短いお話

クイン

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『探し物』

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 おもちゃの棒をなくした。兄におもいきり怒られた。それは兄のお気に入りのおもちゃで、僕に貸すのもためらっていたほどである。わがままを言って貸してくれたのに、僕はそのおもちゃの大切な部分をなくした。

 べそをかきながら、外で降っている雨のように、『ごめんなさい』を繰り返したが、兄は許してくれなかった。いつもやさしい兄が噴火した火山のように怒っていた。地面に這いつくばるように、おもちゃの棒を探す。長さは耳かきくらいで、色は黄色。

 ない。ないのである。見えるのは絨毯の模様と誰かの抜けた毛。ソファーの下を覗き込んでも、見当たらない。外の雨は強さを増し、終いには、雷を落とした。

 母と一緒に病院に行った兄が帰ってくるまでに見つけないと、もう二度と遊んでくれなくなる。そう思うとまた目が熱くなり、怖さと気まずさ、不安が相まって、小さな瞳から雨が降ってきそうになった。それからどれくらい経ったかわからない。

 ひたすら床と睨めっこをしていたが、急に視界が歪んで意識がふわりとした。

 

――こわい夢。永遠に続くような廊下を僕はずっと地面に顔をつけ、土下座の姿勢のまま前に進む。少しでも顔をあげると、何者かに顔面をむしりとられるそんな夢……。

僕の周りを囲うように何かが立っている。顔は地面を向いているのに、立っているものの顔がどんなものかわかる。のっぺらぼうである。 手に何か持っている……それは眼だ。その瞳は誰なのか僕は知っている。兄の眼だ。となりに立っているものは母の眼を持っている。

 こわくて、こわくて僕は顔上げられない。その目は僕を責めている。どこ見つめてる。こわくてこわくて……顔上げてしまった。
何者かに耳を掴まれた。

『ああ!』

 目のない兄がそこに立っていたーー

 

 

 起きて、気づいたら外は夜で、家の中も真っ暗であった。知らぬ間に僕は眠っていたのだ。窓から見える外の雨は、少し弱まってきている。

 すると探していたおもちゃの棒が出てきた。おもちゃにちゃんと付いているではないか・永久に見つからないと思っていたのに拍子抜けなほど、あっさりと見つかった。どうして兄は見落としたのかわからなかった。僕はすぐに子供部屋へと走った。


 雨音は聞こえなくなっていた。
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