短いお話

クイン

文字の大きさ
上 下
2 / 23

『食材の名前』

しおりを挟む
 友達の家に泊まりに行った八歳の息子と妻を迎えに、その友達の家に来た私は、玄関先で衝撃の一言を告げられた。

――昨日お子さんを食べましたの。

「食べたって……」

 私は戸惑い苦笑した。息子の友人の母親はとても美人であった。髪や肌の艶は十代そこらの女の子と変わらない。扉を開けて開口一番の言葉がそれであった。黒のワンピースに胸元が肌けている。男なら無意識にでもそそられてしまう。

 妖艶に笑う彼女に誘われるまま、家に上がらせていただいた。

「浜崎さん、食事はされましたか?」

 私は首を横に振った。

「では、奥さん持ってきますね」

 まだ悪いジョーダンは続いている。芸人でもなんでもないが、ここまでこのネタを引っ張られてもおもしろくないし、反応もしづらい。その上、美人なだけに始末が悪い。

 それから一向に息子と妻の様子が見当たらない。先に帰ったのか? そんなことはないはずだ。考えていると、客間に誰かが入ってきた。それは私の息子よりも少し幼い五歳くらいの子どもだった。

 私はあいさつすると、

「昨日はおじさんを食べたんだ!」

 唐突にそんなことを言われ面食らった。急に血生臭いのが鼻につく。私はなんだか胸騒ぎがした。

 私は客間から台所の方に向かう。すると、手が血だらけの奥さんが包丁を持っていた。

「あら? 浜崎さん? すいませんね。手間取ってしまって」

 切先についている血が地面に落ちる。私は唾を飲み込んだ。

 

 

「いや~本当に美味しいですね」

 私の隣にいる奥さんに食事の感想を述べた。

「あら、嬉しいです」

「最初は、なんなのかわからなかったんですが、ハマサキノオクサンって魚の名前だったんですね」

 私は器に盛られた焼き魚を見て笑った。ネットで調べたらなんとオジサンという魚もあるのだ。

「ええ、新鮮な浜崎の奥さんが獲れたので、捌いてましたの」

 私はその魚を食べながら、小鉢に盛られた赤い肉を食べる。コリコリして美味しい。

「これは一体」

「舌ですの」

「へー! タンですか。でも一体何の肉だろう?」

 ふと、疑問が浮かんだ。お子さんという魚はなかったということを……あれは子持ちの魚という意味であったのだろうか? 

 すると急に視界ぼやけ、私はそのまま床に倒れた。――何が起こったのだ? 意識が朦朧とする中、担がれ、そのまま地下室の階段を降りていく。階段に着いた赤黒い足跡が、私のその後を暗示していた。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

処理中です...