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一章

作家宣言2

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『年金がまた減る』

 という見出しのニュースを見て、美晴はリモコンを取り、テレビのチャンネルを変えた。

「まったく朝から嫌なニュースなんて聞きたくないわ。政治家の馬鹿どもの給料減らしたらいいのに」

 小言を言いながら変えたチャンネルは天気予報であった。

『今週は全国すべて曇りマークです。ところにより、にわか雨に注意してください』

 とまたしても冴えない内容だった。洗濯機を回しながら、今日は外に干そうか乾燥機にしようかと美晴は悩んでいた。

 ぐずついた天気で外に出るのは億劫だなと美晴はぼやきながら、バスで十五分の所にあるスーパーに向かっていた。

 夫の大蔵だいぞうが生きている時は美晴が頭を下げ、お願いして車を出してもらっていた。亭主関白と言えば聞こえがいいが、今の世の中だとDVと認定されてもおかしくない人であった。健司が引きこもりになった時は、毎日「この家の恥め!」と健司の部屋に向かって叫び、加えて「あんなことになったのはすべておまえの血筋の所為だ」と美晴をも罵倒するのであった。

 もう限界だ――と離婚届けを突きつけようと思った矢先に、夫の大蔵は交通事故で亡くなった。その後は大変だったが美晴は内心、ホッとしていたのだった。そんな人の、それも家族の不幸を喜んでしまう心境だからなのか、家族の問題で今も美晴は悩まされている。

 スーパーの買い物を終え、外に出ると雨が降っていた。傘を持っていない美晴はどうしようかと辺りを見渡していると本屋が目に留まった。小走りで店へと向かう。

 自動ドアが開き、ちょうどよい温かさが美晴の心を和らげる。

「いらっしゃいませ」とおしとやかな声が美晴の耳に入る。声の主はレジにいた。

 艶やかな黒く長い髪の女性にこりと美晴に微笑みかけている。

 美晴は軽く会釈をして、中へと進んだ。

 ――健司の小説の女の子のモデルはあの店員さんなのではないか? と美晴は邪推する。

 店は中型の店舗で、品数はそれなりにあった。本屋など久しぶりだと美晴はつぶやきながら小説のコーナーへと向かった。

「今ってどんな作品が流行っているのかしら?」

 美晴は平積みにされている棚を一目見て、自分が知っている作家が誰もいないことにびっくりした。隣の棚は漫画コーナーであった。平積みのところに漫画雑誌が並べられている。この間まで近くのコンビニにこの雑誌と同じ物を健司のために買いに行っていた。たまに間違えて買ってきて健司にどやされていた。最近では、健司自身で買いに行くようになり、美晴は助かっている。その先の棚にはかわいい女の子のイラストが描かれた本が並んでいる。棚の上に〝ライトノベルコーナー〟と書かれていた。

「健司がライトノベルといっていたのはこれのことか……」

 美晴は息子の健司を思い浮かべる。だらしない髪の毛、ポッコリでたビール腹に汚い肌。美晴は息子が警察のご厄介にならないように祈るのであった。ふと美晴は一つのコーナーが目に入った。何冊か本を取り、先程の店員の所で少し雑談を織り交ぜながら会計を済まし、店を出た。雨は上がっていた。
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