上 下
10 / 53

第10話 美味しい話には裏がある

しおりを挟む
 まだら模様のスライムを倒してからは、そこそこのモンスターしか出てこなく、俺たちは問題もなく交代をしながら戦闘を繰り返し、順調に階層を降りて行った。
 そして、二十階層にたどり着いた。この階層はセーフティーポイントといって休憩できる空間らしい。この場所は入口に青い宝石が埋め込まれた台座があり、そこに冒険者カードをかざすとデータが記憶されこの場所からダンジョンの入り口にワープすることができるらしい。ただ、もう一回同じ場所に来ようと思えば地道に降りるしかないらしい。だから、よっぽどのことがない限りこの場所で休んだらまた攻略に向かうらしい。要するにいざというときの緊急避難用だと考えておけばいいだろう。
 ここまでは割と早く降りれたがこの先がどうなってるのかは誰もわからない。休めるときに十分休んだ方がいいだろう。
 ダンジョン攻略で最も怖いのはモンスターもだがやはりトラップだろう。場合によっては致死量のトラップも数多くあるのだ。
 この点、トラップ対策として、職業で違うが、盗賊だと、罠感知や鍵がかかっている所を開けるなど補助系のスキルを多く持っているようだ。気配を消すこともできるらしい。このパーティーに盗賊のスキルの人がいてよかった。もし、いなかったら自分たちの経験や勘でいくしかないのでここまで来ることも大変だっただろう。
 従って、琢磨たちが素早く階層を降りれたのは、ひとえにガゼル団長以下、一緒に来たパーティーのおかげだろう。俺たちだけだったらここまでこれずに全滅してたかもしれない。それに、ガゼル団長からも、トラップがどこに仕掛けられてるか確認するまで勝手に先走っていかないように強く言われていた。

「よし、お前たち。ここから先は一種類のモンスターだけでなく複数種類のモンスターが混在したり連携を組んでくる場合がある。今までのようにいかないぞ! もし危なくなったら、無理しないでセーフティーポイントに戻って地上に帰るぞ。ダンジョン攻略よりもお前たちの命の方が大切だからな。それに、情報を持って帰ったら新たな対策を講じえるからな。分かったら気を引き締めていくぞ!」

 ガゼル団長の声がダンジョン内というだけあってよく響く。
 琢磨は立ち上がろうとすると、ふと視線を感じた。ねばつくような、負の感情がたっぷりと乗った不快な視線だ。今にも襲い掛かってきそうな殺気めいたものを感じる。
 その視線は今が初めてというわけではなかった。ダンジョンに入るあたりから度々感じていた。視線の主を探そうと死線を巡らすと途端に霧散する。
 もういい加減琢磨はうんざりしていた。

「琢磨、どうかしたの」
「顔色もなんか悪いよ」

 俺に心配そうに声をかけてきたのはガブリエルと彩だった。

「いや、問題ないよ。それにしても二人とも今までが別人かっていうぐらいの大活躍じゃないか」
「忘れたの。私はこれでも天使なのよ。本来は地上の者どもにはどうあっても会うことができない大天使様よ。もっと、私を敬って――い、いたたたたた!!!」

 俺は、調子に乗りだしたガブリエルの頭を両手でグリグリした。

「ちょ、ちょっと天使の私にこんなことをしてただで済むと思うの。ねえ、聞いてる」
「まあまあ」

 俺たちを宥めるように彩が止めに入って、それを周りの人たちが見て笑っている。
 俺はガブリエルと彩も戦い方が分かってきて攻撃が当たるどころか他のメンバーとうまく連携を取れるようになっている。それに、このパーティーは居心地がいい。俺たちが強くなれたのはガゼル団長とみんなのおかげだろう。
 俺が考えを巡らせていると、また不快な視線を感じて振り向くと霧散した。

(何なんだ!? いったい・・・・・・)



 一行はセーフティーポイントを出て二十一階層に降りて探索を開始した。
 ダンジョンの各階層には数キロ四方に及び、迷わないようにマッピングしながら進んでいた。
 二十一階層の一番奥は鍾乳洞のような氷柱が飛び出していて地形が悪い。ここでモンスターに襲われてはやばいかもしれない。
 この先を進むと二十二階層への階段があるらしいので急いだほうがよさそうだ。
 一行はせり出す氷柱のせいで横列を組めないので縦列で進む。
 すると、先頭を行くガゼル団長たちが立ち止まった。すると、ガゼル団長の後ろにいた職業暗殺者《アサシン》が探索魔法を発動していた。それを尻目に戦闘態勢に入る。どうやら魔物《モンスター》のようだ。

「擬態しているぞ! まわりをよ~く注意しろ!」

 ガゼル団長の忠告が飛ぶ。
 その直後、前方でせり出していた氷柱の一部が突如変色しながら起き上がった。氷柱と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がり、後ろには尻尾もある。そしてワニみたいな頭をした魔物がこちらを睨みつけている。どうやら、カメレオンのような擬態能力を持ったリザードマンのようだ。

「リザ―マンだ! こいつはリザードマンが突然変異で進化したとも云われている。決して油断するな!」

 ガゼル団長の声が響く。ここは前衛に特化した人がいいだろう。俺は身体強化を施しつつ、前に出た。その時、飛びかかってきたリザ―マンの剛腕を拳闘士の人が拳で弾き返す。その隙に俺とガゼル団長が取り囲もうとするが、あちこちにある氷柱のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。
 こちらが思うように動けないことを感じたのか、リザ―マンは後ろに下がり陸上のクラウチングスタートな態勢に入って動きが止まった。
 直後、

「グゥガガガァァァァァ――!!」

 リザ―マンが発した強烈な咆哮《ほうこう》で部屋全体が震えた。

「ぐっ!?
「ぐわっ!?」
「きゃぁ!?」

 体にビリビリと衝撃が走り、前衛にいた俺たちは硬直してしまう。これはリザ―マンがスキルで威圧してきたようだ。これを防ぐには無効化する装備を身につけるか、レベル差が圧倒的にないときついらしい。俺たちが麻痺してるところを見るとこの魔物はそんだけ手ごわいことが疑われる。
 俺たちが動けない隙をついて、リザ―マンが勢いよく突進してきてその長い爪を振り下ろしてきた。俺たちはまだ体がよく動かなくて防御が間に合わない。もうダメだと思って目を閉じたとき、

 ガキィンッ!!!

 大きな音がして目を開けると、

 いつの間にか現れたアザエルが大きな大剣でリザ―マンの爪を止めていた。
 アザエルは下半身に力を込めて踏ん張ると、

「くぅうう、このぉぉぉ!!!」

 大剣でリザ―マンを弾き飛ばした。
 そして、それを待ってたように、後衛にいたガブリエルや彩たちがいつの間にか準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けて、発動しようとした瞬間、ガブリエルたちは衝撃的光景に思わず硬直してしまう。
 何と、先ほどまで氷柱だったはずが次々と変色していってリザ―マンに変わっていった。しかも、新たに表れたリザ―マンはどういうわけか俺たちには目もくれず、後衛にいる女たちのところへ迫る。その姿は、変態オヤジが若い女を見つけてような感じで、妙に目が血走り鼻息が荒くてなんか怖い。
 ガブリエルたちも「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。「こっちに来ないでぇ――!」と魔法の杖をブンブンと振り回している者もいる。なかなかのカオス状態だ。

「こらこら、戦闘中に何やってるんだ!」

 慌ててガゼル団長が今にもガブリエルたちに襲い掛かろうとしていたリザ―マンを切り捨てる。
 ガブリエルたちは、「助かった~」と安堵してるものの相当気持ち悪かったらしく、まだ、顔が青褪めてる者もいた。そんな様子を見てキレるものがいた。俺とガゼル団長を除いた男共だ。

「貴様・・・・・・よくも我らのオアシスを穢《けが》してくれたな・・・・・・いくぞ! お前ら!!」
「「「オー!!!!!」」」

 どうやらガブリエルたちが気持ち悪さで青褪めてるのを見て、彼女たちが穢されたと思い、ブチ切れてるようだ。何人かはチャンスとばかりいいとこを見せて自己のアピールをしようとする輩もいるようだが。

「我が天に捧げる――」
「水の精霊よ。我が呼びかけに応えて――」
「我が聖剣よ。今こそ眠りから――」

 男共はそれぞれが大技を放とうと詠唱しだした。

「あっ、こら、馬鹿者!」

ガゼル団長の声を無視してそれぞれが一斉に技を放った。
 それぞれから爆音が轟《とどろ》いて強烈な光が飛んで行った。逃げ場などない。四方八方から飛んできた光はわずかな抵抗も許さずリザ―マンたちを縦に両断し、焼き払い、更に、奥の壁を破壊し、跡形もなくリザ―マンたちは消滅した。
 パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐き汗をぬぐい、カッコつけた感じでガブリエルたちへ振り返った男共。それぞれがガブリエルたちを怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だと声を上げようとしたところでいつの間にか目の前に来ていたガゼル団長によって拳骨を食らった。

「へぶぅ!?」
「ぐふっ!?」
「いったー!?」
「この馬鹿どもが。気持ちはわかるが、こんなところで使う技じゃないだろうが! 一歩間違えれば崩落して魔物どころか俺たちまで全滅してただろうか。もっと、緊張感を持て。その分冷静だった琢磨は評価に値するがな」

 あのテンションについていけなかっただけですが、と思ったが言ったら後が怖そうなので黙っていた。
 男たちもばつが悪そうにしていたがガブリエルたちが苦笑いしながら慰める。本当にこのパーティーはいい人ばっかりだ。

「・・・・・・あれは!? あの輝きは我のエネルギーの塊・・・・・・」

 彩の中二病な発言は華麗にスルーしつつ、俺たちは彩が指差す方へ目を向けた。
 そこには青白く発光する鉱物が所狭しと壁から生えていた。まるで宝石がちりばめられてるようだ。ガブリエルたち女性はその美しい光景にうっとりとした表情になった。

「ほぉ~、あれはクロイツ鉱石だな。大きさも中々だし、これはとても珍しいものだぞ」

 クロイツ鉱石とは、宝石の原石みたいなもので、効能があるわけではないが、加工して指輪やイヤリングにして恋人にプレゼントするとプロポーズの成功率は脅威に九十パーセント以上だとか。

「素敵・・・・・・」

 女性人がガゼル団長の簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとしてるのを見た男性人が我先にと鉱石を掘り出しに向かった。

 「こら! 勝手に動くな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 ガゼル団長が追いかけようとしたとき、盗賊スキルを使った女性が慌てたように、声を張り上げた。

「き、気をつけて! トラップがあるよ!」
「ッ!?」

 しかし、警告は一歩遅かった。
 男性人の何人かがクロイツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。クロイツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れると発動するトラップだ。どうしてこの人たちは駆け出しの冒険者だということを忘れるのだろうか。こっちの身にもなってほしい。
 魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がって輝きを増した。

「撤退だ! 早くこの部屋を出るんだ!」

 ガゼル団長の言葉に俺たちは急いで部屋の外に向かうが・・・・・・間に合わなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...