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しおりを挟む「なんでもありません、サー。彼に質問されたので答えていただけです。無視するのは失礼でしょう」
「ほう」
答えを聞くと、男性は薄い唇をいびつに緩めた。
近くで見たら北斗より、いや、ユージーンよりも大きな男の人だった。
黒いコートに包まれた筋肉が発達しているから、なおさらそう見えるのかもしれない。硬そうな銀髪の下で、ライトブルーの瞳がぎらついている。左の目は眼帯で覆われていた。
「なにか揉めていたようだが?」
「いいえ。俺の裾口についた埃を取っていただいたのがそう見えたのでは」
北斗の表情は硬い。サーと呼ばれた彼は薄笑いを浮かべて、三歩でこっちに歩いてきた。視線を合わせようと思ったら、僕は首を曲げて見上げないといけない。
「うちの者が失礼した」
「え? え、はい。大丈夫です」
彼が近付くと、周りの空気がびりりっと震えた。
――分かりやすいアルファだ。
こんなにオーラが濃いアルファに会ったのは、初めてかもしれない。……怖い。
どこからどう見ても位の高い軍人だ。ちゃんと挨拶しないと引っぱたかれそう……なんて計算を素早くすると、ぎこちない笑顔を作りながら上目遣いに相手を見上げた。
「こ、こんにちは」
「フッ」
鼻で笑われた!?
衝撃を受けていると、『サー』はくつくつと喉で笑いながら僕を見下ろした。
「なるほど。君が例の……」
可笑しそうなのに、目が全然笑ってなかった。瞳は色そのままに冷たく、僕を捕らえ続けている。
こ、この人、めちゃくちゃ怖いぃ……!
びくびくしながら笑いかけていると、サーさんはおもむろに手を出してきた。
「私はユスラ王立軍所属のウォールデンだ。軍では少佐だが、普段は侯爵と呼ばれることもある。好きなように呼んでくれたまえ」
「ウォールデン、さん」
震える声で呟くと、サーさんもとい少佐は口元だけで笑った。
「なるほど、プラウ? お前が気に入るわけだ。お前好みの従順で、純朴そうな可愛い子ちゃん」
「……少佐。仰る意味がよく分からない……」
北斗が言い終わる前にぐっと手を引き寄せられて、冷たい瞳の真下に連れ込まれる。
「え、え……っ!?」
「そうか? いらないなら私が手を出しても問題あるまい」
反対の手が伸びてきて、指先が僕の頬に触れそうになったとき、その腕を北斗が止めた。
「やめろ。こいつに手を出すな」
二色の瞳がウォールデンをきつく睨みつける。
男の視線が僕から外れて、彼を睨みつける北斗のものと絡み合った。
「やはり知り合いだったな? 私に虚偽報告をして、そのうえ上官に命令するとは。ずいぶんな態度だな」
「黙れ」
――どういうことなんだ。
少佐はユスラ国の軍人だって言っていた。つまり、ダチュラ国に戻された北斗を助けてこの国に連れてきたのは、この人じゃないのか?
北斗はどうしてその恩人を殺意のこもった目で睨みつけるのか。
二人を見守っていると、しばらく睨み合った後でウォールデンがふん、と鼻を鳴らした。
「まあいい。この場で折檻するわけにもいかんからな。帰ったら覚えていろ、その憎まれ口をもっとも屈辱的な方法で塞いでやる」
「やれるもんならやってみろ、噛み千切ってやるぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ」
慌てて割り込むと、二人が『ああん!?』と同時に振り返った。
「ヒッ!」
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