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Part1

* А.б 慰謝料、もちろん請求します *

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 シーンと――あまりに不快な静寂だけがその場に訪れる。

 だが、そんな悲惨な有り様で、おまけに、ものすごい喧噪を上げていたその場でも、セシルの態度は全く変わらず、淡々として、そして、冷静で、付き人から手渡された台帳のようなものを広げてみせる。

「ホルメン侯爵家ジョーラン様、そして、ヘルバート伯爵家長女の婚約に関しての取り決めで、ここに、婚約契約書がございます。内容は、以下の通りでございます」

  条項1-両家の婚約に関し、双方の同意なしでの婚約破棄、または婚約解消が発生した場合、双方が納得、承認、そして同意できる理由、証拠を提示することを課す。その条件が満たされない場合は、婚約破棄、または婚約解消の扇動行為とみなし、罰金を課せることを同意する。

  条項2-条項1での罰金が課せられた場合、罰金額は、婚約費用で使用された、または婚約に関する出費の全額と同位額とすることを同意する。

  条項3-両家の婚約に関し、どちらかの不義、不貞が公式に認証された場合、名誉棄損めいよきそん、及び、侮辱罪で告発することを同意する。また、その際に罰金が課せられることを同意する。

  条項4-条項3での罰金が課せられた場合、罰金額は、当事者側の領土を納める年収3分の1と同位額とみなし、被害者側に支払われることを同意する。

  条項5-条項3での不貞、または不義行為が公式で認証された場合、被害者側における精神的、心理的苦痛、社会的名誉または地位の消失、それにおいての損害。それらを補う生活補助、及び、社会的補助における免除を、加害者側は被害者側に保証することを同意する。

  条項6-条項5での保証が課せられた場合、その保証期間は三年とする。または、同等の資金援助とするならば、保証金は加害者側の領土を納める年収3分の1と同位額とみなし、被害者側に支払われることを同意する。

  条項7-両家の婚約に関し、両家は常に誠実を保ち、両家の不名誉となる行為を奨励しない。その条件に反した場合、罰金が課されることを同意する。

  条項8-条項7罰金が課された場合、罰金額は、当事者側の領土を納める年収3分の1と同位額とみなし、被害者側に支払われることを同意する。

  条項9-全条項での罰金が課され、その支払いが可能でないと判断された場合は、領土の譲渡及び、全資金源の譲渡で、全額返済とみなすことを同意する。


 スラスラ、スラスラと、止まることなく、婚約契約条項を読み上げていくセシルを前に、さすがの国王陛下も唖然として、開いた口が塞がらない。

「お納めください」

 またも、国王陛下の前に台帳に乗った書類が差し出される。

 もう、無意識でそれを受け取った形の国王陛下は、ちらっと、書類に視線を落としてみるが、どうやら、侯爵家及び伯爵家当主のサインがされているのは間違いないようだった。

「なんと……?!」
「この契約書に基づき、ヘルバート伯爵家ではホルメン侯爵家に対し、事項の条件を要求致します」


• 第一に、今までにヘルバート伯爵家に課された婚約費用補助、それに関わる出費一切全額、返済要求する

• 第二に、不義理、不貞発覚に基づき、両家での正当な婚約契約を破棄したとみなし、その契約条項に基づき、ホルメン侯爵家の年収3分の1の収益をもって謝罪とし、違約金としてもらう

• 第三に、今回の契約違反に伴い、社会的地位及び名誉の損傷、その損害賠償として、三年間の生活保証ではなく、それと同位額、ホルメン侯爵家の年収3分の1の収益をもって保証額とさせてもらう

• 最後に、契約書に反し、ホルメン侯爵家は不誠実、及び、不名誉な行為でヘルバート伯爵家を攻撃したことに関し、その契約違反、違法行為、名誉棄損めいよきそん、その他諸々、契約条項に従い、ホルメン侯爵家の年収3分の1をもって慰謝料とすることを要求する


 唖然としてものも言えない――とはよく言ったものである。

 今の状況は、この契約条項に全て当てはまる状況ばかりではないか!

 おまけに、契約条項に従うのなら、ホルメン侯爵家の慰謝料、損害賠償料、生活保障料もろもろを考慮しても、ホルメン侯爵家は、この婚約破棄、婚約解消によって、実質的に破綻することになるのである。

 信じられない話である――!

 会場に集まっていた全員、唖然として口を開けたまま、おまけに、目を飛び出さんばかりの驚愕を見せて、呆然と壇上前に控えているセシルを凝視している。

 誰一人、次の言葉もなく、シーンと、あまりに不気味な、奇妙な、沈黙だけが降りていた。

 全員の反応がない場で、セシルは変わらずで、それで、さっきの三人の少女達を振り返るように、少しだけ顔を後ろに向ける。

「偽証罪、その罪を被る覚悟はおありですか?」

 ひっ……と、三人の少女の顔から、一気に血の気が失せてしまった。

「私の「友人」 なのでしょう? クロッグ男爵令嬢にひどい仕打ちをした為、「友人」 という関係ではないそうですから。私の証明は致しました。皆さん、まだ、そちらの証明をなさいますか?」
「そ、それ……は……」

 長い前髪で隠れてセシルの表情は見取れないものの、その唇が微かにだけ上がっていき、薄い、薄い微笑が、ほんのりとだけ浮かんでいく。

 その光景を見ていた三人の――顔が、なぜか、恐怖で怯えたような色を映し、更に、顔色が青ざめていく。

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