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第4章 ニクジン編
第96話「戦支度」
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警察庁抜刀隊への通報を終えた鬼越修は、すぐに太刀花家の奥へと向かった。武芸を習得しており、外つ者を退治するための武器の傾向を国から許されているが、常に長物を携行している訳ではない。素手で人外の怪物とやりあうのは、死にに行くようなものだ。
「修ちゃん! こっちこっち! 早く!」
太刀花家の倉庫に入ると、太刀花千祝が待っており、先に武具を見繕っていた。
千祝は腰に刀を差し、右手には薙刀を抱えており、額には鉢金を巻いている。薙刀は建物の中ではその長い柄が邪魔して使いづらいイメージがあるが、その辺りは遣い手の技量次第である。逆に狭い空間において敵に逃げ場を与えないとも言え、その間合いの長さや変幻自在の攻撃は大変有効である。
色々装備している千祝に対し、葉山は刀のみを装備していた。
「刀だけで良いのか? 槍とか弓とか他にも色々あるぞ?」
普通に考えれば刀よりもリーチの長い武器は、刀よりも有利であると言っても良いだろう。実際には戦場の地形や遣い手の技能など様々な要因があるので、どちらが有利だと決めつける事は出来ないが、一般的な傾向は言える。
だから、修や千祝は剣術をメインに修業しているのに、他の武器を装備しているのだ。
「残念ながら、刀以外の武器には慣れていない。刀同士の稽古しかしていないんだ」
「そうか」
葉山は心身新陰流を習得しているため、剣術の腕前は修や千祝以上とも言える。しかし、刀対刀の技術を習得し終えた段階で、師の伊部が死んでしまったため、それ以外の技術を学んでいないのだ。
修や千祝が学んでいる太刀花流は、剣以外にも槍、薙刀、柔術、弓術、手裏剣、含み針と言った具合に、武に属するものなら何でもやる。そして修達は幼少期からの稽古でそれらを万遍なく身につけている。
葉山は自分に欠けているものを習得するために、太刀花道場を訪れたのだが、それらを身につける前に今回の危機が訪れてしまったのだ。
もっとも、武芸を一つしか習得していないのは、別に悪いことではない。あれこれと中途半端に手を伸ばして、技の種類だけをコレクションしてもそこに魂が籠っていなければ何の意味もない。それで戦場に赴くなどそれこそ自殺行為だ。
修が見たところ、葉山は刀一本で外つ者とやりあうのに、特に不安を感じている様子は無い。外つ者の恐ろしさを理解していないのではなく、自らの剣技に自信を持ち、それに命を賭けるだけの覚悟を決めているように見えた。
葉山にとって、これが外つ者との戦いの初陣になるはずだが、すでに何度か戦った経験者である修達から見ても、共に鞍を並べて戦うのに十分な剣士であると見えた。
「分かりました。それじゃあ一緒に戦いましょう。一つ助言をしておきますが、今まで外つ者の様に鉤爪や牙、それに角等を使って戦う者を相手にした経験は無いでしょう。なので、間合いが掴みにくいと思いますが、自分の刀の届く範囲さえ掴んでおけば、相手が踏み込んできた瞬間に切り伏せれば問題ありません。今手にしている刀は、太刀花家に代々伝わり、歴代の太刀花家の人間が外つ者を退治してきた名刀です。最下級の兵級なら何処を切っても一撃のはずです」
「そうですか。助言に感謝します」
修は葉山に助言をしながらも戦支度を整えた。刀を腰に差したのは他の者と変わらないが、右手に手槍を抱え、腰には矢束の入った箙を装着し、左手には弓を握っている。
修達が準備を整え終えた頃、玄関の方から大きな音が聞こえてきた。音の内容から察するに、鍵がかかったままの扉を力任せにぶち破ったのだろう。
倉庫の外に出て玄関の方を見ると、廊下の向こうから人型の怪物がこちらに向かってくるのが見えた。
この怪物、目も鼻も口も無い、所謂ノッペラボウだ。これが複数蠢いているのが見て取れ、正確な数は分からない。
「いいか! 俺が矢を放って接近を防ぐから、千祝と葉山さんは漏らした奴を仕留めてくれ!」
そう言い終えるが早いか、修は手槍を穂先を下にして廊下に突き刺し、素早く矢をつがえるとノッペラボウ目掛けて放った。
修が手にしているのは、優れた筋力と技術を持ち合わせた太刀花家の人間が扱うために作られた強弓であり、放たれた矢は凄まじい速度でノッペラボウに迫り見事その喉笛を貫いた。更に、その勢いは一体のノッペラボウを貫いただけでは止まらず、すぐ後ろを進んでいた別のノッペラボウにも突き刺さり、二体まとめて廊下に倒れ、すぐに消え去った。
修が使った矢は、外つ者と戦う事を念頭に、矢師が一本一本丹精を込めて作成した特注品である。故にこれだけの威力を発揮したのだ。
以前のヤトノカミの眷属との戦いで使用した弓矢は、一般人が弓の稽古で使用する物を拝借した物であったため、途中で不覚をとる場面もあったが、遣い手に適した武器ならばこれだけの違いが出るものであった。この弓矢ならば将級のヤトノカミにも、それなりの効果があったことだろう。
最初に放った一撃で、修はかなりの手ごたえを感じた。今の自分の力量ならば、千祝と葉山の支援さえあれば抜刀隊が救援に来るまで十分持ちこたえれられるはずだ。その様に信じられるのだった。
「修ちゃん! こっちこっち! 早く!」
太刀花家の倉庫に入ると、太刀花千祝が待っており、先に武具を見繕っていた。
千祝は腰に刀を差し、右手には薙刀を抱えており、額には鉢金を巻いている。薙刀は建物の中ではその長い柄が邪魔して使いづらいイメージがあるが、その辺りは遣い手の技量次第である。逆に狭い空間において敵に逃げ場を与えないとも言え、その間合いの長さや変幻自在の攻撃は大変有効である。
色々装備している千祝に対し、葉山は刀のみを装備していた。
「刀だけで良いのか? 槍とか弓とか他にも色々あるぞ?」
普通に考えれば刀よりもリーチの長い武器は、刀よりも有利であると言っても良いだろう。実際には戦場の地形や遣い手の技能など様々な要因があるので、どちらが有利だと決めつける事は出来ないが、一般的な傾向は言える。
だから、修や千祝は剣術をメインに修業しているのに、他の武器を装備しているのだ。
「残念ながら、刀以外の武器には慣れていない。刀同士の稽古しかしていないんだ」
「そうか」
葉山は心身新陰流を習得しているため、剣術の腕前は修や千祝以上とも言える。しかし、刀対刀の技術を習得し終えた段階で、師の伊部が死んでしまったため、それ以外の技術を学んでいないのだ。
修や千祝が学んでいる太刀花流は、剣以外にも槍、薙刀、柔術、弓術、手裏剣、含み針と言った具合に、武に属するものなら何でもやる。そして修達は幼少期からの稽古でそれらを万遍なく身につけている。
葉山は自分に欠けているものを習得するために、太刀花道場を訪れたのだが、それらを身につける前に今回の危機が訪れてしまったのだ。
もっとも、武芸を一つしか習得していないのは、別に悪いことではない。あれこれと中途半端に手を伸ばして、技の種類だけをコレクションしてもそこに魂が籠っていなければ何の意味もない。それで戦場に赴くなどそれこそ自殺行為だ。
修が見たところ、葉山は刀一本で外つ者とやりあうのに、特に不安を感じている様子は無い。外つ者の恐ろしさを理解していないのではなく、自らの剣技に自信を持ち、それに命を賭けるだけの覚悟を決めているように見えた。
葉山にとって、これが外つ者との戦いの初陣になるはずだが、すでに何度か戦った経験者である修達から見ても、共に鞍を並べて戦うのに十分な剣士であると見えた。
「分かりました。それじゃあ一緒に戦いましょう。一つ助言をしておきますが、今まで外つ者の様に鉤爪や牙、それに角等を使って戦う者を相手にした経験は無いでしょう。なので、間合いが掴みにくいと思いますが、自分の刀の届く範囲さえ掴んでおけば、相手が踏み込んできた瞬間に切り伏せれば問題ありません。今手にしている刀は、太刀花家に代々伝わり、歴代の太刀花家の人間が外つ者を退治してきた名刀です。最下級の兵級なら何処を切っても一撃のはずです」
「そうですか。助言に感謝します」
修は葉山に助言をしながらも戦支度を整えた。刀を腰に差したのは他の者と変わらないが、右手に手槍を抱え、腰には矢束の入った箙を装着し、左手には弓を握っている。
修達が準備を整え終えた頃、玄関の方から大きな音が聞こえてきた。音の内容から察するに、鍵がかかったままの扉を力任せにぶち破ったのだろう。
倉庫の外に出て玄関の方を見ると、廊下の向こうから人型の怪物がこちらに向かってくるのが見えた。
この怪物、目も鼻も口も無い、所謂ノッペラボウだ。これが複数蠢いているのが見て取れ、正確な数は分からない。
「いいか! 俺が矢を放って接近を防ぐから、千祝と葉山さんは漏らした奴を仕留めてくれ!」
そう言い終えるが早いか、修は手槍を穂先を下にして廊下に突き刺し、素早く矢をつがえるとノッペラボウ目掛けて放った。
修が手にしているのは、優れた筋力と技術を持ち合わせた太刀花家の人間が扱うために作られた強弓であり、放たれた矢は凄まじい速度でノッペラボウに迫り見事その喉笛を貫いた。更に、その勢いは一体のノッペラボウを貫いただけでは止まらず、すぐ後ろを進んでいた別のノッペラボウにも突き刺さり、二体まとめて廊下に倒れ、すぐに消え去った。
修が使った矢は、外つ者と戦う事を念頭に、矢師が一本一本丹精を込めて作成した特注品である。故にこれだけの威力を発揮したのだ。
以前のヤトノカミの眷属との戦いで使用した弓矢は、一般人が弓の稽古で使用する物を拝借した物であったため、途中で不覚をとる場面もあったが、遣い手に適した武器ならばこれだけの違いが出るものであった。この弓矢ならば将級のヤトノカミにも、それなりの効果があったことだろう。
最初に放った一撃で、修はかなりの手ごたえを感じた。今の自分の力量ならば、千祝と葉山の支援さえあれば抜刀隊が救援に来るまで十分持ちこたえれられるはずだ。その様に信じられるのだった。
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