ぶよぶよ人間

クイン

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 おかしい! おかしい! どうしてあなんところにぶよぶよ人間がいるんだ。僕はぶよぶよ人間から逃げるために建物から外に飛び出した。千春は観察しろといったが、そんな余裕はない。全身から逃げろといっている。誰かが僕に耳打ちする。逃げろ、逃げろ! と……
「しろう! 気をつけて! あなたの警告しているものたちの声が、あなたを守ってくれるから」
 二階の窓から千春が顔を出して大声でアドバイスをくれた。僕は千春の言葉を信じ、自身の第六感に従う。
 そっちはダメ……。
 あっちの方がいい。
 身体全体が僕に語りかけてきているようだった。守護霊というものの存在を認めると今度千春に会ったらいおう。振り向くとぶよぶよ人間はいなくなっていた。
「やったー」
 とつぶやいて前をみると人とぶつかった。
「いたたた……」
 お互いにひっくり返った。僕はすぐに起き上がり、ぶつかった人を起こそうと手を差し伸べた。
「ごめなさい。大丈夫ですか」
 なんとぶつかった相手はお姉さんだった。僕は一瞬固まった。
「え、あ……」
「あれ? しろうくんじゃない」
 お姉さんに会えて安堵するはずなのに、なんだか僕の心は落ち着かなかった。
「大丈夫? ケガしているじゃない」
 と僕の膝小僧をみてお姉さんは言った。
「近くに私の職場があるからそこで消毒と絆創膏してあげる」
 僕はお姉さんに手を引っ張られた。僕の心が警告音を鳴らしている。しかし僕はこの手を振り払うことができなかった。手を引かれるまま、病院に着いた。お姉さんと初めて会った大きな病院だ。まさかここがお姉さんの職場だったのかと、あの日の思い出と被らせながら病院の中に入った。
 エレベーターに乗り、上がっていく。8階で止まり、そのまま突き進む。一室に入り「ここで待っていて」と言われた。どうしてだろうか? 僕は落ちつかなかった。ぶよぶよ人間のことばかり頭に浮かんできて不安になる。僕は部屋からでた。いけないことだとわかっているのに無意識といえばいいのか防衛本能なのか、僕はその場にいたくなかったのだ。
 昼間とも思えない暗い廊下を歩き、僕は一室の扉をあけた。そこにはあった物に僕は驚愕し、へたりこんだ。目に入ったのは人一人か入れるぐらいの試験管。その中に胎児から僕と同じくらいの年齢の人までずらりと並んでいた。
「あ、あ、なんなんだ。これ……」
 腰が抜けた体を無理やり立たせ、僕はこの奇妙な光景を観察した。試験管のガラス部分に『*56』と書かれている。丸裸で毛の一本もない人……口に管が通され、そこから呼吸をしているのがわかる。異様な空間が僕を混乱させる。頭が痛い……。この空間から早く抜け出せと身体中から叫んでいるみたいだ。
 突如僕の背後から人の気配がした。振り向くとそこに顔がぐちゃぐちゃになっている物が白衣を着て立っていた。
「ぶよぶよ人間……」
 震える声で僕は言う。ぶよぶよ人間は自分の顔に手当て、顔面の皮を引っ張り出した。皮が以上に伸び、メチメチと痛々しい音が部屋中に響く。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
 無意味に謝罪を繰り返した。ぶよぶよ人間は面の皮をはぎ取ると、そこに現れたのお母さんだった。
「お、お、お母さん?」
 お母さんは何も言わなかった。そして僕の手を取るとすぐに部屋から出てエレベータの前にまでいった。エレベーターが到着するのを待っている間、無言であった。僕の頭の中にあらゆる疑問が湧いてくる。
 あの試験管に入った人間はなんなのか?
 お母さんはぶよぶよ人間なのか?
 お姉さんは一体なんの仕事をしているのか?
 考えれば考えるほど疑問がでてくる。エレベーターが到着するやいなや。
「どこに行くの」
 と声が聞こえた。見るとお姉さんが血相を変えてこちらに向かってきている。僕は突き飛ばされるようにエレベーターの中に強引に入れられた。お母さんは『閉』のボダンを叩くように連打する。扉が閉まる寸前にお姉さんが騒いでいる声が聞こえた。
 一階に着くとお母さんは脇目も振らず駐車場につながる出口の方に僕を引っ張りながら走った。
「ごめんね事情は後から話すわ。今は急いでこの場から離れないと」
 とお母さんがまともに話しているのを久しぶりに聞いた。駐車場に出て、赤いスポーツカーに乗りこんだ。
「待てー」
 と警備員が走ってきた。お母さんは急いでエンジンをかけ、アクセルを踏む。
「うわああああああ」
 と叫んで警備員は直進してくるスポーツカーを躱す。左右に揺れる車内。僕はふらふらしながらも座りなおすことができた。スピードを上げつつも安定した走行になった。
「私はね。もう耐えられなくなったの」
 お母さんはそう言って片手を僕の頬に触れる。
「お母さん?」
 僕はその温かい手のぬくもりを久々に感じ取った。
「私のことをお母さんと呼んでくれるのね」
 やさしく微笑むお母さんの顔を見て、僕は心がとても満たされていくのを感じた。ところが、その聖母のような微笑みを浮かべた顔がだんだんと溶けていく。
「あああああああああああ」
 僕は出来る限りお母さんだったものから体を遠ざける。
「薬が切れたのね、落ち着いて」
 そんな風に聞こえたが、今の僕は恐怖に支配されていた。無意識に車のレバーを引く。
「サイドブレーキを! きゃ!」
 そのまま車が大きく揺れ、何かに思い切り衝突した。そこから僕の視界はぼやけた。
身体が動かない手に血がついている。聞こえるのは人の声が救急車ー。いや、119番だろう! という怒号であった。
 お母さんはどうなった? 首が動かせない……。僕は死んじゃうのかな? 薄れゆく意識の中から声が聞こえた。
「――し――わか……」
 ぼんやりとお姉さんの姿が見えた。そこで意識が遠のいた。
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