氷血辺境伯の溺愛オメガ

６

　夜空みたいな瞳と視線が交わる。
　泣きたいのか笑いたいのか分からない気持ちになりながら近付こうとすると、なぜか視線を逸らされた。

「北斗？　待って、北斗！」

　何か考える前に飛び出していた。

　無視して通り過ぎようとする彼の肘を掴んで、強引に呼び止める。北斗は後ろに引っ張られて足を止めた。
　そうして僕を振り返ったら、色違いの瞳と視線がぶつかった。

　……やっぱり。
　軍服なんて着てるけど、間違いない――北斗だ。

「やっぱり……君だったんだ。嘘みたいだ……」

　彼がここにいることを確かめるために、掴んだ腕をそっとさする。服越しだけど、ちゃんと体の厚みがあって、涙がこみ上げてきた。

「北斗……無事だったんだね。こんなところで会えるなんて。僕、君に話したいことがたくさんあるんだ。あのね、僕いま……」

　視界が潤んでいたせいなのか、相手がどんな顔をしているのか見えていなかった。
　ただ再会できたことが嬉しくて、また前みたいに色々語り合えると思って、もう片方の手も取ろうとすると。

「離せ」

　伸ばしかけた手が、叩きつけるようにして弾かれた。

「え」

　時が止まる。

　周りの人たちが賑やかに話す声が遠くに聞こえた。

「北斗……？」
「人違いだ」

　そんなはずないのに。
　硬い声で言い捨てると、北斗は違う方向を向いたまま唇を引き結んだ。
　話しかけようとしてもそうさせない雰囲気があって、『どうして』と口を開きかけた僕は、はっとした。

「僕を恨んでるのか……」

　言ったとたん、切れ長の目にキッと睨みつけられる。それを見て予想が合っていると分かってしまった。
　なんで、とは訊けない。
　恨まれて当然だ。
　よく見れば、僕を振り払ったまま宙に浮いている手には、無数の傷跡が残っていた。手の甲に、銃創やなにかで引っ掻いたような傷。根性焼きの痕までついていた。

　……そうだ。
　生きてたってことは、北斗はあのあとダチュラ軍に連れて行かれたんだ。
　それから奴隷館に戻されたのか、それ以外に引き取られたのかは分からないけど。
　あの国で脱走に失敗して捕らえられたオメガは、酷い罰を受ける。想像も絶するようなむごい折檻を……北斗がそんな奴らに捕まえられてしまったのは……。

「ごめん。全部、僕のせいだ。それなのに僕は平然と生きてて、のんきに話しかけたりして……無神経だったよね」

　北斗は僕と離れてから、どんな辛い目に遭ったんだろう。

「ああ、最低だ……僕。僕が残るべきだったんだ……」

　震える手で額を押さえる。
　生きていてほしかった。会えて嬉しいのに、また自分の甘さを思い知らされて、それ以上なにも話せなかった。
　だって、どうすれば僕は許してもらえるんだろう？　謝ったところで過去は変わらないし、今さら僕が代わることもできない。
　北斗に救ってもらった命で償うなんてもってのほかだ。
　結果、うつむいて黙り込むしかできない。

　北斗はそんな僕を見ると眉を顰めて、口を開きかけたが――


「プラウ。何をしてる？」


　横から底冷えするような低い声が響いた。
　北斗は何か言いかけたのを中断して、声の主を振り返る。
　いつの間にか、北斗と一緒にいた男性がすぐそばに立っていた。