“国王陛下の前でウソをついた醜態をさらけだした令嬢” なんて、一体、誰が喜んで身受けするのかしらねえ。
それなら、辺境の貴族の末裔(名前だけの) やら、まあ、裕福な平民(名前欲しさ) の結婚相手くらいに格下げだろうか?
自分の立ち場も弁えず、よくも、赤の他人を蹴落とそうなどと、浅慮極まりない策に加担したものである。
(本当、詰めが甘いですのね)
こちとら、七年もの間、本気を懸けて、自分の人生を懸けて、今までの苦痛を耐え抜いてきたのだ。
このセシルの本気の前で、セシルを攻撃してくるなんて、セシルを甘く見過ぎだ。
セシルは、自分を傷つけてくる者には、絶対に容赦しない。する気はない。
全力で、本気で、自分の持てる力を全て使ってでも、相手になってやろう。絶対に、容赦はしない。手を抜く気だってない。
(甘ったれたお嬢さん達に、一体、なにができるっていうのかしら? 私の人生は、お遊びじゃないのよ)
セシルは、もう――この世界に飛ばされた時――絶対に生き抜いて、そして、生き延びてみせると、誓ったのだ。
その覚悟を、甘く見過ぎだ。
三人の言い合いは見飽きたので、セシルは国王陛下の方に顔を戻す。
「誉ある卒業式の場で、このような醜態を見せましたことを、国王陛下、そして、ご来賓の皆様には、もう一度、心より謝罪申し上げます。先程にも申し上げましたように、皆様に多大なご迷惑をおかけしましたことですので、私達は、この場を辞し致します。皆様、失礼いたします」
セシルはドレスの裾を少しだけ摘まみ、最上級のお辞儀をした。
後ろに控えていた付き人の子供も、深く頭を下げていく。
そして、唖然とする会場中の人間の前で、そそ、そそと、セシルと付き人の子供は、顔を上げず、うつむいたまま会場を後にしていたのだ!
だが、(あまりにその場にそぐわない) ゴロゴロ、ゴロゴロと、台車の音も一緒になって消えていく。
その場に残されたのは――こんな醜態と、茶番劇の収集をどうつけるべきなのか、真っ青になった学園の学園長及び教師陣、そして、国王陛下の指示を仰ぐ為、顔を強張らせている騎士達全員が、その視線を国王陛下に向けているだけだった。
シーンと更なるきまずい沈黙だけが降りて、続いて――なんとも記憶に残る卒業式と化してしまったのか……。
だが、誰の視界の先にも――この茶番劇を終わらせた当の本人の姿など全くなし。
跡形もなく消え去る――などとは、こんなことを言うのだろうか……。
ふふ、と口から洩れることはなかった微笑だったが、三人の耳には――もう、記憶に焼き付いてしまうほどしっかりと聞こえていた(背筋が凍るような) 微笑の音だった。
「――ち、違い、ます……!わたくしは、そんなつもりは――。そ、そうです……。クロッグ男爵令嬢に脅かされて、無理矢理、嘘をつけと言われましたの……。信じて、くださいませ……」
ハッと、隣にいた少女までも何かを思いたったようで、口を挟んでくる。
「そうなのです……! わたくしも、無理矢理、脅されて……。どうか、信じて、ください……。すべて、クロッグ男爵令嬢が悪いのです……。わたくしは、イジメなど、そんなひどい行為が許されるなど……。ですから、証言することを同意しただけなのですから……。わたくしは、間違っておりません……。どうか、信じてくださいませ――」
「お二人とも、一体、なにを言っているんですかっ?! リナエ様がイジメを受けていると聞いて、お二人だって、憤慨されていたじゃありませんか。ですから、わたくしだって、リナエ様に協力することを同意したのです。婚約者であるからと――リナエ様だって、結ばれぬ恋を悩み、苦しまれ、それで……悲しまれているのに、その上、イジメだなんて――ひどいではありませんか……。お二人だって、一緒に憤慨なさっていたでしょう?」
「そ、それは……」
「そうですけれど……。ですが、わたくし達だって、騙されたのですよっ! あの――リナエ様をご覧になったでしょう? ウソをでっちあげ、わたくし達を陥れたんですから」
「そんな……!?」
「まだ信じられないの? それこそバカですわ。清い恋愛物語など信じて、リナエ様のような女の戯言を真に受けているんですもの」
「戯言なんて、そんな……!」
「そうじゃありませんこと? ジョーラン様となんて、すでに体の関係まで出来上がっていて、婚約者を蹴落とす為に、一芝居売ったのでしょうよ」
「そ……そんな……。ひどいっ……」
それで、その少女が涙を浮かべ出し、うつむいた。
勝手に盛り上がって、勝手に事実を暴露してくれている三人を、冷たい眼差しで見やっているセシルには、今の会話でほとんどの事情を理解していた。
なるほど、なるほど。
三人のうち二人は、クロッグ男爵令嬢の悪巧みをある程度は知っていたのに、それでも、男爵令嬢に手を貸すこと同意したようである。
ふてぶてしい態度から見ても、要は、暇を持て余している貴族の令嬢が、赤の他人の不幸を見て、暇潰しがてらの刺激でもあれば――なんて、軽薄な理由で、男爵令嬢に加担したようである。
対する最後の一人は、純粋に、男爵令嬢が語った“許されぬ恋愛”物語でも信じたのか、自分の正義感に火がついて、喜んで男爵令嬢に加担してきたようである。
最後の一人は、無知ゆえの行動で、男爵令嬢の企みも知らなかったようであるから、ある程度反省をみせれば、お叱り程度の仕置きで済むかもしれない。
正義感が強く、自分の正義を押し付けるのは悪いことではない。
だが、自分の正義の概念で、証拠もなく、赤の他人を陥れようとするような策に加担するあたり、無知であり、その行動は一喝されるべきだろう。
箱入り令嬢だろうと、自分の正義を貫き通すのであれば、最後まで、しっかりとその責任を取るべきだ。
口任せの虚言を信じ込んで、自分から事実を探さず、見つけようともしないのは、言い訳にもならない。
残りの二人は、そのふてぶてしさから見ても、どうせ、調べを受けている間も、騙された、知らなかった、などと喚き散らして、自分達の無実を言い張ることだろう。
くだらないですねぇ。
国王陛下の御前で、すでに、嘘を暴露しているのに、今更、言い訳など通用するものか。
偽証罪で本格的に捕縛されなくても、誉ある卒業式で、国王陛下の御前で、その恥をさらけだした醜態は、本人たちが好む好まずに関わらず、きっと、明日には、王都中の貴族達の耳に入ることだろう。
それぞれの両親だって面目をなくし、そんな醜態をさらけだした娘達を、社交界に戻すほど――勇気があるような貴族などいるのだろうか?
そうなると、しばらくは、社交界からもつまはじきにされ、ヒソヒソと、陰で悪口が飛び交い、彼女達の立場など、早々簡単に回復などしない状況は、目に見えている。
結婚――だって、“国王陛下の前でウソをついた醜態をさらけだした令嬢” なんて、一体、誰が喜んで身受けするのかしらねえ。
それなら、辺境の貴族の末裔(名前だけの) やら、まあ、裕福な平民(名前欲しさ) の結婚相手くらいに格下げだろうか?
自分の立ち場も弁えず、よくも、赤の他人を蹴落とそうなどと、浅慮極まりない策に加担したものである。
(本当、詰めが甘いですのね)
こちとら、七年もの間、本気を懸けて、自分の人生を懸けて、今までの苦痛を耐え抜いてきたのだ。
このセシルの本気の前で、セシルを攻撃してくるなんて、セシルを甘く見過ぎだ。
セシルは、自分を傷つけてくる者には、絶対に容赦しない。する気はない。
全力で、本気で、自分の持てる力を全て使ってでも、相手になってやろう。絶対に、容赦はしない。手を抜く気だってない。
(甘ったれたお嬢さん達に、一体、なにができるっていうのかしら? 私の人生は、お遊びじゃないのよ)
セシルは、もう――この世界に飛ばされた時――絶対に生き抜いて、そして、生き延びてみせると、誓ったのだ。
その覚悟を、甘く見過ぎだ。
三人の言い合いは見飽きたので、セシルは国王陛下の方に顔を戻す。
「誉ある卒業式の場で、このような醜態を見せましたことを、国王陛下、そして、ご来賓の皆様には、もう一度、心より謝罪申し上げます。先程にも申し上げましたように、皆様に多大なご迷惑をおかけしましたことですので、私達は、この場を辞し致します。皆様、失礼いたします」
セシルはドレスの裾を少しだけ摘まみ、最上級のお辞儀をした。
後ろに控えていた付き人の子供も、深く頭を下げていく。
そして、唖然とする会場中の人間の前で、そそ、そそと、セシルと付き人の子供は、顔を上げず、うつむいたまま会場を後にしていたのだ!
だが、(あまりにその場にそぐわない) ゴロゴロ、ゴロゴロと、台車の音も一緒になって消えていく。
その場に残されたのは――こんな醜態と、茶番劇の収集をどうつけるべきなのか、真っ青になった学園の学園長及び教師陣、そして、国王陛下の指示を仰ぐ為、顔を強張らせている騎士達全員が、その視線を国王陛下に向けているだけだった。
シーンと更なるきまずい沈黙だけが降りて、続いて――なんとも記憶に残る卒業式と化してしまったのか……。
だが、誰の視界の先にも――この茶番劇を終わらせた当の本人の姿など全くなし。
跡形もなく消え去る――などとは、こんなことを言うのだろうか……。
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