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第39話「最強陰陽師、再度異世界転移する」

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 転移魔術ゲートの銀色の渦を抜けたその先は、バナード魔術学院の入り口近くの広場であった。いつもの学院の魔術実験室ではない。

 目の前では凄惨な戦いが繰り広げられている。

 入口付近では対魔王のための精鋭である魔王調査隊だけでなく、学院の教師や生徒たちが敵を内部に入れまいと抗い続けている。魔王調査隊は精鋭無比との触れ込みに違いのない素晴らしい戦いを演じているが、学院の教師や生徒たちも中々の動きをしている。かつての魔王襲来の際に、戦い方を忘れていた魔術師達が不覚をとった教訓を活かすという学院の理念を発揮していると言えよう。

 そして、門はすでに打ち壊されており、そこから絶え間なく魔王の眷属どもが侵入を続けている。奴らは決まった形がなく、二足歩行の者もいれば四足歩行の者、翼を生やした者もいる。ただ、共通しているのは奴らの外見は一様に光を吸い込むような闇が形をとっていることだ。この世界にも、元の世界にも、そして魔界にもこの様な生物は存在しなった。

 恐らく奴らはもっと別の世界から侵入しているのだろう。

 見たところ何とか戦線を維持しているものの、学院側の疲労の色は濃い。このまま無尽蔵にも思える勢いで迫りくる魔王側を相手にしては、早晩敗れ去ることは必定である。

 そう状況を判断した時に、ちょうどそれを裏付けるような事態が発生した。

 二人組で戦っていた魔王調査隊と学院の生徒がいたのだが、魔王調査隊の騎士風の男が絶え間のない敵の攻撃を捌ききれず、被弾して膝をついたのだ。共に戦っていた生徒がすぐにカバーに入ったので即座に殺されることはなかったものの、二人で何とか持ちこたえていた攻撃を一人で防ぐことは出来ない。

 仮に彼らが倒れれば戦線の一角が崩れ去り、全体に影響を及ぼすことになるだろう。

 だが、そうはさせない。

「デヤー! よっ、クロニコフ。また会ったな。結構粘ったじゃないか」

 危機に陥っていた生徒は、俺がこの世界で暮らす時に同部屋で過ごした友人であるクロニコフであった。彼の目の前の敵は魔力を込めた俺の拳が一瞬で粉砕した。

「な……なんでここに? 帰ったんじゃなかったのか?」

「こんな状況で逃げるみたいな事するわけないだろ? それより、かなり腕を上げていたんだな。ユルスさんと肩を並べて戦って遜色なんか見られなかったぞ」

 クロニコフとコンビを組んで戦っていた魔王調査隊の男は、クロニコフの一族の分家筋であるユルスであった。彼は分家筋でありながら、名門マザール家後継者であるクロニコフよりも数段上の実力を持っており、クロニコフはそのことに劣等感を抱いていたはずだ。それが実際に命を懸けて戦う段になってみれば全くの同等なのだ。

「アツヤ君に色々戦い方は教わったからね。ここまでやれるとは思っていなかったけど」

 もうクロニコフに劣等感などは見られなかった。吹っ切れた清々しい表情をしている。

「そういえば魔力は元に戻ったのか? それにその恰好は?」

 今の俺は九頭刃くずのは家の当主のみが着用できる道服をまとっている。これは強力な守りの魔術が込められている。少し前にこの世界で過ごしていた時はジーパンとTシャツといったラフな格好であった。この様な立派な姿を見せるのは初めての事だ。

「ちょっと家業を継いでね。そんで魔力もこの通り。完全に回復してきたぞ。行け! 乾坤圏!」

 俺の気合の込められた口訣とともに、フラフープほどの直径がある金属の輪が出現し、魔王の眷属の一団に向けて勢いよく飛び出していった。乾坤圏は魔王の眷属を十数体ほど薙ぎ倒してブーメランの様に戻ってきて俺の手に収まった。

 一撃で凄まじい威力を発揮した乾坤圏だが、この世界で初めに披露した時は魔力を失っており、この世界の魔術法則に俺の陰陽道が適合していなかったため、指輪サイズの物しか出現しなった。

 だが、今は元の世界で魔力を思う存分補充しており、更には研究を重ねてこの世界の魔術法則に合わせた陰陽道の発動要領を身に着けているため本来の力が行使できる。

「ご覧の通りだ。これだけじゃないぞ? くらえ! 火尖鎗!」

 今度は燃え盛る炎に包まれた長槍出現し、目にも止まらぬスピードで射出された。これも以前はマッチサイズの物しか出現させることが出来なかったが、今回は魔王の眷属を数体串刺しにしながらも勢いを弱めることなく突き進み、門の辺りに陣取っていた奴らを学院の外まで吹き飛ばした。

「ほらほら見てみろよ。この威力! 陰陽道は凄いもんだろ」

 初披露をした時に魔力不足などの原因で失敗し、そのことをクロニコフに馬鹿にされたことがあるためその意趣返しのセリフだ。もちろん本気で根に持っていたわけではないのだが。

「さて、このまま蹴散らすこともできるだろうが、魔王との決戦に備えて魔力を温存しておきたいな。さあ! 出てこい! 一門の精鋭たちよ!」

 俺の声が聞こえていた訳ではないのだろうが、丁度残ったままの銀色の渦から武装した集団が出現した。

 彼らは皆が陰陽道の遣い手であり、全世界の魔術師を巻き込みついこの間終結した魔術大戦を生き延びた強者揃いだ。そして、彼らを取り仕切るのは、当主の座を俺に譲り隠居したばかりの祖父の九頭刃セイヤだ。

 彼らに任せておけば、魔王の眷属に負ける事など無いだろう。その事を今の戦いで確信している。

 戦いは部下たちに任せることにし、俺は目的の人物の所に向かう。目的の人物とは当然カナデだ。

 カナデもまた王族の身でありながら、最前線で戦っていたのだが、俺の部下たちの参戦により戦線は急速に前進し、今では後方にいる。

 カナデの周囲には、エルフの護衛やダイキチとアマデオがいた。彼らはずっとカナデを守って戦っていたのだろう。五体無事な者は誰もいない。

「アツヤ……どうして?」

「どうしてってそりゃあまあな。元の世界で戦力を整えたら勝てそうだったし、……カナデの事が心配だったし……」

 まさか皆の前で「カナデの事が好きだから」などとは言えないので適当にぼかしたが、多分何となく思いは伝わっている。

「でも、元の世界から正確にこの世界へのゲートを開くのは難しいんじゃなかったの?」

「あ~それはな……」

 カナデの疑問はもっともだ。その問題が無ければもっと簡単に元の世界に帰還して、こちらに応援しに来るという決心もできたはずだ。

 本来この世界との縁が薄い俺は、この世界へ確実に通じるゲートを開くのは出来ない筈であった。自分の魔力を込めた物を設置して発信機代わりにするという手はあったが、帰還する時にはその様な魔術を使う魔力など無かったのだ。

 では、どうして簡単にこの世界に来れたのか? それは帰還の直前にカナデがとった行動にある。

 口付けは愛情を示す手段であるが、魔術の世界ではそれに留まるものではない。口付けすることによって魔術的な絆を結ぶ事が出来るのだ。

 この、口付けによってできた絆を辿ることで、次元を超えてカナデのいる場所を特定し、そこに対して正確にゲートを開く事が出来たのだ。

 恥ずかしいから言わないけど。

「報告!」

「何だ!?」

 答えにくい事を聞かれたので、どの様に誤魔化すか迷っていたのだが、良いことに部下が報告に走り寄ってきた。

「魔王の眷属を門の外まで退けましたが、そこで奴らは妙な動きに出ました。一つに集まって合体しようとしています!」

 報告の内容が気になったので、すぐに現場に向かうことにした。
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