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第32話「元最強陰陽師、月夜の森を散歩する」
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エルフの国宝がヒヒイロカネであったことを解明し、それを貸与されることになったのだったが、その時点ですでに夕方近くであったため、その日はペペルイの森に宿泊することになった。それに、バナード魔術学院までの道のりは1週間ほどある。国宝を輸送するということで警護が付くことになったし、途中の宿場には事前に通告がされ警護し易い上等な部屋を確保することになったのだ。
一晩泊まるのには、これらの準備をする時間を確保するという意味合いもある。夜の間に準備を進める人たちには頭が下がる思いだ。
宿泊はエルフの族長と会談した館の一室をあてがわれた。他の種族との交流で使用することを目的としているためか、いわゆるエルフらしい自然で素朴な部屋というより、人間世界の価値観に合わせた豪華な部屋であった。
また、食事もペペルイの森で取られた植物や獲物を焼いたり煮炊きしたもので、採れたてがそのまま出てくる野趣溢れすぎるものではなく、普通に美味しく食べることが出来た。
俺の魔力回復のためという理由はあったのだが、これまでカナデが作ってくれた料理がコウモリやらカエルやらマンドラゴラやらのゲテモノばかりだったので警戒していたのだが、やはりあれらはエルフにとってもいパン的ではないようだ。
俺は生粋の魔術師として、魔術に関係する料理ならどんなにゲテモノであっても食べるように心がけているが、好きで食べていた訳ではない。
食事を終えてしばらくしてから床に入り、旅の疲れからすぐに眠りに落ちていたのだが、ふと深夜に目が覚めた。
そのまま寝ようとしても何となく目が冴えているし、この世界ではスマートフォン等で眠くなるまで暇をつぶすこともできない。
何んとなしに外に出ることにした。
幸い俺はペペルイの森の住人で家臣扱いのダイキチやアマデオと違い、完全な外部から来た客人扱いである。そのため一人部屋をあてがわれていたので誰にも迷惑をかけずに外に出ることが出来た。一応警備のエルフ兵がいたが特に見とがめられることはなかった。その辺は緩いのだろう。
館を離れて森の奥へと向かって行った。夜の森だが月明かりで歩くのに不自由するほどではない。この地域はペペルイの森ではまだ外縁部らしいので、月や星の明かりを遮断するほど木が密生してはいないのかもしれない。
夜の森特有の鳥の鳴き声や木々の枝葉が風に揺れる音以外は何も聞こえない。静かなものだ。
静寂に包まれた森を歩きながら、カナデの事などを考えていた。
カナデは今でこそ陰陽道の修業をしているが、もうすぐそれを打ち切り、エルフの指導者の一族としての役目を果たすために精霊魔術に転向しなければならない。いや、転向というよりももともとカナデは精霊魔術にかけては相当な腕前だったのだ。元に戻るだけとも言えるだろう。
何故カナデがこの世界ではマイナーな魔術である陰陽道を志したのかは分からない。しかし、それを志したのは並大抵の覚悟ではないはずで、陰陽師としての俺は何とかカナデの思いを遂げさせてやりたい。
だが、陰陽師としてではなく、魔術師の一門を今後率いる立場にある後継者としての立場に立てば、そんなことは言えなくなる。今でこそ陰陽道は日本だけでなく世界の魔術界で重要な立場を占めているが、それは先人の努力の積み重ねによるところだ。その努力の積み重ねの上にこれから座る身分としては、先人の努力を無に帰す様な真似は出来ない。
だからこそ幼い頃から厳しい陰陽道の修業を積み、祖先に恥ずかしくないだけの技量を身に着けようと努力してきたのだし、魔術を悪用するような輩相手に対しては先陣を切って、命を賭して戦ってこれたのだ。
これは、個人の感情など関係ない世界なのだ。一般の日本人なら自分の好きなように生きればよいのかもしれないが、魔術師、少なくとも俺は違う。基本的人権を無視した話であるが、俺はその生き方に誇りを持っている。
そして、それはカナデも同じことだろう。
エルフの族長の娘として生まれたからには、その人生を一族、いや、種族のために捧げる覚悟は幼い頃から出来ていたはずだ。ましてやカナデの一族は、このペペルイの森に生きる他の種族の盟主にあたる。その責任の範囲はエルフに留まらず、この森に生きる全ての民も含まれているのだろう。
ましてや平時ならともかく、今は魔王襲来による被害の傷が癒え切っていない時期だ。このような時期に自由気ままに振舞うなど出来ようか。
もしかしたら、その様な生き方をする奴もいるかもしれないし、その様な生き方を否定するつもりは無い。しかし、カナデは他者より責任感が強いのだろう。自由気ままに生きることなど出来ない。
元々の約束の通り、カナデが陰陽道を今すぐ究めて森を元通りにすることに貢献できれば話は別かもしれない。
そして、俺の陰陽道が本調子ならそれだけの魔術を伝授することが可能だ。しかし、今はこの世界の魔術法則に元の世界の陰陽道を修正する作業に追われており、すぐに何とかなりそうなのは帰還のための転移魔術くらいのものだ。
研究材料は揃っているから、帰還した後に研究を進めていき、ゲートを使ってその成果をカナデに教えることは出来るかもしれないが、それでは遅いのだ。
精霊魔術に転向し責任ある立場に就いた後も、趣味として陰陽道を続けるという手はあるが、その様な中途半端なことはカナデの責任感が許さないだろう。
どうすればよいのか分からないまま夜道を歩き続けると、森の中の少し開けた空間に辿り着いた。
そこは円形に木が生えていない草地であり、上空から月の光が差し込んでいた。
そして、広場の中央で月の光に照らされて佇んでいる人影が見える。それは……
「カナデか……」
一晩泊まるのには、これらの準備をする時間を確保するという意味合いもある。夜の間に準備を進める人たちには頭が下がる思いだ。
宿泊はエルフの族長と会談した館の一室をあてがわれた。他の種族との交流で使用することを目的としているためか、いわゆるエルフらしい自然で素朴な部屋というより、人間世界の価値観に合わせた豪華な部屋であった。
また、食事もペペルイの森で取られた植物や獲物を焼いたり煮炊きしたもので、採れたてがそのまま出てくる野趣溢れすぎるものではなく、普通に美味しく食べることが出来た。
俺の魔力回復のためという理由はあったのだが、これまでカナデが作ってくれた料理がコウモリやらカエルやらマンドラゴラやらのゲテモノばかりだったので警戒していたのだが、やはりあれらはエルフにとってもいパン的ではないようだ。
俺は生粋の魔術師として、魔術に関係する料理ならどんなにゲテモノであっても食べるように心がけているが、好きで食べていた訳ではない。
食事を終えてしばらくしてから床に入り、旅の疲れからすぐに眠りに落ちていたのだが、ふと深夜に目が覚めた。
そのまま寝ようとしても何となく目が冴えているし、この世界ではスマートフォン等で眠くなるまで暇をつぶすこともできない。
何んとなしに外に出ることにした。
幸い俺はペペルイの森の住人で家臣扱いのダイキチやアマデオと違い、完全な外部から来た客人扱いである。そのため一人部屋をあてがわれていたので誰にも迷惑をかけずに外に出ることが出来た。一応警備のエルフ兵がいたが特に見とがめられることはなかった。その辺は緩いのだろう。
館を離れて森の奥へと向かって行った。夜の森だが月明かりで歩くのに不自由するほどではない。この地域はペペルイの森ではまだ外縁部らしいので、月や星の明かりを遮断するほど木が密生してはいないのかもしれない。
夜の森特有の鳥の鳴き声や木々の枝葉が風に揺れる音以外は何も聞こえない。静かなものだ。
静寂に包まれた森を歩きながら、カナデの事などを考えていた。
カナデは今でこそ陰陽道の修業をしているが、もうすぐそれを打ち切り、エルフの指導者の一族としての役目を果たすために精霊魔術に転向しなければならない。いや、転向というよりももともとカナデは精霊魔術にかけては相当な腕前だったのだ。元に戻るだけとも言えるだろう。
何故カナデがこの世界ではマイナーな魔術である陰陽道を志したのかは分からない。しかし、それを志したのは並大抵の覚悟ではないはずで、陰陽師としての俺は何とかカナデの思いを遂げさせてやりたい。
だが、陰陽師としてではなく、魔術師の一門を今後率いる立場にある後継者としての立場に立てば、そんなことは言えなくなる。今でこそ陰陽道は日本だけでなく世界の魔術界で重要な立場を占めているが、それは先人の努力の積み重ねによるところだ。その努力の積み重ねの上にこれから座る身分としては、先人の努力を無に帰す様な真似は出来ない。
だからこそ幼い頃から厳しい陰陽道の修業を積み、祖先に恥ずかしくないだけの技量を身に着けようと努力してきたのだし、魔術を悪用するような輩相手に対しては先陣を切って、命を賭して戦ってこれたのだ。
これは、個人の感情など関係ない世界なのだ。一般の日本人なら自分の好きなように生きればよいのかもしれないが、魔術師、少なくとも俺は違う。基本的人権を無視した話であるが、俺はその生き方に誇りを持っている。
そして、それはカナデも同じことだろう。
エルフの族長の娘として生まれたからには、その人生を一族、いや、種族のために捧げる覚悟は幼い頃から出来ていたはずだ。ましてやカナデの一族は、このペペルイの森に生きる他の種族の盟主にあたる。その責任の範囲はエルフに留まらず、この森に生きる全ての民も含まれているのだろう。
ましてや平時ならともかく、今は魔王襲来による被害の傷が癒え切っていない時期だ。このような時期に自由気ままに振舞うなど出来ようか。
もしかしたら、その様な生き方をする奴もいるかもしれないし、その様な生き方を否定するつもりは無い。しかし、カナデは他者より責任感が強いのだろう。自由気ままに生きることなど出来ない。
元々の約束の通り、カナデが陰陽道を今すぐ究めて森を元通りにすることに貢献できれば話は別かもしれない。
そして、俺の陰陽道が本調子ならそれだけの魔術を伝授することが可能だ。しかし、今はこの世界の魔術法則に元の世界の陰陽道を修正する作業に追われており、すぐに何とかなりそうなのは帰還のための転移魔術くらいのものだ。
研究材料は揃っているから、帰還した後に研究を進めていき、ゲートを使ってその成果をカナデに教えることは出来るかもしれないが、それでは遅いのだ。
精霊魔術に転向し責任ある立場に就いた後も、趣味として陰陽道を続けるという手はあるが、その様な中途半端なことはカナデの責任感が許さないだろう。
どうすればよいのか分からないまま夜道を歩き続けると、森の中の少し開けた空間に辿り着いた。
そこは円形に木が生えていない草地であり、上空から月の光が差し込んでいた。
そして、広場の中央で月の光に照らされて佇んでいる人影が見える。それは……
「カナデか……」
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